今回は中学校の数学の先生たちへ塾教師からの試験問題作成に関する注文である。

 中2の生徒が1学期・期末テストの問題をもってきた。C校の生徒とB校の生徒がもってきた問題を面白そうなものを三つピックアップして比べてみたい。

(1)C校の有名私立中学入試レベルの問題
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 ミカン10個は、バナナ1房と柿3個と重さがつりあっています。また、みかん6個と柿1個はバナナ1房とつりあっています。このとき、バナナ1房は柿何個分とつりあうでしょう。
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 三元一次連立方程式の問題だが、この手の問題は首都圏では中学入試で出る標準的な問題である。方程式を使わなくてできる。ミカン1個の重さを○で、バナナ1房の重さをを△で、柿1個の重さをを□の記号で表し、その隣に個数を書いて引き算したときにミカンを消去できるようにミカンの個数の最小公倍数を求めて、必要な掛け算をしてから二つの記号の式を引いてやれば、ミカンが消去できてバナナと柿だけの式になる。答えは7個である。小学生に教えるときには問題固有のパターン練習をさせるから、有名私立中学受験生なら80%の生徒が正解できるだろう。
 生徒に訊いたら、教科書に載っている問題だという。初見なら案外難しいのかもしれない。団塊世代は中学2年生のときに三元一次連立方程式の問題はたくさんやらされた。
 この問題もちゃんと三元一次連立方程式で解いてほしいね。
  10x=y+3Z・・・①
    6x+z=y・・・②
 ①×3-②×5をやると、ミカンが消去できる。
  2y=14z
     y=7z・・・以上計算終わり
 中2の生徒たちは三元一次連立方程式をたくさん解いておくべきだ。たとえば任意の三点の座標が与えられたときにただ一つ決まる二次関数を求める問題は三元一次連立方程式で解く。高校数学では三元一次連立方程式の応用問題は当たり前に出てくるから、この手の計算演習を逃げてはいけない。速く正確に解いて基礎計算技を磨いておこう。きちんとやった人とそうでない人は高校数学で大きな差がつく。

(2)二つ目はC校の試験問題の一番最後の問題である。「問15」の問題文は次のようになっていた。
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 2,4,6の和は12で6の倍数になります。このように三つの続いた偶数の和は6の倍数になります。このわけを次のように文字を使って説明しました。(  )にあてはまる式や数を答えてください。
【説明】
 nを整数とすると、3つの続いた偶数は、( ① )、2n、( ② )と表せます。
  ( ① )+2n+( ② )=( ③ )
 nは整数より、( ③ )は6の倍数である。よって、3つの続いた偶数の和は6の倍数になります。
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  証明問題に属するが、穴埋め問題だから、やさしい。授業をきちんと聴いていたらほとんどの生徒が正解できる。


(3)思い出しながら書くが、B校は証明を全部書かせる問題であった。
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 二桁の整数がある。この整数の十の位をa、一の位をbとする。頭に浮かんだ二桁の数字を100倍し、その値に元の数字の十の位と一の位の数を入れ替えた数字を加算するとき、その和は11の倍数となる。11で割り算した商をXとするとき、Xの一の位の数字と思い浮かべた元の数字の十の位の数字が同じになる理由を説明せよ。
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  結果は「10(9a+b)+a」を導けばいいのだが、この証明問題は穴埋めではなく全部書かなければならない。最後の式の変形もちょっと考えなければ気がつかないだろう。生徒たちはこの問題が初見だったといっていた。100点はいなかったという。一人だけこの問題で△をもらった生徒がいるという。こういう出題をしてくれたら、根室の学年トップクラスの生徒でも退屈しないですむ。
 難易度の低い問題ばかりだったC校は当然のことだが100点が出た。生徒のレベルに合わせて問題の難易度を下げてはいけないのである。理由は後段で明らかになる。

