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#4374 情緒の同調について:高樹のぶ子著『小説伊勢物語 業平』 Sep. 21, 2020 [44. 本を読む]

 9/19(土)に釧路まで行ってきた。イオンで女房殿が買い物をしている間に「くまざわ書店」に寄ると、標記の小説が平積みされており、手に取ってみたら高樹のぶ子氏の著作、数ページ読み、とっても面白そうなので買ってきた。
 日経新聞に掲載された小説のようだが、2002年の秋に根室へ戻って来てから、日経新聞にはほとんど用がなくなった。2006年ころに理系の娘から日経新聞の記事を読んでわからないところがあると、毎週新聞の切り抜きに赤線を引いたものを数枚送ってきた。1年間ほどそれにこたえているうちに、A4判100枚程度の経済記事解説集ができあがってしまったことがあっただけ。ほかには釧路でホテルに宿泊したときに日経新聞を読むが、そのときだけ連載物を読んでもつまらないからパス。そういうわけでほとんど日経新聞をよまない。東京でサラリーマン生活していたころは必要があって多いときは4紙(日経新聞、日経産業新聞、日刊工業新聞、電波新聞:産業用エレクトロニクス輸入専門商社在職中)読んでいた。朝8時20分ころ会社へついて、9時過ぎまで小一時間読み、経営戦略上気になる記事の切り抜きを役員へ回覧していたのだが、報道や解説の視点が異なるだけで類似の記事が多いのでそう手間はかからない。
 根室へ戻ってからは小4のときからなじんだ北海道新聞のみを読んでいるが、熱心に読むのは連載小説のみ。最近は島田雅彦の連載小説『パンとサーカス』がとっても面白い。詳細なプロットを積み重ねており、それぞれ必要な専門知識をよく調べ、そして整理して開示してくれる。宗教についてもよく調べ彼の視点で整理していた。今日はCIAの人材採用についてSF86という様式の調査票用紙に言及していた。どこまでが取材に基づいているのか、どこからがフィクションなのか切れ目がまるで見えない。素晴らしい職人仕事である。福島第一原発事故についての政治風刺もとっても利いている。ところで落語家が政治風刺をあまりやらないのはどういうわけだろう。江戸時代はそうではなかっただろう。落語家であって噺家ではなくなったのか。
 島田雅彦『ぢんぢんぢん』は整形手術を繰り返す女の長編小説、あれも整形手術に走る女性たちへの警告を含んでいた。『退廃姉妹』も戦後をたくましく生き抜いた叔母たちの過去を当時の経済事情をベースに描き切っていた。それなりの生きざまがあったが、それは仮面の下に隠してツンと澄まして生きる、姪たちは知らない。似たような過去を背負った女たちは多かっただろう。『パンとサーカス』ではますます腕に磨きがかかったように感じる。無駄に歳を食っていない。島田雅彦氏はわたしよりも一回り年下。


 さて、3つ年上の高樹のぶ子の手になる『業平』の冒頭を紹介する。大胆不敵な試みの小説。


DSCN4083s.JPG.png


 在原業平と憲明(のりあきら)主従が出てくる。憲明は狩りで業平が勇みすぎるのをとがめる。憲明は業平と乳兄弟で5歳年上、業平は乳母の元で育てられた。冒頭の章のタイトルは「初冠」(ういこうぶり)とルビが振ってあったが、旧仮名で振ると「ういかうぶり」、どうやら高樹さんは新仮名でルビを振ることに決めたようだ。当時の用語は言の葉を大事にして旧仮名を採用してほしかった。それでは売れ行きに影響しかねぬと編集側が主張したのだろうか?
 初冠とは元服のことである。この儀式を済ませると乳母の長兄で業平と兄弟同然に育ったとしても、初冠の儀式を境に身分の関係がその行動や口調に出ざるを得ない。乳のみ兄弟から主従の関係への分岐点が初冠、5歳年長といえど、憲明は業平を主と認め言葉を選んで穏やかにたしなめている。
 読み手のわたしは、時に業平になり切り、考え、その情緒を自分の心の内に再現してみる。同じように憲明にもなり切り言葉を選ぶ、その心情や思考そしてその場面を自分の心と脳裏に再現しながら読む。頭の中では二人の人間が同時にそれぞれの立場や心情で具体的なシーンの中で関係を切り結ぶ。馬副(うまぞい)四人は息を切らせてあえぎながらようやく追いついてくる。その心中も高樹は書き込んでいる。二人の心情の移ろいを会話文を読みながら味わい、シーンを具体的に想像することは小説を読む醍醐味の一つである。


 初冠は大人になる儀式だから、とうぜんセックスの手ほどきもされる。乳母の妹が初冠の夜に夜具に滑り込んできて業平を導くのである。元服にはそういう性風俗に係る一面がある。大人の女に手ほどきされて一人前の大人になる、貴人はそうだが、庶民には別のシステムがあった。宮本常一の著作を読むと日本の伝統的な性風俗がわかる。日本の性風俗史を日本人はすっかり忘れてしまっている。成人式を過ぎても、いまだチェリーの男子のなんと多いことよ。一人前の男としては認めがたい。自分で探さなきゃいけないのだから、明治以前の日本人とは性風俗に係る社会システムのキャップが大きすぎる。(笑)
 第四章の「蛍」が秀逸である。思いを寄せて業平に想い焦がれてある高位の娘が死に逝く。睦あう機会のなかった恋も、それゆけ純粋な想いはさらに深くなる。限りなく美しいものを描いてみたいという美意識の塊と言える章、高樹のぶ子の面目躍如だ。作家というのはすごいね。

 業平を描くのだから、セックス描写をどうやるかは、小説の方向を決める重要な部分だ。最初の3章を読んだが、過もなく不足もなく、きわどい領域へ踏み込みながらも品よくまとめている。書き手が女だとはっきりわかる書き様である。どこにそれを認めるかは本を読んでもらいたい。恋の多い作家が40歳で書くのと、60歳になって書くのでは、小説の趣も相当違ってくるだろう。
 『和泉式部日記』をベースに、知的レベルが高くてお金がある程度自由に使える男たちと恋を重ねた女性作家の手になる、『小説和泉式部日記』を読んでみたい。そのでき如何で、日本で50万部、英語版では1億冊のベストセラー、実現できる力のある作家と編集者と出版社が現れたら面白い。


 主人公の情緒や他の登場人物の情緒に同調するとか共感するのは小説を読む愉しみの一つだろう。短歌や俳句はどうだろう。
 「古池や 蛙飛び込む 水の音」、森閑とした山奥のお寺近くに池があり、そこにたたずんでいると、蝉がピタッとなきやみ、しんとした瞬間にぽちゃんと水音がする。ああ、カエルが飛び込んだ、というのがこの俳句の提供する情景である。この俳句を読み目をつぶると、時空を超えて芭蕉がたたずんだ池の縁にわたしも佇むことができる。芭蕉の感じたものを心の中に再現して味わうのである。生徒の一人がこの句を読んで、「それでどうしたの?」と首をかしげた。集団的無意識の中核にある日本的情緒が育まれていないようにみえる。共感も同調もできない。なるほど、そういうタイプがいるのだと驚いた。戦後数年間までは万葉の短歌が国民の教養の一部だったから、こういうタイプはほとんどありえなかっただろう。いまでは、3割ほど存在しているのかもしれぬ。日本人とは何かを考えさせられる。
 大数学者の岡潔先生は、心のセンターにあるものを情緒と定義する。そしてその情緒を日本民族の情緒と個人の情緒に分類し、これら二つが融合している人は稀だと書いている。(岡潔著『日本人のこころ』日本図書センター1997年刊)


 人の心に共感するとか同調するというのは、組織マネジメントにとっては重要な能力である。人は論理でも動くが、論理の射程は極端に短く、現実の変数は無限大である。届かないのだ。
 人は基本的に情緒で動く。情緒に共感出来たら、少々の自己犠牲はいとわない。人とはそういうモノのようだ。
 目先利益や自分の利害を四六時中考えている人が、論理で人を動かそうと思うと、利益で釣るしかない。それでは、組織は腐っていくし、仕事のできる者の中には利害損得では動かぬ人もいるから一つの組織全体を動かすことは出来ぬ。自分の利害損得、目先の利益に目がくらむと、長期的には身動きが取れなくなるのがモノの道理だ。夢を語り、それを実現して見せるのがマネジメントの役割である。
 「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」
 日本人が数世紀にわたって育んできた商道徳やマネジメントの底流にはそうした日本的情緒や価値観が流れている。そういうものを体現する経営者も政治家も稀になった。情緒の濁りがいけない。


