#2156で北海道教育委員会が公表した根室管内の学力テストデータ分析を予告した。資料に眼を通したが、ほとんど解説の必要もないくらいに、公表データは整理されている。
 

「全国学力・学習状況調査 北海道版 結果報告調査
 根室管内版」

http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/gky/gks/h2411/14h2411nemuro.pdf


 223ページに「②正答数の状況(下位層の割合)」表が載っている。全国平均値と根室管内の成績25%下位層が根室管内でどれくらいの割合を占めているのかが一目瞭然である。この資料を作ったグループは北海道の教育問題の在り処(か)をつきとめている。そこから逆算して資料を整理しているようにわたしには見える。
 成績下位層に焦点を当てて資料を整理しているのだが、そこに焦点を絞るあまりに成績上位層が「枯渇」しつつある重要な現象を見過ごしたかあるいは切り捨てたようにも感じる。これだけ用意周到にデザインされたレポートだから、成績上位者層の枯渇現象を取り上げて総花的になることを避けたのかも知れぬ。かいつまんでその特徴を述べると、焦点を絞り込んだ鋭いレポートと言えるだろう。

【小学校の部】
 「小学校国語A」では全17問中正解数12問以下が全国平均値での成績下位25%層であるが、根室管内は34.7%を占めている。表によれば、12問以下で切ったところでの全国平均値は24.9%であるから、
  ①34.7%÷24.9%=1.394倍
   (根室管内成績下位層の割合÷全国平均成績下位層の割合)
 根室管内の小学生の成績下位層は全国平均の約1.4倍いることになる。

 全問正解者は全国平均が21.7%に対し根室管内は7.3%である。
  ②7.3%÷15.1%=48.3% 
   (根室管内成績上位層の割合÷全国平均成績上位層の割合)
 成績上位層は全国平均値の半分にすぎない。

 このことから、「国語A」では根室管内の小学生は学力上位層の割合が全国平均値の半分、学力下位層の割合が1.4倍ということができる
 以下、同じスタイルで比較してみる。

 「国語B」では11問中4問正解以下が全国平均の学力下位層(27.3%)である。
  ①38.3%÷27.3%=1.403倍
  ②1.0%÷1.7%=58.8%

 「算数A」では19問中11問正解以下が全国平均の学力下位層(22.7%)である。
  ①29.6%÷22.7%=1.304倍
  ②3.2%÷7.5%=42.7%

 「算数B」では13問中11問正解以下が全国平均の学力下位層(25.0%)である。
  ①32.3%÷25.0%=1.29倍
  ②1.7%÷3.2%=53.1%

【中学校の部】
 中学校「国語A」では32問中21問正解以下が全国平均の成績下位層(25.7%)である。成績上位者層は上位20~25%で区切りのいいところで集計計算してみよう。
  ①36.0%÷25.7%=1.428倍
 30問以上の正解者が全国平均で20.4%である。
  ②11.3%÷20.4%=55.4%
 成績上位層は全国平均の半分しかいない。

 中学「国語B」では全9問中4問以下の正解が全国平均の成績下位層(23.2%)である。
  ①32.1%÷23.2%=1.384倍
 8問以上正解が全国平均で16.9%ある。7問以上にとると40%になるので、8問以上正解者を成績上位層とする。
  ②14.8%÷16.9%=87.6%

 中学「数学A」では全36問中17問以下の正解が全国平均の成績下位層(27.8%)である。
  ①38.4%÷27.8%=1.381倍
 29問以上正解の全国平均値は26.2%である。
  ②17.3%÷26.2%=66.0%

 中学「数学B」では全15問中4問以下の正解が全国平均の成績下位層(25.7%)である。
  ①33.0%÷25.7%=1.284倍
 12問以上正解の全国平均値は24.1%である。
  ②9.6%÷24.1%=49.8%

【総括】
 これらのことから、全国平均で成績下位層25%以下の層が根室管内では1.3~1.4倍いて、全国平均の成績上位層は42~87%、おおよそ6割くらいとなっている。根室管内は成績下位層が厚く、成績上位層が薄いということ。
 これはebisuが前にやった学力テスト総合Cの分析と同じ結論だ得点3割以下の層が35.4%もいるのに、得点7割以上の成績上位層はわずかに5.7%であった
*#2143 データと分析(5) 学力テスト総合Cから根高普通科への合格基準点を推計してみる Nov. 29, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-11-28

