医者は医者でご苦労があるようです。とくに大学卒業直後の処遇はあまりよろしくなかったようで、その辺りの具体的な事情がつづられている。とはいっても30年前の話でいまは事情が少し違うようだ。
 勤務する病院によっても処遇には大きな違いがあるし、勤務医と開業医の違いもある。コメントには書いていないが、開業医は開業医で悩みがある。診療だけでなく経営に対して責任があるからだ。両方に目配りしながら病院の採算をプラスに維持するのはそれはそれで結構煩瑣な仕事を伴うものである。おまけに民間事業であるから、経営に失敗したときには何もかもなくす事になりかねない。リスクも大きいのである。ある江東区内の150床の病院経営者のため息を思い出す。そのうちに書くかもしれない。500ベッドの総合病院経営に失敗して数十億円の負債を抱えた例も知っている。勤務医は権限が小さい替わりに責任も軽いのである。

 さて、5回目のコメントを紹介したい。医者と患者、お互いに相手のことは気になるものであるから、下世話な話もあったほうがいい。
 結論から言うと、誠実に仕事をすると医師というのは相当しんどい商売である。休みがほとんど取れないし、24時間勤務あるいは待機状態に自分をおくことになる。どんな職業を選択しても収入に見合ったそれなりの苦労はあるということだろうか。
 さあ、医師を志す君にも読んでもらいたい。それでも医者になりたいか?現実を知った上で、覚悟を決めてぜひ医者になって、地域医療を支えて欲しい。

「医師は金持ち?」
 その昔、「お医者さんは金持ち」と言う常識(笑)がありました。
例えば彼らの車を見れば、外国車に乗っている方が結構多いですね。それも何故かアメ車よりもヨーロッパ車(特にベンツやアウディなどのドイツ車)が好まれ、ボルボやサーブなどの北欧車、ベントレーやロールスロイス、ランドローバーやディフェンダー、オースティンなどの英国車、シトロエン、プジョーなどのフランス車、アルファロメオなどのイタリア車はマイナーな様です。もっともかって「ファラーリやランボルギーニに乗ってみたければ北見の〇×病院にアルバイトに行け!」と言われたように、いわゆるイタリア車でもスーパーカーを所持している医師は居ります。因みにその病院は時々保険上のトラブルなどで新聞紙面を賑わせますが・・・(だからスーパーカーを持てるのかも)。
医師がドイツ車を好む傾向があるのは、多分に日本の現代医学がドイツ医学を源流にしていることと関係があるのかも知れません。
 また車以外にも医師にはちょっとした傾向があります。昨今は仕事では猫も杓子もPC頼みですが、どうも医師はMAC系が好きなようです。小生はずっとwindowsマシンですが、何時も「あれ、マックじゃないんですか?」と意外がられました。ドイツ車に芸術関係や建築関係者が好むMAC・・・どうもいわゆるインテリっぽい嗜好が医師にはあるようです。それにしてもまるで金太郎飴ですね(笑)。

 さて本題の「医師は金持ち?」ですが、そうですね、多分言える事は「貧乏では無い」でしょうか。しかしそれもその医師の立場に依ります。かって小生が大学病院勤務の時、現在は釧路の病院で部長をやっている後輩がノイヘレン(新人)で居りました。彼は奥さんと共稼ぎだったのですが、或る時小生に泣き付いたことがあります。「先生、僕本当にお医者さんなんでしょうか」「どうしたんだ?」。つまり彼の話はこうです。久し振りにすき焼きでもやろうとスーパーに買出しに出掛けたんですが、すき焼き用の肉が高くて買えなかった・・・のだとか。札幌のスーパーで売っている牛肉ならば当時高くとも精々100gで1000円はしないと思います。小さな子供2人の家族4人でしたら、肉も400gも有れば足りるのでは。その肉が高くて買えない・・・後輩が情けなくなった気持ちは良く分かります。世間では「医者は金持ちと」と決め付けていますが、実際はその医者の立場によってはそうでもないのです。
 では当時の後輩はどんな立場だったのか。先ず彼は医師に成りたての1年目を大学の教室で過ごします。当時の彼の身分は「非常勤医」で公務員に準ずる立場です。国立大学では助手(現在の助教)以上が国家公務員で、助手以下は非常勤医でした。この非常勤と言う代物、「国家公務員に準ずる」と言えば聞こえはまずまずなんですが、実際には昔のインターン並みにこき使われる立場です。先ず給料ですが基本的に日当! それも小生の頃は1日6000~7000円でした。この辞令と言うのが傑作です。「4月1日付けで発令され問題が無い場合は毎日自動的に契約が更新され、翌年の3月31日まで継続する」と言う奴です。つまり言い換えれば「日雇い労働」ですね。勿論ボーナスも昇給もありません。更に悪い事に、当時の国立大学には「総定員法」と言う文部省の縛りがあり、大学全体で一定の人員が決められ予算が下りていました。勿論実際の人間は予定数より遥かに多いので、少ないパイを多くの人間で分けなくてはなりません。大学病院には非常勤医が溢れています。特に外科や内科の大所帯には多くの非常勤医が居ますので(まるで食い詰め浪人!)、彼らにも少ないながら給料を渡すためには少人数の科(非常勤医は少ない)の割り当て分から回さなければなりません。月に30日働きながら支給される日当は20日前後しかありません!そうなるとただでさえ少ない給料が更に減額されてしまいます。しかも勤務は朝8時頃から夜10時過ぎは当たり前。勿論土・日・祝日も関係ありません。大学では助手以上に当直が回ってきますが、それを実際には非常勤医が肩代わりして、本来助手以上に支給される当直手当を貰います。月に4~5度の当直料を合わせても、手取りが月に12~13万でした。勿論それでは食って行けませんので、月に何日か地方の病院にアルバイトに出かけます。大体3泊4日の旅で25万前後の稼ぎには成りますので何とか生活が出来るようになります。しかし或る時からその事が問題に成り始めました。外にアルバイトに出ている時に大学での非常勤勤務の届出をしたままの事が多く、「大学病院の医師はアルバイト先と大学から給料の2重取り!!!」とマスコミに騒ぎ立てられました。勿論医者を袋叩きにしたいマスコミは、大学病院の非常勤医の日雇いの値段を絶対に書きません。書けば世間はあまりの酷さに医師へ同情するからかも知れません。

