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#4169 Sapiens: page 17. Jan.18, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 生徒が河合塾の冬期講習に行っていたので、3週間ぶりの授業である。付番ルールを忘れてしまったので、確認、ああ、なるほど、「ページ数[.]段落番号[-]枝番号」だった。

<17.1>   A lot hinges on this debate.  From an evolutionary perspective, 70,000 years is a relative short interval.  If the Replacement Theory is correct, all living humans have roughly the same genetic baggage, and racial distinctions among them are negligible.  But if the Interbreedig Theory is right, there might well be genetic diffrences between Africans, Europians and Asians that go back hundreds of thousands of year.  This is political dynamaite, which could provide material fore explosive racial theories.


 ネアンデルタール人の化石から遺伝子を抽出して、マッピングした研究成果が2010年末に公表されており、その調査研究レポートを踏まえてハラリは書いている。最近の研究結果がこの段落と次の段落で展開されている。まだ、高校生物の教科書には収載されていない内容であるから、知的好奇心をくすぐってくれる部分だ。生徒はワクワクしながら読んでいる。

 ところで、アンダーライン部が面白い。文型はⅠ文型でとってもシンプルだが、'a lot hinges' を名詞句だと思い込んだらわけがわからなくなる。hingesは名詞ではドアのヒンジ、つまり蝶番の部分だが、ここでは動詞であり、「~次第である」という意味。わけがわからないと思ったら、原理原則に戻って、辞書を引いたり文型チェックをしたらいい。そうすれば「視点変換」できる。数学の問題を解くときと一緒です。数学のできる生徒は、処理の類似点に気がつけば、英語も簡単になる。

 'a lot'が主語になっているが、こういう文は前にも出てきた。'many'が主語になっている文がp.8の第三段落にあった。
 Some lived only on a single island, while many roamed over continents.
 (単一の島に住む種もいたが、多くはさまざまな大陸を歩き回った)

 それぞれ、 'some (of these specis)'と 'many (of these species)'のカッコ内が省略されたものであるから、補って読めばいい。省略するのが普通だ。

 8ページの第2段落でハラリは、2010年にデニソワ洞窟でデニソワ人の指の化石が発見され、その遺伝子解析がなされたことにも言及している。

 'a lot (of things)'の省略であると見たらいい、この名詞句は不定冠詞がついているから単数であることに注意。thingsのほうは複数だが、'a lot'という名詞句を修飾する前置詞句である。
 'a lot' を'lots'とやったら、もちろん複数だから、hingeと書かなければならない。

 間の好いことに、始めたばかりの、メールによる英作文5題/日の#002の五番目に次の問題をだしていました。ちょうど、授業の前にやったところです。

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 問題5:あれからいろいろなことがありました。
 生徒の答えは、次のようになっていたかな。
 There is a variety of things since then.
 マルはあげられませんが、△はあげたい。でも、ヘンな英文です、なぜでしょう。相aspectの選択ミスです。日本語には完了相がないので、ピンとこない生徒が多いのですが、完了相の英文は案外多い。'since then'と書けたのですから、単純現在形の文とは相性が悪いことに気がついてほしかった。次の文が正解。
 A lot has happended since then.

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  どうです、ずっとシンプル、そしてコンパクト、完了相を使っているところが味噌。「あれからいままでいろんなことがあった」ことがスーッと伝わってきます。
 二つ英文を比べてみることで、あとの方の切れの好さがよく理解できるでしょう。 
 英作文とSapiens講読が早くも絡み合ってきました。書くことを考えながら、ハラリの文章を読む、ハラリの文章を読みながら、英作文のコツをつかむ、ますます楽しくなります。内容も知的好奇心をくすぐってくれます。

