Ⅲ.日本経済の未来(人口減少と高齢化を見据えて) 

17. <人口統計から見える未来>

  日本では世界に例を見ないほど高速に少子化と高齢化が加速的に進行している。縄文時代を含めて1.2万年の日本列島の歴史のなかで、初めて遭遇する長期にわたる人口減少はなにを意味しているかと、わたしたちは問うべきだ。
 
推計データを並べてみると、人類がこれから遭遇する困難な時代に日本人が無意識に備えを固めているという深い意味が隠されているようにも読める
  2060年には世界人口は100億人付近にあるから、世界的な食糧不足と食糧相場の高騰が予想される。貧乏な国ではたくさんの餓死者が出るだろう。日本も経済格差がこのまま固定、あるいは拡大すれば、国際穀物相場や食品相場が上昇すれば食費にお金が回しきれない家庭が増える。そのときに、人口が4000万人減っていれば食糧の輸入が途絶えても、自給がなんとか可能になる。人口減少はそういう時代に向かって、日本人が無意識に準備をしているとの解釈もありうる。人口減少になにか大きなものの叡智を感じないだろうか?

 どういう状況が現出するかを推計データでごらんいただきたい。日本の人口推計データは社会福祉・人口問題研究所のものである。
世界人口推計は国連や米国科学雑誌に載った最近の研究報告データ。 

人口推計データ   
 (千人)(千人)(千人)(億人)
総人口生産年齢人口生産年齢人口減少数世界人口
(2010)128,057 81,735  77
(2020)124,100 73,408 8,326  
(2030)116,618 67,730 5,678  
(2040)107,276 57,866 9,864  
(2045)102,210 53,531   
(2050)97,076 50,013 7,853 96
(2060)86,737 44,183 5,830 100
(2070)75,904 38,165 6,018  
(2080)65,875 32,670 5,495  
(2090)57,269 28,540 4,130  
(2100)49,591 24,733 3,807  
(2110)42,860 21,257 3,476 123


  右端の世界人口が現在の77億人から35年後の2050年に96億人に、そして2110年に123億人に急増していくのに、日本の人口は1.28億人から4280万人へ減少し続けるのである。世界の流れに逆らって、先手を打っているようにはみえないだろうか?

 2013
年時点で生産年齢人口がピーク時よりも200万人減少している。非正規雇用は全雇用者の40%を占め、比率は年々拡大を続けているから、勤労世帯の総所得は人口減少を上回る速度で減少することになる。
 
勤労世帯の所得は消費拡大の素(もと)であるから、その所得合計が小さくなれば、消費が減って景気は長期にわたって悪化する。合計所得は次の算式であらわされる。

  ①生産年齢人口×②就業率×③一人当たり所得=勤労世帯の所得合計

 勤労世帯の所得合計は三つの変数の積で決まる。生産年齢人口は15歳から60歳の年齢層だが、すでにピークよりも200万人ほど減少して、外食産業の一部で若者のアルバイトを確保できずに閉店が増えている。一つの会社で百店舗以上閉店せざるをえなくなっているところもある。

 以下、三つの変数を一つずつ検討してみよう。

【生産年齢人口の急激な減少】
 
これから50年間で生産年齢人口が半減するから、ブラック企業と噂の立った企業には人が集まらなくなる。生産年齢人口の減少は、社員を大事にしない企業に大きなツケを支払わせることになるだろう。長期的に見れば、社員の生活をないがしろにするような企業は人口減少時代を生き残れない。こういう淘汰が進むのはいいことだ。ここでは生産年齢人口が激減していくことを押さえておけばよい

 生産年齢人口の減少は企業に変革を迫っているのだから、それを正面から受け止めよう。「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」に「その企業で仕事をする人もよし」を付け加えたい。それを実現する経営力を持ち合わせた経営者はめったにいないからそうした企業は少ない。経営力の貧弱な経営者は取締役の報酬は増やすが、社員をリストラし、非正規雇用を増やして、人件費を切り下げることで利益を増やそうとするカルロス・ゴーンのような劣悪で強欲な経営者をマスコミが持ち上げてはいけない、ダメなものはダメと言おう。
 会社は短期的な売買を繰り返すような株主のものではないし、もちろん強欲な経営者のものでもない。

2010年比で見て、生産年齢人口は2040年には70.8%5786万人へ、もう一世代後の2070年には46.7%3816万人へ激減する。一人当たり勤労者所得が同じだと楽観的な假定をしても経済規模(国内消費)は2040年に7割、2070年には半分以下になる。)

