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#4164 二十一世紀の十字軍遠征:トランプ大統領 Jan. 8, 2020 [8. 時事評論]

 イランがイラク駐留米軍に十数発のミサイルを発射したというニュースが流れている。
 バグダッドでドローンからのミサイル発射でソレイマニ司令官を殺害されたイランの最初の報復攻撃がなされた。
 テレビ報道によれば、宗教指導者のハメネイ師は、米国大統領トランプに米軍基地攻撃を事前通知したという。その基地の中にはソレイマニ司令官を殺したドローンが飛び立ったアサド基地が含まれている。明確な理由をもった攻撃、そして事前通告、賢明な判断である。ハメネイには戦争拡大の意思がなさそうである。

 イスラム世界とキリスト教国の戦争は900年間続いている。第一回十字軍遠征は1095年である。キリスト教国が異教徒の国々に対して戦争を仕掛けた最初がこれだ。以来ずっと戦争し続け、やむことがない。
 18世紀、帝国主義の時代になって、キリスト教国がイスラム教国を植民地支配、それもキリスト教徒対イスラム教徒の戦いとみることができる。根が深いのである。

 ユダヤの神はヤハウェ―、キリスト教の神は造物主、イスラム教の神はアッラーである。どれも天地創造の神だから、名前は宗教によって違えど、同じ神を奉戴している。そして異教徒は悪魔であるからお互いに殲滅の対象となる。
 神の啓示(神の言葉)をいただく啓典宗教だから、それには絶対服従しなければならない。異教徒の抹殺はまさに啓示(神の言葉)である。モーゼの十戒を解説したサイトのURLを記しておく。
https://biz.trans-suite.jp/23354

 これら三つの宗教はもともと仲がそう悪くはなかった。同じ天地創造の神を信仰しているのだから、親戚筋の感覚があった時代もある。それが決定的に壊れたのは十字軍の遠征が始まってからだろう。信仰を広めるという口実で、異教徒を殺戮するか改宗させて、領土を自分の版図に組み入れる、キリスト教徒は千年間そういうことをやってきても一向に改まらない。これからさらに千年間お互いに殺戮を続けるのだろうか。唯一絶対神の啓典宗教というのは厄介である。

 じつは日本にも天地創造の神々がいらっしゃる。『古事記』冒頭には次のように書かれてある。
天地初発之時、於高天原成神名、天之御中主神次高御産巣日神次神産巣日神。此三柱神者、並独神成坐而、隠身也。

 三人の神様が天地(あめつち)をお創りになった、この三柱の神々は天地をお創りになるとすぐにお隠れに「隠身也」なり、二度と出てきません。役割を終えると出てこないのです。だから、日本には天地創造神の言葉はありません、言葉を発する間もなく役目をはたして消え去ります。次々とそれぞれの役割を付与された神様が生み出されて行きます。そうして八百万の神々が日本列島にあふれかえることになりました。野にも山にも川にも海にも神様がいらっしゃいます。
 啓典宗教では神は独り神で、唯一絶対者でもありますから、神の言葉は守らなければなりません。石に刻まれたモーゼの十戒がそれです。神は唯一絶対者ですから、他の宗教の神は神ではありません、偽神=悪魔ということになります。その神=悪魔の信徒は殲滅の対象です。信仰が深ければ深いほど、他の宗教への寛容性がなくなります。だからキリスト教原理主義の米国が先頭に立って戦っているのでしょう。ISもイスラム原理主義、両者がぶつかるのは当然です。ユダヤ教の国のイスラエル、キリスト教原理主義の国の米国、そしてイスラム教の国々、啓典宗教のある限り、宗教をめぐる殺戮は絶えないのかもしれません。

 同じ天地創造の神でも日本だけはちょっと違うことがお判りいただけたのではないでしょうか。他の宗教の神様が神であっても何ら不都合がありません。仏陀が天皇の垂迹であるという説まででてきます。神道と仏教は容易に習合してしまいます。キリスト教が日本でたくさんの人に信仰されたら、同じことが神道とキリスト教の間にも起きたでしょう。

 啓典宗教はそうはいきません、熾烈な争いになります。キリスト教原理主義の国の大統領トランプがイランのソレイマニ司令官をイラク首都近郊で殺害したことは、十字軍がイスラム教国に踏み込んで異教徒の重要人物を殺戮した図になっています。当然反撃がある。キリスト教国が米国だけではないように、イスラム教国もイランだけではない。英国やフランスがイランの司令官殺害に米国支持を早々と表明しています。米国寄りだったはずのあのサウジが今回は沈黙しています。注目すべき変化です。
 日本はキリスト教国ではありませんから、米国大統領のトランプを支持する必要はないでしょう、むしろこの宗教戦争から距離を置くべきですが、経済構造が複雑に絡み合っているので、すっきりした態度はとれません。巻き込まれそうです。

 エスカレーション(戦争拡大)すれば、日本への原油供給に支障が出ます。8割を中東産原油に依存している日本は、中東産原油がとまれば経済活動が麻痺します。電力不足、自動車の燃料不足、暖房用燃料不足、そしてそれらのコストの急激な上昇、甚大な被害がでるのは日本です。米国はシェールオイルがあるから、自前でやれますから中東産原油がとまっても影響ありません。

