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#4288 GIGAスクールは学力格差解消の力になるか? July 11, 2020 [8. 時事評論]

 学力格差の問題を、計算と書く速度という基礎的なスキルに置き換えると、普通の公立の小中高校では一つのクラスのメンバーの中に、計算では1:30、視写では2:3ほどの開きがあります。数年前に計算問題集で中1の生徒5人に参加してもらい、10分間でやり終えた問題数で実測しました。視写は北海道新聞のコラム「卓上四季」の文章を材料にして同じメンバーで実測しています。
 中1の生徒で実測しましたが、小学校や高校でも学力格差は大きい。読み・書き・計算の基礎的スキル格差が大きすぎて、一斉集団授業というスキームでは解決できない問題があります。どの学力階層に焦点を当ててもほとんどの生徒がそこから外れてしまうという問題です

 最近目にした記事に、そのあたりの格差解消にGIGAスクールで配布される端末が強力な武器になるという意見が載っていました。
 もう40年も前にプログラム学習法をいうのをPERTチャートのスキルを身につけるために試してみたので、あれが端末画面でやれたら、それはそれで効果ありと思えます。個別指導ができますから。理解できるようになれば、萎れ切ってしまっている学習意欲は一部の生徒では再生できるかもしれませんね。やれるところからやるのがよろしいのでしょう。具体的な問題が出れば、その都度対処を考えたらよさそうです。
公立の数学の授業を見て感じた「悲惨さ」の正体 日本の一斉授業は本当にこのままでいいのか」

https://www.msn.com/ja-jp/news/opinion/%E5%85%AC%E7%AB%8B%E3%81%AE%E6%95%B0%E5%AD%A6%E3%81%AE%E6%8E%88%E6%A5%AD%E3%82%92%E8%A6%8B%E3%81%A6%E6%84%9F%E3%81%98%E3%81%9F-%E6%82%B2%E6%83%A8%E3%81%95-%E3%81%AE%E6%AD%A3%E4%BD%93-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E4%B8%80%E6%96%89%E6%8E%88%E6%A5%AD%E3%81%AF%E6%9C%AC%E5%BD%93%E3%81%AB%E3%81%93%E3%81%AE%E3%81%BE%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%81%84%E3%81%84%E3%81%AE%E3%81%8B/ar-BB16pGEF?ocid=spartandhp

 公立小学校高学年で学力の高い生徒で授業中静かにしている生徒は、じっと我慢してるんです。教えていることがレベル低すぎて合わない。どんなに上手な授業したって聴いてませんよ、頭の中で他の勉強してます。進学塾に通って有名私立の中高一貫校へ合格する生徒はそういう生徒が多い。根室のような田舎にだって優秀な子どもはいますから、同じことが起きています。学校の数学や英語の授業は優秀な生徒にとってはほとんど「虐待」ですから、塾用問題集を授業中にやっていてもそっとしておいてください。不公平だという生徒がいたら、「全国模試で偏差値70を超えたら同じ扱いをします」と言えばいい。
 タブレット端末で中高の学習ができれば、田舎にいても都会の進学校で学ぶ生徒に近い速度で学習できます。これは大きなメリットです。あとはアプリの質次第でしょう

 タブレット端末かキーボードのあるパソコンかという選択の問題がありますが、中学生にはキーボードのあるパソコンのほうがいい。教科書全部がデジタルに切り替わる必要がありますね。来年からは全科目でデジタル教科書が使えるような環境になっているのでしょうか?これは文科省の役割ですね、実際にやるのは教科書出版会社になります


