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#4400 英語長文の読み取り速度が足りない...:スラッシュリーディング Nov. 15, 2020 [49.3 高校英語教科書を読む]

<最終更新情報> 11/17朝8:35 デカルト『方法序説』「科学の四つの規則」に言及。 11/18接続法事例追加。

 11月10日火曜日の授業のときに、英語の長文問題をやっていた高3の生徒が「もっと速く読めたらいいのに...」とつぶやいた。「スラッシュリーディングのトレーニングをすると速度は1.5倍にはなると思うよ、空いている土曜日4時から2時間補習の特訓授業をやったら来るか?2人以上でないとやらないけど」と訊いてみた。その気はあるようだった。金曜日に明日から毎週2時間やるよと3人に伝えた。

 高3の生徒のうち2人は看護学校の推薦が通り、試験と面接が終わって、週末ぐらいに合格通知が来る。医学部受験生は別扱い。4人の生徒が「これから受験」組。看護学校と理系大学と文系大学進学が2人、4人とも数学が得意な生徒である。医学部進学の生徒と併せて4人が模試で数学学年5番以内だったこともある。ところが英語は大嫌いで勉強しない。業を煮やして昨年9月から高3の教科書を使って10回の英語特訓授業をした。その後あまり勉強していない。1月中旬から始めたライン配信による英作文トレーニングもすでに150回を数え、1000問題を超えたが、やっている気配がない。馬耳東風、猫に小判、暖簾に腕押し、さっぱり手ごたえなしだった。鳴かぬなら鳴くまで待とう時鳥、やる気が出るまで待つのも教育と辛抱していた。
 受験の時期が迫って、ようやく、一人が「もっと速く読めたらいいのに…」とつぶやいた。チャンス到来、いまならなんとかなりそう。数学の偏差値が高いから、苦手の英語の長文問題で点数が稼げたら、志望校入試で楽勝できる。

 水曜日は本来は休みなのだが、奇数月は高2、偶数月は高1の英語特訓に充てているので、高3のスラッシュリーディングトレーニングは土曜日しかとれない。

 高3の教科書「VIVIDⅢ」を後ろの章からやることにした。「第9章 A lucky child」、テーマはアウシュビッツである。一番最後に置かれたこの章は、長い文章が多い、全章で一番難易度が高い、いい配置だ。逆からたどるから、しだいに読みやすくなるのはあたりまえ。(笑)

 3回音読してから、輪番で4人の生徒に訳させる。訳がわかったところで意味をイメージしながら2回音読。頭からチャンクごとに区切って訳させていく。一文全部をまとめて訳そうとすると、すかさず「指導」を入れる。速く読むには、頭から英語の流れの通りに読む
 冒頭の文は次のようになっている。

 One morning in 1943, when Tommy, a ten-year-old boy, lived in a labor camp for Jews in Poland, German soldiers drove into it and looked for children, who weren't fit for hard work.

 この文はカンマの部分まではそのまま読む。
 「1943年のある朝/トミーは10歳だった/トミーは強制労働収容所に住んでいた/ユダヤ人のための/ポーランドにある/ドイツ兵たちが車を強制労働収容所へ乗り入れた/そして子どもたちを探した/重労働に適さない」 
 長い文だが、細切れにしてしまうから、これなら、中学生でも読むのに時間がかからない。

 Many children were being torn away from their parents.
 「たくさんの子どもたちが/両親から引き離された」

 tornは動詞でtearの過去分詞。tearには「涙を流す」と「引き裂く」の2つの意味がある。引き裂かれたら悲しいから涙を流す。男女の別れ、親子の死別、関係が密だった人間があの世とこの世に引き裂かれることで涙する。動詞の意味には共通のコアがある場合が多いのである。そこに注意して読むことで派生的な意味を類推するスキルがアップする。形の面から見ると、「進行形+受動態」は高校英語の範囲だから慣れておこう。文法書を確認しておいた方がいい。

 One solddier saw Tommy and tried to drag him out.
 「一人の兵士がトミーを見た/そしてトミーを引き出そうとした」
 囚人が寄りかたまっているところから、子どもを引っ張り出そうとしたのだ。引っ張り出されたら、親から引き離されてガス室送り。