 この2校の問題には難易度に大きな相違がある。B校の問題は東京都立入試問題の大問2によくあるパターンの問題である。

 根室高校普通科が裁量問題を採用するという。偶然か意図して出題したのかはわからないが、わたしはB校の数学問題に軍配を挙げたい。

 試験範囲が「式の展開」と「等式の変形」「連立方程式」の三分野で狭く、計算問題は難易度の低いものが並んでいた。もっと、分数や小数の混ざった問題を混ぜた方がよいだろう。苦手な生徒が多く、そのまま高校生になってしまうからだ。分数計算のできない高校生が毎年量産されているのが実態である。
 難易度が低いのは半分を占めている計算問題だけではない、文章問題も、B校の(3)でとりあげた問題を除いて難易度が低いのである。標準的な難易度の問題を出題したら50点以下の生徒でも難易度をこんなに下げたら80点以上取れてしまうので、自分の学力をカン違いしてしまう。一学期のカン違いは実は影響が大きい。これから夏休みまで1ヵ月あるが、その間をロスしてしまう。点数が取れたからと喜んで、勉強の手を抜くことになる。夏休みも同様だ。その結果は2学期の成績にはっきり現れている。難易度の高い計算問題演習をしなかったツケが大きくなって回ってくるから、毎年ニ学期になると平均点が30点ほど下がってしまう。ニ学期は三角形の合同証明問題など、難易度の高い分野が含まれていることもあるが、一学期の期末テストの難易度が低すぎて生徒が自分の実力を過大評価してしまい、難易度の高い問題にチャレンジしなくなることが基礎学力を弱くする原因の一つになっている。
 その影響は高校生になるとさらに大きなものになっている。高校1年生の7月に全国模試を受験するが、進研模試の半分以上は複合問題である。複合問題がゼロの中学校の定期テスト問題と比べると難易度は比べものにならない。だから、根室高校普通科の全国模試数学の平均点が30点未満となる。

 そこで中学校の数学の先生たちに要望だが、予防ワクチンだと考えて、一学期の期末テストの計算問題はもっと難易度の高いものを混ぜてもらいたい。それと同時にちょっとタイプの異なる初見の問文章題を二つ入れてほしい。

 もう一つ欲張った要望を書いておく。どちらの学校も複合問題の出題がなかったのだが、次回からは1年生でやった図形分野との複合問題も出題してもらいたい。どの学校も図形という難易度の高い章を時間がなくなって短時間で手抜きせざるをえなくなり「すっ飛ばし」の授業をしているから、生徒たちはこの分野の複合問題が極端に弱い。それは高校入試時にまで尾を引いている。
 根室高校が裁量問題を採用するのだから、いままでのような図形問題の手抜き授業はしないでもらいたい。そのためには授業の進捗管理をしっかりやり、2年生なら場合の数と確率問題に充分時間を割くこと、そして1ヵ月間複合問題にトライさせる期間を捻出すること。いままでのようなぬるい授業ではとても対応できないから、覚悟を決めて年間授業計画を見直して、しっかり取り組んでほしい。教頭や校長は学校管理職なのだから、定期テストの難易度や授業のナカミをしっかり管理してもらいたい。それがあなた達の仕事だ。根室の子どもたちの学力アップは、ふだんの授業や定期テストのレベル・アップという地味な仕事の積み重ねでも実現できるのではないかね。英語や国語の先生たち、数学と同じことが言えるよ。「読み・書き・そろばん(計算)」は大事な順に並んでいる。
 もっと欲を言うと、週に三日間は七時間授業にして1時間は哲学を教科として教えてもらいたい。原文講読授業をやると日本語の読解力が飛躍的に強化される、国語でとりあげるテクストでは高度な読解力を養えない。肥沃な土壌でなければよい作物が実らないのと同じこと、テクストはデカルト『方法序説』や吉田兼好『徒然草』などが入門書としていいだろう。一度こうしたテクストに触れておけば高校生になってから、かなり難解な本でも独力で読めるようになっている、「鉄は熱いうちに鍛えろ」だ。

  現場の教員と学校管理職が困難な課題にチャレンジすれば、そうした空気は必ず生徒たちに伝わる。保護者もみているから、しっかりやり遂げたらそれなりの評価がされるだろう。お金ではないよ、「うちの学校の先生たちがんばってくれている、子供達も意欲的に勉強するようになった、とってもありがたい」、そういう声を保護者から聞きたくはないか?

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