 面白い記事があります。
1人1台PC、インターネット、クラウド――三種の神器が揃った」経産省の浅野氏、自治体格差など次の教育課題を語る
https://l.facebook.com/l.php?u=https%3A%2F%2Fnews.yahoo.co.jp%2Farticles%2Fbf6843131110f6b4b9b0516b6a896d04bbf91bb2%3Fpage%3D1%26fbclid%3DIwAR2-AtzNCN2w1ZbxDxpidUTMfnz1vKs2xqdp19cr1Khc4PJ6GqidVgURhe8&h=AT1OBRbdFbfNZSct3eczPfJGxgQDS0Pa0E5ieuPvV_-XmwVDokYpzOouvH00Ql0I4Djex854fDmh-mhV4CH2Aa64x47BYN_mNDUdtCGRX4za3TKbSv1cNyv0420OClhef-lF&__tn__=R]-R&c[0]=AT281BycgjvaSze81cNUkJ0VLTDJLeLrKjhzwIE5ybexKNPLc0rHjBQxz3n5TBGUYakBWHXipVRG3imUEYDvfbDehheV8DEQLybkGOjsK18DBJyZYfowRKrc_FW6Okoeokidh2UR83jw8UIToYeOSRTAvsZeKcAOrdZqq7_1_GZXWh9CC2te8mXtjrsLcObDvy7SrBL9p9f9flk


 学校だけでなく、塾でも利用できる共通のプラットフォームにしてもらいたい。低学力層への対応には、参照する教材が共通な方が便利です


 次のあげる図は数日前の経済財政諮問会議の資料です。その中に、個別最適化の話が出てきます。中室牧子氏の研究において、タブレットを利用した授業がどのような効果があったのか、資料を読んでみます。


-----------------------------------------------------
A:






 中室牧子氏の実験は「Think!Think!」という知育アプリを使ってなされたものです。

 画面からはみ出てしまうので、元の図は次のサイトの5ページ目を参照してください。
*https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2020/0708/shiryo_01-2.pdf


 面白いグラフです。
 学力40の層は20%から15%くらいに低下していますから、学力40の低学力層に効果はあると結論してよろしいのでしょう中央値は学力60の層で動いていません高学力層には効果がないアプリのようです。それがこのアプリの特性かもしれません。コントロール(対照群)の方は学力が低下していますね。この実験で知育ソフトを使った先生は、このソフトに習熟している方のようです。これを全国規模で展開したときは、事情がまったく違うでしょうね。この授業を実際におやりになった知育ソフトの使い手と同じ技能レベルの先生を揃えることができないからです。使い方を間違えれば、コントロール群よりも学力低下を来す場合すらありえます。だから、意欲がありそれなりのスキルのある先生からおやりになればいい。無理を通せば道理が引っ込みますから、無理はしないのがよろしい。

 わたしの関心は計算スキルと視写あるいは音読スキルが著しく劣る中学生への効果ですが、たぶん、それ用のアプリを開発すればいいだけなのでしょう。この知育ソフトには読み書き計算の基本スキル向上効果は期待できません。時間を計測して、一定のトレーニングを必要とするからです。

 CAE(Computer Aided Education)アプリは学力層に合わせたものを開発しなければならないということがうっすら見えてきました。わたしは汎用のパッケージを考えていましたが、それではうまくいきませんね。

 たった一つの研究データから結論を出すのは早計ですが、この「知育アプリ」利用の実験データからわかることは、汎用あるいは学力中位層にフォーカスしたアプリは、集団授業によく似た特徴もあるように見えます。教え方の上手な先生が集団授業をすれば、学力中位層の学力アップができるということ。対照群の授業を担当した先生のスキルは中庸だった可能性がありますね。すでに塾で先取り学習をしている高学力の生徒には効果ゼロすでに算数の基本的な概念や概念の関係が理解できていますから、この知育ソフト授業は高学力層に対する学力アップ効果なしです。実際に、データに現れています。
 以上のことから、この知育アプリ「think、think!」は算数授業で図形理解に特徴がありそうなソフトのようです。概念や概念の関係が理解できたら正解できるような問題でチェックしたらこういう結果がでるでしょうね。
 その一方で計算スキルや読解スキルはアップはこのアプリではできないこれは単純なトレーニングしかない。計算の仕組みを理解させた後で、時間を測定してやるのが一番効果的。専用アプリが創れそうです
 釧路市の元学校教育部長のTさんが開発中の音読システム「ナチュロード」は読解スキルアップ用の機能をつけたら付加価値が格段にアップしそうです。釧路と根室の中学生の3割の基礎学力アップにとっても役にたつアプリになります。先生たちには生徒へ音読トレーニングするような暇がないでしょうから。案外難しいのです。俳優やアナウンサーが高いスキルを持っているので、そういう人たちか、そういうひとたちの朗読を音源にしてトレーニングしたらよいのではないでしょうか。