 小説冒頭の文章を吟味して、筆を擱こう。
 地の文が「ですます調」であるところが気になった。
 「勢いよく駆け出してきた若い男ひとり、額を輝かせ汗で濡らした様が、若木の茎を剝いたように匂やかでみずみずしい」
 生硬ではあるが著者独特の表現、「額を輝かせ汗で濡らした様が、若木の茎を剝いたように匂やかでみずみずしい」に出遭うのも楽しい。若い業平の狩りの様子がよくわかる。この地の文に後続する、次の二つの文は「である調」のほうがわたしには切れがよくリズミカルに感じる。高樹のぶ子さんは、なぜ地の文を「ですます調」にしたのだろう。同じ疑問をもったはずで、そのうえで「ですます調」を選択しているのだろう。著者に訊いてみたい。

「走り出てきます⇒走り出てくる」「声をかけました⇒声をかけた」
 こちらの方が勢いはあるし、切れもいい。
 西行の生きざまを小説にした辻邦生の『西行花伝』を二十数年前に読んだ、あれ以来である。くまざわ書店でタイトルを見ただけで興味がわいて、手が伸びた。

 『業平』の登場人物のこころのセンターに渦巻いているものを自分の心の中に再現しながらじっくり読みたいと思う。こういうことを贅沢と言うのだろう。高樹のぶ子さんに感謝...m(_ _)m

 




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小説伊勢物語 業平

小説伊勢物語 業平

  • 作者: 髙樹 のぶ子
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版
  • 発売日: 2020/05/12
  • メディア: 単行本



西行花伝 (新潮文庫)

西行花伝 (新潮文庫)

  • 作者: 邦生, 辻
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1999/06/30
  • メディア: 文庫
すらすら読める伊勢物語

すらすら読める伊勢物語

  • 作者: 高橋 睦郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/12/11
  • メディア: 単行本
ぢん・ぢん・ぢん〈上〉 (祥伝社文庫)

ぢん・ぢん・ぢん〈上〉 (祥伝社文庫)

  • 作者: 花村 萬月
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2001/03/01
  • メディア: 文庫
退廃姉妹 (文春文庫)

退廃姉妹 (文春文庫)

  • 作者: 島田 雅彦
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/09/20
  • メディア: Kindle版
忘れられた日本人 (岩波文庫)

忘れられた日本人 (岩波文庫)

  • 作者: 宮本 常一
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/04/20
  • メディア: Kindle版

 

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#4350 子どもに斉藤孝「音読破シリーズ」の本を買いそろえよう Aug. 28, 2020 [44. 本を読む]

 斉藤孝音読破シリーズは6冊あります。総ルビ(漢字の右側にフリガナが振ってあります、そして左側に語彙説明もあります)ですから、極端な話、小学1年生でも読めます。1冊880円ですから、全部そろえても5280円です。
 地元の本屋さんで注文してやってください。応援しましょ。

 なぜ、本を勧めるかって?後(余談)で漆器づくりとビリヤード台の調整の例を出して説明しますが、どんな仕事でも基本スキルを身につけるにはやり方と最初の工程が大事だからです。そういう点からみると音読トレーニングは長期的な学力アップに効果が大きい。もちろん、英語学習も基本は音読トレーニングを積み重ねること。
 十数年間、ニムオロ塾で良質の本を選んで日本語音読トレーニングをしました。お子さんと一緒に声を出して音読してください。2文ずつ交互に読む(輪読)、お母さんの声に合わせて子どもが同時に読む(同調音読)、小説は感情をこめて読む・登場人物で声音を分けて読むなど、読み方はいろいろ。ユーチューブでアナウンサーや俳優の朗読が聞けますから、それを真似したらいい。CD版の『坊ちゃん』や『走れメロス』を探してもいい。もちろん、お母さんがお手本に一緒に読んであげたらもっといい。
 釧路の劇団「東風」の片桐さんが朗読の名人です。キッズロケットを主宰して長年楽器演奏やミュージカルの指導をしてこられた金安潤子(釧路市議)さんもお上手です。根室市教委でこういう方を招聘して、市内の小・中学校で音読指導をしてもらったらいかが?先生たちが朗読の仕方や音読指導のやり方を学べます。一度やってもらえば、基本に忠実に音読指導のできる先生たちが根室にニョキニョキ育ちます。
 女優の市原悦子さんも朗読の名人のお一人だった。たくさん作品を残されています。


<先読み技術の習得と学習効率のおける速度の重要性>
 行の最後に来た時に、次の行が先読みできていれば、目をつぶって聞いていると、どこが最後の語かわからないほどスムーズに読めるようになります。「先読み」技術がつくと、音読速度が大きくなるだけでなく、理解が深くなります。ある程度高速で読まないと、意味のカタマリとして脳に入って来ません。だから、高速音読のトレーニングが必要なのです。計算速度は、同じクラスの一番早い人と遅い人で、1対30もの差があります。これは実際に5人の生徒を計測した結果です。書く速度は1:2くらいの差があります。音読速度の差はこれらの間位に位置するでしょう。3倍の速度で本や教科書が読めたら、同じ時間内に3倍処理できるということ。学習効率がまるでちがいます。国語試験の問題を3倍の速度で、2倍の精密さで読めば、通常の人の6倍同じ時間に読み取れることになります。国語の学力テストの点数が90点以上の人は、2倍くらいの速度で正確に読んでいます。

○『声に出して読みたい日本語』
○『声に出して読みたい日本語②』
○『声に出して読みたい日本語③』
○斉藤孝音読破シリーズ:『坊ちゃん』夏目漱石
○斉藤孝音読破シリーズ:『羅生門』芥川龍之介
○斉藤孝音読破シリーズ:『走れメロス』太宰治
○斉藤孝音読破シリーズ:『銀河鉄道の夜』宮沢賢治
○斉藤孝音読破シリーズ:『五重塔』幸田露伴
○斉藤孝音読破シリーズ:『山月記』中島敦
『読書力』斉藤隆
『国家の品格』藤原正彦
『すらすら読める風姿花伝・原文対訳』世阿弥著・林望現代語訳
●『日本人は何を考えてきたのか』斉藤隆
●『語彙力こそが教養である』斉藤隆
●『日本人の誇り』藤原正彦(数学者)
◎『福翁自伝』福沢諭吉
◎『近代日本150年 科学技術総力戦体制の破綻』山本義隆(物理学者)


 ○印は、ふつうの学力の小学生と中学生の一部の音読トレーニング教材として使用していました。『声に出して読みたい日本語』には早口言葉や「外郎売(ういろううり)」のような口調の好いものや詩歌が入っているので、こどもたちは得意になって繰り返します。

 ●印の最初の3冊は中学生用の音読教材に繰り返し使いました。初見で読めない漢字が1ページに三つ以上あったら、重症です。2冊買って親が一緒に読んでやらないといけません。
 斉藤孝音読破シリーズは1冊880円です。こちらは総ルビですから小学2年生でも読めます。6冊全部買っても5280円ですから、ぜひ全冊揃えて子どもに与えてください。2冊ずつ買いそろえると、お母さんが一緒に読んであげられます。小学校低学年のうちに手間をかけてあげたら、読書好きできっと頭のよい子になります。ほったらかして何も手をかけてあげなければ、それなりに育ちます。


 文章読解力が学力の基礎です、教科書が日本語で書かれているから当たり前ですね。

 ●印の後半の3冊は高校生の音読トレーニング教材として授業で使用した実績があります。
 ◎は高校生の音読トレーニングに使いましたが、本来はでできのよい大学生レベルのテクストです。

