昨日のニュースによれば、福島第一原発2号基の融けて固まった核燃料デブリの撮影ができたが、ロボットは650Sv/hの強烈な放射線で停止。2号ロボットも画面が暗くなって撮影続行不能になった。
 東京電力はメルトダウンを起こしたデブリを撮影するだけで6年を費やした。既成の機器がないため配管を伝ってデブリに近づくロボット開発に時間がかかったからだ。
 最終目標は原子炉の鉄やコンクリートと溶けて固まった核燃料デブリを取り出すことである。そのためにはデブリのところまで通路を開かなくてはならない。650Sv/hの強い放射線下では電子機器が壊れるから、30年たっても必要な機器を開発できるかどうかすらおぼつかない。
 融けて固まったデブリを切り取り小さくして持ち出す重機の開発も必要になる。650Sv/hの放射線を放つ核燃料デブリ周辺は人間が立ち入ることができない。
 結局、数百年間は融けて固まった核燃料デブリの撤去作業できないことになりそう。監視と保守点検には一日6000~9000人の要員が必要になる。チェルノブイリでは3000人が壊れた1基の原子炉の保守管理に当たっているが、福島第一原発は3基の原子炉がメルトダウンを起こした

 仮に、300年間取り出し作業ができずに保守管理するとしたら、どれだけの費用がかかるのだろう?人件費を計算してみる。

 30,000円/人 × 6000人 × 365日 × 300年 
  = 1.971×10^13

 19.7兆円である。

 人件費だけでこれだけ。実際の作業には人件費の5割程度の物件費がかかるとすると、29.5兆円である。地下水の浸入を防ぐために凍土壁をつくったが、年間の電気代はどれほどかかるのだろう。ほとんど効果のないことも明らかになり始めた。より深いところから海へ流れ出るだけ。
 これらに撤去費用+保管に適当な形態に加工する費用が数兆円かかる。そして撤去した後どこかで保管しなければならない。プルトニウムの半減期は2.3万年だから、11.5万年安全に保管すれば放射能は1/32に減らせる。
 日本列島は火山列島でもある。なぜ火山列島なのかというと、日本列島周辺で二つの大陸プレートと二つの海洋プレート合計4つのプレート(ユーラシア、北米、フィリピン海、太平洋、)がぶつかり合っているからだ。こんな地形的特長を有するのは地球上で日本列島のみだだから地震も火山噴火も多い。11.5万年間安全に保管できる場所などないということは火山学者でなくてもわかる理屈だ。

 すでにできてしまっている使用済み核燃料を一箇所に集めて保管するのに毎日1000人の人間が必要だとしよう。11.5万年でどれほどの費用がかかるのか大雑把な試算をしてみる

 30,000円/人 × 1000人 × 365日 × 115000年 × 1.5
 = 1.889×10^15

 なんと1889兆円である。

 国内50基が産み出した使用済み核燃料の11.5万年間の保管費用が1900兆円とすれば、保管費用の引き当て計上を原発の稼動期間に割り振ってしなければならない。稼動期間を40年とすると1年間に引き当て計上すべき金額は

 1900兆円 ÷ 40年 = 47.5兆円

 計算してみるのもばかばかしいほど巨額のコストがかかる。原子力発電は民間事業として採算に合うはずがないのである。原発1基あたり年間1兆円の再処理済み核燃料保管コスト引当金計上が必要になる

 使用済み核燃料はそのまま保管できるわけではなく、保管するための濃縮再処理に莫大なコストがかかる。ウラン鉱石を掘り出し核燃料に加工するまでにかかる費用の10倍以上が再処理コストの現実である。
 原発災害で地域住民への補償費用が数兆円かかるとも言われ始めた。お金で補償できても元には戻せない。山林の除染は膨大なコストがかかるので東京電力はやるつもりすらないから、年寄りはふるさとに戻れても、放射能に感受性の高い孫たちは戻れない。年寄りだけの町や村は30年をかけて消滅していく。

 原子炉一基がメルトダウンを起こすと、百兆円を超える事故処理費用がかかり、そして核燃料デブリ撤去は数百年間不可能であることが次第に明らかになり始めている

 仮に1機の原発事故処理費用に100兆円かかるとしたら、耐用年数40年の稼動期間の間に毎年事故対策引当金を積み立てなければならない。年間2.5兆円である。東京電力の年間売上げは6兆円。

 事故処理コストを引き当て計上しただけで、国内の電力会社は全部債務超過になる。だから東京電力はいまだに事故処理費用の総額がわからないと主張して、引当計上を先延ばししている。一部でも確定すれば、その金額で残りの原発について引当計上義務が生じ、原子力発電がとんでもない高コストであることが白日の下に曝(さら)される。

 一般企業は企業会計原則や会社法に準拠して会計処理をしなければならない。上場企業はさらに証券取引法にも準拠しなければならない。ところが電力事業は「電気事業会計規則」というのがあって、それに準拠すればいいことになっている。福島第一原発事故以降これを政府は次々に改変している。原発事故処理費用を電力料金に上乗せできるように変えた。これで東京電力は事故費用がどれほど巨額になっても電気料金を値上げすればよく、負担しなくて済む。
 こんなことをやっているから、経営者にモラルハザードが起きる。日本人が数百年間培ってきた商道徳、「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」は東京電力の経営者の頭の中にはない。

 言いたいことは、原子力発電は途方もなく高コストだということ、そして11.5万年の保管管理が必要だから、民間事業としても国家事業としても成り立たないものだということ。それでも維持を図る姿は、経営者のモラルハザードそのものだ。原発事業は日本の伝統的な商道徳と真っ向から対立する。
 11.5万年の歴史を誇る国家は存在しないのだから、政府が保証できるわけがない

 小学生でも理解できる単純な理屈が、利害が絡むとわからなくなるという人間の愚かしさにあきれるばかり。


*#3501 ドイツと日本:発電政策の違い Feb. 8, 2017  
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-08

*#3499 ドイツと日本:生産性比較 Feb. 6, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-06


      70%       20%