 普通の公立小中高の学校の授業は、低学力層向けの専用知育アプリと中学力層向けの専用知育アプリと、高学力層向けの専用知育アプリを使い分けないといけないようになりそうです。ふだんの集団一斉授業と同じ問題が知育アプリの利用でも顕在化しますね
 昨年、白内障の手術を市立根室病院でしましたが、単焦点レンズを入れてもらいました。多焦点レンズもあるのですが、東京の眼科医も市立根室病院の眼科医も勧めませんでした。「自分が受けるなら、単焦点レンズの手術」とどちらのドクターもおっしゃいました。多焦点レンズは遠近両用メガネのようなもので実際には使い勝手がよくない、クレームが多い。わたしの場合は本を読んだりブログを書いたりするのに50㎝のあたりに焦点が合うのがベストと注文をつけました。車の運転のときは遠くを見るので眼鏡使用でOK、この方が楽、よく見えます。ロードバイクに乗っているときに眼鏡不使用でも20m先の路面の凹凸がよく見えます。同じことで、知育アプリも生徒の学力にあったもの、そして設定目標にあったものが使い勝手がいいはず。
 ところで、パソコンが苦手な先生は少なくなさそうです。来年から知育アプリの導入が進めば、先生たちの研修が必要になるのでしょう。
 科目別に3~5階層の学力層にそれぞれ専用アプリがあるとして、それを授業で有効に使いこなせる先生が必要になります
 必然的に個別指導になりますから先生たちの研修が必要ですね。授業計画を一つ作って、それに従って授業をやるという形態はとれません。これはたいへんな変化です。極端な話、生徒全員分の授業計画が必要になります。介護事業のケアマネの役割を想像していただいたらいいのでしょう。担当の生徒全員分の教育計画を立て、その進捗をモニターし、予定通りに行ってなければ介入して原因を突き止め、適切な対応と計画の変更をしなければならない。先生たちがやるべきことは、まるで違ってきます
 パソコンの使い方やタッチタイピングから教えなければならない先生が何割くらいいるのか、そういう層はトレーニングはなかなかたいへんそうです。
 トレーニング期間中は部活指導を外してやるくらいの配慮は必要です。タブレット端末かパソコンをとりあえず今年度配布してしまって、それを使った授業が本格化するのは2年後くらいでしょうか。やれる先生からおやりになったらよろしい。
 英語は効果が大きいと思います。音読トレーニングが家でできます。わたしがやっているようなハラリ『Sapiens』の解説授業のようなアプリがたくさん出てくるのではないでしょうか。自立して高速学習する成績上位層には数学や英語の先生は不要になりそうです
 いや、時々質問に答えてくれる先生が必要です。進み具合がばらばらになるので、高1の生徒から突然、数Ⅲ分野のそれも受験の難問レベルの問題に関して質問が出るなんてことがでてきそうです。一斉集団授業で要求されるスキルとはまるで違ったスキルが要求されます。文科省はそういうことをわかってやっているのでしょうか?

