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#4137 Sapiens: page 12 Dec. 1, 2019 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

  原書講読授業を受けている生徒を仮にA君としておこう、高校教科書1~3年の3冊の英文をノートに写し日常使う言葉のレベルでの和訳トレーニングを7月までに済ませた。このやりかたは勉強というよりも修行と言っていいだろう。辞書の訳語に頼らず、書き手がイメージした内容を、自分の語彙から自然な日本語に置き換えるのは、高校生にとってはなかなかしんどい、まさしく「修行」なのである。1年3か月で高校教科書3年分の精読と日常語に落としたレベルの和訳をやり切った。この生徒はセルフコントロールのできる努力の人である。
 a, an, the, 無冠詞の使い分けに焦点を当て、代名詞は何を受けているのか全部確認し、複雑な構文は生成文法でシンプル・センテンスに分解して解説してきた、同じ精読方式で、サピエンスも10ページまで読み進み語彙にもそろそろ慣れてきただろうから、頭から順に「意味の塊単位」を意識して読み下していくようにトレーニング法を変えはじめた。「1年7か月の精読修行を終えているから、速度重視の読みに切り換えて構わないのである。この生徒に続く者が出てほしいが、同じだけの努力ができる生徒はまだ出現していない、期待はしている。
 彼は10月に英検2級に高得点(G2+7、overall2212)で合格しているが、進研模試の長文問題は9割獲れているのに、難易度の高い長文問題を出題するZ会模試や東進模試で時間内に読み切れてないというので、速度重視の読解へステップアップ。精読を十分にやり切らないと、速度アップは読みをいい加減にするだけになりかねない。そして、いざというときに、わかりやすい日本語で正確な和訳ができないことになる。精読修行はそういう弊害を防いでくれる。スラッシュ・リーディングへ切り替えるための「準備運動=精読修行」は十分な量をこなしたということ
 前置きはここまで。

 11月最終週分の授業で、解説した部分をもう一つ紹介する。太字やアンダーラインを引いた文章の解説をしたのだが、段落のトップから紹介しないと事情が呑み込みづらいので、12ページ第3段落冒頭から引用する。

<12.3>  That spectacular leap from the middle to the top had enormous consequences.  Other animals at the top of the pyramid, such as lions and sharks, evolved into that position very gradually, over millions of years.  This enabled the ecosystem to develop checks and balances that prevent lions and sharks from wreaking too much havoc.  As lions became deadlier, so gazelles evolved to rau faster, hyenas to cooporate better, and rhinoceroses to be more badtemperdIn contrast, humankind ascended to the top so quickly that the ecosystem was not given time to adjust.  Moreover, humans themselves failed to adjust.  Most top predator of the planet are majestic creatures.  Millions of years of dominion have filled them with self-confidence.  Sapiens by contrast is more like a banana-republic dictator.

(1)That spectacular leap from the middle to the top/ had enormous consequences.

  文型はSVOだから第Ⅲ文型、スラッシュまでが主語である。とくに問題のない文なので、解説なしとする。訳文は最後のところに、翻訳者である柴田さんのものを転載してある。


(2)Other animals at the top of the pyramid/, such as lions and sharks,/ evolved into that position very gradually/, over millions of years. 
 文型は第Ⅰ文型、
SVである。三つ目のスラッシュはスラッシュの前の句の言い換え。「徐々にというのは数百万年」、この文も解説の必要がないだろう。

(3) This enabled the ecosystem to develop checks and balances/ that prevent lions and sharks from wreaking too much havoc. 
 enable:Her help will enable me to do the job sooner.(彼女が手伝ってくれれば、もっと早く仕事を済ませられるのですが)
 thisは目の文章を受けている。thatは関係代名詞。

「(生態系の頂点にいる他の動物、ライオンやサメのような、数百万年をかけて徐々にその地位に進化した)そういう場合は、生態系がチェック・アンド・バランスを可能ならしめてくれる/どういうチェック・アンド/バランスかというと、ライオンとサメが破局的な混乱を引き起こさぬように」

 ライオンが増えすぎたら、その餌になっている動物を食いつくしてしまい、餌が無くなり絶滅する。食べつくされて絶滅した動物が天敵だった生物は、天敵がいなくなり大繁殖する。これらが安定した生態系全体を大混乱に陥れるということだろう。次の文章で具体的に説明している。こういうわかりにくいところは、だいがい後続の文章で説明するような論理構成になっているから心配いらぬ。ハラリは次の文章で、百獣の王であるライオンとその餌のガゼル、そしてライオンが食い残したものをグループの力を駆使して最初にあさるハイエナ、そうしたことを繰り返すことで集団行動が巧みになりサイにまでちょっかいを出すハイエナ、これらを例に挙げて具体的に説明している。わかりにくかったらどんどん先を読めばいいのである。日本語の本を読むときに、論理展開を予想して「先読み」したり、段落ごとの筋を追いながら読むのと一緒である。
 語彙の豊富なそして論理展開のしっかりした日本語の本をたくさん読んでいる人は英語で書かれた本を読むのも巧みだ。大量の日本語の本を読んで培ったスキルが英文を読むときに応用できるからそうなる。日本語のレベルの高い本を読めないのに、英語で書かれたレベルの高い本は読めるわけがない。だから、英語で日常会話するのと英語で書かれた本を読むのはスキルが違う。語彙の豊富な原書、論理展開のしっかりした原書を読んで、スキルを磨くほかない。


