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#4301 Sapiens (37th): p.50 & 51 'available'をめぐって Aug. 1, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

<最終更新情報>8/2朝8:30

 availableはなかなか厄介な単語である、どこが厄介かというと、日本語にしづらいのだ。面倒なので、生徒が引っかからずに通過してくれたらいいがと祈っていたが、そうは問屋が卸さない。(笑)
 勘のいい奴、精読スキルがかなりアップしたようだ、案の定、問題の箇所をちゃんと検知してしまった。50ページの最下段の行から段落を丸ごと引用する。本当は前の段落もあったほうが理解しやすいのだが、面倒だから端折る。この段落だけでもちゃんと読める。しかし展開されている論理や使われている文構造が少々込み入っていることは否めない。
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<50.3> In other words, while anthropological observations of modern foragers can help us understand some of the possibilities available to ancient foragers, the ancient horizon of possibilities   was much broader, and most of it is hidden from our view. The heated debates about Homo sapiens' 'natural way of life' miss the main point. Ever since the Cognitive Revolution, there hasn't been a single natural way of life for Sapiens. There are only cultural choices, from among a bewildering palette of possibilities.
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  In other words, while anthropological observations of modern foragers can help us understand some of the possibilities available to ancient foragers, the ancient horizon of possibilities was much broader, and most of it is hidden from our view. …(38 words)

(換言すれば/現代の狩猟採集部族を文化人類学的に観察すれば、わたしたちが可能性のいくつかを理解するのに役には立つ/何の可能性かというと古代の狩猟採集民がこのようであったかもしれないということ/にもかかわらず/古代の可能性の地平ははるかに広い/そしてその大部分はわたしたちの視野から隠されている)

 スラッシュを入れて訳したら、おおよそこのようなわけのわからぬ訳になる。スラッシュ・リーディングは平易な文なら、頭の中でスラッシュ入れながら速読できるが、ハラリのこの文のように長くて複雑な論理展開の文だと、アウトである。スラッシュはなるべく少ない方がいい。根室高校で使っている教科書だったか問題集だったか、スラッシュを細かく入れすぎて、読みにくかった。スラッシュはその人の読解力に応じて入れるべきで、必要最小限でいいのです。

 availableの意味を辞書から引用しておきます。
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available ˈveɪ.lə.bl ̩/ adjective
able to be bought, used, or reached(買える、使える、届く)
Is this dress available in a larger size?
    (このドレスはLサイズがありますか?)
Our autumn catalogue is now available from our usual stockists.
    (秋のカタログは通常在庫からお届けできます。)
There's no money available for an office party this year.
    (今年は会社の宴会に使うお金がない)
It is vital that food is made available to the famine areas.
    (飢饉地域で食料が入手できるようにするのは重要である)
[ + to infinitive ] I'm afraid I'm not available to help with the
show on the 19th.
    (申し訳ありませんが、19日のショーを手伝えないのですが。)
Every available officer will be assigned to the investigation.
    (空いている人は全員捜査に割り振られています。)
Do you have any double rooms available this weekend?
    (今週末に空いているダブルベッドの部屋がありますか?)
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 小西友七著『英語基本形容詞・副詞辞典』の概説には次のようになっている。
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available
1.概説 この語は基本的に「(物・人が)手近にあり、いつでも効果的に使用される状態にある」ことを意味し、「利用できる」「役立てられる」という意味を持つ。「手近にある」というのがこの語の特徴で、ここから<物>の場合、「手元に入ってくる」つまり、「入手可能な」の意味が派生している。また、<人>の場合には、時間的余裕のあることが強調され「手が空いている」「面会の暇がある」の意でも用いられる。叙述用法では用途・目的を示す前置詞forや入手可能な物品・情報などの受け手を表すtoをしばしば伴う

1a : available A  利用できる[役に立てられる]A<物[事など]>
 All the available money has been used.
 (使える金はすべて使ってしまった)

 Use every available remedy to save the child.
 (あらゆる治療法を施してその子を救いなさい)

   The company itself instructured me to retain the best available sounselfor Jefferson.
 (会社がわたしにジェファーソンの事件をもっとも腕利きの弁護士に依頼するように言ってきたのです)


2b:S be available (to O)  S<品物[情報など]>が(O<人に>)入手できる。
 Ticketsare availableat the box office.(切符は切符売り場で買える)
 The books you want are no longer available.
 (君が欲しがっている本はもはや手に入らない)

 How availableare copies of it?(その出版物はどの程度入手できますか?)
 "An effort was made to learn, but the information was not available,simply not available."
 (努力して探ってみましたが、情報は手に入りませんでした。何一つ手掛かりはなかったのです)

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 辞典には5ページにわたってavailableの用例の説明が並んでいる。

 文の構造からみて'available to ancient foragers' は叙述用法であり、直前の句である'some of the possibilities' の補足説明となっている。いや、叙述用法ならⅡ文型の主格補語か第Ⅴ文型の目的格補語の筈だが、どちらでもない。文構造がややこしいので、while従属節を分解してみよう。
 ..., while anthropological observations of modern foragers can help us understand some of the possibilities available to ancient foragers, ...