 科によって違いはありますが、小生の教室では1年目は大学で悲惨な非常勤医(年収400万前後)。2年目から外の研修病院に武者修行に出ます。これは市立病院クラスの大きな病院で、大体上にそれなりのベテランが居てそこの医療のやり方を学びます。勿論そのこの病院では正職員として扱われますので、給料は800~1000万位は貰えます。翌年、翌々年位まで1年毎に外の病院を転々として、ある程度現場の病院の様々なスタイルを学んで大学に戻って来ます。今度は助手として一応国家公務員に成りますが、給料は医師と言っても公務員に医療職と言う毛がちょびっと生えたに過ぎません。相変わらずの貧乏生活に舞い戻り一応研究もどき生活を2年~3年程送ります。そこで取る物(学位)を取って再び外の世界に出ます。今度は末端の地方の病院で医長や部長として上に立って後輩を指導する立場に成ります。科によってはその科の医師が自分一人と言う場合もあり(一人医長)、患者さんの全ての責任を一人で背負う事になり結構ビビります。
 メス科の場合は複数でやる手術の時には近くの関連病院や大学から手伝い(先輩が多い)が来ます。その頃で医師としてはやっと半人前でしょうか。しかし外科などでは、自分に自信が付いてやたら切りたがる医者が出てくる時期でもあるようです。その後適当な病院に就職する者(固定)、大学に戻るもの、更に道外の専門病院に武者修行に出る者etcと様々な道が医師を待っています。その頃は経済的に都会では年収1000~1500万程度、地方では1500~2000万前後かと思います。そうですね、医学部を卒業して約10年で一応一人の医師として巣立つことに成ります。

 ここで一つ声を挙げて申し上げますが、皆さんは医師の移動はいわゆる「転勤」と勘違いなさいます。「転勤」とは、普通一つの組織内で移動する場合に使われます。しかし医師の移動の場合はそうではありません。大学に居る時は国家公務員ですがどこかの市立病院に移ればそこの市職員、町なら町の職員、厚生連などの団体ならその団体の職員などと身分が目まぐるしく変わります。勿論年収などはその組織の規定で決まり、移る順序によっては給料が下がったりします。勿論健康保健や年金も毎回申請のし直し、子供の学校の問題も頭を悩ませます。そして何よりも問題なのは、1年~3年で次々に職場を変わることが多く、「継続」が美徳とされる日本社会では退職金などの面で非常に不利に扱われます。その退職金も普段の給料からは考えられない安い金額の事が多く、年金も雀の涙・・・。大体医師のボーナスは月給から見ると少ないのですが、その理由は、医師の給料は本給はそれ程多く無く諸手当をテンコ盛りにしてそれなりの額にしていることが多く、従って本給X??と言うジャンルは非常に安いことに成るわけです。
 医師の収入に関していえば、卒後20年程度の中堅医師の場合で全国展開の大企業の部長クラス辺りでしょうか。しかし、そちらは最低でも完全週休2日なのに対して、医師の場合は時に週末も連休も無く24時間体制。加うるに昨今では結果が悪ければ親の敵のように恨まれ罵られ・・・それでも貴方は医師になりたいですか?

(注)ここに書いた医師の立場は、一般的な医療機関の勤務医の話で、御自分で開業されている医師の方たちはこの限りでありません。
by 医療四方山裏話 (2011-02-21 12:39) 


P.S
尚、北海道の医師の年収がどの程度のものかを考える際に、北海道地域医療振興財団のHPに出ている各施設の求人欄に記載されている年収を見ると、或る程度の参考になると思います。

   http://www.iryozaidan.or.jp/
by 医療四方山裏話 (2011-02-21 12:47) 



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