 hinges on:~次第である

 2番目のアンダーライン部'the same genetic baggage'はハラリは現人類が「同じ遺伝子の手荷物」をもっていると書いたのだが、baggageは持ち歩ける荷物であることから、代を継いで現人類が遺伝子コードをまるで手荷物に詰めて受け渡してきたようなイメージで語っている。それをどのように訳すかは日本語語彙の選択の問題である。訳者の柴田さんはさらり、「同じ遺伝子コード」と意訳している。日本文学の専門家、あるいは日本文学に造詣の深い翻訳者なら、どのような語彙を選ぶのだろう?もっと、読みやすくて、切れの良い文章になるのだろうな。
 翻訳の名人の一人であった柳瀬尚紀氏はその著『翻訳はいかにすべきか』(岩波新書 2000年刊)の冒頭で「翻訳という語は、筆者にとって、あくまで日本語である。翻訳という行為を、あくまで日本語の行為として考える」と書いている。柳瀬さんは1943年6月2日生まれであるから、根室高校の6学年先輩にあたる。弊ブログにも一度だけ、コメントをいただいたことがある。2016年7月30日にお亡くなりになった。贅沢な話だが、柳瀬さん訳のSapiensも読んでみたかった。
 根室高校の先生と生徒諸君は、名翻訳家である柳瀬尚紀さんの著作を読んだことがあるかな?滅多にいませんよ、一流の翻訳職人、名人の域です。遊びごころもひょこひょこと顔を出します。『ゲーデル、エッシャー、バッハあるいは不思議の国の環』の訳者あとがきをご覧ください。定価が5800円ですが、根室高校図書室に置いてもらいたい。柳瀬さんの著作が全部図書室に揃ったらすばらしい。「柳瀬尚紀翻訳・著作コーナー」なんて、想像しただけですてきです。

二つの説をめぐる論争には、多くがかかっている。進化の視点に立つと、七万年というのは比較的短い期間だ。もし交代説が正しければ、いま生きている人類は全員ほぼ同じ遺伝子コードをもっており、人種的な違いは無視できるほどにすぎない。だが、もし交雑説が正しいと、何十万年も前までさかのぼる遺伝子的な違いがアフリカ人とヨーロッパ人とアジア人の間にあるかもしれない。これはいわば人種差別的なダイナマイトで、一触即発の人種説の材料を提供しかねない。」p.29 柴田訳

「もし交代説が正しければ」は、「交代説が正しい場合には...」とした方が文章がすっきりします。あとのほうの交雑説のところも同様です。
 これって、哲学者の市倉宏祐先生が、イポリットの『ヘーゲル精神現象学の生成と構造』を翻訳されていたころ、午後のゼミで、われわれの退屈な議論にねむそうな顔をされながら「if節は、「~の場合」と訳すといいんだよな」とつぶやいたのを聞き逃しませんでした。眠そうな顔をされていたので、「徹夜ですか?」「イポリットの翻訳していたら、夜が明けてしまったので、そのまま研究室へ、眠ってないんだ」との返事、そのあとの誰かの質問に対するものだったのかもしれません。
 市倉ゼミへ入ったのは2年生の時でしたが、1年生の時に許万元著『ヘーゲルにおける概念的把握の論理』を3度ほど読んでました。高校2年生の時にヘーゲル『大論理学』に目を通したのですが、歯が立たなかったからです。マルクス『資本論』の延長線上にヘーゲル論理学がありました。ずっと、気になっていたのです。市倉先生はサルトル哲学研究者として第一人者でしたが、わたしがゼミに入れてもらったころには、ヘーゲルへも興味が移っていたのでしょう。ゼミでは、一度もヘーゲル哲学について先生と議論したことがありませんでした。『資本論』全巻と『経済学批判要綱』ⅠとⅡをテクストに使っていたので、ヘーゲル哲学について議論をはじめたら、他のゼミ員に迷惑になると当時のわたしは考えていたのかもしれません、もったいないことをしました。3年間も謦咳に接していたのに、阿呆です。


 予習してきてないし、久しぶりに会った生徒とおしゃべりが多くて、全然はかどらなかった。その分、今日の授業で全力疾走してとりもどしてもらいます。甘くありませんよ(笑)

<余談:大鷲>
 12:20、大鷲が2羽、羽を広げて悠然とこちらへ向かって飛んでくるので、双眼鏡で見た。肩の部分が真っ白、尾も真っ白だ、きれいだな。もう一羽が変わっていた。肩の部分が白くない、広げた羽の中央部分が白くなっていた。尾羽は真っ白。あんな色、模様の大鷲見たことない。


*柳瀬尚紀 
https://ja.wikipedia.org/wiki/柳瀬尚紀


 柳瀬さんのユリシーズだけ読んでいません。

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