【就業率は横ばい】
 
人口減少時代の就業率の見通しはどうか。専業主婦でも家計を助けるために子供の塾通いや進学にお金がかかるからアルバイトをしている主婦は多い。非正規雇用だから給与は正規雇用に比べて同じ時間を働いても三分の一程度である。すでに専業主婦が少ないから、就業率を上げるのも困難だ。政府はこの15年で療養型病床を10万ベッドも政策的に減らしてきたから、認知症老人を家庭内で介護せざるをえない状況が生まれており、介護のために退職を余儀なくされる家族が増えていることも、就業率にはマイナスに働く。
 
113日のテレビ報道によれば、200710月~20129月までの5年間で、48.7万人が介護を理由に退職。8割の38.9万人が女性、50歳代の女性が多いという。施設数を減らして政府はしゃにむに在宅介護を増やそうとしているが、直近では介護退職は年間10万人に増えている。 

【一人当たり所得は漸減】
 
一人当たり所得はどうだろう。非正規雇用がほぼ40%にまで上昇しているから、勤労者一人当たり所得はこの5年間で10%ほど低下している。このままでは非正規雇用が50%を超えるのは時間の問題である。正規雇用者の給与を上げても、平均給与水準は低下し続ける。

 
こうしてみると人口減少に伴い三つの変数の内、①「生産年齢人口」が著しく減少し、②「就業率」は横ばい、そして非正規雇用割合の増大によって③「一人当たり所得」は漸減していくから、勤労世帯の所得合計額は長期的な低落傾向を免れない。政府は大企業に賃上げ要請をしたり、この10年間ほどで療養型病床数を10万ベッド減らしているが、経済成長という点からみるとちぐはぐで、整合性がない。

 25年後である2040年の日本の人口構成は12百万人(ピーク時に比べて約20%減)、生産年齢人口は5786万人(ピーク時に比べて約30%減)である。日本の経済規模はピーク時に比べておおよそ25%縮小(GDP500兆円から400兆円に縮小)するだろう。こういう大きな長期的変化の中で経済政策も考えなければならないのだが、現実は経済が縮小し始めているのに成長路線へ舵を切るというちぐはぐなことをやっている。

 日本列島には縄文時代以来1.2万年の歴史があるが、このように長期にわたる加速的な人口減少は経験がない。そういう大きな視野から国家戦略を考えるべきだ。
 
急激な人口減少という事実から、日本経済の縮小は避けられない、それゆえ経済規模が拡大を前提にした成長路線はありえない話である。とるべき道ははっきりしている、日本経済の縮小を前提に経済政策を立案すべきだ。たとえば、インフラは維持すべきインフラと廃棄すべきインフラに分けて政策判断を行うべきだ 

[人口減少と明るい未来]
 では日本の未来は暗いか?そうではない、縮小するからこそ明るいのである、だから人口縮小をとめる必要はない。国連の推計によれば2100年には世界の人口が109億人に達するという。昨年9月に米国の科学雑誌「サイエンス」に掲載された米国と国連共同チームの推計によれば123億人となっている。
 
2050年には96億人という推計が国連から昨年6月に出ている。2040年に世界の人口が90億人だと假定しよう。現在よりも13億人も増えるから、地球上にもうひとつの中国生まれるようなものだ、その結果世界中で食料の争奪がいまよりもずっと深刻な様相を呈することになる。中国は自国のEEZの水産資源を獲り尽くし、なりふり構わず他国の領海へ侵出してくる。
 台湾(中国)
が北太平洋の公海上に1000tクラスの大型漁船を10隻も浮かべてサンマ等を取り捲っている。船倉は大型の冷凍庫になっており、獲った魚はすぐに冷凍され、箱詰めされる。3000tクラスの輸送船が北太平洋上でフル操業しているこれらの漁船を回って冷凍された新鮮なサンマを回収して台湾へと向かう。買い手は中国である。いくらでも買い付けをするから、獲れば獲るほど利益が出る。こういうビジネスモデルがすでに確立している。サンマは一尾50円で中国本土で売られている。根室よりも安い。中国人はサンマは香ばしくて美味しい魚だと喜んでいる。冷凍技術の進化で北太平洋公海上はまるで中国の領海化しつつある。
 中国ばかりでない、インドも人口が増えており、まもなく中国を抜いて世界一になる。どちらの国も
食料を大量に輸入することになる。日本でこのまま経済格差が拡大すると、食料調達のできない低所得層が急拡大しかねない。すでに母子家庭で子供に三度の食事を食べさせる余裕のない家庭が現れ始めて、社会問題化しつつある。
 
