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#5273 ヒロト・イングリッシュ・ワールドと演繹体系(1) Aug. 17, 2024 [49.1 英語音読トレーニング]

 大西泰斗先生のNHKラジオ英会話講座を英作文演習問題へ編集して、塾生へメール配信を始めてから5年が経ちます。九月号で、1902回、A4判で2251ページになりました。
 昨年10月から、音読トレーニングを初めて、今日(8/16)で17,480回です。少しは進歩したのでしょうかね?

 さて、今年の四月号から、この大西先生のラジオ英会話講座の趣が変わりました。「単純なものから複雑なものへ」展開がなされており、ゆるい演繹体系的な展開になりました。

 大前提は「英語は配置の言葉」だということ。「主語位置に置けばそれは主語」なのです。次に現れるのは、「指定ルール:指定は前に置く」「説明ルール:説明は後ろに置く」という二つのルールです。そして3番目に、基本文型をベースに据えて、「単純な英文からより複雑な英文へ」の旅が始まっています。
 
 四月号では、これら二つのルールと基本文型が説明されてました、
 大西先生の基本文型は、次のようになっています。
1.他動型
2.自動型
3.説明型
4.授与型
5.目的語説明型

 受験参考書で解説されている基本5文型の分類とは少し違っています。
1.は第Ⅲ文型、2.は第Ⅰ文型、3.は第Ⅱ文型、5.は第Ⅴ文型と第Ⅲ文型のミックスです。授与型は第4文型そのままです。

 大西先生のこの基本文型の分類の順序は厳密に言えば、「単純なものからより複雑なものへ」という順序にはなっていません。最初に展開される基本文型「1.他動型」は目的語を伴なう文型ですが、言語コーパスではこれが一番多いのです。ここは頻度順に並べたように見えます。一番出現頻度の多い文型を第一番目に持ってきたのではないでしょうか。「2.自動型」が一番単純な基本文型です。

 受験参考書では前置詞句は基本文型の要素にはなりませんが、大西先生の基本文型では文の要素になる場合があります。たとえば、目的語説明型で場所や時間を表す前置詞句が目的語の次に来るものも「主語・述語」の関係やイコールの関係にあれば、基本文型の要素として扱われています。例えば四月号46頁に目的語説明型の次の例文が載せられています。
 I saw him in the living room.
(彼がリビングにいるのを見ました)
 これは受験参考書では、第Ⅲ文型ですが、大西先生の基本文型では、目的語説明型の文となります。「him=in the living room」という関係で、himの説明語句ととらえるからです。「説明ルール:説明は後ろに置く」が基本文型よりも優先的な位置に置かれていることがわかります。

 実は、第Ⅲ文型の文の一部を、これら5つの基本文型の外に置いています。大西先生は「リポート文」と命名しています。高校標準英文法では「間接話法」に分類されています。大西先生は視点が違っているのです。大前提の「説明ルール:説明は後ろに置く」で眺めると、「他動型」には分類できないのです。
「主語の思考・発言・知識などを述べる非常に頻度の高い文」(Lesson 11)で、これは「説明ルール:説明は後ろに置く」が産み出したものだと説明しています。
 I heard that you like roses.
(あなたが薔薇が好きだと聞きました)

 hearの目的語であるthat節をhearの説明語句と捉えるところが標準的な英文法と相違しています。例えば江川泰一郎『英文法解説』ではこの文例なら「間接話法」に分類され、第Ⅲ文型です。
 大西先生はこれを他動型とはみなしていません。hearがなにかを動かしているわけではないからでしょうね。「他動型は、「動詞+目的語」の配置で、「動詞の働きかけが目的語に直接及ぶ」ことを表します」と定義しています。他動詞の中で、思考系あるいは伝達動詞は「他動型」には含めていないのです。
 think、know、tell、sayなどがリポート文に使われる代表的な動詞です。...四月号60ページ

 江川泰一郎『英文法解説』p.468には伝達動詞として次のものが挙げられています。
 say, tell, add, admit, answer, boast, claim, complain, deny, explain, insist maintain, object, promise, protest, remark, remind, reply, report, suggest, think, warn, whisper. 

 主語は固有名詞や代名詞のものから、冠詞のついた名詞へ、そしてto不定詞句や動名詞句は、さらにそれらに場所や時間の修飾語のついたものへと、単純なものから複雑なものへ展開がなされています。
 それらに加えて、「指定ルール:指定は前に置く」の具体例として副詞や助動詞が採り上げられています。

 少し先走って、九月号Lesson 89のダイアログから文例を一つピックアップします。

 I am happy that you are happy, Doctor.