<余談>
 中室牧子さんの記事を紹介します。先ほど上に挙げた記事の元データのようです。日本経済学会での発表資料ですが、結論は一人1台配るだけでなくて、生徒の学力に応じた学習ソフトとセットなら効果があるという研究です。一斉授業のような内容なら効果なし。わたしが本論で推測した通りの結論です。

*世界の研究が示した “一人一台PC導入”は「学力向上に効果はない」 実現すべきは「習熟度に合った指導」




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#4287 Sapiens (35th) : page 47. 世に不倫の種は尽きまじ July 11, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 日本語訳を書きながら読む精読は50ページで終わりにして、51頁からは頭から読み進むことにしたいと生徒から申し出があった。これからの課題は読む速度のアップである。分速60-100wordsが当面の目標であるが、ハラリのSapiensは長い文が多く、高校生にはなかなかに手ごわい。どのように手ごわいかは、解説を読んでいただきたい。
 前回は54 wordsの文をとりあげたが、今日の授業で問題になった文は57 wordsあった。関係代名詞や挿入句があると文の本筋を見失いやすいが、慣れてくればどうってことがなくなる。

 前頁から続いている段落は、小数第一位が”0”と表記し、新しい段落から順に1,2,3とインクリメント(増加)していく。整数部はページ数を表す。

<47.1> The proponents of this 'ancient commune' theory argue that the frequent infideilities that characterise modern marriages, and the high rates of divorce, not to mention the cornucopia of psychological complexs from which both children and adults suffer, all result from forcing humans to live in nuclear families and monogamous relationship that are incompatible with our biological software.

 Ⅲ文型であるが、目的語がthat節になっており、そこが難所。こういうときは主語と動詞を見つけたらいいだけ。
「古代共同体学説の提唱者はthat以下を主張している」⇒「古代共同体学説によれば、…」
 長い文の主語は副詞句として処理したほうがスムースな日本語にできるケースが多い。that節の中にまたthatが出てくる。


The proponents of this 'ancient commune' theory argue that the frequent infideilities that characterise modern marriages, and the high rates of divorce, not to mention the cornucopia of psychological complexs from which both children and adults suffer, all result from forcing humans to live in nuclear families and monogamous relationship that are incompatible with our biological software.
 青のthatは指示代名詞と同じ役割、「あれ」と言っておいて、それをthat以下で補足説明する導きの役割。
 主語の部分を紫色で、関係代名詞を緑色で塗り分けてみた。動詞句を探すには、カンマの後に動詞句はないか探してみたらいいだけ。resultがすぐに見つかる。余計な修飾部分をそぎ落とすと、この文の骨格が現れる。

 the frequent infideilities and the high rates of divorce all result from forcing humans to live in nuclear families and monogamous relationship

infidelity /ˌɪn.fɪˈdel.ə.ti/ /-fəˈdel.ə.t ̬i/ noun [ C or U ] 不倫
(an act of) having sex with someone who is not your husband, wife or regular sexual partner, or (an example of) not being loyal or faithful 

monogamous /məˈnɒg.ə.məs/ /məˈː.gə-/ adjective 一夫一婦制の


 第1文型である。infidelitiesとは「不倫」のこと。

「頻繁に起きる不倫と高い離婚率はすべて、人類が核家族や一夫一婦制関係で暮らすことを余儀なくさせられていることから生じている」

 あとは修飾節だったり、挿入句だったりするだけだから、文脈に沿って交通整理していこう。
  
①the frequent infideilities that characterise modern marriages
②not to mention the cornucopia of psychological complexs from which both children and adults suffer
③monogamous relationship that are incompatible with our biological software.

not to mention翻訳者の柴田さんは「もとより」と訳している、語彙の選択がいい
used when you want to emphasize something that you are adding to a list
He's one of the kindest and most intelligent, not to mention handsome, men I know. 

   (かれはもっとも親切で知的な人間の一人だ、ハンサムであることは言うまでもないが、わたしの知る限りで。)

cornucopia /ˌː.njʊˈkəʊ.pi.ə/ /ˌːr.njəˈkoʊ-/ noun [ S ] formal
a large amount of something; a great supply
The table held a veritable cornucopia of every kind of food or drink you could want. 

