#5243 ビジネス倫理とトヨタ型式認証不正について June 4, 2024 [8. 時事評論]
トヨタはこの業界のリーディングカンパニーであり、下請け会社が訳40,000社と言われている。2023年度決算で、売上は45.0兆円、営業利益5兆円を計上する日本最大規模の企業。
だからこそ、その経営哲学やビジネス倫理も高い水準を追及してもらいたい。トヨタ社員はいま恥ずかしい思いをしているだろう。
6/4朝日新聞朝刊1面の記事によれば、「歩行者保護試験で、左側のフェンダーのデータを右側で代用した虚偽データを使用」「衝突試験では、エアバッグがタイマーで展開するように試験車両を不正加工」となっている。
7面を見ると会長の豊田章男氏は「トヨタは完璧な会社ではない。問題が出てきたことは、ある意味ありがたいことだと思っている」。そして不正撲滅を問われて、「撲滅はね、ぼくは無理だと思います。故意で間違いをやろうという人はゼロにしなければいけないが、問題が起こったら事実を確認し、しっかり直すことを繰り返すことが必要なのではないかと思う」。
どんな企業も「完璧」ではありえませんが、不正を自社で検出し、適正に対処している企業はいくらでもあります。トヨタにはそういう普通のことができないような企業体質があるのかもしれません。
自社の利益を優先すると、生産性を下げてしまうとか、商品発売のスケジュールが遅れてしまうというときに、現場で不正が発生するような風土が根付いてしまいます。
さて、トヨタは売上高営業利益率が11%、過去最高の売上と営業利益を記録しています。しかし、下請けの40,000社は「トヨタカンバン方式」に泣いているのでしょう。生かさず殺さずそういう経営哲学がトヨタの下請け管理方式に垣間見えます。
国土交通省の調査が入るまで社内の不正が社長や会長にわからないという体制は、どのように培われてきたのでしょう?
品管部門が一部機能していないようにみえます。社内基準が型式認証試験よりも厳しいから、型式認証試験は手を抜いたり、虚偽データを作成してよいなんてことはあってはならぬことです。
工場に配置されている社員は、生産性を上げることばかりに目が行っているのではないでしょうか?不正はしない、ズルはしない、しっかりした製品をユーザーに届けるという職人魂はどこへ飛んで行ってしまったのでしょう?
話題を他の業界に振ってみましょう。他社の事情はよく知りませんから、16年間勤務した臨床検査最大手のSRLを採り上げます。SRLは国内の品質管理基準では飽き足らず、強固な品質保証体制を構築するために、世界一厳しい品質管理基準である米国CAPライセンスを1988年に取得しました。2年に一度米国から臨床病理学会の専門家グループが査察に訪れます。そのために実施している3000項目の臨床検査全ての標準作業手順書をの整備と更新を日本語と英語の両方で徹底しています。もう36年間もそういうことを継続しています。標準作業手順書は検査項目だけではありません。例えば電子天秤の較正も定期点検でなされますが、それも標準作業手順書がつくられています。紫外線で劣化する、クリーンベンチや安全キャビネットのパイロットバーナーのシリコンチューブの交換についても、1988年頃にクリーンベンチ内でのガスの爆発事故があって以来、定期点検関係の標準作業手順書に明記されています。HIV(エイズ)検査室のへパフィルターの交換についてももちろん標準作業手順書があります。業界大手の2社(BMLとLSIメディエンス)も数年遅れて追随しています。
リーディングカンパニーの社会的責任とは、業界に先駆けて世界一の品質管理基準でラボを運営する、そういうところにもあります。業界ナンバーワン企業が実施すれば、他社もそれに追随せざるをえませんから、業界全体の品質向上や安全性に寄与することができます。臨床検査項目コードの日本標準制定も、SRLが産学共同プロジェクトを提案して、大手六社と臨床病理学会の作業部会で4年の検討を経て、1991年に制定されています。日本中の医療機関のシステムがこの日本標準臨床検査項目コードで稼働しています。世界中で日本だけです。日本標準コードは医療システムの未来に多くく貢献するものです。一企業の利害を超えたプロジェクトでした。それもリーディングカンパニーの社会的責任のひとつです。そういうことを明確に意識して、大手六社の項目コード検討会議を、産学共同プロジェクトに切り換え、臨床病理学会(現在の臨床検査学会)から日本標準コードとして公表がなされました。自治医大の櫻林郁之助・助教授が(当時)臨床病理学会の項目コード検討委員会の委員長でした。二つ返事で、産学共同プロジェクトに賛成してくれました。当時彼はSRL顧問でもあったのです。
マネジメントを担う側が、社員を人とした扱っているか、人件費と見ているかは社員の年収や平均年齢に現れます。業界ナンバーワンのSRLは836万円(47.6歳)、業界2位のBMLは565万円(42.1歳)です。SRLの社員はBMLの社員の年収の約1.5倍です。SRLのラボ自動化は分注工程から始まりました。毎日毎日社員が手分注作業をしていました。朝から晩まで、血液をスポイトで分注器で吸い込み、検査のために他の試験管に小分けするのです。数か月で嫌になって社員が辞めていきます。そんな非人間的な単純作業をいつまでも人にやらせてはいけない。お金に糸目をつけず、1984年頃から自動分注機の開発が行われました。SRL御用達の自動分注機開発会社がPSS社でした。創業社長の田島さんはそのころ勤務していたアドバンテック東洋社をやめて独立したのです。PCR自動検査機で有名なメーカーになりましたね。フランスが数十台購入してます。