 ホルムズ海峡でタンカーが沈められたら、引揚そして除去するまで数か月間原油の輸送が途絶えるでしょう。狙いは50万トンクラスの巨大タンカーですから、ドローンや巡航ミサイルでやれば簡単に沈められます、そしてイランはそういうドローンも巡航ミサイルももっています。米軍が使用したドローンが故障不時着して、技術をコピーしているので、性能はいい。最近、サウジの油田にイラン製ドローンや巡航ミサイルで一斉攻撃*がありましたが、米国のミサイル防衛システムはまったく機能しませんでした。サウジは困り果てているでしょう。イランがその気になれば、サウジの大油田すべてを機能マヒさせることができます。米国製のミサイル防衛機構が対処できないということがすでに実証済みということ。だから、サウジは今回の紛争から距離を置かざるを得ません。イランの攻撃が怖くて米国支持は出さないでしょう。原油輸出がとまれば、サウジの経済も現政権も崩壊しかねません。
*https://www.msn.com/ja-jp/news/world/ソレイマニ将軍殺害の無人機、その実力と未来/ar-BBYNkxg
昨年9月には、イラン関与の疑いがあるイエメンの反政府勢力フーシが、20機以上の自爆型無人攻撃機および巡航ミサイルを使用して、サウジアラビアの石油施設を攻撃、大きな被害を出した


 エスカレーションしたら、日本の株価は暴落します。株を大量に抱え込んでいる日銀やGPIF(年金基金)は大やけど、GPIFだけでも十数兆円単位の巨額の評価損をだしてしまいます。たとえば、年金支払い2割減、日銀は債務超過となります。中央銀行の債務超過は前代未聞のできごとですから、その瀬戸際、日本はいまたいへんな潜在危機下にあります。
*#3415 年金積立金運用報告書を読む④  Sep. 18, 2016
https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2016-09-18


 安倍総理は頭を抱えているでしょう、打つ手がありません。唯一、すぐに決断したのは予定されていた中東訪問をやめたということ。自分の命が危ないし、いま中東(サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、オマーンの三か国)訪問しても外交的な成果は期待できません。右往左往するだけ、下手なことを言おうものならとんでもない窮地に追い込まれます。触らぬ神に祟りなしを決め込んだのでしょう。でも、ホルムズ海峡手前まで自衛隊派遣決定しておきながら、自分は逃げるという姿勢には批判が巻き起こっています。こういう危機的な状況下では人間の器がもろに出ますね。

 やってはいけないことをやり続けた日銀とGPIFも打つ手なし、日銀黒田総裁もただ祈るだけ。
 日銀とGPIFは株式保有を減らさなければいけませんね。日経平均が1万円に下がってもやっておけば、有事の際の被害がずっと小さくて済みます。

 わたしたち極東の町に住む者は冬の灯油の値上がりが120円/L(現在90円/L)ぐらいでとまることを祈ります、モノ(原油)が入ってこなくなったら、根室の冬はたいへんです。体調崩してお年寄りや子供が命を落とします。

 米国が反撃しなければ、事態は何とかおさまります。
 さて、そういう叡智と決断力がトランプ大統領にあるでしょうか。

<余談>
 日本経済はなぜこんなにも脆弱になったのでしょう。GPIFに保有資産の半分も株を購入させたり、日銀総裁を黒田氏に変えて、異次元の低金利と株価維持のために上場株の購入を誘導したことにもよりますが、実はもっと根が深い。
 株式評価は以前の会計基準では低価法でした。「低価法というのは時価か取得原価のいずれか低い方」を帳簿価格とするというものですから、100円で百万株購入すれば1億円ですが、株価が1000円になっても帳簿価格を1億円のままにしておけました。経営不振で損害が出たときに売却すれば、利益が9億円計上出来て、損失をカバーできます。日本の会社はお互いに株の持ち合いをして、莫大な含み益があったのです。それが日本企業の強みでした、米国はそこを切り崩そうと、時価評価法導入を要求してきました。日本の会計基準を米国基準に変更しろということ。

 低価法のままなら、日本の株式会社は莫大な含み資産を有していて、数年間大きな赤字を計上してもびくともしません。それが時価法なったおかげで、業績が安定しないので持ち合い株を放出することになりました。外資は、時価法導入のお陰で、持ち合い解消で放出された大量の日本企業の株を安値で取得できました。いまでは日本の会社の上場株式の4割ほどが外資になっています。その一方で、日本の会社は株で持っていた含み益を失い、経営基盤が脆弱になったのです。
 このように米国は長期戦略で日本の企業の脆弱化を狙って着々と手を打ってきたのです。まんまとそれに乗ってきたのが小泉政権でした。ジャパン売りです。
 低価法から時価法への株式評価に関する会計基準の変更が、日本企業の経営者の行動と日本経済に甚大な悪影響を与えたということです。後の祭りです、米国にしてやられましたね。長期戦略で追い詰められて負けたのは2度目です。いつになったら、日本人は敗戦から学ぶのでしょう。

<追記>1/9 22時
 イランがイラクの米軍基地にミサイルを撃ち込んだが、人的被害が出ないように事前予告していた。もちろん予告があったので基地の高官は退避していた。攻撃は精確に予定していた建物を破壊した。
 トランプ大統領は攻撃があれば52か所を爆撃すると警告していたが、イランの意を組んで、人的被害がないので反撃をとりやめた。イランは経済的な事情で戦争できない状態のようだ。
 ことがおさまったので、安倍総理は中東歴訪中止をとりやめ、歴訪を予定通りすることに決めたという。あっち見て、こっち見て、自分の身が安全だと確認出来たので、外遊する。



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