<余談:基本スキルの養成と最初の工程が肝心(かんじん)
 昨日テレビを見ていたら、漆器づくりの名人が高級漆器をつくる要点を説明していました。木地を椀の形に削った後に、最初にたっぷり漆を塗ってやり、表面から漆を吸わせて数日乾燥し、そしてまた漆を塗ってやるという工程を数回繰り返すのだそうです。この工程を「木地固め」というのだそうで、そこをしっかりやると、水に数日つけておいても水が染み込まない頑丈な漆器ができるのだそうです。そこの手抜きをやると、使っているうちに水が染み込みダメになるヤワな漆器となってしまうのだそうです。最初の工程の手間を惜しまない、これはすべての職人仕事に通じます基本に忠実にやることの大切さがわかります。読書習慣をつけさせることや「先読みの技」と磨くために良書を選んで音読指導をすることは必要なことなのです。

 基礎基本が大切な事例を一つ挙げます。わたしは小学校のころから高校卒業まで家業のビリヤード店の店番を手伝っていました。毎年、札幌狸小路にあったビリヤード台の卸のお店から、品の好い老人の経営者が来て、ラシャ(台を覆っている布切れ)を交換します。ビリヤード台の枠を全部外して布を取り、スレート(四枚の平たい石)も外します。もう一度組み上げますが、スレートを載せる前に水準器で枠木の水平をきっちりだします。それから四枚のスレートを載せて、もう一度水平を測り、調整します。これを石を載せる前に水平をきっちり出しておかないと、四枚のスレートを載せたあとでは四枚が水平にならないのです。どれか一枚を水平にすると隣との境目にわずかな段差ができてしまいます。だから、「スレートを載せる前の水平だし」が完全に水平なビリヤード台を組むのに一番大切な工程だということがわかります。ビリヤード台のラシャ交換でも、全部をばらした時の最初の水平を厳密に出すことが一番大切な工程なのです。漆器を制作するときの「木地固め」の工程です、そこの手抜きをしたら、アウト。どんなにあとでそれぞれの石の水平を調整しても、四枚が水平にはなりません。
 読書習慣を身につけさせ、先読みの技を習得するということは、漆器の「木地固め」、ビリヤード台の「四枚のスレートを載せる前の水平出し」と同じことです。ここの手抜きをしてはなりません。お母さんでも、お父さんでもできます。小学校1-2年生のときに、音読に付き合ってあげたらいい。お手本を示してあげたらいいのです。この手間を抜いてはいけません。放っておいても一人で勝手に読むようになる子も稀にいますが、百人に一人でしょう。
 ところで、根室まで毎年ラシャ交換に来てくれていた品の好いお爺さんは、昭和天皇のビリヤードコーチだった、吉岡先生です。札幌の駅前通りのビルの5階と6階のフロア―で「白馬」というビリヤード店も経営していました。わたしは、高校を卒業して、東京へ。東京の有名ビリヤード店を片っ端から回りました。新大久保駅前にスリークッションゲーム世界チャンピオンの小林先生のビリヤード店がありました。ベルギー製のスリークッション台が5台くらいありました。ラシャを手で触ってみると厚くて織が違っています。キャロムゲームである四つ玉の台は綾織りのラシャ、スリークッション台には平織りのラシャでした。出て引っ張って弛みのないようにして、止め釘を打っていきますが、どんなに握力が強くても不可能であることがラシャに触れただけでわかったのです。小林先生に「これどうやって張るのですか?人間の握力では不可能だと思ったのですが…」、そう質問すると、うれしそうな表情で教えてくれました。一度ラシャを張る作業を手伝わせてもらえばよかった。吉岡先生やオヤジがラシャの張替えをするときに手伝っていましたから、経験がありました。ラシャを引っ張る専用の道具があるのだそうです。駿台予備校の専任講師の荒木重蔵さんが常連会のトップだったので、メンバーに加えていただき、それ以来小林先生にも何度か指導をしてもらいました。小林先生は平成天皇のビリヤードコーチでした。皇族の霞会館で教えたそうです。その後がアーティステックビリヤードで世界2位の町田正さんです。令和天皇のビリヤードコーチです。町田正さんにもボークラインゲームを3ゲーム相手をしていただいたことがあります。もちろん、問題にならないほど差があります。コテンパ―、完敗です。シルクハットという台上を隅から隅まで走るマッセという技をもっています。世界であれができるのは町田正さんだけ。鉄のキューで素振りをやったからできる技です。お父さん(八王子でビリヤード店を経営してました、プロのコーチですが、ebisuさんには「タダで教えるから)毎日おいで」と言ってくれましたが、仕事が忙しくて無理でした。だいぶ習いました、その時のメモ(プロ育成用の基本トレーニングメニュー)が50枚ほどあります。『巨人の星』の星飛雄馬の父のような人でした。「大リーガー養成ギブス」という筋肉強化用のギブスがでてきます。あれと似たようなことをしたのです。お父さんから鉄のキューの説明を聞きました。町田正さんからではありません。すごい人だ、お父さんが偉い。鉄のキューに気が付いて質問しなけりゃ、それまで。気が付いてしまったのです。マッセトレーニング王の1m^2もないような小さな特別誂えの台もありました。トレーニング用に作った台です。あんなの世界中にあそこにしかありません。いま、八王子のお店は次男である正さんが継いでいます。お父さんが存命だったころは、正さんは京王八王子駅前のビルの2回のビリヤード店を経営してました。正さんに3ゲームお教えていただいたのはその時のことです。自分の眼見たかったのです。トレーニングの仕方は承知していますから、目の前でやって見せてくれたら、技のコピーにどれくらいの時間がかかるか見当はつけられます。目に焼き付けて、同じパターンを何度も繰り返して体に染み込ませたらいいのです。イメージ上で見せていただいたものとぴったり重なればOKです。とてもそんな時間はありませんでした。プロは技の修練に半端ではないトレーニングを繰り返して体に焼き付けています。吉岡先生のアメリカンセリもそうでした。たぶん、米国でそのセリの技をもった人の実演を見て覚えてしまったのでしょう。
 町田正さんネットで検索してみました、少し太りました。(笑)

 基礎基本、そして基本トレーニングが大事なことは大工も同じです。法隆寺宮大工の棟梁に西岡常一さんとその弟子の小川一夫さんがいます。鉋の研ぎが大工のもっとも基本トレーニングです。切れる刃物でなければ、大事な材料である木材に完璧な細工はできません。だから、名工と言われる人たちは、刃物の研ぎの技を身につけています。無心で研ぎを繰り返すうちに砥石に刃がピタッとくっついてしまいます。そこまでできるようになったら、刃物の研ぎに関しては一人前。


<余談-2:文書作成に要した時間>
 こうしてブログで文書を毎日のように発信していると、勘違いされることがあります。一日中ブログを書いているのではないかと。そんな暇はありません。週に4日間生徒たちに授業をしてますから。それと、スキルス胃癌で胃と胆嚢の全摘、大腸一部切除をしてますので体力もない。ひんぱんに食事をして、1時間ほど昼寝もしますから。
 「余談-2」の手前までで、文字数は4013です。四百字詰め原稿用紙10枚ですが、タイピング速度が速いので、これだけ書くのに小一時間です
 修士論文にドイツ語で書かれた原文引用と文献索引が必要だったので、スイス製のタイプライターOLYMPIAを購入してタイピング教本でトレーニングしました。こういうことは基本に忠実にトレーニングして、ブラインドタッチの技を身につけたらいいだけ。20代のころに数か月間かけてスキルを身につけたので、高速タイピングができます。1991年ころから仕事でワープロ専用機のOASISを使い始めました。タイプミスしてもあとで編集機能で直せるのでとっても楽でした。機械式タイプライターは小指で押す圧力が他の指と同じでないと、字がかすれます。1993年ころにはワープロ専用機を卒業してパソコンを使い始めました。文書作成はそれ以来WORDのお世話になっています。
 仕事で書いた稟議書や提案書、確認書、システム仕様書、経営分析報告書、買収提案書、事業黒字化計画書など、ナンバーを振って管理していましたが、尤に1000タイトルを超えています。8㎝ほどの厚いファイルがずらり並んでいます。8冊あるかな?上場企業では部長職以上はある程度の文書作成能力が要求されます。ようするにわかりやすい文章を時間をかけずに書き上げることができるというスキルが要求されるのです
 パソコンをいじり始めたのはそんなに早くなかったのは、90年以前は性能が貧弱でオモチャだったからです。コンピュータを使い始めたのはもっと早かった。オフコンと汎用小型機をつかってシステムデザインとシステム開発をして経営改善を次々にやり始めたのが1978年だったかな。もちろん、そのときの2年間でプログラム言語は12ケタの数値で組む(オペコード3桁、オペランド各3桁×3個の面白い言語)原始的な言語のCOOL、初期の汎用小型機のコンパイラー言語のPROGRESS-2、科学技術計算用の専用機(HP-67とHP-97)の逆ポーランド記法の言語をマスターしています。
 1991年にパソコンを会社で使い始めたときに、20代の女子社員が目を丸くして言ってました。「40代のおじさんで、指を全部動かしてタイピングする人初めて見ました」、それくらいめずらしかった。人差し指日本でタイピングしている人もいましたから。