 これが根室だけの状況ならまだなんとかなるが、全国に似たような状況を呈している市町村があちこちに出現していたらたいへんな変化が日本で起きていることになる。
 成績下位層の肥大化は釧路でも札幌でも現在進行形で起きている現象である。
 20年後の日本経済に重大な影響を及ぼす可能性のある変化が潜んでいるかもしれぬ。データを隠してはいけない、北海道だけでなく47都道府県・全市町村・学校ごとの科目別全データを公開して議論をすべきだ。教育のあり方がふるさとや国の未来を左右する。

【レーダーチャート】
 226ページに小学生の「⑤全教科のチャート図」が載っている。国語と算数と理科の科目をそれぞれ細分して20本のゲージにプロットしている。基準は全国平均値(100)である。根室管内は全部のゲージが72.6から95.8に収まっているから、著しく劣っていることがわかる
 231ページには中学生の「⑤全教科のチャート図」が載っている。こちらも80~98.8に収まっているから、全国平均値を超えているものはひとつもない

 この図はレーダーチャートという。全体の状況が俯瞰できて便利なチャートである。全国平均正答率を基準(100)にして根室管内の正答率を測ったものである。

(わたしは1979年に産業用エレクトロニクス輸入商社に転職してすぐに社長の指示で、収益構造と財務体質を改革するためにその会社の過去五年間の経営分析をしたことがあるが、そのときにレーダーチャートを使った。25本・5つのディメンジョン(収益性指標群・成長性指標群・財務安定性指標群・活動性指標群・生産性指標群)をもつレーダーチャートである。各ゲージはいくつかの実データを元に標準偏差を使って決めていた。
 いまはEXCELにデータを入れると自動的にレーダーチャートを出力できるが、1979年当時は計算式をプログラミングしておいてデータを入力し、出力された計算結果でレーダーチャートを手書きしていた。EXCELに載せ替えたのは1994年に国内最大手の臨床検査会社で子会社管理を担当したときのことで、モデルを作って十年ぶりに経営分析をやったとき。そのときには臨床検査会社2社の買収と出資交渉にも使った。依頼された経営分析及び経営改善策の提案と客観的な買収金額の提示のためであった。
 1980年に産業用エレクトロニクスの輸入商社で統合コンピュータシステム開発や経営管理を担当していたときに、レーダチャートを自動的に描くためにヒューレットパッカードのマイクロ波計測器制御用コンピュータと4色プロッターを会社で買ってもらおうと予算申請したが、もちろん却下。(笑)
 中途入社して4ヶ月目くらいで、経営改善の具体策はその半年あとのことで、高収益会社に変えるのに2年かかった。実績を出した後なら、一も二もなく社長は要求を受け入れてくれただろう。分かっていたが、そのときはスキルアップのためにマイクロ波計測器の制御用コンピュータをどうしても使ってみたかったのである。その後、1984年の2月に臨床検査会社に再転職してから半年後だったか、東京練馬の分散ラボにDECのミニコンが2台あり導入したもののシステム部門が使いこなせずに遊休資産化していたので、ミニコンのプログラミングをしてその性能がどれほどのものか試してみたくて上司の経理部長に使わせろと要求したが、なにしろ1台5000万円の代物なので、許可が下りなかった。ミニコンは誰も使わずにそのまま放置されて、廃棄処分、かわいそうだった。そのときebisuは東証Ⅱ部への上場のために統合システム開発を担当していた。開発期間はわずか8ヶ月、旧システムと2ヶ月並行稼動してデータをつき合わせたから、完璧な本稼動だった。腕のいいNCD社のSE3人とハッピーな仕事をした。使ったコンピュータは当時富士通で最大の「汎用大型計算機」、1台10億円だった。面白いから、32年前の10億円の大型汎用計算機と現在のパソコンと値段と性能の比較をしておく。大雑把な話だが、性能は1,000倍、値段は10,000分の1である。こんな進化速度をだれが予測しえただろう。
 仕事で高級な「オモチャ」を使えば使うほど仕事のスキルが上がるのが20代から30代の男というもの。
 レーダチャートはわかりやすく、説得力のある便利なチャートなのである。)

【資料の評価と今後の改善要望】
 あらためて資料に眼を通して、そのしっかりしたデザインに驚いた。この資料を作成した官僚グループは問題の所在が分かっており、そうした問題意識のもとに公表データの整理をしたようだから各市町村教育委員会はその意図を読み取るべきだろう。これほど詳細でしっかりした学力テストデータの公表事例は北海道教育委員会のほかにあるのだろうか?

