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#4117 東野圭吾:『恋のゴンドラ』を読む Nov. 6, 2019 [44. 本を読む]

 東京から戻ってくるときに、飛行機の中で単行本の小説を一つ読むことにしている。今回選んだのは聖蹟桜ヶ丘アートマンの熊沢書店で見つけた標記作品だった。

 スキー場の里沢温泉(長野県の野沢温泉スキー場がモデルではないかとネットの噂あり)を舞台に、用意周到に組み立てられたプロットで舞台回しがなされる。主人公は広太と美雪である。広太はリフォーム会社に勤務して設計と営業を担当している。美雪も同じ会社に勤務して同棲中。
 二人が、それぞれ相手に内緒で里沢温泉スキー場へスノーボードに出かける。

 関連のない話が一つ、また一つと付け加えられるのだが、人間関係が思わぬところでつながってくる。こういうところは東野圭吾の得意芸で、計算しつくしたプロット構成になっている。
 ホテルで働く人たちが出てくるが、『マスカレード・ホテル』ではフロント係が主人公になっていたが、今回は飲食部、要するに料理やレストラン関係者たちがでてくる。それぞれの担当者ごとの仕事ぶりが具体的でじつによく書けている。この部分だけでも読む価値がある。仕事とは何か、プロとはどういうことかが描ける小説家は少ない。『マスカレード・ホテル』を書いたときに、ホテルの業務を広く取材してあったのだろう。それらの材料をどのように使おうかとプロットをいくつか連関させながら、思いがけない人間関係の糸を紡ぎ出すことで面白い小説を書き上げたようだ。

 東野圭吾は大阪府立大工学部電気工学科を卒業して、デンソーで数年勤務している。だから、サラリーマンの仕事、組織がよくわかって描いている。『ホテル・マスカレード』ではフロント係と上司や支配人の関係、マネジメントの視点が説得力をもって書き切れていた。こういう小説家は珍しい。大企業での勤務経験があるから、取材の視点がしっかりしている。プロの仕事がどういうものか、具体的で現実的に描けるのだ。
 『恋のゴンドラ』では料理部門で働く人が数人出てくるが、プレーボーイの水城と日田がまるでコインの表と裏のような対照的な性格をもって現れてくる。かれらにデパートの化粧品コーナーで働く美人の女性2人が絡んできて、どんくさくて空気の読めない日田への評価が当初は悲惨なくらい低いが、自分色に染めたら、とってもスマートな男性に変身させられそうだとある時に気がつく。…

 あいかわらず、プロット運びの名人だ。主人公がかってに踊り出し、収拾がかなくなりがちな夢枕獏とはまったく違うタイプの小説家である。

*#3052 東野圭吾『マスカレード・ホテル』を読む  May 31, 2015
https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2015-05-31-1

 #3093 東野圭吾『禁断の魔術』を読む:安保法制と軍需産業と成長路線は一体のもの  July 25, 2015
https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2015-07-25-1




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恋のゴンドラ (実業之日本社文庫)

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  • 出版社/メーカー: 集英社
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  • 出版社/メーカー: 集英社
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夢幻花(むげんばな) (PHP文芸文庫)

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ラプラスの魔女 (角川文庫)

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