 手書きの3倍以上の生産性があります。おそらく5倍。ワープロ専用機やパソコンを使い始めてから、仕事の生産性が飛躍的にアップしました。
 小学生の時に珠算を習って、基本トレーニングを積み重ねる大切さが身にしみてわかっていたからでしょう。珠算の指導をしてくれた故・高橋尚美先生に感謝。一事が万事です、何かの分野でちゃんとトレーニングしてれば応用が利きます。

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齋藤 孝の音読破1 坊っちゃん (齋藤孝の音読破 1)

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  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2004/06/03
  • メディア: 単行本
木のいのち木のこころ―天・地・人 (新潮文庫)

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  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/07/28
  • メディア: 文庫

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#4280 野崎まど著『タイタン』を読む:仕事とは? June 30, 2020 [44. 本を読む]

 SF小説を久しぶりに読んだ。リライアブルに注文してあった本が昨日届いたので、読み始めたら面白くてとまらない。大学受験生は読んじゃだめです。1日ロスしますよ。(笑)
 内容だけ追うなら1時間で読めるが、エンターティンメントなのにそんなに早く読んではコスパが悪すぎます。幸田文全集もそうでしたが、2Bの鉛筆で線を引き、コメント書き込みながら読みます。将来、誰かの手にわたり、読むときに邪魔だったら消しゴムで処理してくれたらいい。簡単に消せます。消した後に書いた跡が残らぬように濃い鉛筆で力を入れずに線を引いたり書き込んだりしてますから。

 2048年国連開発計画(UNDP)は世界の標準AIの開発計画を発表した。そして2205年、世界の12か所の拠点にタイタンAIが置かれて、人間が必要とするあらゆるもの、娯楽や芸術作品すらも供給している。そして交通や情報インフラやその他ありとあらゆるものをコントロールしている。人類は労働から解放されて、仕事というモノは存在しない。日本の「釧路圏」の弟子屈に第2番目に開発された人工知能タイタンAIの拠点が置かれている。この町は観光の拠点にもなっており40万人が住むようになっている。そのNo.2タイタンAIが機能ダウンしつつあった。対策を考え実行するために分野の異なる専門家4人が集められる。マネジャーのナレイン、エンジニアの雷祐根(レイ・ウダン)、初老のAI研究者のベックマンと臨床心理士の内匠成果(ないしょうせいか:女性)。内匠が主人公である。

 ストーリーは本を読んでいただくとして、この本のテーマは仕事とは何かということ。あらゆる労働から解放されたら人間は何をするのだろう?そしてあらゆる労働を引き受けた汎用AIが自我をもつに至ったら、何が起きるのだろう?
 AIが自我をもつということは人格を持つと同義である。自我をもったAIは自分に課せられた労働をそつなくこなすが、ストレスを感じ始めて機能ダウンを起こしていた。タイタンAIは自己を再設計して機能を日々高めていく。人間に快適な環境を提供するのは簡単なことだった、自我を獲得したAIは自分の能力に見合った「仕事」をしたくなる。
 単純労働と違って「仕事」は楽しいものだ。
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 コイオス(No.2のタイタンAI)と見つめ合う。

 もはや言葉はない。頷きもいらない。彼と私は同じ結論に達している。わたしは臨床心理士としての確信をもっている。彼は自分の感情を完全に把握できている。
 仕事が簡単すぎる。
 やり甲斐がない。
 たったそれだけで、精神は簡単にバランスを崩してしまう。

 コイオスにとって人の世話は容易に過ぎる仕事だった。人間のために食料を生産することも、製造物を並べることも、娯楽作品を提供することも。それら全部を合わせても彼には物足りなかったのだ。……

 有能すぎるタイタンに発生した、簡単すぎる仕事の悲劇。(359-360頁)

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 さて、臨床心理士の内匠成果はタイタンAIの治療を考える、その処方箋は「彼の能力に見合った仕事」である。No.12タイタンAIが他の拠点のタイタンと協力してあるものを準備してあった。それは何か。

 ところでマルクス『資本論』は工場労働を公理の一つに措定している。工場労働の淵源は奴隷労働であるから、それからの解放は、人間の解放でもある。A.スミスやD.リカードもこの点では同じだ。ところが、日本人は「仕事」という言葉で考える。仕事は技を極めるもの、自己実現でもある。だから、仕事をとりあげるのは「仕事からの疎外感」を生む。ナレインは「仕事は楽しいもの」とつぶやく、これは日本人の伝統的な仕事観から出た言葉だろう。工場労働はタイタンAIと工場専門のAIによって動かされている。

 「労働」と考えるか「仕事」と考えるかで汎用AIの役割もわたしたちの労働や仕事もまったく違うものになる。べつの言葉でいうと、経済学の公理である「工場労働」を「職人仕事」に換えたら別の未来がありうる。そしてまったく別の経済学と経済社会が立ち現れる。
 AIとわたしたちの間で、仕事にどのようなバランスが可能なのか?どうやらAIの役割と未来のデザインはどうやら現在のわたしたちの手にゆだねられているらしい。

 小説家の空想力は限りなく大きく、未来のありうる景色を小説という小窓を通して見せてくれる。とっても面白かった。
 200年後はどうなっているのだろう?

タイタン

タイタン

  • 作者: 野崎まど
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/04/21
  • メディア: Kindle版
江戸の笑い (21世紀版・少年少女古典文学館 第23巻)

江戸の笑い (21世紀版・少年少女古典文学館 第23巻)

  • 作者: 興津 要
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/03/18
  • メディア: 単行本
物理数学の直観的方法―理工系で学ぶ数学「難所突破」の特効薬〈普及版〉 (ブルーバックス)

物理数学の直観的方法―理工系で学ぶ数学「難所突破」の特効薬〈普及版〉 (ブルーバックス)

  • 作者: 長沼 伸一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/09/21
  • メディア: 新書
『江戸の笑い』は講談社の児童向け日本古典文学シリーズ20冊の中の一つです。小学生になった孫に日本文学全集と世界文学全集をプレゼントしようかなと考えてます。自分で手に取って読んでみないと判断がつかないので、注文しました。ルビは振ってありますが、総ルビではないので、小1には無理、小3くらいならOKですね。収録されているお話は古典落語ものが多い。江戸の町には多い時には200を超える寄席があった、それほど庶民の娯楽としてもてはやされていた。噺家も数千人はいただろう。古典落語には日本人の情緒や価値観や性風俗や道徳のエッセンスが詰まっている。落語のDVDをいくつか見せたらどういう反応するだろう?
あと、早口言葉の本があれば孫と一緒に楽しんでみたい。斉藤孝先生の『声に出して読みたい日本語』シリーズに早口言葉がいくつか載ってました。こういうのは子どもはノリがいい。
斉藤孝「音読破シリーズ」は総ルビですから、これなら小1でも読めます。全部で6冊出ています。芥川龍之介の地獄変は小学生にはおススメしたくないですね。人間の暗部を描いた本でも中学生や高校生ならOK。
太宰の古典のリライト物は芥川の古典のリライト物にくらべて遜色のないものでとっても楽しい。総ルビで子供向けに出してくれる出版社はないかな。空襲下に自宅の庭に掘った防空壕の真っ暗闇の中で、即興で子供に話して聞かせるという趣向のもの。

齋藤 孝の音読破1 坊っちゃん (齋藤孝の音読破 1)

