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#4109 Sapiens: p.9 Oct. 19, 2019 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

<最終更新情報>
10/20 朝6時20分itの用法解説追記 10時15分<余談:平井呈一>を追記 
10/21 朝8時20分 itの用法、江川泰一郎『改訂三版・英文法解説』からの引用追記


 話がつながっているので、読者の便利のために前回の文を再掲する。
<9.1> Mommals weighting sixty kilograms have an average brain size of 200 cubic centimetres.  The earliest men and women, 2.5 million years ago, had brains of about 600 cubic centimetres.  Modern Sapiens sport a brain were  averaging 1,200-1,400 cubic centimetres. Neanderthal brains were even bigger.  
  That evolution should select for larger brains may seem to us like, well, a no-brainer. 

 ここまで、前回とりあげた。ここからが、今回取り上げる文。

<9.2>  We are so enamoured of our high intelligence that we assume that when it comes to cerebral power, more must be better.

 辞書を引いてしばらく考えていたが、構文がつかめないという。なんてことはない、受験英語でお馴染みの「so…that」構文である。「…」の部分が長いだけ。そしてthatが二つ、whenが一つ、どうやら複雑な節構造になっている。従属節が3個ある文は高校英語教科書には載っていない。3つに分解してみる。デカルト『方法序説』「四つの規則」、「第二」より問題をよりよくとくために必要なだけの小部分に分割すること」の応用だ。
a) We are so enamoured of our high intelligence that we assume that
b) when it comes to cerebral power
c) more(=(larger brains) ) must be better

  bの文に使われている [come to] の訳にこまっていた。これは成句である、用例を知らないと訳せない。ジーニアス4版を引いても、適当な用例が見つからなかった。生徒の質問にはトコトン付き合わなければならない。わからなければ、わからぬと言い、そして調べる誠実さが教える側には必要だと思う。生徒からの質問は、内容によっては自身の勉強の機会でもあるから、ありがたいことなのだ。勉強の楽しさはこういう探索をすることにも見出せる、面白いのである。丁寧に『英語基本動詞辞典』のcomeの項を読んでいく。こういう専門辞書を丁寧に読むことは、これを作った小西友七さんの膨大な知識の一部をわが身に吸収することを意味している。それが積み重なっていくことで、思考にゆっくりと変化が訪れる。
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NB30 「O<人[物・事]ということになると」の意で 'when it comes to O'  《Oは名詞・動名詞》の成句表現がある。:Joe is not good in sports, but when it comes to arithmetic he's the best in the class.--Makkai  ジョーはスポーツは不得意だが、算数となるとクラスで一番だ / I get nervous when it comes to tolking to Mr. Johns.--Clark  ジョーンズ氏と話す段になると神経質になる 
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 役に立つ辞書です。英語が好きな生徒諸君は、正月のお小遣いで購入したらいい。「基本動詞」「形容詞・副詞」「名詞」の三種類が出ている。『英語基本動詞辞典』はcomeの用法解説に9頁を費やしている。

 toは「到達」を表すので、whenが付加されると、「それが算数のところまで来ると」⇒「算数となると」、こういうことだろうか。
 この節で主語となっている it は、<[漠然と状況・事情を示して]■決まり文句に多く、日本語に訳さない>。ジーニアス4版には用例として、次の文が載っている。
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 It's your turn. あなたの番です /  How's it going.ご機嫌(景気)はいかが? /  I made it.間に合った。やったぞ /  It happens.よくあることだよ /  Forget it.(そのことは)もういいよ / Can it.うるさい  / Hold it. とまれ / Get it? わかった(=I got it.) 
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 英語が苦手な高2の生徒5名相手にやっている英語短期特訓補習授業#4105の(11)で 'It's your turn.'をとりあげている。https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2019-10-17
 高校生がもっている受験英文法書にはどうなっているのか調べてみた。江川泰一郎『改訂三版・英文法解説』の代名詞の章「36. 状況のit」「(1)主語となる例」の4文例目(p.48)にピッタリ('come to'も含まれている)のものが載っていたので紹介する。

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When it comes to making things, Mike is the cleverest person I know.
(何か物を作るとなると、マイクほど器用な人を知らない)
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 '状況のit'の文例として、成句の'come to'を絡めたものを選ぶところに江川先生のセンスの良さがでている。驚き桃の木山椒の木です。


a) わたしたちは自分の高い知能に酔いしれているので、that以下のことを前提に考えている
b) 大脳のパワーとなると
c) より大きい脳のほうがいいに決まっている

 that節が2回出てきて、あとのほうはthat whenとなっているし、最後の節は主語が省略されているので、頭がくらくらして、真っ白けになったのだろう。「…」が短ければ、「so…that」構文を見落とすはずがない。大きな脳をもっていても、時に麻痺してしまう。(笑)
 わたしも成句表現の勉強になった。だから、教えるということは勉強するということと同義である。
 論理を追って読んでいれば、「more=larger brains」であることはだれでも気がつく。英語は同じ語を続けて使わないから、比較級を含む名詞句はこの場合のようにmoreで言い換えたら読み手にわかる、初めて見たね。ハラリは読み手にその程度の読解力のあることを前提に、この本を書いている。
「わたしたちは自分の高い知能に酔いしれているので、脳となると、大きい方がいいに決まっていると考えている」