1990年頃のことですが、創業社長の藤田光一郎さんが2度目の社長をやっていました。毎週2通ほど内部告発の手紙が届いていました。現場で仕事している真面目な社員からのものが時々ありました。違法なことを管理職が容認している、言ったけど聞く耳を持たないので、藤田さんへ直接内部告発の手紙を書きます。なぜ、真面目な社員がそういうことをするかというと、創業社長の藤田光一郎さんが効く耳をもっていたからです。藤田さんは社員の良心の最後の砦でした。
内部告発して会社を辞めた社員を二人知っています。この二人は会社を辞する覚悟を決めで内部告発しました。ろくでもない人を管理職にすると、真面目な社員がキレます、そして内部告発して会社を辞める、会社にとっても内部告発をした人にとっても不幸なことです。だから、社長が効く耳を持っているかどうかはとっても大切なことに思えます。社長がふだん何気なく言っていることや、行動を社員はしっかり見ています。藤田さんは毎月30項目ほどの達成リストを持って、項目ごとにできたかできなかったかをチェックしていました。「今月は25勝5敗だった!」なんて笑いながら話されてました。「社員とランチを一緒にするというのが月に10日」なんていう項目もありました。よく営業所を回って、お客様のところへ担当者と訪問していました。目標値は「月に12ユーザー訪問」という風に。朝7時半ころ出社して、8時ころにはもう外出しているのが普通でした。9時ぎりぎりに走ってくる社員も少なくありません。(笑) とても残念なことに、取締役で藤田さんのように働く人は一人もいませんでした、しかし藤田さんは自分のやり方、価値観を押し付けない人でした。背中でモノを言うタイプの経営者でした。一度、東芝ビルのジャフコ本社へ、CC社との資本提携を解消するために必要な交渉へ御伴したことがあります。本社のオープンスペースのテーブルで、わたしと打ち合わせたときには強引な交渉をすると言い切っていたのですが、ある事情があって情報が筒抜けになるので、配慮した交渉をして、後の撤退交渉を有利に運びましょうと勧めたのですが、ノーでした。喧嘩腰の交渉をすると言い切るので、その後30分ほど雑談してました。すぐに意見を変えるはずがないですから、1時間ほど間を置くしかないのです。浜松町駅で降りて東芝ビルまで歩いていく途中で、「ebisuさんの言うとおりにやりましょうか?」をういってにこっと笑いました。CC社は藤田さんの特命案件で、それまで15か月間逐一状況を電話と文書で報告していましたから、藤田さんが思う通りに動いてくれると思っていました。信頼できたのです。ジャフコの役員と交渉が始まると、言葉が少なくて、間があきます。その間があいたときに圧力がグーンと高くなるのを感じました。交渉の仕方を教えてくれたのです。藤田さんに同行するのは2度目でした。藤田さんの特命係として3回仕事しました。交渉の場では一流の俳優のような、演技のできる人でした。現役社長として2社を一部上場したのは当時は藤田光一郎さんだけでしたから、ジャフコの扱いもとても丁寧でした。交渉が終わって、ジャフコの方から、「お車はどちらへ?玄関前に回すように手配します。」「二人で電車できました」、そう伝えると、びっくりしてました。そういう人なのです。ところで、当時のジャフコ(野村証券の子会社)の社長は極東の町の光洋中学校の隣のクラスの伊藤君でした。(笑)
ところで、広く普及した日本の商道徳には「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」「信用が第一」「浮利をむさぼらない」などがあります。400年間も日本の老舗企業はそうしたビジネス倫理を大切にしてきました。
こうしたビジネス倫理は、日本人の宗教や伝統的な価値観に根差しているのでしょう。卑怯なことをしてはいけない、ズルイことはするな、弱い者いじめをしてはいけない...そうした価値観が広く日本人の心の奥にあります。折々の四季の変化に対する感受性の高さと情緒も日本人の特性のひとつです。
会津藩に什の掟というのがあります。薩摩藩の郷にも類似の掟がありました。
幼い子どもたちが自らを律する―「什の掟」
什長が申し聞かせる「お話」は、以下のようなものだった。
- 一、年長者の言ふことに背いてはなりませぬ
- 一、年長者にはお辞儀をしなければなりませぬ
- 一、卑怯な振舞をしてはなりませぬ
- 一、弱い者をいぢめてはなりませぬ
- 一、戸外で物を食べてはなりませぬ
- 一、戸外で婦人と言葉を交へてはなりませぬ
そして、最後に「ならぬことはならぬものです」と、厳格に教戒する。
これが、「什の掟」と呼ばれるものだ。