(4) As lions became deadlier, so gazelles evolved to ran faster, hyenas to cooporate better, and rhinoceroses to be more badtemperd. 
  "...er,...er,...er":~すればするほど~だという文章である。
 deadlierが日本語になりにくい。
 deadly:①命にかかわるような
、命取りになる、致命的な、③完全な、絶対の ④死を思わせる
 英英辞典CALD(Cambridge Advanced Leaner's Dictionary)を引いてみたら、簡単だった。
 deadly: very dangerous
     見出し語の’guideword’にこの説明が載っていた。

「ライオンが危険になればなるほど、ガゼルは早く走れるように進化し、ハイエナはいっそう協力するように進化、サイはますます荒々しくなった」


(5) In contrast, humankind ascended to the top so quickly that the ecosystem was not given time to adjust. 
 受験英語ではよく出てくるお馴染みの構文である。「soのイメージは「(一定方向の)流れ(矢印⇒)」。接続詞なら「だから」を表します」」(大西泰斗「ラジオ英会話12月号」p.16)

「ライオンやサメとは対照的に、人類はあまりにも急速に生態系の頂点に上り詰めたために、生態系には調整する時間が与えられなかった。」
 そのことが、後々人類にたいへんな災厄をもたらす原因となったというのがハラリの主張であるから、この部分は重要である。赤いアンダーラインを引くべき箇所だ。

 最後の文に出てくる" banana-republic "とはバナナしか輸出品目のない弱小国という意味である。

<"in contrast"と"by contrast"考:お遊び>
 さて、最後に残してある二つの前置詞句について、簡単に触れておこう。"in contrast"と "by contrast"だが、辞書には「in [by] contrast」となっている。どちらでも同じ意味だということ。
 英語の作文は同じ語彙を同じ文章中で使うのを嫌う、文章が離れていても近くにあればこの例のようにわざわざ変えるのだ、つまり修辞上のお作法。
 でも、inは「~の中」だし、byの原義は「近く」である。そのニュアンスの違いが意味をもっているのかもしれないが、わたしにはわからない。
 inのほうのcontrastは、たとえばライオンやサメが生態系の頂上へ昇りつめるのに数百万年かかっているのに、人類はたかだか10万年ほどで頂上へ昇りつめてしまった、これら三つの生き物が生態系の頂上へ上り詰めるのに要した時間の違いに焦点が当たっているように読んだ。byのほうは他の捕食者が堂々たる生き物なのに比べて人類はまるで弱小国の独裁者のようだと述べているところで使っている。
 多少のこじつけを厭わなければ、これまでに生態系の頂上へと昇りつめた捕食者たちの中で(in)人間はどうであったかを述べ、生態系の頂点へと昇りつめた他の捕食者たちが堂々としているのに対して、近くに並べてみると(by)捕食者の一員であるはずの人間は不安にさいなまされた弱い存在に見えるというふうに、ニュアンスを使い分けたようにも読める。いま気がついた(笑)ので、この点について生徒とは議論していない。O君、申し訳ない、この個所は注意散漫でした。さて、あなたはどう読むだろう?

<音読トレーニングのススメ>
 鬼に金棒ということがある。意味が分かったところで、意味の塊を意識しながら30-100回音読してみてほしい。
 できれば、CDつきの別教材で、そういう読みのトレーニングをすれば、読む速度は数倍にアップしてしまう。リスニング力も飛躍的に伸ばせる。弊ブログでは二つ教材を紹介している。同時通訳の国井信一さんと橋本敬子さんの頭文字をとった『KHシステム』と川本佐奈恵さんの『英語をモノにする7つの音読メソッド』がおススメ。高校生には川本さんの本が適している。効果はKHシステムのほうがずっと高いが、トレーニング時間が数倍かかる。
 同時通訳者による類似の本が他にも出ているので、本屋で手に取って中身を閲覧して、自分に合ったものを選んだらいい。わたしがいいと言っても、あなたのことを私は知らないから、知れば別の本を勧めるかもしれない、あなたのことを熟知していない他人からの推薦はあてにならぬもの。(笑)