齋藤 孝の音読破1 坊っちゃん (齋藤孝の音読破 1)

  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2004/06/03
  • メディア: 単行本

*#1801 西條奈加『涅槃の雪』とわがふるさと Jan. 11, 2012
https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2012-01-11

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 天保の改革は窮乏していた幕府財政立て直しのために、奢侈の禁止、株仲間の解散、人返し令などを発令し、さらに改鋳を行った。改革はわずか2年半で潰える。
 例えば奢侈の禁止では高価な工芸品が禁止されたり、寄席が取り潰しにあった。高価な工芸品が禁止になると、材料の手当てがすんでいた業者は製品を売ることができなくなり、倒産が相次ぎ、腕のよい職人が失業していく。
 桟敷で歌舞伎を見るのに1両2分、寄席は銭50文、240対1、寄席が庶民の楽しみであった。改革前200軒あった寄席は15軒に減らされた。その寄席では女浄瑠璃が好評を博していた。老中水野忠邦は「江戸の風儀を乱すもの」として取締りを強化し、寄席の数を減じたのである。庶民のブーイングが聞こえてくるようだ。改革が潰えると、寄席は改革前の3倍以上、700軒に増える。庶民の楽しみを奪うような政策は長続きしない。
 「寄席を生計(たつき)にしている数多(あまた)の芸人たちが職を失い、無頼の者と化すやもしれませぬ。風儀のためには、誠によろしからずと存じます」と与力の一人が遠山景元に問われて答えている。庶民の事情に通じている江戸町奉行の遠山と矢部は老中の政策に反対である。 
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#4239 「鳴革の靴」ってなに?:幸田文著『草の花』 [44. 本を読む]

 幸田露伴の娘である幸田文全集第三巻に「草の花」というタイトルの小説がある。
 文は寺島小学校を卒業後、名門東京高等師範学校に不合格となり、継母のコネで女子学院(中学校)へ通う、その当時を思い出して書いている。ミッションスクールである女子学院は規則やしつけが厳しい。次のような一節があり、おやっと思った。
鳴革の靴が流行っていたが、先生はこれを嫌って、その靴を穿いていた子を罰し、一時間の監禁を命じて、三階の物置小屋へ追い上げてしまうようなこともする。」(同書17ページ)

 この文は旧仮名遣いで書かれているので、現代仮名に書き換えるとずいぶん印象が違うが、それは本題ではないので横に置いて、「鳴革の靴」ってなんだろうと疑問がわいた。念のために調べてみたが、もちろん広辞苑にも大辞林にも載っていない。

■「鳴革」というメーカ?

 「メイカク」「ナルカワ」「メイカワ」、「よ、ナルカワ屋!」、どう読むのだろう?靴メーカーかなと考えてみたが、どうもピンとこない。先生に叱られて3階の物置小屋へ追い上げられて罰までいただくのだから、よほど先生の癇に障る靴だったのだと想像してみた。ミッションスクールでお嬢さんが多いから、靴は革靴、それが歩くとキュッキュと音が鳴るのではないか。
 三十代半ばころ、気に入って通勤用にリーガル製の靴ばかり購入していたことがある。革底の靴はソールが2重になっている。タイプが二つあった。合成ゴムと革のものは接着剤でしっかりくっついているから音はしないが、二枚とも革製のものは糸で縫ってあり、歩くと軽く音がするものがあった。

 歩くとキュッキュと音がする靴には特別な名前がない、文はその靴に「鳴革(ナルカワ)の靴」と名付けたのだ。文の造語だったというのがわたしの解釈。
 ときどきへんてこな、意味の分からぬ名詞が出てくるから、読むのが愉しくなる。辞書を引いてわかるモノより、辞書を引いても載っていないモノの中に、文が造語したものが含まれているとしたら、それを見つけるのは河原の石ころからきれいなものを探す遊びと一緒だし、昆虫採集遊びのようでもある。子どものころ花咲小学校グラウンド向こうの湿原の野原を駆け回って遊んだころと一緒の気分が戻ってくる。

 大正期の東京は江戸下町風情がまだ残っている、文が書き残してくれた「草の花」はタイムマシーンだ。

<余談:>
 幸田文は東京高等師範に不合格になったときの面接官と30年後に、雑誌で対談する羽目になる。その人は文のことをはっきり覚えていた。不合格にした理由も、その台詞が面白い。本音は幸田露伴の娘だから合格にしたかったに違いない。(笑)
 女子学院と言えば、名門「女子御三家」の一つ。
 ●桜蔭中学校
 ●女子学院中学校
 ●雙葉中学校



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幸田文全集〈第3巻〉草の花・黒い裾

幸田文全集〈第3巻〉草の花・黒い裾

  • 作者: 幸田 文
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/05/01
  • メディア: 単行本
 出版時には定価3800円の製本と装丁のしっかりした本である、1995年岩波書店からの出版だから手を抜いていない。amazonでは中古品で1000円前後だ、とても安いと思う。タイムマシンに乗って大正期の東京を訪れたい好奇心旺盛な方にぜひお勧めしたい。(笑)

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#4228 「十三や」は何を商うお店?:幸田文『一生もの』より April 19, 2020 [44. 本を読む]

 午前零時を過ぎてから、ベッドの中で本を読むのが習慣化しつつある。義妹が三つもいらないからと数年前に「ハズキルーペ」を送ってきてくれた。数日前に、寝床に入って読むときにかけてみたら、字が大きくてはっきり見える、以来かの有名なメガネのお世話になっている。

池の端の十三やさん、不忍の櫛屋さん。子どものころから知っている名だし、櫛だし、おみせのまえは私がちょいちょい通る道なのだし、こちらがひとり決めで勝手におなじみだと思っているのである。」『幸田文全集第16巻 闘・しのばず』p.363

 「十三やさん」とはなんなのだろう?続けて不忍の櫛屋さんとあり、子どものころから知っている名(お店)、そして商っているのは「櫛だし」となっているから、櫛屋のことを「十三や」と言ったのだろうかと、だとしたらその由来は何か、ここでぱたんと本を閉じた。
 ちょっとの間考えてみたがわからない。
 朝目覚めて、わたしも日本人が受け継いできた言葉や数字に対する感覚を失っていることに気がつく。

 「くしや」を数字で表記すると「九四八」である「九」は「苦」、「四」は「死」を連想させる。それでは縁起が悪いから、「9+4=13」、「十三や」という洒落なのだ、そういう看板を掛けていたのだろう。店の表にかける看板のほかに、店の中に別の看板を掛けるお店もあったようだ。江戸の風情であるが、昭和30年代まで下町にそれがあった。団塊世代の二世代前までは言葉に対するセンスがずっと鋭かったと言えそう。
 この作品は幸田文が62歳のとき、1966年に書かれている。懐かしい情景を思い出しながら書いている姿が見えるようだ。そのころわたしは根室高校3年生、遠い昔のこと。

 露伴の娘である幸田文の書くものには、江戸情緒が漂う懐かしい世界へいざなう力がある。わすれていた言葉の魅力を目の前で見せてくれる。こういう書き手はもう一人もいない。

(聖蹟桜ヶ丘駅前オーパで買った、シャトレーゼ(甲府の洋菓子屋さん)の北海道産小豆を使った「きんつば」を食べながら...)
*シャトレーゼ
https://www.chateraise.co.jp/company


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①愛用になってしまったハズキルーペ
SSCN3486.JPG

②季節の移ろい
 庭のクロッカスが咲き始めた
SSCN3488.JPG




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#4212 幸田文『みそっかす』April 1, 2020 [44. 本を読む]

 先日(3/29)注文した幸田文全集の第2巻と第3巻が届いた。

SSCN3437.JPG

 ㈱バリューブックスから届いた本は新刊書のようにきれいだ。第二巻は935円、第三巻が678円、それぞれ送料が350円となっている。1995年の発売時には3800円の本である。すでに絶版となっている名作がこんなに安く手に入るのだからありがたい。孫に残す本を文学作品を中心に300冊ほど選んでおかないといけない。
 経済学や会計学、システム関係、言語学関係の専門書が多いので9割は棄てることになる。
 女房殿がずいぶんおカネをつぎ込んだのにもったいないとぼやくが、役目を終えたらゴミである。