「わたしたちは自分の高い知能に酔いしれているので、脳については、大きいに越したことはないはずだと思い込んでいる」柴田訳
 柴田訳でもitは訳出されていない、決まり文句のitだから、ジーニアスの説明通りの処理をしている。
 ここでも訳文の言葉の節約の跡がみられる。「脳がより大きい」⇒「大きい」。

 assumeには「仮定する、前提する、妥当である」などの訳語があるが、「思い込んでいる」とさらりと片付けたところが巧い。
 こうして丹念に見て行くと、プロの技は参考になる。わたしたちは訳文を短縮する必要がないのだから、ハラリが脳にイメージしたものを、誤解なく伝えるわかりやすい訳文をこころがけたらいい。でも、本音を言うと、永井荷風の『断腸亭日常』のような、短くて切れる日本語で書いてみたいものだ。彼の弟子の平井呈一の翻訳は切れる日本語、臨場感のある日本語翻訳として最高水準を見せてくれている。ラフカディオ・ハーンの作品で鬼気迫るものがある。遠藤利國著『明治二十五年九月のほととぎす』(未知谷刊)に採録されているので、「余談」のところで追記・引用しておく。



<9.3>  But if that were the case, the feline family would also have produced cats who could do calculus and frogs would by now have launched their own space programme. Why are giant brains so rare in the animal kingdom?

 ここは構文がつかめなかったのではなく、論理的整合性がとれなくなってしまっての質問だった。話の筋が見えなくなっただけ。仮定法過去の文だから、もうちょっとで独力で読めただろう。
 the case: 真相、事実、ほんとう   feline:ネコ科の  calculus:微分積分

a) But if that were the case,
b) the feline family would also have produced cats who could do calculus
c) and frogs would by now have launched their own space programme


  ここまで切り離したら、仮定法を勉強し終わった高校2年生にはそれほど難しくない。
a) しかし、それが本当のことだとしたら、
b) ネコ科は微積分のできる家猫を産み出しただろうし、
c) カエルはいままでに自らの手でつくった宇宙計画を発進させているだろう

 指示詞のthatは「進化がより大きな脳を選んだということ」を受けている。

「だが、もしそれが正しければ、ネコ科でも微分や積分のできる動物が誕生していただろう。」柴田訳
 文字の節約のためだろうか、柴田訳にはカエルが宇宙計画をスタートさせる話はカットされている。

 Why are giant brains so rare in the animal kingdom?
 「なぜ巨大な脳は動物界ではそんなにも稀なのか?」
 
「ホモ属だけがこれほど大きな思考装置をもつに至ったのはなぜなのか?」柴田訳
 翻訳のプロの意地だね、ここは原文が類推できるような甘い日本文にはしないという、柴田さんの意地を感じました。

 これで解説終わりです。O君、すっきりしたかな?
 Z会のテストで出てくる長文が、語彙は教科書の3倍くらい、構文も複雑なものが多いので、理解できなところが出てくると言っていたが、次第に読み慣れてくる。

<余談:平井呈一の名訳>
#2550 文脈把握問題(1):『風とともに去りぬ 三』から Jan. 1, 2014
https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2014-01-01


 では、どういう翻訳がいいのかということになるが、具体例を一つ挙げておきたい。
 たとえば、ラフカディオ・ハーンの著作の翻訳者である平井呈一の翻訳物に比べたら、日本語の使い方の巧みさは到底かなうものではない。それは日本文学に対する造詣の深さの差と作文修行の差だろう。平井は荷風の直弟子である。あることで荷風の逆鱗に触れ、破門になり、郷里へ戻って翻訳を始めた。
 平井の訳は登場人物の息遣いがはっきりわかる緊張感のあるものになっている。遠藤利國著『明治廿五年九月のほととぎす』のラフカディオ・ハーンの章に転載された『日本雑記』の平井の訳(131~135㌻)を読めばその腕のすごさと日本語のセンスのよさがわかる。こういう名訳が絶版になり消えていくのはもったいない。翻訳のお手本として残したいものだ。

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 ハーンは明治二十七年に熊本を去り、二十九年四月には漱石が松山中学から五高に転任するが、この頃の熊本には十五年ほど前の西南戦争の記憶がまだ生々しく残っていたらしい。ハーンは1901(明治三十四)年に Japanese Miscellany (邦題『日本雑記』あるいは『日本雑録』を出版したが、そのなかに「橋の上」という題で、炎暑の厳しい夏のある日、熊本市内を流れる白川にかかる古い橋の上で平七老人という出入りの俥屋から聞いたという、次のような話しを記している。

