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#4125 Sapiens: page 10 Nov. 16, 2019 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

<最終更新情報>
11/19朝8時半 KHシステムについて追記 

 極東の町根室は昨日から、最低気温がマイナスになっている、雪も舞った、いよいよ冬到来だ。

 ニムオロ塾が10/26~11/2まで休み、そのあと生徒が修学旅行で2週間やれなかったから、久々のSapiens原書講読授業である。ようやく10頁まできたが、質問の量が半分くらいに減った、慣れてきたのだろう。
 今回から、「ページ番号.連番」で付番することにした。これなら読者に何ページの何番目の文の解説なのかがすぐにわかる。

<10.1>  The more things these hands could do, the more successful their owners were, so evolutionary pressure brought about an increasing concentration of nerves and finely turned muscles in the palms and fingers.  …(32語)

 この文では三つ問題点があった。一つは構文がつかめないということ。それと’evolutionary pressure’をどう訳せばいいのか呻吟していた。著者が何を言いたいのか、つかめなかったからだろう。文脈を追いながら読むのはなかなかたいへんだ。この生徒は日本語の文なら、文脈を追いながら読める。5年間で15冊、良質の本を選んで、日本語の音読トレーニングをやったから、本をよく読む大学生並みの読解力はある。それでも、英文を文脈を追いながら読むのはまだむずかしいようだ。

 音読させてみたら、finelyを「フィネリー」と読んでいた、なるほどそれでは意味が分からぬ。fineを知らない高校生はいない。「ファイン」の派生語であるから「ファインリー」と読んでくれたらよかった。音読トレーニング不足、物語のCDや長文トレーニング用のCDで自分でやってもらうしかない。
 例によってこの文をシンプル・センテンスに分解して見せた。
a: The more things these hands could do (O+S+V)
b: their owners were  the more successful (O+S+V)
c: so evolutionary pressure brought about an increasing concentration of nerves and (finely turned) muscles in the palms and fingers. (接続詞+S+V+O)

*bring aboutは句動詞で目的語をとる。「前置詞about+名詞句」ではないので注意!

 cの文から修飾語を取り除いて骨格だけを示すと次のようになる。
 evolutionary pressure brought about a  concentration 
 (進化圧は集中をもたらす…第Ⅲ文型SVO)
  複雑な分に遭遇したら、修飾語を外して骨格だけ見るようにしたらいい。骨格だけの単純な文(simple sentence)にしてしまえば、意味の理解が簡単にできる。目的語の concentration の説明が of 以下の前置詞句である。「手のひらと指に神経と精密な動きをする筋肉の集中をもたらす」ということ。実際には、本文にある修飾語を括弧で括ってしまうといい。

evolutionary pressure brought about an (increasing) concentration [of {nerves and (finely turned) muscles} in (the palms and fingers)].

 という具合に。複雑で手に余る文だけでいいよ、全部はやらない、ほとんどの文章はそう複雑ではないから、ごく一部でいい、問題が起きたときにやればいい。
 デカルトは、
複雑な問題に遭遇したら、科学の方法「四つの規則」の2番目次のように処理することを提案している。
「わたしが検討する難問の一つ一つを、できるだけ多くの、しかも問題をよりよくとくために、必要なだけの小部分に分割すること
」『方法序説』(岩波文庫ワイド版p.29)
 数学でも英語でも応用できる至言である。

 意味の塊を意識して音読トレーニングを積むと、スムーズに読めるようになる。意味の塊を視覚化するためにスラッシュを入れてみよう。
The more things these hands could do, /the more successful their owners were, /so evolutionary pressure brought about an increasing concentration/ of nerves and finely turned muscles in the palms and fingers.
 音読するときはこんなふうに塊ごとに読む。1番目のスラッシュを除くと、2番目以降のスラッシュは前の文か直前の名詞の補足説明になっている。音読慣れてくると、自然に意味の塊ごとに読めるようになるから、意味がとりやすくなる。やはり、基本は「読み・書き・そろばん」、最優先すべきは「読み」です。
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 ちょっと脱線します。音読も意味の塊を意識して読まないと、聞いていてもピンときません。日本語のテクストを考えてください。読むときには意味の塊をつかみながら読みます。先読みという技術がそれです。平仮名が続いているところをどこで区切って読むかは、先読みして意味の塊をつかんでいなければ、正確に読むことができないのです。英語も同じで、先読みして英文を読まないと、適切な区切り方ができません。これはこれでトレーニングが必要です。同時通訳の技術を応用した音読教材があります。8分くらいの分量の英文を意味の塊と、意味のイメージを思い浮かべながら徹底的にシャドーイングします。運動系の部活のトレーニングに似ています。楽器の演奏トレーニングと同じですね。同時通訳の国井信一さんと橋本敬子さんの頭文字をとってKHシステムという教材があります。英検2級ではかなり背伸びするような教材です。英検1級へチャレンジするときに必要になるようなレベルの教材だと思います。Sapiensを読む速度を飛躍的にあげるために、習得すべき技術です。大学受験レベルのトレーニング教材ではありませんので、この授業の生徒であるO君には、「最適なトレーニング教材があるよ」と伝えるだけ。無理強いするつもりはありません。次回の弊ブログ#4126で紹介します。