 幸田文全集第二巻の冒頭作品は「みそっかす」である。幸田文が幸田家に生まれたときの露伴の落胆ぶりが文自身によって描かれている。二人女の子が続いて生まれたので、露伴は第三子は自分の後を継ぐ男子が欲しかったのである。文は誕生時の父親の落胆ぶりをお手伝いさん(文中では「下婢」と書いているが、団塊世代のわたしですらこういう用語を生活環境の中で耳にしたことがない)から聞いていた。露伴の臨終の折に父の口から愛されていたことを聴き、長年の喉のつかえが下りたという。結局、露伴を色濃く受け継いだのは文だった。その娘青木玉も随筆家である。孫の青木奈緒もエッセイスト。親の教育のなせる業かそれとも遺伝子なのか、露伴から数えて4代続くというのはめずらしい。

 品の好い日本語が旧仮名遣いで書かれているので、格調が高く感じられる。人の心の揺らめきや日本人の情緒が随所に漂う、父親に劣らぬ文章の名手だとつくづく思う。

 高校生や大学生にこういう良質の日本語で書かれたものを読んでもらいたい、文庫本は現代仮名遣いに改めている(使用されている漢字も初版本とは違っている)から、この全集版でぜひ読んでもらいたい。現代小説の優れた書き手である東野圭吾とはずいぶん趣の違う文章に遭遇することになる。

 追記(4/1午後3時半)
 土曜日のスケジュールだったが、第十六巻『闘』も届いた。



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#4208 東野圭吾短編集『怪しい人々』 Mar. 30, 2020 [44. 本を読む]

 東京からの帰路の機内は退屈なので、東野圭吾の文庫本を空港内の売店で買って読むことにしている。
 今回は標記題名の本ともう一つ『危険なビーナス』を買った。
 
 東野圭吾氏は大手企業への勤務経験があるから、会社内の人間関係や仕事を書かせたら、じつに具体的で現実感がある。この辺りは純文学の作家や大手企業への勤務経験のない作家には真似ができない。

 標記の本の7つの短編の冒頭の作品「寝ていた女」は資材部の主人公が経理部の同期から頼まれて、自分の部屋をデート用に一晩5000円で賃貸しするということからストーリーがはじまっている。7時には部屋を開けるという約束だった。ある朝、自分のアパートへ戻ると女が寝ていた…。そこから事件が始まる。作家の想像力でか書けないような会社の実務の盲点を突いたカラクリが後段で明かされる。そしてどんでん返しが用意されているのが東野作品に共通している。真面目で硬い女子社員と評判だった後輩が外見とは違う姿と生きざまを現す。7つの短編が並んでいたが、機内であらかた読んでしまった。

 『危険なビーナス』は487ページの長編である。絵描きの夫と看護師の母親の長男「伯朗」が主人公。父親は脳腫瘍で死ぬ、その後母親が再婚する。伯朗は新しい父を受け入れられない。しばらくして次男の「明人」が生まれる。「後天性サヴァン症候群」という病気をめぐって、事件は次第に深みを見せていく。医学的なことをよく調べて書いている。それが、数学の素数の問題へとつながっている。数学者の叔父、大病院の院長であり、大学の研究者でもある岐阜、弟の美人で肉感的な妻、しかけの多い作品である。東野氏は理系の作家だから数学や物理がからむストーリーが多い。(笑)
 「現像を終えたレントゲン写真を投影機に貼り付け…」と106頁にあるが、レントゲン写真を照明のついた白いスクリーンに挟んで診断するさいの器具は「シャウカステン」という。医者に確認するか最近の作品なのだからネットで検索して書いてほしかった。

 幸田文の『闘』という作品を東京にいる間に暇つぶしに読んだ。東京郊外にある結核療養所を舞台に、医師と看護師と患者の人間模様が数個の短編の共通テーマとなっていた。夫に浮気され、離婚の危機に直面している看護婦長の話が興味を引いた。浮気相手の美容師は自堕落な男に遊ぶ小遣いを与えることで「飼育共有」しているつもりでいる。結婚願望はさらさらなさそうに書いていた。さて、看護婦長はどうするのか、それは読んでのお楽しみだ。
 別の短編だが、入院支度のない女性が入院してくる話もありそうな設定だった。男ができて、子どもをおいて家を飛び出すが、身体も壊し、飽きられて入院…。ということがだんだんに明らかになってくる。元の夫も、家を飛び出て駆け込んだ男も見舞いには来ない。来ないどころか、…。女は結核のほかに全身性エリトマト―デスを発症して苦しみぬく。すったもんだあって、結核もエリトマトーデスも次第に治癒する。その後の人生がどうなるのかはお読みいただきたい。現実感があり、なかなか味わい深い結末である。一話一話、さもありなんという結末が丁寧に描かれている。
*エリトマトーデス
https://www.nanbyou.or.jp/entry/53

 農家の爺さんの人生と家族との関係が鮮やかに描かれている短編があった。爺さんは死ぬときは自分の家で家族に看取られて死にたい。死期が近づいてくると食事がのどを通らなくなる。担当医師は家へ帰すべきか否か悩む、院長へ相談してもリスクが大きいので院長が反対することは目に見えていた。家では治療はできないから、すぐに死ぬことになるし、搬送途中で死ぬ可能性もあった。実際に院長へ相談するが予想通りの返事が返ってくる。自分の判断で退院許可を出す決意をしたところで容体が変わる。情感あふれる最後のシーンは幸田文ならではのもの、東野圭吾の作品にはない日本的情緒が文章となって紡ぎ出されている。人の心の中深くに分け入り、心の奥底にある日本的情緒が描ける作家はなかなかいません。

 幸田文は幸田露伴の娘である、父親の薫陶を受けているから、文章は薫り高いし、語彙が豊かだ。書かれている文章は東野作品とは比べ物にならない。一箇所だけ気になったところがあった。医学用語の「抗体」を何か勘違いしているのではないかと思われるところがあった。幸田文の本は随筆を一冊読んだだけ。
 レベルの高い作家と分かったので、岩波書店の幸田文全集の中から3冊注文した。「身体」は「躰」という字体を使っていた。文庫本の方は新字体になっているのだろう。わたしにはこの「躰」という字体のほうがしっくりくる。古いのか?(笑) 
 
注文したのは『幸田文全集』の方である。文庫本のほうも絶版になっている。日本的情緒を描き切れた作家はもうほとんど存在しないから、こういう本が絶版になり若い人たちの手に入らなくなるのは日本の文化的な伝統を継承していくうえで大きな損失である。
 幸田文の本はぜひ、岩波書店の全集版で読んでもらいたい。そして文庫版で出版するときには、作家が選んだ漢字を使って印刷してもらいたい。それも含めて「作品」なのだから。



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幸田文全集〈第16巻〉闘・しのばず

幸田文全集〈第16巻〉闘・しのばず

  • 作者: 幸田 文
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/03/30
  • メディア: 単行本
怪しい人びと 新装版 (光文社文庫)

怪しい人びと 新装版 (光文社文庫)

  • 作者: 圭吾, 東野
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/03/12
  • メディア: 文庫
危険なビーナス (講談社文庫)

危険なビーナス (講談社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/08/09
  • メディア: ペーパーバック

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#4162 勉強はなぜ必要か:太宰治の小説より Jan. 4, 2020 [44. 本を読む]

<最終更新情報>
1/5午後1時半 浦島子追記 

 インスタグラムでギャルが「中学生です。勉強ってそんなに大切ですか?」という質問に次のように答えています。
大切な人とぶつかった時、名前のない感情やきもちを適切に伝える言葉を知っていたら、と後悔する日が来ます。自分や誰かを守るためにも最低限、本は読みましょう。
*https://iinee-news.com/post-19962/?fbclid=IwAR3FEftUx6NBt-BGdFCz_wTDCAky4d_zSn-o1ypPUQvIbt_bFQRhmrtvKe0

 その投稿欄に太宰の「正義と微笑」の当該ページの写真が張り付けてありました。それで、太宰の小説の当該部分を紹介する気になりました。
 昭和33年、筑摩書房刊の『太宰治全集』で調べたら、第五巻にありました。16歳の主人公を含む生徒たちに、授業中に黒田先生が学校をやめると言い出すシーンです。
(文中に「中学」とありますが、旧制中学校は現在の高校です。主人公の年齢からも推察がつきますね。)

