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#5270 中国経済はなぜ混迷を深めるのか?Aug. 8, 2024 [A2. マルクスと数学]

<更新情報:8/9朝9時 カオスとコスモスを追記>

 「習近平が」ついに全面降伏か?」という記事をネットで拾いました。藤和彦さんという人の書いたものです。
 
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習氏は7月26日に開かれた座談会に出席し、こう語ったという。
「中国経済がいくつもの困難と問題に直面している」
「ただ、努力すれば完全に克服できる。発展に対する信頼を確実にし、戦略的集中を維持しながら実質的な高品質発展が効果的という中国経済光明論を唱えるべき」
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 大卒が毎年1200万人いて、今年4月の内定率は45%、6月に卒業ですから、新規大卒者の半数近くが職に就けないようです。たいへんなことですね。
 景気をけん引してきた不動産投資はとっくにバブルがはじけており、不動産企業や金融業や地方政府が抱えている不良債権の処理もされていません。

 習近平氏は品質の高い商品を生産すれば経済がよくなると思っているようです。
 マルクスもそう考えていました。労働価値説というのはあらゆる労働生産物は価値があるという前提で組み立てられています。だから、ちゃんと生産すれば経済は自然に回るものだと考えています。頭の中はお花畑なのです。裸の王様に誰も「王様は裸だ!」と言わないのです。
  マルクスだけではありません。彼は先行者であるアダム・スミスやリカードの労働価値説を継承し、当時流行りのヘーゲル弁証法で経済学の体系化ができると考えました。そしてやってみたのです。資本論第一巻初版がその成果でした。第1巻は資本の生産過程論ですが、第2巻では市場関係を扱うつもりでした。そして草稿を書き溜めているうちに労働価値説の致命的な欠陥に気が付いてしまったのだろうと思います。『資本論』は間違いでした、生産手段の国有化では新しい経済社会のモデルを作ることは不可能ですなんて、今更言えるわけがありません。だから、その後、死ぬまで沈黙せざるを得ませんでした、とても気の毒な晩年です。
 生産性アップによる商品生産力の増大は、労働価値説に依拠すると、「労働強化」でしか説明ができません。これは明らかな矛盾です。いわば背理法による労働価値説破綻の証明です。生産性を2倍にして、それまでよりも労働を軽減するというようなことが現実の経営では普通に行われています。市場論へ来て、市場価値を分析して労働価値説の破綻に気がついたのです。そもそも方法論で当時流行のヘーゲル弁証法に依拠したことが間違いでした。体系構成の科学的方法論としてはユークリッド『原論』しかなかったのですから。マルクスは数学が苦手でした。彼の数学学習ノートである『数学手稿』を読めば、微分の概念をつかみ損ねたことがわかります。だから効用(使用価値)が低減していくことすら理解できませんでした。
 マルクスの学位論文はギリシアの自然哲学に関するものでしたが、数学が苦手たっだのでユークリッド『原論』には興味がわかなかったのでしょう。読んですらいないと思います。マルクスは躓くべくして躓いたのです。

 マルクスは働いた経験がないし、企業経営の経験もありません。マネジメントについての本は当時はありませんでしたから、マルクスは知りようがありませんでした。だから、理想とする経済モデルを記述できなかったのです。マルクス研究者で、この事実に言及して『資本論』の公理の破綻に言及した人は、残念ながら私以外にはいません。だからまったくの異端の論ですが、ずっと先になるかもしれませんが、いずれ経済学者たちはわたしの主張の妥当性に気が付きます。
 マルクスの神格化はもうやめにしませんか?
 マルクスはまぎれもなくチャレンジャーでした。経済学を演繹体系として記述しようとした最初の経済学者であったことは特筆すべきことです。失敗はしましたが、マルクス以後、そういう仕事をした経済学者はいないのですから

 中国ではEV車は生産過剰です。過剰の部分はニーズがないので労働が投下されていても商品価値はゼロです。習近平氏は過剰生産によって、局面を打開しようとしていますが、それが無理なことは明らかです。過剰生産品には「労働価値」があっても、商品価値(=市場価値)がありません。当たり前でしょ。

