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#5091 岡本綺堂と泉鏡花の関東大震災記録 Oct. 22, 2023 [12. 自然災害への備え]

 今朝の最低気温は7.2度で、秋になって初めて10度を切った。

 NHKラジオ朝6:45からの番組を聴いていた。泉鏡花の震災記録「露宿」と岡本綺堂の書き残したものが取り上げられていた。

 岡本綺堂は1923年9月1日の関東大震災で千代田区麹町の家も蔵書も34冊にも及ぶ日記も、一切合切消失している。麹町に住んでいたが、震災後の火事が起きても一時小さくなり、風上でもあったので大丈夫だろうと何も持ち出せずに避難した。鏡花だったか綺堂だったか、上野の博物館で何かを見ていた時に地震があったが、上野の博物館の建物には窓に少し被害があっただけ、家にも帰れずのんびりしていたら、その内に騒がしくなった。地盤の軟弱な地帯は甚大な被害が出ていることに、数時間は気がつかなかった。地震当日麹町六番町は火災が起きていない。余震が何度もあり、麹町周辺の火災がひどくなるのは翌日以降である。
 家が崩れたときに焼死した者、たとえば家の梁が外れて挟まって焼死した者は震災の直接の死者だが、数日後に亡くなったものが実に多いことを書き留めている。震災関連死である。
 麹町六番町のすぐ近くの四番町まで炎症が広がったので、鏡花は一時宮城前広場へ避難する。そこには大店の貨物が積み上げられ、仮設のテントが張られて番をする者たちがいた。そこにいたときにテントの中から、男女の声が聞こえる。「ここへ泊っていけよ」「そんな...厭々」、そのあとすぐにキスの音が聞こえてくるなんていうこともあったと『露宿』に記している。
 神戸大震災でも東北大震災でも、避難所でのレイプが問題になった。1923年の関東大震災の折には「口説き」⇒「合意」なんて粋な手続きがふだんとかわらずにあったようだ。「援助交際」を彷彿とさせる「give&take」な関係は存外に古くからあるのかもしれぬ。文を使わして口説き、返歌があってから、女の元へ夜中に通うなんて王朝文学が千年も読まれてきたのだから、セックスの儀式に「口説き」と男女の合意が欠かせないのは日本の性風俗そのものかもしれぬ。避難所でのレイプは人間の品が落ちたようでいただけない。そうしたやり取り、コミュニケーションすらできない人間が増えているのだろう。
 女も男もトイレに困ったそうだ。泉鏡花はよほど品の良い人らしかったようで、おしっこがしたくなり、妻の行きつけの美容院へ駈け込んで小用を足したなんてことが『露宿』に書いている。立ションはしない人だったようだ。
 岡本綺堂も麹町だが、鏡花とは番地が違うようで、焼け出されている。家財道具も蔵書も、17歳の時から書き溜めた35冊の日記も一切合切消失した。
 再び関東大震災が起きれば、水と電気は止まる。下水処理場は「化学プラント」のようなもので、水と電気のいずれかが止まれば、機能しない。数か月間そういう状態が続くだろう。一部の公園に災害対策用のトイレが設置されているが、あんなのはやった振りのようなもので、いざ震災が起きれば数が少なすぎてほとんど役には立たない。家庭のトイレも下水処理場が止まればアウトだ。流す水がないので、臭気がたちこめ、すぐに使えなくなる。下水道も地割れのある所では断裂して地下水を汚染するだろう。
 せめて飲み水は100m以内に1ッ箇所は使える井戸を用意してもらいたい。太陽光発電で動くポンプも設置してくれたら、井戸の周辺の住民がどんなに助かるかしれない。1300万都民に半年にわたって給水車で水を運ぶなんてことは誰がどう考えても不可能だろう。

 ところで木曜日からジェット水流の口腔洗浄機を使っているが、すこぶる気持ちがいい。口腔内の清潔の保持に欠かせない道具にたったの四日間でなってしまった。関東大震災が来たら、水が手に入らなくなるし、電気もアウトだ。この口腔洗浄機も動かない。歯を磨く水さえ確保するのに不自由になるだろう。口内の衛生が保てなければ、胃のないわたしは腸へ雑菌がそのまま送られ、腸内細菌叢がガタガタになる。食事も不自由になり、水分摂取もままならないようになったら、とても生きてはいけない。2週間くらいで動けない状況に陥るだろう。食事が摂れずに枯れるように餓死するのはちっとも苦しくありません、そのまま受け入れたらいいだけのことです。...穏やかな震災関連死ならありがたい。

 病弱な年寄りは生き延びられない。大震災を生き延びても、そのあと数か月の間に、たくさんの年寄りがなくなるだろうから、遺体は積み上げて野焼きするしかない。しまいにゃ臭いにもなれます。しばらく辛抱してください。

 人口が多くて空き地が少ないからトイレがたいへんなことになります。野グソになれるのが一番ですが、人の通るところでの排便にも慣れるのでしょう。非常時は非常時の対応、できないことを数えるよりも、やれる方法でやる、たくましくやるしかありません。
 極東の町から1967年に東京へ来ました。板橋区内のある商店街で買い物して小路を抜けようとしたら、前を歩いていたお婆さんが、ひょいと着物の裾をたくし上げて、中腰で放尿しました。あれには驚きました(笑)
 高校生の時に、極東の町の現在イオンのある裏側の坂を歩いて登っていたら、上の方で根室高校の制服を着た女の子が急にしゃがみました。すると、幅5㎝ほどの水が坂道を下ってきました。水源はスカートの中、すれ違う時にしゃがんだまま、真っ赤な顔してました、まだ水が流れていました。男の子はおしっこを途中で止めることができますが、女の子はおしっこを途中で止められないのです。近くにトイレがなくて、どうにも我慢できないときは、年齢を問わず、平時でもやれますよ。生理現象ですから冷やかしちゃいけません、それがエチケットです。あれは、ちょっと寒くなった初秋の黄昏時の思い出。

 でもね、震災後に活躍してくれる可能性の高い若い人たちがちゃんと生き延びられるように最低限の備えはしてもらいたい。

<余談:与謝野晶子訳源氏物語草稿
 与謝野晶子は千代田区富士見に住んでいて震災に遭う。外堀へ避難したが、駿河台の文化学院が火災で焼失し、そこに保管してあった源氏物語の草稿を1万枚余を失っている。毛布で財を成し小説家でもあった小林天眠から依頼があり、1909年から23年まで書き溜めた草稿が灰燼に帰した。晶子は震災後文化学院の焼け跡をどんな思いで眺めただろう。大事なものは土の中深くに埋めておけばよかったと後悔しきりであった。ようやく震災から12年がたってから、「新新訳源氏物語」として出版された。後に、与謝野晶子の次男が小林天眠の娘と結婚している。
 


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露宿

露宿

  • 作者: 泉 鏡花
  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2012/10/08
  • メディア: Kindle版
『露宿』は著作権が切れているので閲覧できます。文学者が関東大震災をどのように描写しているのか、こちらをクリックしてご覧ください。
『露宿』

火に追われて

火に追われて

  • 作者: 岡本 綺堂
  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2012/09/14
  • メディア: Kindle版
これも著作権が切れているので、青空文庫で原文が読めます。クリックしてください。
*『火に追われて』


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