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#4278 Sapiens(34th):page 45 ☆ June 28, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 原書講読授業の生徒は最近学校の補習(物理と化学)に参加しているので、塾へ来るのが6時を過ぎることがあり、Sapiens授業時間が少なくなっている。金曜日(6/26)に質問はなかったが、「第3章 失楽園のアダムとイブ」の第2段落にてこずっていた。章が新しくなると新しい語彙がキーワードとして繰り返し出てきて、その語彙を中心にハラリのユニークな視点や既存の学説が導入され、前章と論理的なつながりをもって展開されるので、冒頭の数段落はしんどくなる。今回のキーワードは進化心理学である。

 今日は材料としてまな板に載せる生徒の質問はない、ただ、Sapiensの面白さが伝えられたらと思ってタイピングしている。
  前に投稿があったが、根室と同程度に僻地である道内のどこかの町で勉強している高校生が弊ブログのSapiensシリーズを読んでくれているようだから、そういう人たちへ向けて書いてみようと思う。

<45.1> The flourishing field of evolutionary psychology argues that many of our present-day social and psychological characteristics were shaped during this long pre-agriculture era. Even today, scholars in this field claim, our brains and minds are adapted to a life of hunting and gathering. Our eating habits, our conflicts and our sexuality are and the result of the way our hunter-gatherer minds interact with our current post-industrial environment, with it mega-cities, aeroplains, telephones and computers. This environment gives us more material resouces and longer lives than those enjoyed by any previous generation, but it often makes us feel alienated, depressed and pressured. To understand why, evolutionary psychologists argue, we need to delve into the hunter-gatherer world that shaped us, the world that we subconsciously still inhabit.


 センテンスは5つ、中身が濃くて面白そうだから一つずつ取り上げてみる。

(1) The flourishing field of evolutionary psychology argues that many of our present-day social and psychological characteristics were shaped during this long pre-agriculture era.

 23 words. 文型は第Ⅲ文型だから簡単だが、日本語にしにくい部分がある。「The flourishing field of evolutionary psychology」が主語だがofが悩ましい。
 flourishing:growing or developing successfully

 少し脱線して「evolutionary psychology(進化心理学)」について触れておきたい。
*wiki 進化心理学より
https://ja.wikipedia.org/wiki/進化心理学
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進化心理学(しんかしんりがく、英語:evolutionary psychology)とはヒトの心理メカニズムの多くは進化生物学の意味で生物学的適応であると仮定しヒトの心理を研究するアプローチのこと。適応主義心理学等と呼ばれる事もある。

人間行動進化学会は、進化心理学を「社会学と生物学の視点から、現代的な進化理論を用いて、感情、認知、性的適応の進化などを含めた人間の本性を解明する学際的な学問」と位置づけている[1]。研究対象には感情、認知などの他、宗教道徳芸術、病理なども含まれる[2]

進化の視点はほとんどの認知科学者に受け入れられており、進化心理学者とそれ以外の認知科学者の境界は曖昧である。したがって本項ではふつう進化心理学者とは見なされない人物の見解についても言及する。言語の起源芸術宗教の起源の探求は進化心理学に含められることがあるが、それは(コスミデスらが定義したような)狭義の進化心理学よりも進化人類学に近い。
...

進化心理学者は仮説構築のためのメタ理論として一般的に次のような前提を置く[5]

  1. 体の器官はそれぞれ異なる機能を持っている。心臓はポンプであり、胃は食物を消化する。脳は体の内外から情報を得て、行動を引き起こし、生理を管理する。したがって脳は情報処理装置のように働く。脳も他の器官と同様、自然選択によって形作られた。進化心理学者は心の計算理論を強く支持する。
  2. ヒトの心と行動を理解するためにはそれを生成する情報処理装置を理解しなければならない
  3. 我々の脳のプログラムは主に狩猟採集時代の経験と選択圧によって形成された
  4. そのプログラムが引き起こす行動が現在でも適応的だという保証はない。
  5. 恐らくもっとも重大な点は、脳は様々な問題に対処するために多くの異なるプログラムを持つ。異なる問題は通常、異なる進化的解法を必要とする。このプログラムの一つ一つが臓器と見なすことができる。
  6. 心のプログラムは我々の経験を再構成し、判断を生成し、特定の動機や概念を生み出す。また情熱を与え、他者の振る舞いや意図の理解に繋がる文化普遍的な特徴を与える。そして他の考えを合理的である、興味深い、忘れがたいと感じさせる。プログラムはこうして人間が文化を創る基盤の役割を果たす。

進化心理学は次に、心のプログラムを発見し、理解するために適応主義アプローチと呼ばれる手法を用いる。適応主義者は種普遍的に見られる特徴が生物学的適応、すなわちそれを持つ個体の生存と繁殖成功に寄与したために広く見られるのだと仮定し、仮説を構築する。その仮説は実際の検証を経て受け入れられるか棄却される。 

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  本を読むのに周辺知識は不可欠である、ハラリは進化心理学について知識があって、それをベースとして自説を展開している。ハラリがこの章で問題にしているのは箇条書部分、太字にした3と4と5と6である。これらを脳裏に置いて読んでもらいたい。

 本文に戻ろう。主語のThe flourishing field of evolutionary psychology」を「進化心理学の成功した分野」と訳出したのでは日本語として意味をなさぬ。
 スーパーアンカーでofを引くと図を用いて解説している。最近は前置詞のもつ空間的な関係イメージをイラストで説明してくれる辞書が増えている。この辞書もとってもわかりやすい。認知論的なアプローチである。高校生にはジーニアスよりもスーパーアンカーなどのようにイラストで単語のコアイメージの解説のある辞書が便利だろう。