2040年に人口が17百万人(ピーク時の13%減)になると、食料の自給率が大幅に改善できるし、都会の通勤ラッシュも生産年齢人口が2600万人(ピーク時に比べて30%減)も減少するので解消されるだろう。
 
2世代後の2070年を見ると日本の人口は7590万人でピーク時に比べて38.3%減少し、生産年齢人口は55%減少する。北海道の食料自給率は現在200%といわれているが、19億人人口が増えて世界人口は96億人になるから、35年後の北海道はじつに有利な条件を備えていることになる。 環境を汚染せず、水産資源を維持していくことができれば未来は明るい。問題は子供たちの教育である。
*
「日本の人口推移(生産年齢人口推移)」 生産年齢人口のピークは1995
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/dl/07.pdf 

[人類の遺伝子劣化を防ぐ努力]
 原発事故による放射能汚染は日本人の遺伝子の劣化を招く、プラスチック製品は海洋に流れ出して、世界中の海の数箇所にたまり、紫外線で劣化しながら波の力でぶつかり合ってミクロン単位の小さなものに分解され、魚類の体内に取り込まれつつある。魚の内臓はミクロン単位やナノ単位のプラスチック微粒子で汚染されてこのままではいずれ食べられなくなるだろう。最終的には人間の体内へ取り込まれるから、遺伝子劣化を招く大災害となって人類を襲う。原発は事故を起こさなくても核反応によって半減期2.3万年のプルトニウムを生成するから、人類の遺伝子にとって深刻な脅威となる。原発とプラスチックはいま手を打たないと間に合わない。環境に出てしまったら微粒子だから取り除きようがなくなる。
 
小さなことだが、ペットボトルの使用をやめてガラスのリターナブル・ボトルにしよう、大人の責任だから大きなこともしっかり取り組もう、原発をやめてこれ以上使用済み核燃料を増やさないようにしよう、未来の子供たちのためにわたしたち大人がやれることはいくらでもある。 

[生産拠点を増やすためにいまやるべきは鎖国政策]
 日本から失われた生産拠点は強い管理貿易(鎖国)によって再構築できる。そうすれば若者に正規雇用の職が保障できる。生産拠点さえあれば団塊世代が前の世代から受け継いだ技術を若い世代に渡すことが可能になる。いま必要なのは、米国のスタンダードに合わせることではなく、それに背を向けることだ。日本には職人中心の経済社会を築き安定と豊かさを実現するためにこれから300年間鎖国の眠りにつくという選択肢がある
 
学力の低い者たちにも正規雇用を保障するためには、強い管理貿易に切り替えて国内に生産拠点を取り戻し、手仕事、肉体労働を増やすべきだ。そのためには徒弟制度を研究して職人を育成するシステムを作り直さなければならない。一人前に職人になるには強靭な辛抱力が要る。そうした観点から、家庭のしつけと学校教育や進路指導を見直そう。
 
日本は環境と調和する手仕事の職人中心の経済社会を創りあげて、生産システムとそれを支える価値観、「小欲知足」「浮利を追わない」「売り手よし、買い手よし、世間由の三方よし」を世界中に輸出しよう。こんなことを21世紀にやれる可能性があるのは世界中で日本だけ。
 
誇りと使命感をもってなすべき課題と取り組む姿は、学校の先生たちと同じだ。日本はそういう価値観をあらゆる職業の人たちが共有できる国だとわたしは思うのである。 


*#2935 『資本論』と経済学(1):「目次」 Jan. 25, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-25

 #2947 『資本論』と経済学(11) : 「労働観と仕事観:過去⇒現在⇒未来」 Jan. 29, 2015     
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-29-4

  #2948 『資本論』と経済学(12) : 「公理書き換えによる21世紀の経済学の創造」 Jan. 29, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-30

 #2950 『資本論』と経済学(13) : 「経済学体系構成原理は四つ」 Jan. 31, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-31-1

 #2951 『資本論』と経済学(14) : 「第1の公理を巡って:マルクスの労働観と日本人の仕事観」 Jan. 31, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-31-2

 #2952 『資本論』と経済学(15) : 「対極にあるもの:ヨーロッパ労働観⇔と日本の仕事観」 Feb.1, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-31-3

 #2953 『資本論』と経済学(16):「日本人の仕事観:仕事は楽しい!」 Feb.1, 2015 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-01






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