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#3087 外国人持ち株比率3割の意味するもの:金子勝慶応大教授 July 21, 2015 [A1. 資本論と21世紀の経済学(初版)]

 7月15日NHKラジオ番組「社会の見方・私の視点」は慶応大学経済学部教授金子勝の担当だった。10分ほどの朝の番組である。

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<現在の株式相場は官制相場である>
 ①アベノミクス第一の矢の「異次元金融緩和」と同時に、日銀がETF(上場投資信託)を購入して、株式相場を買い支えている。
 ETF:Exchange Traded Fund
 ②それらに加えて、GPIF(年金基金)と3つの共済年金が株式を買っている。

 日銀のETF購入額は3兆円を超え、それに加えてGPIFと3つの共済年金機関で3月末の残高が3兆円を超えた。株価下落の要素が起こると日銀がETFを購入し、年金基金も株を買う。株式市場で起きている株高は政府の自作自演である。いつまでもこんなことは続けられない

<大手企業が外資系企業になっていく>
 1990年代以降、銀行を中心としたグループ企業間の株式持合いを解体することが「改革」とされた。不良債権処理の失敗などで保有株式を手放した。それで小泉政権時20%台だった外人投資家のシェアは30%台へ急増し、2014年には31.7%に。
 売買に占める外人投資家の比率は6割台である。したがって、日本の株式市場は外国マネーに席巻されている。日本人の個人投資家の持ち株比率は17%と低い。

 経産省の定義では、外人持ち株比率が1/3を超える企業は「外資系企業」と定義されている。その定義にしだがえば、名だたる大手企業がすでに外資系企業である。株主総会で特別決議は株主の1/3の賛成が必要だが、外資系企業は重要な経営政策は外人投資家にお伺いを立てなければ株主総会を通らないから、外人投資家の持ち株比率上昇は企業の経営政策や政府の経済政策にも影響を与えている。
 トヨタはすでに外人比率が30%に達しているので、これ以上外人比率を上げたくないので、5年間売却できない個人投資家向けWA型特殊株の発行を公表した。
 外人投資家が株を大量に売却すれば、株価は簡単に剥げ落ちるので、トヨタは予防に走った。

 たとえば、買収に対抗するために内部留保を厚くすることや労働法制を緩和して企業利益が大きくなるような経済政策が採られている。
 その結果、法人企業統計によれば内部留保は2012年に300兆円だったが2013年には328兆円に増えている。

<トリクルダウンは起きない:企業はだれのもの?> 
 配当を増やさないと外人投資家を呼び込めないので、株価を維持するために企業は配当を増やしている。2014年度は純利益の4割に当たる13兆円を株主還元している。
 それに対して従業員の給与は、90年代以降低下し続け、2015年5月まで25ヶ月連続でマイナスとなっている。
 大企業は史上最高益を上げ、株価が高くなっても、従業員にトリクルダウンは起きていない。アベノミクスでは利益を増やす企業の裾野が広がっていけば、従業員の所得も上がっていくという説明だったが、事実はまったく違う。
 企業は株主のものだろうか?

<破綻しているアベノミクス>
 若者の非正規雇用化は結婚も出産もできない若者を作り出し、少子化を招来している。痩せる国内市場に対して大企業は投資をしない、外国企業を買収する方へ投資している。
 日銀は財政ファイナンスを延々と続けなければならず、出口戦略がまったくみえない。金子氏は日本の現状を金融資本主義がもたらした結果であるとみている。

<今後どうなるか>
 2014年末の日銀国債保有残高は275兆円。
 2015年2月の内閣府の「中長期の経済財政の試算」によれば、2017年には物価上昇率が3.3%になった後で、2%に落ち着く。名目成長率は2018年度までに4%に上がることになる。
 物価よりも金利が低いということはないので、金利も上昇することになり、国債が暴落して、日銀は巨額の評価損をだすことになる。
 国際価格の下落を防ぐためには、日銀はジャブジャブと国債を買い続けなければならない。したがって、金融の不安定化が避けられない。
 アベノミクスは成功したとたんに破綻がまっている。
 政府は根本的に財政・金融・経済政策を見直すべきだ。

