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#3995 『ゲーデル、エッシャー、バッハあるいは不思議の環』May 16, 2019 [44. 本を読む]

 いつか読まなくてはと思っていた本を根室の本屋さんで注文した。たまたま、昨年、ゲーデルの『不完全性定理』を2/3ほど読んでいた。いきなり数学の証明の本を読むのは無理だから、数理論理学の入門書を一冊読んでおいた。お陰で序章の38頁まではスムーズに読めた。残りの700頁は問題なかろう。20年前に読んだらかなり難解な本だっただろうが、いまは必要とされる周辺知識を獲得済みなので難なく読める。

 この本の翻訳者の一人に、翻訳の名手である柳瀬尚紀さんがいるが、根室高校の6年先輩にあたる。どういう日本語を充てるのがふさわしいのか、とことん考えて訳文を作る人だから、原著と読み比べてみたらいい。工夫の跡が随所に確認できるだろう。
 柳瀬さんは3年前に亡くなられた。

 出版20年記念版の序文にはバートランドラッセルの『プリンキピア・マテマティカ』がいきなりでてくるから、自然数を使った数学の証明法や公理的な数学モデル構築に関する知識がなければ意味が理解できないだろう。この本は広い教養と数理論理学の専門知識と深い深い思索を同時に要求するから、読んで理解できる読者はとても少ない。この本を読んで理解できる知性がいま日本には何人いるのかな。

 ホフスタッターがなぜ数学者と絵描きと音楽家をとりあげたのかは最初の章で理由が明らかになる。

 ホフスタッターには、バッハの「音楽への捧げもの」のカノンが無限に上昇しながらいつのまにかもとのハ短調に戻る。エッシャーのだまし絵、水が下へ下へと流れているのに、ちゃんと元へ戻ってくる、そこに同じ構図のあることを見ている。彼が見ている同じ構図が「不思議の環」である。
 わたしも、ユークリッド原論とラッセルPMとマルクス資本論に同じ構図を見ている。ホフスタッターと同じ経験をしているから、理解しやすいのだろう。
 
わたしにとってはちっとも不思議ではない異なる分野で生じる同型性、むしろ当たり前の環。これら三つの書物に共通しているのは演繹的体系だということと、それだからこそ学の出発点に公理を設定しており、公理自身はそれぞれの体系内部では論証不可能だということ。そして公理を変えれば別の演繹体系が立ち上がるということである。経済学に対してこのような主張をしているのはebisuが世界でただ一人である。
 演繹体系がその出発点にそのモデル体系では証明不可能な公理をもつのは当たり前のことだから、マルクスは価値と使用価値の定義を経済学の公理にして演繹的な記述をはじめて、弁証法にとらわれて迷路に入り込み破綻した。数学音痴だったマルクスは流行り病の弁証法が方法論としてはダメだということに資本論1巻を書きあがて気がついたのだろうと思う。かれは方法的破綻を明確に自覚していた。だから晩年の10年ほど沈黙したまま死んでいる。共産党宣言を書いて、世界中の人々を煽って、いまさら自分の経済学方法論が間違ってましたなんて言えなかったのだろう。方法的破綻が明らかになったらもう書けない。哀れな晩年のマルクス。
 わたしは職人仕事と「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」という商道徳を出発点に措定した経済学を展望している。

 いずれかの分野を深く掘り下げれば、興味のある別の分野にある同型性が見えてくるもの、これは平等性智の働きである。エゴの発動である自他弁別本能を抑制すれば見えてくる。自我本能を抑制できない人に理解できるだろうか?amazonに並んでいる書評を読んでみたらいい。

 大数学者の岡潔先生の最終講義が『数学する人生』(新潮文庫)として出版されています。生とは何か、命とは何か、自然とは何か、西洋科学とはまったく別の視点からの考察が述べられていますから、ホフスタッターの思索と比べてみると、『ゲーデル、エッシャー、バッハあるいは不思議の環』がどういうレベルの議論をしているかよくわかります。
  



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②エッシャーの大判の画集です。30年ほど前に本屋をぶらついているときに見つけて買いました。ほしかった画集が目の前に突然現れたのです。うれしかった。
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③ゲーデル『不完全性定理』です。いきなりこの本を読んでも理解不能ですから、数理論理学の入門書を1冊読みました。バッハのCDはおまけです。「音楽の捧げもの」もCD棚にありました。ARCHIV 指揮者はラインハルト・ゲーベル、演奏はムジカ・アンテクワ・ケルン。POCA-2123

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④バッハ「音楽の捧げもの」。J.S.バッハは好きな作曲家だから探したらCD棚にありました。この本の構成はバッハの「音楽の捧げもの」を模したものとなっています。形を模すことで何かが浮かび上がってくることを書き手が期待している風に感じます。
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