 His father held him by the hand and walked up to the commandant.?
 「父親がトミーを手でつかんだ/そして司令官のところへ歩いて行った」

 holdは「一時的に保持する」が原義で、keepと対比される。

 Before his father could say anything, the boy declared, "Captain, I can work."
「父親が何か言う前に/トミーが”キャプテン、わたしは働けます”そうハッキリ言った」

 declareは「宣言」と訳してはいけない、シーンに合わない言葉は使わない。sayでは弱いので、書き手はdeclareを使った。

 The commandant looked at him sohrtly and sneered, "Well, THAT we'll soon get to see."
 順番が回ってきた生徒はseeを「見る」と訳してしまい、立ち往生。それでは意味が通らぬ、直前の節に'look at'があるからだ。ひとつ前の節はちゃんと頭の中に入れておいて、関連させながら読もう。日本語の文章を読むときと同じだよ。
 大文字でTHATとあるが、これは強調で、通常の順序通りの語順に並べ変えたら簡単だ。
  we'll soon get to see that
「そのこと(少年が言ったことが真実かどうかは)はすぐにわかる」ということ。getは状態の変化を表すから、このケースでは、分からなかった状態からわかる状態への変化を示している。

「司令官は彼に視線を向け/ちらりと/そして嘲笑った/(苦し紛れに言い逃れしようったって)ほんとうのことはすぐにわかるんだぞ」

  Tomy was lucky/ to survive the tragedy/ which was to take other children's lives/ in the afternoon.

 この文章はI君の番だった。ちょっと長いので戸惑っていた。前文の意味をつかもうとするからむずかしくなる。必要なだけチャンクでカットしたらいい。こういう文章こそがスラッシュリーディングにふさわしい。青スラッシュを入れたところで区切って読むと、びっくりするほど簡単になる。冒頭部分はSVCのⅡ文型である、その意味が分からない高校生はいない。I君に和訳を促すと
「トミーは幸運だった」
「ちゃんと読めてるよ(笑)、難しいか?」
「これならわかります」
 面倒ならこの最初の部分だけ読んで次の文に移っても大丈夫。練習だからさらに解説すると、2番目の文はluckyの説明である。「悲劇を生き残るような幸運」といっている。スラッシュの3番目は前にあるtragedyの説明、「悲劇ななにかというと子どもたちの命が奪われることになっている」、最後は「その日の午後に」、これで十分だ。in the afternoonの定冠詞のtheがあるから、その日の午後だとわかる。トミーは数時間後に殺されるというじつに危ういところを切り抜けたというわけだ。
 「トミーは幸運だった/悲劇を生き残るのに/その悲劇というのは他の子どもたちの命が奪われる/その日の午後に」
 振り返ってみると、単純なⅡ文型の文、そして後ろは前にあるもの(形容詞や名詞)の具体的な説明である。全文を滑らかな日本語にしなくても、文意はとれるということ、そこが大事な点だ。細かいことをあまり気にせず、スラッシュを入れながらどんどん先を読もう。どの部分にスラッシュ入れたらいいのかは次第に飲み込めてくる。学校で指導しているスラッシュは入れすぎ。あれではバラバラになって文の意味を統合してとらえるのに時間がかかってしまう。あまり細かくしすぎてはいけない。「必要なだけの小部分」に分割するのがいい。デカルト『方法序説』の「四つの規則」にそう書いてある。数学だけでなく英語にも使える普遍的な方法論です。
「第2は、わたしが検討する難問の一つ一つを、できるだけ多くの、しかも問題をよりよく解くために必要なだけの小部分に分割すること」岩波文庫ワイド版28ページ
 デカルトが学問の普遍的な方法論を探求して、論理学と数学の方法論を研究した結果到達したのが、『方法序説』「四つの規則」です。マルクスはヘーゲルの方法論(=弁証法)を取り入れてその著作『資本論』で見事に失敗しました、方法論はデカルトとユークリッド『原論』に学べばよかったのです。公理をベースにした演繹体系構築に失敗しました。原因の一つはマルクスは数学ができなかったからです。微積分が理解できなかったことも致命傷でした。しかし、経済学的諸概念の関係の分析だけは『経済学批判要綱』(全6冊)と『資本論第一巻初版』やフランス語版で実に辛抱強くやりのけています。

 Years later, when asked about Auschwitze, Tommy would reply, "I was lucky to get into Auschwitze." This reply would always surprise the people.