-----------------------------------------------

 「psychological complexs」について説明しておかなければならない。
 心理学上のコンプレックスとは、潜在意識下に抑圧されている感情や情動で、現実の行動に強い影響力をもつ。こうした意識の構造をはじめて取り上げ、精神分析学の基礎を築いたのはフロイトである。この分野ではその異端の弟子のライヒに興味深い著作『セクシュアル・レボリューション』がある。1970年に初版が出ているが、新宿の本屋・紀伊国屋旧本店で手に取ってみて、興味がわいて買った。『ファシズムの大衆心理』も一緒に読んだ。他にも数冊ライヒ関係の本を読んだ気がする。雑誌「現在思想」か「情況」の特集号で採り上げられたことがあった。
 ヨーガには性的エネルギーをコントロールし、呼吸法と組み合わせて解放するスキルを学べるグループがいくつかある。現存する世界最古の経典と言われている「カーマスートラ」は具体的な性技解説書でもある。潜在意識で抑圧された情動ははけ口を求めて噴き出てくるから、適切に処理しないと、精神に強い影響が出てしまう。日本では古くは歌垣、そして盆踊りが重要な役割を果たした。歌垣は古事記にも出てくる。下川耽史著『盆踊り 乱交の民俗学』が風流や念仏踊り、盆踊りの歴史的な分析をしている。日本人はそのあたりの処理に実に長けていた。

*カーマ・スートラ:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%A9

(じつは仏教がこうした意識の階層構造を古くから指摘している。眼耳鼻舌身意の六識に加えて第七識として末那識があり、根源意識として阿頼耶識が存在しているという。瞑想によって意識の内部を探ることでとらえられたのだろうと思う。大数学者の岡潔先生はその書作の中で15識まで区別できると言っているから、意識は無限の階層構造をもっているのかもしれぬ。)
 人間は抑圧された潜在意識に支配されて行動するから、理性の作用なんてほとんどの人間にとってはじつにもろいものなのである。
-----------------------------------------------

 ①と③は補足説明の関係節を伴なっている。②は挿入句である。
①「現代の結婚を特徴づける度々繰り返される不信」
②「子どもも大人も共に害を被っている心理学上のコンプレックスについては言うまでもないことだ」
③「生物学的ソフトウェアと相容れない一夫一婦制」

 これらをつなぎ合わせて一つの文にしたらいい。以下はebisu訳である。
「古代共同体説によれば、現代の結婚を特徴づける頻繁な不倫や高い離婚率は、それが子どもから大人までが一様に苦しむ潜在意識下の情動の抑圧すなわち心理学的なコンプレックスにあることは言うまでもないが、人類が己の生物学的なソフトウェアと相容れない核家族や一夫一婦制の関係の中で暮らすことを強いられてきたことから生じているのである。」

 比較できるように翻訳者の柴田さんの訳文を引用しておく。
この古代コミューン説の支持者によれば、大人も子供も苦しむ多様な心理的なコンプレックスはもとより、現代の結婚生活の特徴である頻繁な不倫や、高い離婚率はみな、わたしたちが自分の生物学的ソフトウェアとは相容れない、核家族と一夫一婦の関係の中で活きるように強制された結果だという。」『サピエンス全史』61頁