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 ’the more ~the more ...’ は「~すればするほど…だ」という受験英語お馴染みの比較級の構文である。この構文の持ち込むために、後続の文で倒置が起きているだけ、補語 ’the more successful’ が先頭にきた。
 二つ目は ’evolutionary pressure’ である。「進化の」という形容詞と「圧力」という名詞がつながっているから、すなおに「進化の圧力」でいい。翻訳のプロなら字数を切り詰める必要があるので、「進化圧」としたいところだ。こちらの語のほうがずっと格調高くなるのはお判りいただけるだろう。訳文のセンスを磨くのは精読の目標のひとつだ。
 ファインはファイン・ケミカル(精密化学製品)で日本語になっている。副詞語尾の'ly'がついているから、副詞である。意味は「精密に」

a:  これら両手ができることが多くなればなるほど
b: 両手のもち主はなんでもうまくできるようになる
c: だから、進化圧は掌と指の神経と精密に調整された筋肉と神経の集中を増大をもたらした


手によってできることが増えれば増えるほど、そのもち主は有利になるので、進化圧がかかり、手のひらと指には神経と微調整の効いた筋肉が次第に集中した」柴田訳

  次の質問は文頭のyetである。高校教科書ではあまり見かけないから、とまどっていた。副詞の yet のほうを思い浮かべてしまうとアウトである。ここでは接続詞だ。

<10.2> The first evidence for tool production dates from about 2.5 million years ago, and the manufacture and use of tools are the criteria by which archaeologists recognaize ancient human.

  Yet walking upright has its downside. The skelton of our primete ancestors develop for millons of years to support a creature that walked on all fours and had a relatively small head.  Ajusting to an upright position was quite a challenge, especially when the scaffolding had to support an extra-large cranium.
...(28 words, 6 words, 25 words, 20 words)

 on all fours:四つん這いになって

  ここでは傍線部の単語の品詞を二つ読み間違えた。辞書を引くときは、その文で使われている単語の品詞がなんであるかを確認してから引こう。そのためには文型を即座につかむトレーニングをしなたら読んでいけばいい。datesの前までが主語だから、datesは動詞として使われている。主語が三人称単数だからdateにsがついている。date fromで「~始まる」という意味がある。その次の文にandがすこし間を置いてふたつあることにも惑わされたのだろう。’the manufacture and use of tools ’が主語である。そこまでわかれば、何ともない文なのだ。
 'Yet'が文頭にあるから、接続詞だと気がつけば簡単だ。受験英語でお馴染みの現在完了否定文の'not yet'や疑問文のyetしか見たことがなければ、戸惑うことになる。接続詞だと気がついたら、前後の文からどういう日本語の接続詞がよいか考えたらいい、いちいち訳語を暗記する必要はない。暗記したって文脈を読まないとどれが適切かわからないのだから。接続詞はしばしば多様な用法があるから、暗記しても役に立たぬケースが多い(たとえばwhile)。
 「直立歩行には悪い面downsideがある」と書いて、そのあとでそれがどういうことか具体的に説明している。この文の前では、直立歩行のよい面を縷々述べている。掌や指が精密に動くことで道具を生産し使う、そうすることで脳や神経が発達すると書いてある。今度は「悪い面downside」を書いているから、逆接の接続詞である。「しかしながら」とか「それにもかかわらず」という語彙を選んだらいい。それから辞書でyetの接続詞の項を引いて確認してもらいたい。

道具の製造を示す所の証拠は約250万年前までさかのぼる。そして、道具の製造と使用は、考古学者が古代の人類の存在を認める基準となる。だが、直立歩行には欠点もある。わたしたち祖先の霊長類の骨格は、頭が比較的小さい四足歩行の生き物を支えるために何百万年にもわたって進化した。したがって、直立の姿勢に順応するのはたいへんな難題だった。その骨格が、特大の頭を支えなければならないから、なおさらだ。」柴田訳
 cranium:頭蓋
 scaffolding:足場、
  :a structure of metal poles and wooden boards put against a building for workers to stand on when they want to reach the higher parts of the building....CALD

 このscaffoldingで生徒とわたしは、適当な日本語語彙探しに苦労した。「足場」ではまるで違う、「下肢」では文脈に合わぬ、巨大な頭蓋を支えるのは下肢だけではないからだ。首や肩も大きな頭蓋を支えている。だから、肩こりが起きる。翻訳者の柴田さんはそれらを含めて単刀直入に「骨格」と訳している。さすがプロ、語彙の選び方が上手だね。こういうところはプロの仕事から学ぼう。