 「数年後/アウシュビッツについて聞かれたときに/トミーは答えた/わたしがアウシュビッツに入れられたのは幸運だった/そういうことを言うといつもびっくりされた」
 生徒から、wouldとwillの使い分けがわからないという質問があった。この文のwouldはどちらも時制の一致。「だろう」というあやふやなものではではなくて、「トミーはそのように答えた」ということ。
 過去ではないwouldの用法があるが、時制が現在で形が過去なのは仮定法過去だ。仮定法は英語だけを見ていてもわけがわからない。なぜ'I were'になるのかは古い形態を残しているドイツ語にさかのぼる必要がある。ドイツ語では関口存男先生が「第二式接続法」と名付け、「接続法(仮定法)過去」とは呼ばない。フランス語にもよりリジットな形で接続法があるようだ。形は過去でも意味上は過去ではないものを「接続法(仮定法)過去」と命名するのは混乱を招くだけという理由だった。
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 従来の文法家は、このsei(be)を接続法の現在、wäre(were)を接続法の「過去」と呼んでいますが、これはむしろ露骨な誤謬といってもよいほどの杜撰極まる命名であるがゆえに私は採りません。時称の点から言えばseiもwäreも共に現在なのであって、過去の意味は絶対にないのです。ただ、wäreはその形が過去形(war)から来ているというだけの話なのです。… 
 『関口新ドイツ語第講座(上)』183頁
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 英語でも仮定法は大事だから、文法書で仮定法のところをもう一度おさらいしたほうがいい。さっとでいいよ、のめりこまないようにね。
 現実から距離を感じているときにも時制は現在なのに過去形が使われる。will⇒would、can⇒could。ドイツ語では接続法Ⅱ式に含まれている。
 I would like a cup of coffee.
   Ich hätte gern eine Tasse Kaffee. 
   habenの過去はhatte、接続法Ⅱ式がhätteである、母音をaからäに変えればいいだけ。英語には過去形があるが、ドイツの語接続法Ⅱ式に当たる形がないので、過去形を代用しているのである。古い形が残っているのはI wereのみ。

 ついでに書いておくと、willは先がはっきり見えているときに使うから、「~だろう」というよりももっと確信がある言い方。
   It will be snowy tomorrow. ([×]明日は雪だろう、〇明日は雪です)


 何か所かどう訳したらいいのかわからず、立ち往生したのでその都度解説をいれた。解説箇所が多かったのであと2か所だけ紹介して終わろうと思う。

 One morning the SS, Hitler's special military unit, appeared and selected Tommy.

 生徒はSSを親衛隊と訳し、つぎの ’Hitler's special military unit’ で立ち往生。SSはドイツ語のSchutzstaffel(親衛隊)の省略形である。Schutz(protection)とStaffel(team)。
 「the SS, .... ,」というように、名詞の後にカンマで区切った句が挿入されていたら、その名詞の説明である。文法書には「同格」と書いてあるものがある。要するに後ろの来るのは「説明」である。関係節の場合、to不定詞の場合、that節の場合などさまざまなものが説明に使われる。

「ある朝SS/ヒットラーの親衛隊/が現れた/そしてトミーを選んだ」 

 次の文は今後の読解の強力な武器になるだろう。

 He was ordered to get? on a truck, and he was prepared for death.

 [be prepared for dinner]が「夕食の準備をしている」は誰でも知っている。preparedは形容詞だが、即物的な意味のほかに、心の中の状態を表す用法もあり、辞書を引くと、2番目以降に出てくる。それらを覚える必要はない。「死の準備ができている」って、心の中はどういう状態ですかと生徒に尋ねた。「覚悟したってこと?」、その通りです、電子辞書ひいてごらん、2番目か3番目にあるから。「ありました!」
 単語の訳がしっくりこないとき、特に動詞の場合は、即物的な意味の延長上に心の中の問題、あるいはコアイメージとなっている動きが何を連想させるのか、その都度考えてごらん。辞書なしで読める範囲がグーンと広がるから。
 受験で出題されるのは、その単語を辞書で引いたときに、基本単語ほどトップに載っている項目ではなくて、2番目あるいは3番目に載っている訳語を問うものが多くなる。そのとたんに難易度が上がってしまう。高校入試の問題でお茶の生産量のトップはどこの都道府県か問われたら、8割の人がこたえられる。2番目は6割、生産量3番目という設問なら2割の人しか正解できない。ちなみに、1位は鹿児島県(13.7万t)、2位静岡県(12.9万t)、3位三重県(2.8万t)である。1位と2位は僅差。昔は静岡がナンバーワンだった。ついでだからミカンとリンゴの生産量ランキングも書いておく。ミカンは1位和歌山県(15.5万t)、2位静岡県(11.4万t)、3位愛媛(11.3万t)、リンゴは1位青森県、2位長野県、3位岩手県。リンゴの3位なんて覚えている人は受験生の10人に一人だろう。英語の単語も同じだ。基本単語の意味はコア・イメージをしっかりつかんで、普段から派生的な意味の類推トレーニングをしておくこと。