小説「正義と微笑より」
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学校で金子先生の無内容なお話をぼんやり聞いているうちに、僕は、去年わかれた黒田先生が、やたら無性に恋ひしくなった。焦げつくように、したはしくなった。あの先生はたしかになにかあった。だいいち、利口だった。男らしくきびきびしていた。中学校全体の尊敬の的だったといってもいいだらう。ある英語の時間に、先生はリア王の章を静かに譯し終へて、それからだしぬけに言ひ出した。がらりと口調も変わっていた。噛んで吐き出すような語調とは、あんなのを言ふのだろうか。とに角、ぶっきら棒な口調だった。それも、急に、何の予告もなしに言ひ出したのだから、僕たちは、どきんとした。
「もうこれでおわかれなんだ。はかないものさ。実際、教師と生徒の仲なんて、いい加減なものだ。教師が退職してしまえば、それっきり他人になるんだ。君達が悪いんじゃない、教師が悪いんだ。じつせえ、教師なんて馬鹿野郎ばつかりさ。男だか女だか、わからねえ野郎ばつかりだ。こんな事を君たちに向かって言っちゃ悪いけど、俺はもう我慢が出来なくなったんだ。教員室の空気が、さ。無学だ!エゴだ。生徒を愛していないんだ。俺は、もう、二年間も教員室で頑張ってきたんだ。もういけねえ。クビになる前に、俺の方からよした。けふ、この時間だけで、おしまひなんだ。もう君たちとは逢えねへかもしれないけど、お互ひに、これから、うんと勉強しよう。勉強といふものはいいものだ。代数や幾何の勉強が、学校を卒業してしまへば、もう何の役にも立たないものだと思っている人もあるようだが、大間違いだ。植物でも、動物でも、物理でも、化学でも、時間の許す限り勉強して置かなければならん。日常の生活に直接役に立たないような勉強こそ、将来、君たちの人格を完成させるのだ。何も自分の知識を誇る必要はない。勉強して、それから、けろりと忘れてもいいんだ。覚えるといふことが大事なのではなくて、だいじなのは、カルチベートされるといふことなんだ。カルチュアといふのは、公式や単語をたくさん暗記している事でなくて、心を廣くもつといふ事なんだ。つまり、愛するといふことを知る事だ。学生時代に不勉強だった人は、社会に出てからも、かならずむごいエゴイストだ。学問なんて、覚えると同時に忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ。これだ。これが尊いのだ。勉強しなければいかん。さうして、その学問を、生活に無理に直接役立てようとあせってはいかん。ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ!これだけだ、俺の言ひたいのは。君たちとは、もうこの教室で一緒に勉強は出来ないね。けれども、君たちの名前は一生わすれないで覚えているぞ。君たちも、たまには俺のことを思ひ出してくれよ。あつけないお別れだけど、男と男だ。あつさり行かう。最後に、君たちの健康を祈ります。」すこし青い顔をして、ちつとも笑はずに、先生の方から僕たちにお辞儀をした。
 僕は先生に飛びついて泣きたかった。
「禮!」級長の矢村が、半分泣き声で号令をかけた。六十人、静粛に起立して心からの禮をした。
「今度の試験のことは心配しないで。」と言って先生ははじめてにつこり笑った。
「先生、さよなら!」と一斉に叫んだ。
 僕は声をあげて泣きたかった。
 黒田先生は、いまどうしているだろう。ひょっとしたら出征したかも知れない。まだ三十歳くらいの筈だから。 
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culture(名詞)の原義は「耕す」こと、文化

cultivateは動詞形、カルチベートされるということは、耕されること、磨かれること、教化されること。

 黒田先生は、英語の先生である。リア王を譯し終えて、突然惜別の辞を述べる、これが最後の授業だと。代数や幾何、植物や動物、物理や化学の重要性を英語の先生が説くというシーンを太宰は設定した。文学者太宰治は文系に進んべきか理系に進むべきか迷った時期があるのだろうか?
 英語の先生が数学や物理の大切さを説いているところがわたしには妙にリアルに感じられる。高校時代に商業科には物理がなかったという、私自身の経験が重なったからだろうか。たしかに不足を感じている。その思いは切実だ。だから、わたしも生徒たちに同じことが言いたい。
 願わくば、高校は7時間授業にして、7時間目は選択授業にしてもらいたい。数Ⅲ、物理、化学、時事英語、古典講読、簿記この6科目があればうれしい。タイムマシンでそういう環境が整備された高校時代に戻って勉強してみたい。
 教育機関は、勉学の意思のある者すべてに、適切な機会を提供するものであってもらいたい。多くても上位3%の人間に学力相応の勉学の機会を提供するのは、コスト面から言い出しにくいだろうが、その3%の人間が日本の行く末に大きな役割を果たす。将来、AIができない分野の仕事をする人間は1%以下だろう。

 太宰治の自分の境遇に題材をとった小説は、暗くて読むのがつらく、いまだに好きになれませんが、御伽草子のような古典のリライト物は、リライトの域を超えて、じつにイキイキと自在に語り、見事な文章になっています、文豪としての腕の冴えが作品からビンビン伝わってきます。オリジナルよりずっといい、芥川の『鼻』が霞んでしまうほどです。
 「瘤取り」「浦島さん」「カチカチ山」「舌切雀」の4作品は、全集第7巻に所収されてますが、4作品全文載っているサイトがあるので紹介します。太宰治の名人芸をご堪能ください。
https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/307_14909.html

 浦島太郎の原話に興味のある人は、万葉集の長歌に「浦島子」というのがあります。日本書紀にも載っています。日本書紀の方は「雄略天皇二十二年七月条」に、万葉集は巻九「水の江の浦の島子を詠める一首」(1740、1741)に載っています。元々のお話はとってもリアルで、乙姫と浦島は蓬莱山へ向かって船出しますが、お船の中でエッチが始まります。そのあたりを具体的にちゃんと書いているのです。こういう文学作品を教科書で採り上げてくれたら、古代日本文学に興味をもつ高校生が増えるでしょう。太宰治にリライトしてほしかった。至高の文学作品でありながら、エロ小説の名品の数々が生み出されたでしょう。『枕草子』にも『和泉式部日記』にも、古典はセックスが満載です。大事なところを全部外したのが、高校古典教科書、よくもまあ、あんなにつまらぬ編集ができたものです。

 以下のURLに「正義と微笑」全文が載っていますので、作品まるごとお読みください。
https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1577_8581.html

<おまけ>
 中3の男子生徒が、芥川の最後の作品『河童』が読みたいと言ってました。次のサイトに全文載ってます。
read:https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/45761_39095.html

『河童』朗読
https://www.youtube.com/watch?v=vUrkPL681I0

#3026 これが根室の教育長の発言、何かの間違いでは?:釧路新聞より Apr. 16,2015
https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2015-04-16


 #4152 PISA読解力15位の衝撃:なぜ? Dec. 17, 2019
https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2019-12-17


<庭のすずめ>
 小さいものはかわいい。
SSCN3296.JPG



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#4143 李栄薫著『反日種族主義』を読む① Dec. 11, 2019 [44. 本を読む]

 リライアブルにFB友の岸田さんの近著『青学発岸田教授の「エネルギー文明論』を注文しに行ったら、標記の本が平積みされていたので購入した。その隣に、『スノーデン独白 消せない記録』もあったので、それも。

 著者の李栄薫は「種族」概念を次のように定義している。

さらに長期的かつ巨視的に物質主義の根本を追求していくと、韓国の歴史とともに長い歴史をもつシャーマニズムにぶつかります。シャーマニズムの世界には善と悪を審判する絶対者、神は存在しません。シャーマニズムの現実は丸裸の物質主義と肉体主義です。シャーマニズムの集団は種族や部族です。種族は隣人を悪の種族とみなします。客観的議論が許容されない不変の敵対感情です。ここでは嘘が善として奨励されます。嘘は所属を結束させるトーテムの役割を果たします。韓国人の精神文化は、大きく言ってこのようなシャーマニズムに緊縛されています。より正確に表現すると、反日種族主義と言えます。」同書24頁