① anthropological observations of modern foragers can help us understand □(第Ⅴ文型)
② [we understand] some of the possibilities (第Ⅲ文型)
③ [we understand some of the possibilities] [which is] available to ancient foragers(第Ⅱ文型)


①現代の狩猟採集民を文化人類学者が観察することはわたしたちが理解するのに役に立つ
②わたしたちは可能性のうちのいくつかを理解する
③わたしたちが理解するいくつかの可能性とは古代の狩猟採集民にについて入手可能な可能性である

 三つの文に分解してみたが、②は①の第Ⅴ文型の文の目的格補語understandの目的語になっている。③の文はシンプルセンテンスに分解すると第Ⅱ文型の主格補語であるから叙述用法なのだが、関係代名詞節で主格の関係代名詞とbe動詞が省略されて、some of the possibilitiesを後置修飾しているから、関係代名詞の限定用法なのだ。availableがavailable to ancient foragersというように前置詞句を引き連れているので後置された。以上が生成文法からの構文解説である。この手の文になると、ネイティブではないわたしたちが文法知識なしに読むのは甚だしく困難であると感じる。この個所を検知して質問した、この授業を受けている、生徒の勘の良さに脱帽である。

 現代の狩猟採集民を文化人類学的に観察して理解できるのは、たくさんある可能性の内のいくつかのみである。some possibilities はその背後にall of the possibilities を想定している。そのありうるすべての可能性とは古代の狩猟採集民の生活や文化や共通の価値観、神話などに関するものである。ここでハラリの言いたいことは、現代にまで残存している狩猟採集民を観察しても、実に多様であったであったであろう古代狩猟採集民の生活や文化や制度や宗教や共通の価値観、共同体のルールなどのうち、ほんの一部しかわかり得ないということ。
 オックスフォードやケンブリッジに住んでいた狩猟採集民の価値観がどうであったかすら、たくさんなる可能性のうち、きわめて限定されたことしか推測しえないことは前の段落で具体的に述べられていた。やはり必要なようだ、前の段落を引用しておこう。 
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<50.2> For example, there's every reason to believe that forager band that lived 30,000 years ago on the spot where Oxford University now stands would have spoken a different language from one living where Cambridge is now situated. One band might have been belligerent and the  other peaceful  Perhaps the Cambridge band was communal while the one at Oxford was based on nuclear families. The Cambridgians might have spent long hours carving wooden statues of their guardian spirits, whereas the Oxonians may have worshipped through dance. The former perhaps believed in reincarnation, while the latter thought this was nonsense. In one society, homosexual relationship might have been accepted, while in the other they were taboo.
たとえば、現在オックスフォード大学がある場所に三万年前に暮らしていた狩猟採集民の集団が、現在ケンブリッジ大学がある場所で暮らしていた狩猟採集民の集団とは異なる言語を話していたと考えて、まったく問題ないだろう。一方の集団は好戦的、もう一方はは平和的だったかもしれない。ケンブリッジの集団は原始共同体を形成し、オックスフォードの集団は核家族を基本としていた可能性もある。ケンブリッジの人々は、自分の守護霊の木像を何時間もかけて彫り、一方、オックスフォードの人々は、踊りながら崇拝していたのかもしれない。前者は輪廻転生を信じ、後者はそのような考え方は一笑に付したかもしれない。一方の社会では同性愛は許容され、もう一方ではタブーとされていたかもしれない。」『サピエンス全史』64-65頁
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 このようにavailableは文脈を考慮して、滑らかな日本語になるように、語彙を自分の薬籠中から選び出し、日本語として自然な、そして論理展開を外さぬように文章を紡ぐ以外にないのである、だから扱いが厄介なのだ。文構造が複雑なのでスラッシュリーディングではほとんど意味がとれないだろう。
 スキル・アップのために一度は徹底的な精読修行が必要である。英文を読むときには、後ろにある節や句は前置されている単語の補足説明と思って、頭から順に読んでいけばよい。慣れてきたら頭から順に読むだけでいちいち分解せずとも意味がとれるようになる

「換言すると、現代の孤絶した狩猟採集民(の生活や習慣や共通の価値観、社会制度、宗教など)をいくら観察してみたところで、古代狩猟採集民のそれらのほんの一部分を類推できるのみで、それに比べて実在した古代狩猟採集民の可能性の地平は広大であり、彼らの生活や文化や共通の価値観、宗教観のほとんどがわたしたちの視野の外にあり、類推すらできない。」


 以上はわたしの拙訳だが、翻訳者の芝田さんのコンパクトな訳をご覧に入れたい。

つまり、現代の狩猟採集民を人類学的に観察すれば、古代の狩猟採集民にはどのような可能性があったかをいくらか理解する助けになりうるものの、古代の可能性の地平はそれよりもはるかに広く、その大半がわたしたちの視野から隠されてしまっているのだ。ホモ・サピエンスの「自然な生活様式」をめぐる激論は、肝心な点を見落としている。認知革命以降、サピエンスには単一の自然な生活様式などというモノは、ついぞなかったのだ。そこには、途方に暮れるほど多様な可能性が並んだパレットからどれを選ぶかという、文化的選択肢があるだけだ。『サピエンス全史』65頁


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