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 ここまでが金子教授の意見である。
 ebisuが少し付け加える。この20年間で二つ重大な変更があった。株式評価基準の変更と労働法制の改正の二つである。
 企業間の持株解消は米国の要求で会計基準が変更されたことが決定打となった。国際会計基準というが、中身は米国会計基準である。
 経済学者は案外この点を見過ごしている。株式が時価評価になったから、株価が変動すると巨額の評価損を計上することになりかねない。だから、日本の企業は銀行も生保や損保も株式の持合を解消した。会計基準変更によって企業経営者の行動は簡単に変わってしまう。会計基準は国益に直接関わるものだから、会計学者の議論に任せていてはいけない。会計基準の変更(時価評価会計)により国内企業がいっせいに持ち合い株を放出したから、受け皿は外人投資家しかなかった。
 一斉放出は株価下落を招いたから、外人投資家は濡れ手に粟のごとく日本企業株を手に入れた。それまで売買の対象とならなかった企業間の持ち合い株が、会計基準の変更で簡単に市場で売却されてしまった。
 労働法制を変更して、良質の労働力である日本人を安く使い、利益と配当を増やして、国際金融資本が日本国民の富を合法的に収奪する体制が整った。
 小泉改革以来の規制緩和はこういう狙いがあったのだ。
 韓国は大手銀行のすべてが外資比率80%以上である。サムスンや現代自動車も外資系企業で、国民は不安定な雇用と低賃金、そして高失業率にあえいでいる。
 気をつけないと、日本もそのあとを追いかねない。

<会社法を改正して金融資本の影響を薄めよう>
 法律を作って、無条件で株式会社の社員に株主総会で1/3の議決権を付与したらいい。会社法改正で可能だ。そうすれば、社員の総意に反するような特別決議(会社法309条2項)が事実上不可能になる。米国が傀儡政権を通じて会計基準を変更させたように、わたしたちも国会議員に必要な会社法改正をさせて対抗すればいい。
 会社は社員のものである、そして株主のものでもある。日本は世界に先駆けて敢然とグローバリズムを戦え


 たとえば、親会社が子会社を吸収合併しようとしても、子会社の社員がこぞって反対すれば、吸収合併の特別決議ができなくなる。もちろん、他の会社が吸収合併しようとしても同じこと。社員が相違をまとめられたら拒否権を持つ。会社の配当政策や社員への利益配分にも影響力をもつことになる。非正規雇用についても社員総会がその雇用条件の改善に口出し可能になる。

 日本が国際的な貢献を果たす可能性を残すには、TPPに加盟してはいけない。日本独自の規定を会社法に盛り込めなくなるからである。グローバリズムの侵略をこれ以上許してはいけない、日本は会社法を改正してグローバリズムと戦うべきだ。

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<法人企業統計から見る日本企業の内部留保と利益配分>
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/f01_2014_03.pdf

 1998年 131.1兆円
 2000年 167.9兆円
 2008年 279.8兆円
 2009年 268.9兆円
 2012年 304.5兆円

 p.91図7-1に配当金の推移棒グラフが載っている。2001年までは5兆円未満だったが、2002年に5兆円を超え、2005年には12.5兆円、2006年には16兆円、その後2012年まで10-14兆円を維持している。
 日本企業が人件費をカットして、配当にまわしている姿がよくでている。

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*#2935 『資本論』と経済学(1):「目次」 Jan. 25, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-25

 #2936 『資本論』と経済学(2):「1.経済現象と日本の国益」 Jan. 26, 2015 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-26

 #2937 『資本論』と経済学(3):「円安はいいことか?80⇒120円/$の威力」 Jan. 27, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-27

 #2938 『資本論』と経済学(4) : 「経済学とは?」 Jan. 27, 2015 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-27-1

 #2939 『資本論』と経済学(5) : 「『資本論』の章別編成」 Jan. 27, 2015  
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-27-2

 #2941 『資本論』と経済学(6) : 「マルクス著作の出版年表」 Jan. 29, 2015   
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-28-1

 #2942 『資本論』と経済学(7) : 「デカルト/科学の方法四つの規則」 Jan. 29, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-28-2

 #2943 『資本論』と経済学(8) : 「ユークリッド『原論」 Jan. 29, 2015   
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-29

 #2944 『資本論』と経済学(9) : 「何をやりつつあったかは残された文献に聞け」 Jan. 29, 2015    
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-29-1

 #2945 『資本論』と経済学(10) : 「プルードン「系列の弁証法」 Jan. 29, 2015    
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-29-2

 #2947 『資本論』と経済学(11) : 「労働観を時間座標系においてみる」 Jan. 29, 2015     
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-29-4

  #2948 『資本論』と経済学(12) : 「学としての『資本論』体系解説」 Jan. 29, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-30