 これはアンドロイドのジーニーが、ドクター・シュタインへ自分の気持ちを伝えた言葉です。
 生成文法では説明のしようがありませんが、いまではこういう文はすんなり理解できます。
「博士に喜んでいただけるなら、私もうれしいです。」

 受験文法では第Ⅱ文型ですが、that節の説明が難しい。しかし、「説明ルール:説明は後ろに置く」に慣れてしまうと、意味がそのまま理解できます。ジーニーが「わたしは幸せだ」と言った理由や原因を説明した文だということが、見ただけでわかってしまいます。慣れというのはパワーがありますね、百回音読の効果でしょう。

 大西泰斗先生の英語レッスンは、百回音読、英作文、そして話す英語へ導くのが目的です。そのための英文法なのですが、全体がホンワカした演繹的な説明になっているので、身体が慣れて、しだいに自然に反応するようになってきますから、英文を理解するときの、脳への負荷が小さくなります。その効果で、読む速度がアップしてます。

 とっても興味深いので、日を置いて、3回ほど同じテーマで採りあげるつもりです。

 大西先生の英文解説の方法は、デカルトの「科学の方法 四つの規則」の第3番目の通りの展開「単純なものから複雑なものへ」に適っているように見えます。ユークリッド『原論』のように厳密な演繹的な体系ではありませんが、ホンワカした演繹体系をもつ英文解説を初めて見ている気がしています。
 数学以外の分野で、演繹的な体系展開にチャレンジした学者はまだいません。そういう仕事を大西泰斗先生が英語学習法の分野で果敢にチャレンジしているように見えます。

 デカルト『方法序説』「科学の方法 四つの規則」を採り上げた弊ブログ記事を紹介します。

*#5207 歴史的順序と論理的順序:『資本論』の論理的破綻と新しい経済モデルについて Apr. 8, 2024
 
 該当部分だけピックアップしておきます。
<補遺:デカルト『方法序説』>
 デカルトは科学者であると同時にデカルト座標で夙(つと)に有名な数学者であり、「われ思うゆえにわれあり」で高校生にも知られている哲学者でもある。こういう多分野にわたって学問研究をする学者がなかなか現れないから、視野狭窄のまま、解決の糸口が見いだせないのである。
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<デカルト 科学の四つの規則>
まだ若かった頃(ラ・フェーレシュ学院時代)、哲学の諸部門のうちでは論理学を、数学のうちでは幾何学者の解析と代数を、少し熱心に学んだ。この三つの技術ないし学問は、わたしの計画にきっと何か力を与えてくれると思われたのだ。しかし、それらを検討して次のことに気がついた。ます論理学は、その三段論法も他の大部分の教則も、道のことを学ぶのに役立つのではなく、むしろ、既知のことを他人に説明したり、そればかりか、ルルスの術のように、知らないことを何の判断も加えず語るのに役立つだけだ。実際、論理学は、いかにも真実で有益なたくさんの規則を含んではいるが、なかには有害だったり、余計だったりするものが多くまじっていて、それらを選り分けるのは、まだ、下削りもしていない大理石の塊からダイアナやミネルヴァの像を彫り出すのと同じくらい難しい。次に古代人の解析と現代人の代数は、両者とも、ひどく抽象的で何の役にも立たないことだけに用いられている。そのうえ解析はつねに図形の考に縛りつけられているので、知性を働かせると、想像力をひどく疲れさせてしまう。そして代数では、ある種の規則とある種の記号にやたらとらわれてきたので、精神を培う学問どころか、かえって、精神を混乱に陥れる、錯雑で不明瞭な術になってしまった。以上の理由でわたしは、この三つの学問(代数学・幾何学・論理学)の長所を含みながら、その欠点を免れている何か他の方法を探究しなければと考えた。法律の数がやたらに多いと、しばしば悪徳に口実を与えるので、国家は、ごくわずかの法律が遵守されるときのほうがずっとよく統治される。同じように、論理学を構成しているおびただしい規則の代わりに、一度たりともそれから外れまいという、堅い不変の決心をするなら、次の四つの規則で十分だと信じた 第一は、わたしが明証的に真であると認めるのでなければ、どんなことも真として受け入れないことだった。言い換えれば、注意ぶかく速断と偏見を避けること、そして疑いをさしはさむ余地のまったくないほど明晰かつ判明に精神に現れるもの以外は、なにもわたしの判断の中に含めないこと。 第二は、わたしが検討する難問の一つ一つを、できるだけ多くの、しかも問題をよりよく解くために必要なだけの小部分に分割すること。 第三に、わたしの思考を順序に従って導くこと。そこでは、もっとも単純でもっとも認識しやすいものから始めて、少しずつ、階段を昇るようにして、もっとも複雑なものの認識まで昇っていき、自然のままでは互いに前後の順序がつかないものの間にさえも順序を想定して進むこと

 そして最後は、すべての場合に、完全な枚挙と全体にわたる見直しをして、なにも見落とさなかったと確信すること。
 きわめて単純で容易な、推論の長い連鎖は、幾何学者たちがつねづね用いてどんなに難しい証明も完成する。それはわたしたちに次のことを思い描く機会をあたえてくれた。人間が認識しうるすべてのことがらは、同じやり方でつながり合っている、真でないいかなるものも真として受け入れることなく、一つのことから他のことを演繹するのに必要な順序をつねに守りさえすれば、どんなに遠く離れたものにも結局は到達できるし、どんなにはなれたものでも発見できる、と。それに、どれから始めるべきかを探すのに、わたしはたいして苦労しなかった。もっとも単純で、もっとも認識しやすいものから始めるべきだとすでに知っていたからだ。そしてそれまで学問で真理を探究してきたすべての人々のうちで、何らかの証明(つまり、いくつかの確実で明証的な論拠)を見出したのは数学者だけであったことを考えて、わたしはこれらの数学者が検討したのと同じ問題から始めるべきだと少しも疑わなかった

  デカルト『方法序説』 p.27(ワイド版岩波文庫180 *重要な語と文章は、要点を見やすくするため四角い枠で囲むかアンダーラインを引いた。

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