わたしはこうした若者たちを律していた、若者の組織の掟が日本人の道徳観に大きな影響を及ぼしたのだろうと思います。全国各地の村にあった若者の自治組織である、若衆宿や娘宿などは性の実践的なトレーニングの場であっただけでなく、こうした価値観も伝えてきたのです。
トヨタは自社は巨額の利益を上げながら、下請けからの仕入れ価格を容赦なく叩き、採算ラインぎりぎりに低利益構造を強いる、それがトヨタカンバン方式の実態です。これは買い手のトヨタの利益にはなりますが、売り手である下請け企業の犠牲の上に積み上げられたものです。
下請け苛めについては日産も問題になっています。
ところで、日産の元社長のカルロス・ゴーン氏は日産の村山工場の土地を売却し社員を20,000人リストラして赤字を脱しました。その一方で会社経費を私的に流用した不正を働いた。自分への報酬も一部隠蔽したことがわかっています。数十億円の報酬を手にしていました。自分一人がよければいい、自我本能の化け物でした。残念なことに、メディアは彼の犯罪が明らかになるまで、こぞってその経営手法を褒め称えていましたよ。
業界1位と2位の経営の実態がこうでは、業界全体の経営規律が危うい。
型式認証で不正を行うことは、売り手のトヨタに利益はもたらしますが、買い手であるユーザーには不利益をもたらすものです。
トヨタや日産、マツダなど錚々たる巨大自動車メーカーが型式認証で長年にわたって不正をやっていたことが、国土交通省の調査で明らかになりました。三菱が発端でしたね。
さてこうした巨大企業からも企業献金がなされているのでしょう。
昨年12月のビジネスジャーナルの記事によれば、豊田章男氏が経団連会長職を狙っているそうです。今度の騒ぎで潰えましたね。経団連会長になれば、政界とのパイプも太いものになりますから、こういうときは国土交通省の調査に影響力を及ぼすことが可能になるやもしれません。企業の政治献金は危うい。お金をもらっている国会議員は企業側と同一歩調をとるのはあたりまえです。
経団連は日本人が400年間育ててきたビジネス倫理からどんどん遠い存在になりつつあるようです。強欲な資本主義(Greed Capitalism)は御免被りたい。
上場企業の取締役の報酬は30年間で3倍になっていますが、従業員の給与は上がっていません。正規雇用を非正規雇用に切り換えることで人件費を削り、貯めた内部留保で自社株を購入、償却して株価を高く維持する。
日本企業の経営者は30年間で、がらりと変わってしまったようです。1990年頃は日本企業で役員報酬が1億円を超える上場企業はなかったと思いますが、いまや2億円以上に限定しても267人います。従業員の平均年収も上がっていれば云うことありませんが、それは横ばい。どうして経営者がこんなに強欲になってしまったのでしょう?
日本が誇りにすべきは「売り手よし、買い手よし、仕事する人よし、世間よしの四方よし」です。創業200年以上の日本の老舗企業は従業員を大事にしているところが多い。これからはそういうビジネス倫理とビジネスモデルを世界中に「輸出」してもらいたい。
<ビジネス倫理はどこへ?>
*「30センチ必要なのに厚さわずか3センチ」"空洞だらけ"のトンネル施工不良 原因は「施工業者の倫理観欠如」調査報告書で結論付ける 知事「規模は車の認証不正に匹敵」と糾弾
和歌山県の串本町と那智勝浦町を結ぶ「八郎山トンネル」でコンクリートの厚さが不足するなど施工不良が見つかった問題。専門家らによる「技術検討委員会」は今回の問題に関する調査報告書を取りまとめ、建設会社の技術員や現場監督らの倫理観の欠如やミス、さらに県の監督体制に不備があったなどと指摘しました。
南海トラフ地震の災害時のう回路として去年12月に供用開始予定だった問題と。
問題となっているのは和歌山県の串本町と那智勝浦町の町境をつなぐ県道のトンネル「八郎山トンネル」です。県などによりますと、全長711mのこのトンネルは、南海トラフ地震などの災害時には、海沿いの国道42号の迂回道路として、重要な意味合いを持つ県道として、整備中で、トンネルはおととし9月に完成し、去年12月に供用開始の予定でした。
コンクリの厚さ30センチ必要なのに…わずか3センチしかなく
浅川組などによりますと、今回のトンネル工事を担当した現場所長は社内でも経験が豊富で「トンネル工事」と言えばこの人と称される“敏腕社員だった”ということです。
所長は社内でのヒアリングに対して「覆工コンクリートの厚さが確保できないことを認識しながら、本社に相談することなく工事を進め、数値を偽装して検査を通した」と回答、さらに、「手直しをすれば工期に間に合わなくなる。赤字にしたくない。1次覆工で強度は保たれているのでトンネルの安全性に問題はないと判断した」と話したということです。また、「何よりも自分はトンネル工事の専門家であり、本社に相談してもどうなるものではない」とも回答していたということです。
さらに、所長は『覆工コンクリートは、化粧コンクリートのようなもので厚さが足りなくても問題ない』などという発言もあったということです。この内容について報告を受けた県の担当者は「全く信じられない発言で、あり得ない」とも話していました。
全コンクリートをはがして工事は全面やり直し
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