SSCN3611.JPG

 ofの基本イメージは円全体の一部分(赤の部分)なのです。円全体が進化心理学だとすると、その中の巧くいっている部分が赤で示された分野ということ。「進化心理学で広く学者たちに認められている部分、いくつもの論争を経て、ここは確からしいと思われている部分」を指しているのでしょう。こんな長い訳ではいけませんね。(笑)
 「進化心理学で理にかなっていると思われる学説(field)によれば、現在のわたしたちの社会的心理学的な性質はこのような長い農耕前、つまりは狩猟採集時代を通じて形成されたものである。」

 an (or the) A of Bは「AのようなB」という用法、つまりAを形容詞的に訳す場合もある。
 an angel of a woman (天使のような女性)
 an brute of aman(ケダモノのような男) 

(2)  Even today, scholars in this field claim, our brains and minds are adapted to a life of hunting and gathering.


  20 words.標準的な長さの文である。挿入句を[ ]で括り、並び変えてみよう。

(2)' [scholars in this field claim,] our brains and minds are adapted to a life of hunting and gathering even today. 

「この学説を支持する学者によれば、現在ですら、わたしたちの脳や心は数万年続いた狩猟採集時代の生活に順応したままなのである。」 

(3)  Our eating habits, our conflicts and our sexuality interact with our current post-industrial environment, with it mega-cities, aeroplains, telephones and computers.
「わしたちの食習慣や諍い(いさかい)やセックスにかかわる問題は、現在の脱工業化社会、巨大都市、飛行機、通信手段、コンピュータとの軋轢から生じinteractている。」

 32words。心は狩猟採集の暮らしをしていた農耕以前の数万年のままなのに、わたしたちは産業革命による工業化社会を通り過ぎて、すでに脱工業化社会へ突入し、草原や森での生活を離れて、巨大都市に住み、スマホをもち、飛行機で移動し、パソコンを使って暮らしている。心や精神というソフトウェアのOSは数万年前のままなのに、アプリケーションは日進月歩、追いついていないという話である。


(4) This environment gives us more material resouces and longer lives than those enjoyed by any previous generation, but it often makes us feel alienated, depressed and pressured.

  28 words. 無生物主語の文です。
 those=material resouces、it=this environment
「このような環境が/わたしたちにたくさんの資源と長寿を提供している/他のどの世代も享受したことのないほどたくさんの物質資源を/しかし、このような環境はしばしば私たちに疎外や鬱や圧迫を感じさせる」
 こんな訳で十分です。

「このような環境のお陰で、わたしたちは現在のサピエンス以外のどの世代も享受したことのないほど豊かな物質的資源を享受してはいますが、他方で疎外や気力の喪失や圧迫も感じているのです。」


(5) To understand why, evolutionary psychologists argue, we need to delve into the hunter-gatherer world that shaped us, the world that we subconsciously still inhabit.

 delve: to search, especially as if by digging, in order to find a thing or information
She delved into her pocket to find some change.
 inhabit: to live in a place
These remote islands are inhabited only by birds.



(5)' ① we need to delve into the hunter-gatherer world that shaped us [to understand why].
      ② the world that we subconsciously still inhabit.

「わたしたちは調べる必要がある/わたしたちを形作った狩猟採集の世界を/なぜかを理解するために」
「わたしたちの潜在意識がいまだに住んでいる狩猟採集時代の世界を」

 24 wordsの文ですね。滑らかな訳文にしてみます。
「なぜこのようなことが起きているのかを知るためには、あの数万年にわたる農耕以前の狩猟生活、すなわち潜在意識がいまだに住んでいるかの狩猟採集の時代へとさかのぼり実際にどうであったのか調べる必要がある。」

 現代社会の諸制度、中でも一夫一婦制には無理がある。男たちが何人もの女たちと不倫し、女たちが浮気をしたくなるのは無理がないのだ。Sapiensの歴史のほとんどの期間にわたって、つまり狩猟採集の時代は集団の中でセックスはオープンだった。優良な子孫を残すため、そして多くの男たちの保護を得るために、メスは有力な雄を選んで片っ端からセックスしていたのである。セックスをしたオスたちは自分の子どもかもしれないので、自分が番(つが)ったメスが子どもを産むと子育てに協力する。協力してくれるオスが多いほど子孫を残すためには有利。
 脳は数万年前のままで、社会制度のほうは狩猟採集生活をしていた時代にはなかったさまざまな規制を加えている。そこに軋轢が生じてinteractいるというのが、進化心理学の有力な学説。
 面白いでしょう?ハラリのSapiensの続きを読みたくなりませんか?

 今年の大学受験にはハラリの著作から4校で問題が出題されたというが、来年はもっと増えるかもしれません。期待していいでしょう。

<余談:幸福感>
 読んでくれる人が遠隔にもいるのはうれしいものだ。そちら側から見るとわたしはリモートワークをしているわけだ。コロナ騒ぎが始まる半年前からやっていたことになる。ZOOMもいいけどこういう方法もある。「英作文千本ノック」もリモートワークと現実の授業の組み合わせでできている。やって来れば、生徒が書いた英文一つ一つを丁寧に検討して、個別指導授業で英文の書き方のコツを教えられる。解説もメール配信しているから、そちらを読んでくれてもいい。
 目の前の生徒に教えつつ、同時に遠隔地で学ぶ高校生や大学生や社会人ともつながっていく。とっても幸せなことだね。幸せはそれぞれの人の足元にちゃんとある。わたしはやりたかったことの一つをいままさにやりたいようにやっている。(笑)



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