<これまでの経緯(いきさつ)
 この生徒は中学生の時は、独力で問題集「シリウス」をやらせていた。問題集に載っている解説だけで独力で問題を解くことができたから、個別指導でときどき質問に応えていただけ。高校に入ってから、1-3年の教科書の精読を始めた。左のページに1行おきに全文書き写し、右のページに普段使っている言葉で訳文を書かせた。意味の分かるこなれた訳文にするために、語彙選択に苦労していた。「大和言葉落とし」なんてこともやらせた。3年生の教科書が終わって、ハラリのSapiensを読み始めたのである。カテゴリー「Sapiens」をクリックして記事を読んだら、いつから始めたかわかる。記事が10回分あるから、10週教えたことになる。週2回教えている。教えているというよりも、塾へ来てざっと読んで、文を書き写し、電子辞書で単語を引いて単語の意味を調べ、和訳をできるだけ日常使っている言葉で書いている。もちろん、常に文脈を追うことも要求しているから、しんどいと同時に知的な愉しさも感じているようだ。

 ずいぶんゆっくりやったからページ数ははかどっていない。精読方式でようやく10頁まで来て、ようやく質問の数が減りはじめた。これからはますますページ当たりの質問の数が減り、徐々に速度が上がっていくだろう。読解に必要なスキルが身についていくからだ。月ごとにペースを上げていく。40ページを超えるころには4ページ/週のペース、3月末頃にはそのあたりまでたどり着きたい。
 高校3年生の教科書『VIVIDⅢ』は各章がPartに分かれていて、3-4 parts構成で9章で合計33 partsあり、各partが約135文字あって、全章で4500文字ある。Sapiensは300/ページあるから、15ページで高校3年生の教科書1冊に相当する。
 30ページのあたりまでは精読である。それ以降は速度重視で、スラッシュ・リーディングへ切り換える。1か月あれば慣れる。3月末までに30-40頁だろう。
 4-9月まで半年間で25回、自分で読んできて、あいまいなところをディスカッションするだけでいいから、200頁は読める。高校3年生の教科書16年分の量であるが、どこまで期待を上回ってくれるか楽しみだ。本文は466頁ある。
 あと(九月以降)はわたしの助けはいらない、好きなものを好きなだけ読んだらいい。なにか好きな小説を選んで、朗読CDを利用してシャドゥイングやリテンションもしたらいい。分野の異なるものを読めば、語彙力は飛躍的に伸びる。どのようなものがあるかは#4126で紹介するつもりだ。
 全国どこの大学の大学院医学研究科でも英語の試験は合格できる。大学生になってからは医学関係の専門書と他分野の本をバランスよく10冊ほど読んで語彙力を爆発的に増やしたらいい。望むなら、海外の研究機関で数年間修行することも可能だろう。
 中学生の時から、この生徒には受験英語を教えているつもりはない。自分で勝手にやっている。数学も同じだ。(笑)

 この生徒は、つい最近英検2級に合格している。
 一次(筆記試験)G2+7、二次(面接)G2+3, Overall 2212、「読む・聴く・書く・話す」、4技能のバランスがいい。どれも500ポイントを超え、4技能の偏差は±5%程度におさまっている。

 医学部で英検2級を要求する大学があったからだが、民間試験導入はなくなった。
 英検受験は初回が準2級、次いで2級を受けたが、どちらも一発合格。漢検は初めて受験、それも2級、こちらも一発合格。ちゃんと準備しないと3回の受験で3回ともかなり高い合格点でクリアできないが、それができている。自分をそこまでもっていける、そういう能力を培うことこそが大事だ。
 資格マニアではないようで、漢字検定準1級も英検準1級も受けるつもりがないらしい。漢字も英語も目的ではなくて、彼にとっては読みたい本や読まなければならない本を読むためのツールである。

 1日は誰でもが24時間ある、その時間の使い方が、ますます上手になった。最近1か月くらいで、また時間の使い方に工夫を入れたようだ。12時ころには寝るようになった。ちょっとやりすぎ、受験は長丁場だからクールダウンしたほうがいい、12時には寝るようにとは伝えてはあったが、自分で工夫してちゃんとコントロールできている、効率をアップしてそれを実現してしまった、たいしたものだと思う。わたしは要所要所で報告を聞いて安心しているだけ。
 目標を設定して、目の前の仕事に誠実に取り組むだけ、何を得たのかではなく、いまこの瞬間をどう生きるのかが問題、素直な生徒である。

 英語の勉強を徹底してやりたい高校生や大学生、そして家庭の事情で勉強が好きなのに大学へ行けなかった人のために、Sapiens原書講読講座をアップしている。目的は学習環境の地域格差をできるだけ縮小したいから。
 amazonでSapiensを購入して、スマホで弊ブログ記事を読み、日本のどこかで誰かが学習に利用してくれること、それがわたしの意図するところ。
 読者の皆様に感謝しつつ、このへんで、シリーズ10回目の筆を擱(お)く。


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