 227ページの②に全道平均と比較した過去6年間の科目別推移が載っているが、全国平均値との比較表をぜひ追加してもらいたい。232ページの「正答率別児童生徒の割合」表に全国平均値の同じ表を追加してもらえるともっとうれしいが、全国版の表は道教委の一存ではいかないから、文科省との調整が必要になるのかも知れぬ。札幌市内の公立小中学校が一部しか参加していないので、全道平均データの比較では不十分なのだ、という事情はお分かりいただけるだろう。

 227ページの表ではH23年度とH24年度の根室管内の子どもたちの学力が横ばいかすこし下がっているかのような評価表になっているが、都市部札幌の公立小中学校の大半が参加していないので、全道平均値自体が下がったためで、根室管内の子どもたちの学力はこの表があらわすよりももっと落ちているのだろう。
 こういう調査は重要な都市部が抜けていては経年比較のできないものとなってしまうから、すべての公立小中学校で実施しなければいけない。札幌の人口は190万人で全道の約1/3を占めるが、一部しか参加していない。不参加を決めた札幌市教委が癌だ。全道の市町村教委から抗議と批判が寄せられていい。自分たちが何をしているか分かっていないのだろう。

【教育改革の日は東から昇る】
 釧路市議会は12月14日に「基礎学力保障条例」を可決した、そして北海道教育委員会がこのような革新的といえるデータ公開に踏み切った。北海道は全国に先駆けて教育改革の先進地域に躍り出たと言えるのではないだろうか。

 道教委は道教委がやるべき仕事をやってみせてくれた。そして、ここからは市町村教委や学校の先生たちの番だと現場の動きを見守っている。
 あなたたちの出番である、市町村教委そして各学校の校長・教頭・先生たち、なにをどういうスケジュールで進めるかよく考えて果断に実行してほしい。

 最近数年間で学力上位層がなぜ三分の一以下になったのか、そして学力下位層がこの数年間なぜ急激に肥大化しつつあるのかを考えてほしい(根室のマチの将来設計にかかわる大きな問題が見えてくるから、根室市役所の企画部門の問題でもある)。
 学校だけでは解決が困難な問題がある、保護者や地域社会と連携しなければ解決困難な課題である。そして、あなたたちにできることはあなた達自身がやるしかない。
 習熟度別授業は必須だし、放課後補習もやるべきだ、ブカツは5時半までに制限し、家に帰って晩御飯まで1時間の勉強を勧めよう。土曜日・日曜日の連続ブカツは禁止しよう。あなたたちの意識はあなたたち自身が変えなければならない、それがプロというものだ。その上で、家庭でやるべきことがなんなのか、いつ、どういうことをどのようなやり方で躾ければいいのか、PTAとコミュニケーションしよう。学校で全部やるわけには行かない。家庭がやるべき躾けも子どもたちの学力向上には影響が大きいのである。鉛筆のもち方、姿勢、挨拶、後始末、口の利き方、家庭学習習慣の躾け・・・。一緒にやれば解決できる。
 ブカツの制限はPTAや地域社会とコミュニケーションしなければ解決できない問題である。

 事実を認識し、生産的でまっとうな議論を保障するために、教育に関する情報公開が必要条件であることは論をまたない


*#2160 全国学力テスト根室管内版データの分析(1) :本論  Dec. 21, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-12-21

*#2161 全国学力テスト根室管内版データの分析(2) :余談 Dec. 24, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-12-24

*#2162 クリントン 州知事時代の教育改革 Dec. 26, 2012
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-12-26 



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【12/25数字訂正済み】
 小学校の部の国語Aの②の数字ですが、全国平均のデータではなく秋田県のデータを引っ張っていました。欄の見間違いです。
 ②7.3%÷21.7%=33.6% 
 ②7.3%÷15.1%=48.3% 
 他の部分もこの訂正にあわせて直してあります。
 facebookの掲示板でZAPPERさんがそこだけ全国データではなく秋田県のデータをもってきていると、間違いを指摘してくれました。
  ありがとうございます。m(_ _)m