 この段落は精神分析学の潜在意識(=コンプレックス)を扱っているので、そのあたりの知識がなければ書いてあることを理解するのはむずかしい。

 農業革命以前の数万年のセックス観が人類の潜在意識に刻まれており、それが現代の一夫一婦制関係での暮らしのなかで心理的な葛藤を生んでいるというのがハラリが紹介する「古代コミューン学説」なのだろう。
 古代コミューンでは、女たちは日常的にたくさんの男たちとセックスした。妊娠すればますますそうしたのである。強い男や利口な男を選び何度も何度も番(つが)うことが、強くて賢い子孫を残せるし、関係したオスたちが育児に協力してくれることになるのである。子どもや女の気を惹きたくて美味しい食べ物も優先的に持ってきてくれる。
 現代に即して言うと、身体の強靭な、そして賢く、お金儲けの上手な男を女たちが求めるということになろうか。何万年も受け継がれてきた潜在意識が現実の行動を支配しているから、性行動が旺盛な女たちがたくさんいて何の不思議もないのであり、裏を返すと、それに応じる男たちがたくさんいる、よって従って、世に不倫の種は尽きまじということ。潜在意識の情動を抑圧しすぎると精神に異常をきたす場合がある。どちらを選ぶかってこと、肉体と精神が健康な人間が浮気しないなんてもともと無理かも。(笑) 
 源氏物語、枕草子、和泉式部日記、…丹念に古典を読んでごらんなさい。じつに自由でおおらかになにをいたしてます。高校の教科書は肝心かなめの部分には触れない。男女の仲の面白い所だけピックアップして授業で採り上げたら、きっと興味津々で読めるので、生徒たちの古典の学力は大幅にアップするでしょうね。

 ところでハラリのSapiensはとっても面白いでしょ!

*

#3615 万葉集と宇治拾遺物語とあの時代の性風俗 Sep. 16, 2017

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#2812 日本人の性意識の変化: Women express pride in remainig a virgin Sep. 18, 2014

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#2395 『謹訳源氏物語十』を読む:至玉のひと時 Sep. 4, 2013

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 ひどく眠たいと思っているときに、まあさして親しくも思っていないひとが、むりやり起こして、しきりと話しかけてくる、なんてのは本当に興ざめ至極。31頁
 どういうシーンかは想像したらいい。清少納言はうっかり読み飛ばしそうな所にも、含蓄の深い句を挟んでいる。
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弊ブログ#2812より
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 高橋克彦著『風の陣』は5冊あるが、何巻目かに天皇(女帝)が歌垣を催すシーンが描かれている。歌垣とは当時しばしば行われた乱交パーティであるが、天皇が宮中で女官も含めて自由に楽しめと言ったのは他に例がないのだろう。小説の中ではあるが、道鏡と夫婦になることのできなかった女帝が哀れだった。
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 本棚にはこのシリーズが5冊ある。全部読んだと思っていたが、他に一冊どこかにあるのかも。
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#2395より引用
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 黒岩重吾に『弓削の道鏡』という作品がある。その下巻383ページに歌垣の場面が描かれている。余命幾何もない称徳天皇(女帝)が命じて歌垣を催させる。この歌垣のことは『続日本紀』にも記述がある。
     --------------------------------------
 歌垣は春や秋の穀物の祭りから起こったもので、若い男女が歌を歌って踊り、気に入った相手を見つけ山野で媾合(まぐわ)うのである。
 由義宮での歌垣は女帝の要望で行われた。河内に住む渡来系の氏族、藤井・船・津・文・武・生(ふ)・蔵の六氏から選ばれた男女が、麻の疎目(あらめ)の布を山藍で青く摺染めにした衣服を纏い、長い紅の長紐を垂らし、歌い踊った。六氏から選ばれた男女は二百三十人だった。
 道鏡と女帝は急造の楼観から歌垣を眺めた。歌垣には、これまで女帝が知らなかった人間の生命力が、華やかさの中に溢れていた。まさに人間賛歌である。女帝は歌垣に酔い、五位以上の官人、内舎人、また女の孺(めのわらわ(=幼い子の意))と呼ばれている女帝に仕える女官達にも、歌垣に加わるように命じた。
「皆人間に戻るのじゃ、身分や誇り、また羞恥心は捨てよ、気持ちと身体のおもむくまま歌い、踊るのじゃ、気が合えば媾合って構わぬ」
女帝は顔を紅潮させて叫んだ。
 この歌垣には、また女帝の要望で歌人が作った歌が歌われた。

 乙女らに 男立ちそひ 踏みならす 西の都は 万代(よろず)の宮
 淵も瀬も 清くさやけし 博多川 千歳を待ちて 澄める川かも

『続日本紀』にはニ作しか記していないが、もっと多くの歌が歌われたであろう。・・・
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