<柴田訳紹介>
 『サピエンス全史』の翻訳者の柴田さんの訳を転載する。アンダーラインを引いた部分は巧みな意訳だと思う、原文の意味するところがちゃんとおさまっている。
中位から頂点へのそのような華々しい跳躍は、重大な結果をもたらした。ピラミッドの頂点にいるライオンやサメのような他の動物は、何百万年もかけて徐々にその地位へと進化した。そのため、ライオンやサメが度を越えた捕食を行わないように、生態系は統制と均衡の仕組みを築き上げることができた。ライオンが狩りの技量をあげると、進化によってガゼルの足が速くなり、ハイエナは協力がうまくなり、サイはいっそう気が荒くなった。それに引き換え、人間はあっという間に頂点に上り詰めたので、生態系は順応する暇がなかった。そのうえ、人類も順応しそこなった。地球に君臨する捕食者の大半は、堂々たる生き物だ。何百万年にも及ぶ支配のお陰で、彼らは自信に満ちている。それに比べると、サピエンスはむしろ、政情不安定な弱小国の独裁者のようなものだ。」『サピエンス全史(上)』24頁


<余談:>…12/2夜追記
 前回10月の進研模試の長文問題は読み切れなかったとA君。東進模試やZ会のほうが読めたという。Z会のほうが長文の難易度は高い。語彙レベルが高いのに文章の修辞上の難易度も見合っているからだろう。
 周辺知識のあるものとそうでないものではまるで違ってくる。問題文で知らない単語に印をつけて、前後関係から類推して当たっていたものとそうでないものを分けてみたという。まったくわからなかったのが数語あったと言っていた。
 高校1-3年の教科書全文を精読したって、ハラリ”Sapiens”の50ページに満たないから、わずかな量しか読んでいないということ。200頁も読み終わるころには、大学受験問題を読むのに時間が足りないなんてことはなくなる。語彙は多読で増やすのが王道、でも、高校生が読む英文の分量なんて高が知れている。様々なジャンルの記事が並ぶ”JapanTimes”を読むのがいいのだが、根室では定期購読しかない。高校生が毎月5500円払うのは生徒が英語に関心が高く、親がよほど理解がないと出してもらえない。大学へ行って、自分の専門の古典を原書で2冊読めば、飛躍的に読書力が伸びる。わたしの場合はEric Roll "A History of Economic Thought"を100頁ほどノートに書き写して和訳をやったときに力がついたかな。100頁そういう読み方をすると、あとは辞書なしでスラスラ読めるようになった。語彙にも文体にも慣れちゃうのです。ところがどうにも日本語にならない部分が数ページに一つは出てくる。著名な経済学者が訳したものを原文と比べると、どうしてそういう訳文が出てくるのかわからない。それで限界もわかって、生成文法の専門書を読んでから、もう一度原文を読んだらよくわかった。腕のよい翻訳者でもある著名な経済学者が翻訳しても、読めないところがあることを知りました。前後関係で類推した訳をしてました。文法工程指数の高い文が出てくると、そういう処理をしてるのがよくわかりました。翻訳の出版当時は生成文法なんて世の中にありませんから仕方のないことでした。どの分野の本も20-30頁読むと使用語彙になれるので、その後は速度を上げて読めるものです。

 エリック・ロールの本を読む直前の大学3年次に、外書講読授業で英字新聞社説を1年間毎週読んだことでも力がつきました。分量は年間で社説40個ほどですからたいしたことはありませんが、他の記事にも目を通しました、それで語彙が増えたのでしょう。土曜日の授業でしたが、前日の金曜日の"Mainichi Daily News"の社説がテクストでした。東京の大学へ行けば、ほとんどの駅のキヨスクで英字新聞売ってます。こういう環境も大事だね。社会人になってからもブラッシュアップはしてました。仕事で必要だったので、コンピュータシステム開発関係の尖端技術書を原書で数冊、エリック・ロールの本を読んだ時のようなスタイルで読みました。富士通製ワープロ専用機OASISに英文をタイピングして、構文が面倒なところは生成文法を応用して和訳してました。なんであんなことをしてたのか、意味不明ですが、面白かったからでしょう。
(マイクロソフトのWORDが出てからはそちらへ切り替えました。修士論文を書くときにドイツ語文献をタイピングする必要があったので、スイス製のタイプライターを買って、タイピング教本でしっかりトレーニングしたから、パソコンを使い始めたときから、タイピング速度はタイピスト並みでした。機械式タイプライターは小指の圧力が弱いと、文字が薄くなるのでちゃんとトレーニングしないと、綺麗に打てません) 
 翻訳が出ていない段階で読まないと仕事に間に合わないので、そうしてました。1978年から土日が休みの企業に勤務していたから、時間がとれました。書斎のあったことも大きい、女房殿に感謝です。テレビのかかっている横でなんかしばらく集中できませんから。

 読み物を読むだけでなく、もちろん、高校生が単語暗記用の教材を並行してやるのは結構な話ですよ。A君はスマホ・アプリを利用して単語増強トレーニングしてます。
 生成文法での解説は、じつは英作文にも多少は役に立ちます。言いたいことをシンプルセンテンスで書いて、それを生成文法とは逆の工程をたどって組み上げたら、密度の高い英文になるからでしょう。いきなり書ける人は必要ありません。



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