 したがって、新たな経済モデルを作らないといけないのですが、マスクスは新たな経済モデルを資本論の中では議論していません。生産手段を労働者が手にすれば問題が解決すると考えていましたが、それは間違いでした。その後のソ連や中国経済を見れば明らかです。
 一般に、(数学的)モデルは公理系という假定条件で演繹体系として成り立っていますが、中国共産党の存命が中国経済モデルの最優先の前提条件になっているように見えます。これでは「人民」にとって、善なる経済モデルが築けるはずもありません。共産党やその支配下にある軍の幹部とその一族だけが特権をもち、好い思いをする人民監視社会ができあがりました。人類史上初めて誕生した異様な経済社会です。ロシアも共産党とその支配下の軍の存命という同じ公理で経済モデルが成り立っています。

 公理的な体系として、世界で初めて記述された学問は数学でした。ユークリッド『原論』です。いくつかの公理・公準で成り立っています。これは平面幾何学の公理でして、球面幾何学では平行線公準は成り立ちません。赤道に垂直に伸びるに直線は北極と南極で交わります。ヒルベルトの『幾何学基礎論』も公理的演繹体系です。演繹体系では公理が問題となります。
 たとえば、命題P:「x^2=-3」となるxを考えるときに、この命題Pは実数の世界では正しくありませんが、複素数の世界では正しいのです。だから、論理的な判断はその前提としている世界が何であるかによって、正しかったり正しくないことが起きます。詳しくは小島寛之著『証明と論理に強くなる』(技術評論社刊、2017年)をお読みください。

 新たな経済社会のモデルは、公理系の選択次第でいかようにも記述できます。その公理系に従って経済モデルが成り立つからです。数学なら平面幾何学と球面幾何学という風に。わたしにはまったく専門外ですが、トポロジーでも別の公理系が成り立っていそうです。カオス(秩序のない混沌)かコスモス(秩序のある宇宙)か、これらが相互浸透したカオスモスなんてことが、数学の世界では議論されているようです。為替相場や株式相場が連想として浮かびます。

 公理系は、企業のマネジメントやビジネス倫理に関わります。
 日本人が400年間大切にしてきた、「売り手よし、買い手よし、世間よし三方よし」というビジネス倫理は、実務のテストを経て、一部の老舗企業に脈々と受け継がれてきました。日本には創業200年を超える企業が圧倒的に多いのです。一番古いのは西暦578年創業の金剛組でして、1446年の歴史をもっています。この企業は世界最古です。これはカオスの世界にコスモスが浸透した現象に見えます。弱肉強食のジャングルの掟に、人間の平等性智や無差別智が浸透しています。

 住友家の家訓に「浮利を追ってはいけない」「信用が第一」という条がありますが、これは日本の商家に普遍的な家訓です。
 こういうビジネス倫理で商売を200年以上続けてきた企業が日本には数千社あります。中国にはあるでしょうか?ロシアは?米国は建国250年の国ですからいくつもないでしょう。

 マルクスがお手本とすべき経済モデルは、日本の老舗企業でした。彼はマネジメントに関心がありませんでした。だから、経済モデルがつくれませんでした。資本論第1巻を公刊して、自分の資本主義分析の根本的な過ちに気が付き、そのご16年間本を出版していません。膨大な遺稿が残されました。自分の間違いに気が付いたので、資本論の続巻が出せなくなったのです。

①「売り手よし、買い手よし、仕事をする者よし、世間よしの四方よし」
②浮利を追わない
③信用を第一とする

 新しい経済モデルは、この三つの柱で創造可能です。経済モデルを創るということは、元々カオスである資本主義経済に、コスモス(秩序)を浸透させることなのかもしれませんね。

*#3533 自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 Apr. 26, 2017 [53. 数学四方山話]

**#3538 ∀n [ n≧3⇒∀x∀y∀z ¬(x^n+y^n+z^n] May 7, 2017 [53. 数学四方山話] 

***#5207 歴史的順序と論理的順序:『資本論』の論理的破綻と新しい経済モデルについて Apr. 8, 2024



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