 とっても大事なことは、できるだけ記憶しておかなければならないことを減らすことです。人間が出し入れ自在にできる記憶容量は限りがあるようで、どうでもいい枝葉末節の情報をそのエリアにしまっておくと、必要なものが溢れてしまいます。だから、できるだけコアイメージを記憶し、そこからさまざまな意味のバリエーションを引き出せるようにしておくといいのです。数学を例に出せば、三角関数にはさまざまな公式が出てきますが、加法定理を記憶しておけば倍角の定理は30秒で導けます。頭のいい人というのは記憶すべきものを減らしてしまう、頭の使い方がうまいのです。できるだけ一般化して記憶しておき、個別のものはそこから瞬時に導くようにしています。英語の単語ならコアイメージだけ。文例はひたすら音読して、口や耳に記憶させてしまう。頻繁に情報を出し入れする脳の記憶エリアはできるだけ空けておく

 思いついたので、事例を一つ付け足します。soar(高く舞い上がる、上空を飛ぶ)。
   I watched a beautiful bird soar into the air. (美しい鳥が空高く舞い上がっているのを見た)

 *watch+O+doは完了した動作を暗示し、watch+O+doingは進行中の動作を表す。だからこの文は鳥が天高く飛び上がってしまった状態を指しています。soaringとすると、枝から飛び立って上昇中ということです。V-ingはいつでも、その動作をしている最中というイメージが付きまといます。
     Temperature is soaring. (温度が急上昇している)
 高い所へ舞い上がるイメージですね。温度計の水銀柱がぐんぐん上昇しているのが見えるようです。「舞い上がる」という動きが温度変化の場合は「水銀柱の上昇」を連想させます。

 His luck held, and he lived through another tragedy.
「トミーの幸運は続いていた/そしてもう一つの悲劇を切り抜けた」
 heldの訳が問題です。基本は「手でつかむ」イメージですから、つかんでいるのに力を要するし、一時的につかんでいるイメージがあります。慣性の法則が働いて速度が維持されるようなイメージをもつkeepと対比すればよくわかりますよ。そしてkeepをつかわずholdを使った書き手の意図が見えます。手で一時的につかんでいるのです、そう幸運を。手放していないから「続いている」のです。辞書を引くと載ってます。目的語がないから自動詞、ジーニアス4版をみると「持ちこたえる、耐える、もつ ③続く持続する」。そのうちに引かなくてもわかるようになります。ふだんのイメージ・トレーニングの仕方次第ですよ。lived throughもとっても簡単です。
 「トミーは生きた/別の悲劇を通り抜けた」
 livedがどうやって達成されたかthroughいかが説明しているのです。「生き抜いて通り抜けた(=切り抜けた)」ことはすぐにわかりますね。

 最初ですから、生徒は戸惑っていました、そしていろいろ解説しなくっちゃいけないところが出てきて、予定の2章消化は無理でした。Part4の最後の段落だけ残してしまいました。
 次回がどれくらいの速度で読めるか楽しみです。ちゃんと復習して来れば授業で消化できる量に違いが出ます。達成目標は、3回の授業で1.5倍速で読めるようになること。コツがわかれば案外簡単です、長い文や難易度の高い文は戻り読みしていいのですから。日本語でもそういう文は繰り返し読んで理解するでしょ、一度では理解できない圧縮された文があります。生成文法では「文法工程指数」の高い文がそうです。そういう文章は500 words程度の長文問題で2か所程度です。簡単な文はスラッシュリーディングで、複雑な文は繰り返し読んで吟味するという、構文の複雑さに応じた読み方をすればいいだけ。





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