シャーマニズムトランスと呼ばれる特殊な心理状態において、神仏や霊的存在と直接的に接触・交渉をなし、卜占・予言・治病・祭儀などを行うシャーマンを中心とする宗教現象。『大辞林』より 

 「プロローグ」で著者は韓国の嘘つき文化についてきついデータを挙げている。2014年だけで偽証罪で起訴された人は1400人、日本に比べ172倍、人口を考慮して一人当たりの偽証罪は日本の430倍。虚偽に基づく誣告罪の件数は500倍、一人当たりは日本の1250倍。そして保険詐欺が蔓延しており、その被害の額も挙げている。小説(350万部『アリラン』)も政治も学問も司法も嘘だらけ、一つ一つ事実を挙げてその虚構をあばいていく。
 なぜこのような韓国民の感情を逆なでするような本を書いたのかについて著者は、歴史的な事実に基づかず、嘘に塗り固められた政治や学問や教育は韓国をダメにするという理由を挙げている。

 よくぞこんな本を韓国の人が、それも李承晩学堂の学者が書いたものだ。
 たとえば、徴用工問題。
 強制徴用されたという、用語そのものが「駅前の前」のようなもの、徴用は強制という意味を含んでいると書く。炭鉱に「徴用」され、奴隷労働だったはずの朝鮮人炭鉱夫の賃金は、1940年のソウルの男子のそれと比較すると、紡績工の5.2倍、教師の4.6倍、会社員の3.5倍、銀行員の2.4倍。
 1944年の朝鮮人炭鉱夫の賃金は日本人大卒事務職の2.2倍、巡査の3.7倍にもなる。とてつもない高給だった。戦争で屈強な坑内夫のほとんどが徴兵されたことで、深刻な労働者不足を来した。そして戦争によって燃料の増産が必要だった、だから、法外な高賃金が支払われていたことを、炭鉱の賃金台帳を調べて結論を出している。「強制徴用」する必要はなかった、高賃金に惹かれていくらでも募集に応ずる朝鮮人がいたのだ。
 賃金格差が大きかったので、1940年からは毎年10万人もの朝鮮人が海峡をわたって日本へ働きに来ていた。92頁参照

 日本帝国主義が朝鮮の土地の40%を収奪したという土地測量事業も事実を積み上げてその嘘を暴く。現在韓国で使われている土地登記簿は1910年から日本がやった「土地測量事業」の登記簿を元にしている。それまでなかったのである。植民地経営上、土地の権利関係を法的に整理確定する必要があったからなされた事業である。日本帝国の敗戦によって朝鮮は独立を果たすが、土地の登記について「日本総督府に奪われたのだから返還しろ」という要求は一つもなかった。そういう事実がなかったからである。
 米の収奪の嘘も暴く。実際は、市場が一つになることで朝鮮から日本への「移出」、高値で取引されたということ。売却代金を朝鮮の地主や自作農が手にしている。市場が一つになることで、高値の日本市場へ「移出」して売却代金を稼いだのである。自国で売るよりもはるかに高く売れた。

  タイミングの良いニュースが入った。産経新聞より
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<慰安婦像を撤去せよ、反日種族主義著者らが反日集会に抗議>

【ソウル=名村隆寛】韓国ソウルの日本大使館前で毎週水曜日に、慰安婦問題で日本政府を糾弾する集会が開かれているが、この集会の中止と大使館前に設置された慰安婦像の撤去を求める活動が11日、集会場の近くで行われた。
 集会中止と像の撤去を求めたのは、日韓でベストセラーとなった「反日種族主義」の共同著者で「反日民族主義に反対する会」の代表を務める落星台(ナクソンデ)経済研究所の李宇衍(イ・ウヨン)研究委員ら。
 李氏らは、韓国での「日本軍慰安婦は性奴隷だ」「日本政府は謝罪せよ」などとの主張が事実に反しているとの立場だ。今月4日に、反日抗議集会と同じ時間に第1回の集会をした。
日本大使館前では11日も、元慰安婦を支援する「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連、旧挺対協)が主催する日本政府への抗議集会が、学生らを動員して行われた。ここから数十メートル離れた場所で、李氏らは「慰安婦像を撤去せよ。水曜集会を中止せよ」「歴史歪曲(わいきょく)。反日助長」などと書かれたプラカードを掲げた。
 李氏らは報道資料で、慰安婦問題をめぐる2015年の日韓合意に基づき日本政府が拠出した資金や、アジア女性基金からの金が元慰安婦らに支給され、日本政府が過去に何度も公式に謝罪した事実を指摘した。
 集会には李氏らの活動に反発する市民や、複数のネットメディアが集まり、李氏らに罵声を浴びせ、批判を込めたネット中継を執拗(しつよう)に続け圧力をかけた。まるで糾弾集会のようで、数でも李氏らへの批判勢力が上回っていたが、李氏らは「ゆがんだ歴史観を批判し、歴史の事実を示す」という信念を変えていない。
 李氏らは慰安婦問題について正義連に討論を求め続けているが、正義連はこれまで、一切応じていない。

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「慰安婦像を撤去せよ」「反日種族主義」著者らが反日集会に抗議

 暇があったら、ぜひ一度お読みください。

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  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
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  • 発売日: 2019/12/21
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#4117 東野圭吾:『恋のゴンドラ』を読む Nov. 6, 2019 [44. 本を読む]

 東京から戻ってくるときに、飛行機の中で単行本の小説を一つ読むことにしている。今回選んだのは聖蹟桜ヶ丘アートマンの熊沢書店で見つけた標記作品だった。

 スキー場の里沢温泉(長野県の野沢温泉スキー場がモデルではないかとネットの噂あり)を舞台に、用意周到に組み立てられたプロットで舞台回しがなされる。主人公は広太と美雪である。広太はリフォーム会社に勤務して設計と営業を担当している。美雪も同じ会社に勤務して同棲中。
 二人が、それぞれ相手に内緒で里沢温泉スキー場へスノーボードに出かける。

 関連のない話が一つ、また一つと付け加えられるのだが、人間関係が思わぬところでつながってくる。こういうところは東野圭吾の得意芸で、計算しつくしたプロット構成になっている。
 ホテルで働く人たちが出てくるが、『マスカレード・ホテル』ではフロント係が主人公になっていたが、今回は飲食部、要するに料理やレストラン関係者たちがでてくる。それぞれの担当者ごとの仕事ぶりが具体的でじつによく書けている。この部分だけでも読む価値がある。仕事とは何か、プロとはどういうことかが描ける小説家は少ない。『マスカレード・ホテル』を書いたときに、ホテルの業務を広く取材してあったのだろう。それらの材料をどのように使おうかとプロットをいくつか連関させながら、思いがけない人間関係の糸を紡ぎ出すことで面白い小説を書き上げたようだ。

 東野圭吾は大阪府立大工学部電気工学科を卒業して、デンソーで数年勤務している。だから、サラリーマンの仕事、組織がよくわかって描いている。『ホテル・マスカレード』ではフロント係と上司や支配人の関係、マネジメントの視点が説得力をもって書き切れていた。こういう小説家は珍しい。大企業での勤務経験があるから、取材の視点がしっかりしている。プロの仕事がどういうものか、具体的で現実的に描けるのだ。
 『恋のゴンドラ』では料理部門で働く人が数人出てくるが、プレーボーイの水城と日田がまるでコインの表と裏のような対照的な性格をもって現れてくる。かれらにデパートの化粧品コーナーで働く美人の女性2人が絡んできて、どんくさくて空気の読めない日田への評価が当初は悲惨なくらい低いが、自分色に染めたら、とってもスマートな男性に変身させられそうだとある時に気がつく。…

 あいかわらず、プロット運びの名人だ。主人公がかってに踊り出し、収拾がかなくなりがちな夢枕獏とはまったく違うタイプの小説家である。

*#3052 東野圭吾『マスカレード・ホテル』を読む  May 31, 2015
https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2015-05-31-1

 #3093 東野圭吾『禁断の魔術』を読む:安保法制と軍需産業と成長路線は一体のもの  July 25, 2015
https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2015-07-25-1




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