朝のテレビで国会中継を15分ほど見たが、元厚生労働大臣の長妻昭議員が質問に立っていた。
 "中位数年齢"だと日本は45歳、他の先進国は30代、中国やインドは20代だそうだ。長妻議員は日本を"熟年国家"と名づけた、じつにわかりやすい命名である。
 だが熟年国家になることは最近判明したわけではないから、「税と社会保障の一体改革」の理由に突然熟年国家をもちだされても、できの悪い生徒の言い訳にしか映らない。言い訳を額面どおりに受け取るとしたら、2年半前の選挙公約であるマニフェスト作成時に一体どういう前提で仕事をしていたのと問いたくなる。大局観を欠いたじつに幼稚な議論をしていたことになるではないか。
 中位数年齢とは国民を年齢の低い順に数えていって真ん中に位置する人の年齢のことらしい。統計学ではmedian(メディアン)という。昔の統計学の本には"メジアン"と書いてあったような気がするが、そんなことはどうでもいい。

 1960年には日本の中位数年齢は26歳であったというから、現在の中国やインドは中位数年例で見ると50年前の日本に相当する。中国やインドは高度成長期に突入したと言ってよい、では日本はどうか。
 日本経済はピークを過ぎて大きな下り坂を転がり始めたところと表現するとぴったりだろう。縄文時代以来初めて経済縮小の時代に入ったのである。人口もGDPも縮小していくからそうしたことを前提にあらゆる経済・社会政策を見直さなくてはならないのあたりまえである。再度言うが、そんなことは政権奪取の前からわかっていたことではないのか?

 江戸期は概ね3000万人で人口が安定していた。鎖国という管理貿易で自給自足していたのである。生産力の上昇を考えれば人口6000万人なら安定的に自給自足が可能だろう。幸いにして日本の人口は無策のままに放置しておけば50年後には当てにならぬ政府機関の推計でも8000万人に(実際にはもっと)落ちるから、わたしはTPPなんぞやる必要はまったくないとブログで何度か公言している。

 消費税値上げの口実に"社会保障と税の一体改革"を最近言い出しているが、その理由を中位数年齢が先進国中で最高齢(45歳)になったから、根本から社会保障と年金制度をみなさなくてはならないからだと長妻議員がいまごろ言うのは解せぬ。
 中位数年齢が先進国中最高齢になったのは2012年ではないだろうし、人口統計をみればそんなことは一目瞭然で2009年8月の政権逆転選挙前から分かっていたことのはず。分かっていなかったとしたら間抜けな話で、政権担当能力なしだ。
 政権を奪取したいがゆえに、小利口な者たちが耳に心地のよいことばかりを並べ、不都合な真実には口を閉ざしたのかもしれぬ。そうだとしたら根性が捻じ曲がっている。

 正直な長妻議員だから、前回選挙のときのマニフェストを作成時、消費税や社会保障・年金問題を検討する際に中位数年齢が45歳になることなんか考慮の外だったと口が滑ったように聞こえた。"消えた年金問題"に目を幻惑され、大局が見えていなかったと言わざるをえぬ。
 マニフェスト作成には松下政経塾出身者が何人も係わったはずだが、問題を限定して重箱の隅を突くのはうまいが、大局観のないことが共通している。30代で責任のある仕事をしないと人間はこんなにもダメになるのかと唖然としてしまう。現在、若い人たちの半数が非正規労働で責任ある仕事に就けないことを考えると、日本の将来は憂鬱なものにならざるをえないのではないだろうか。
 議論を聞いてわかったことはこの三年間はまったく無駄であり、ようやくスタートラインについたということ。それほどでたらめなマニフェストだった。仕事のできない者たち(民主党幹部)がよってたかってつくり上げたマニフェストとはこんな程度の代物で、人も体質もにわかには変えらるわけがないから民主党にも絶望である。

 久々の長妻氏("ミスター年金")の国会質問ご登場で論戦を楽しみにしていたが、なんとも幼稚な議論にがっかりした。デタラメなマニフェストを造った一人として、申し訳ありませんでしたと一言反省の弁があってから質問してほしかった。

 人間はしばしば行いを誤るものでその点はどうしようもないからこそ、潔い謝罪が日本人の美徳となったのだろう。しかし、政権を奪取した民主党議員にもそれが見られないのは残念である。
 日本人としての美質と品性を兼ね備えた政治家が出てきてほしい。

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*#346 これから10年間の日本経済のシナリオ 
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-10-10

 #484「国民の95%が幸せ…屈託のない笑顔」
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 #829「国家財政破綻の瀬戸際」
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 #1148 「馬場宏二 過剰富裕化論」
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