 #2950 『資本論』と経済学(13) : 「マルクスの経済学体系構成法」 Jan. 31, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-31-1

 #2951 『資本論』と経済学(14) : 「マルクスの労働観と日本人の仕事観」 Jan. 31, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-31-2

 #2952 『資本論』と経済学(15) : 「ヨーロッパ労働観⇔と日本の仕事観」 Feb.1, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-31-3

 #2953 『資本論』と経済学(16):「仕事がキツイ!に潜む心(仕事観)の問題」 Feb.1, 2015 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-01

 #2955 『資本論』と経済学(17):「要領の悪いものほど忙しいとぼやく」 Feb.3, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-03

 #2958 『資本論』と経済学(18):「教育の職人」 Feb. 5, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-04-2

 #2960 『資本論』と経済学(19):「日本経済の未来」 Feb. 6, 2015
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 #2961 『資本論』と経済学(20):「経済成長の天井 山田久氏の論」 Feb. 7, 2015
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 #2964 『資本論』と経済学(21):「過剰富裕化論」 Feb. 8, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-07-3

 #2966 『資本論』と経済学(22):「相対的貧困率上昇と富裕層増大」 Feb. 9, 2015
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 #2967 『資本論』と経済学(23):「ピケティの空想的所得再分配論」 Feb. 10, 2015
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 #2968 『資本論』と経済学(24):「浜矩子 予算案と公共性について」 Feb. 11, 2015
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 #2971 『資本論』と経済学(25):「村落共同体と税:自由民と農奴について」 Feb. 12, 2015
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 #2973 『資本論』と経済学(27):「注-1~5」 Feb. 13, 2015
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 #2974 『資本論』と経済学(28):「注ー6」と主要文献リスト Feb. 14, 2015  http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-13-1

 #3082 『資本論』と経済学(29):利便性の追求の果てには何があるのか July 15, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-07-15


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コメント 2

tsuguo-kodera

 なるほど、グローバリズムの陥穽に落ち込まないようにする素晴らしいアイデアだと思いました。30年近く前にすでに金子先生も、一部の先見の明がある人も、私もその端くれでしたが、日本はもろに落ち込んできたのかも。やはりドイツやイギリスは賢かったのかもしれません。
 管理人様の今日の記事に近い話は、すなわちグローバリズムの怖さを本や通算の外郭団体の月刊誌で解説されていました。でも難しい説明すぎたようです。私も今日ほど、良い手があったのだと思えませんでした。
 当時の首相は自民党をぶっ壊すと言って日本をぶっ壊すために、政府系銀行をぶっ壊したと言えそうになってきたとも、理解できそうです。日銀の政府系企業のトップたちも腑抜けでしたね。今もでしょうが。とにかくとても分かりやすい説明だと感服しました。
 要するに会社法を変更すれば教育にも良い影響があると言うことですね。まさに日銀や政治や法律のトップ層の人が考えるべき、むしろすぐに実施すべき法体系のようですね。この点はドイツに習うような印象を私は持ちました。密かに期待して墓場にまいりますが、すでに私とは無縁の世界です。
 やはり私は家庭を持てない可能性がありそうな若い人、ほっておけば使い捨てにされそうな人になりそうな子供たちと遊んであげて、そうはならない道を歩み始めるような、私でできることに最善を尽くしたいと考えています。
 死ぬまでやろうと思っています。お互いに南無阿弥陀仏かも。(笑)
 
by tsuguo-kodera (2015-07-21 04:32) 

ebisu

koderaさん、おはようございます。

上場企業には社員を代表する機関に株主総会の1/3の議決権を無条件で付与するように会社法を改正することは、立法府の役割であり国会議員ができることです。

本邦初の「異次元の会社法改正」の第一号の賛成者になっていただきありがとうございます。

まじめに働き、技術を磨けば、だれもが結婚して子育てができる、そういう安定した生活を営むことが可能な社会を子どもたちや孫たちに残してやりたい、そう思います。
一片の法律改正で、悪しきグローバリズムを根っこから引き抜くことができます。日本が最初にやって見せたらいい。
こんな提案は日本人にしかできないだろうし、日本人にしか実現できない役割です。職人文化が広くいきわたっている経済社会が根底にある日本だからこそ可能なのだと思います。

「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」
「働く者よし、取引先よし、株主よしの三方よし」

まずは情報発信、そこから先がどうなるかは分かりませんが、やるだけやってみる、やれるところまでやって、どなたかにバトンを引き継いでもらえたら幸せです。
by ebisu (2015-07-21 08:54) 

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