医療サイドからの現行保険点数制度の矛盾について具体例を引いた解説がコメント欄に寄せられた。こういう解説にはメッタにお目にかかれない。やってられないな~という声が聞こえてきそうである。相互理解のためにはおおいにぼやいてもらわねばならぬ。
 「医心伝信ネットワーク」もこういうコミュニケーションがしたかったのかも。「なるほど、そうですね」と肯くだけでもずいぶんストレス解消にはなるでしょう。たまには共感を持って相手の話に耳を傾け、うなずく。医者だって人間です。


[医療保険とは]2
 日本の健康保険制度の根幹を成しているのは減価償却主義です。高い機械や使い捨て器具を使えば点数が高く成ります。極端なケースで考えてみましょう。
 貴方が急に胸が苦しくなり倒れたとします。市立病院に搬送され、いわゆるCPR(以前はABCと呼んだ救急蘇生)が始まります。心臓が止まっていれば心マッサージ(30分までは2500円)、余裕が有れば気管内挿管(5000円)、どうしても心臓の拍動が戻らない時に除細動(=カウンターショック。備え付けのAEDを使えば25000円。AED以外の器械なら35000円。しかし病院内で医師以外の者がAEDを使った場合は”無料”)。もちろんこれらの経過中には昇圧剤やアルカリ化剤の静脈内投与が行われ落ち着いたら中心静脈補液ルート確保がなされ、場合によっては人工呼吸器に繋がれる事も・・・その場合は更に諸経費が加算されては行きますが。
 心臓マッサージに器械は不要です。両手のマンパワーだけです。気管内挿管は技術的には難しい手技ですが、道具は喉頭鏡と気管チューブがあればOK。AEDは20万前後で購入すれば、後は使い捨ての1万くらいの電極の代金だけです。つまりこの一連の手技は技術的には結構難しいのですが、使う道具に金がそれ程掛かりません。その事が保険点数に反映されています。
 以上何とか心臓が動き出した(一命を取りとめ)段階で、取り敢えず2500+5000+25000=32500円。ざっと考えても50000円程度でしょうか。50000円で何が買える(何が出来る)でしょうね。「人命は尊い。金には代えられない!」

 一方で、90歳を越えた老人を弱ったからと無理矢理入院させ、肺炎にでも掛かって亡くなろうものなら「肺炎で死んだのは病院の管理が悪いからだ」と病院を訴え、また裁判所も何故か2~3000万もの賠償金を命じるケースが最近続出しています。医師専用のm3の掲示板には、そのような家族や裁判官に対する怒りが何時も渦巻いています。

 若い働き盛りの命を取り留めて50000円と言う保険点数も異常なら、寝たきり老人に当たり前の合併症を病院の責任にされ裁判官もそのように認定する。
 今までお互いの性善説でやって来た日本の奥ゆかしい文化は一体何処へ行ってしまったのでしょう。

by 医療四方山裏話 (2011-02-17 17:55) 


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