 「二十二年前」と平七が額を拭きながらいった。「いえ、二十三年前に―わしはここに立って、町の焼けるのを見とりました」
 「夜かね?」とわたくしは尋ねた。
 「いえ」と老人はいった。「昼過ぎでござんした。―雨のしょぼしょぼ降る日で。・・・・戦の最中で、町はカジで焼けとってね」
 「だれがいくさをしていましてか?」
 「お城の兵隊が薩摩の衆といくさをしとりました。わしらはみな弾丸(たま)よけに地べたに穴を掘って、その中に坐っとりました。薩摩の衆が山の上に大筒を据えたのを、お城の兵隊がそいつを目がけて、わしらの頭越しにドカン、ドカン打ちましてな。町じゅうが焼けました」
 「でも、あなたどうしてここへ来ましたか?」
 「逃げてまいりました。この橋のとこまで駆けてまいったのです。―ひとりでな。ここから三里ばかり離れたところに、兄貴の農家があったんで、こっちはそこへ行こうと思って。ところが、ここで止められましてな」
 「だれが止めましたか?」
 「薩摩の衆です。―なんという人だったか分かりません。橋までくると、百姓が三人いましてな。―こっちは百姓だと思いました。―それが欄干によりかかって、大きな笠をかぶって、蓑を着て、わらじをはいとりますから、わしは丁寧に声をかけると、なかのひとりがふりかえって、『ここに止まってろ!』といって、あとは何もいいません。あとの二人もなにもいいません。それで、こりゃあ百姓じゃないとわかったんで、わしは恐くなりましてな」
 「どうして百姓じゃないことが分かったのですか?」
 「三人とも、蓑の下に長い刀(やつ)を―えらく長い刀をかくしとりますんで。ずいぶんと上背のある男たちで、橋の欄干によりかかって、じっと川を見おろしとりました。わしはそのそばに立って、―ちょうどそこの、左へ三本目の柱のところへ立って、同じようにわしも川を眺めておりました。動けばバッサリ殺(や)られることは知れとります。だれもものをいいません。だいぶ長いことそうやってらんかんによりかかっとりました」
 「どのくらい?」
 「さあ、しかとは分かりませんが、―だいぶ長かったに違いござんせん。町がどんどん燃えとるのを、わしは見とりました。そうしとる間、三人ともわしにものも言わんし、こっちを見もせんし、ただじっと水を眺めとる。すると馬の音が聞こえてきました。見ると、騎兵の将校がひとり、あたりに目をくばりながら、早足でこっちへやってきました。・・・・」
 「町から?」
「さいで。―あのそれ、うしろの裏道を通りましてな。・・・・三人の男は大きな編笠の下から、騎兵のくるのをじっとうかがっとりましたが、首は動かさずに、川を眺めているふりをしとる。ところが、馬が橋へかかったとたんに、三人はいきなりふり向いて、躍りかかりました。ひとりが轡(くつわ)をつかむ、ひとりは将校の腕をにぎる、三人目が首をバッサリ。―いやもう、目にもとまらぬうちに。・・・・」
 「将校の首をかね?」
 「はい。キャアともスウともいわんうちに、はやバッサリで。・・・・あんな早業は見たことござんせん。三人ともひとことも申しません」
 「それから?」
 「それから三人して死骸を橋の上の欄干から川へ投げ込みました。そして、ひとりが馬をいやというほど殴りますと、馬はつっ走りました。・・・・」
 「町の方へ戻ったのか?」
 「いいえ、馬のやつは向こうの在の方へ追いやられましたんで。・・・・切った首は川へ捨てずに、その薩摩の衆のひとりが蓑の下に持っとりましたよ。・・・・それからまた三人して、先ほどと同じように欄干へもたれて、川を見ております。わしはもう膝がガクガク震えて。顔を見るのも恐くて、―わしは川をのぞいとった。・・・・しばらくするとまた馬の音が聞こえました。わしはもう、胸がドキドキして、心持が悪うなってきて。―ひょいと顔をあげてみると、またひとり騎馬兵が道をパカパカ駆けてきよった。橋にかかるまで、三人とも身じろぎもしない。と、かかったとたんに、首はバッサリ。そしてさっきと同じように、死骸を川へ投げ込んで、馬を追っぱらう。そんなふうにして三人斬ったね。やがてサムライは橋を立ち去っていきよった。」
 「あなたもいっしょに行きましたか?」
 「いえ。―やつら、三人目を斬るとすぐ出かけたですよ。―首を三つさげて。わしのことなんか目もくれなかったね。わしは、その衆がずっと遠くへ行っちまうまで、動くのが恐くて、橋の上にすくんでおりました。それから燃える町の方へ駆けもどったが、いや駆けた、駆けた!町へはいったら、薩摩勢は退却中だという話しを聞きました。それからまもなく、東京から軍隊がやってきよって、それでわしらも仕事にありついて、兵隊にわらじを運んだね」
 「橋の上で殺されるのをあなたが見た人たちは、何という人?」
 「わからないね」
 「たずねてみようともしなかったの?」
 「へえ」 平七はまた額をふきながら、「いくさがすんでよっぽどたつまで、わしはそのことはぷつりともいわなかったからね」
 「どうしてね?」
 平七は、ちょっと意外だという顔をして、気の毒だといわんばかりににっこり笑いながら答えた。―
 「そんなことを言っちゃ悪いものね。―恩知らずになりますもの」
 わたくしは、真っ向から一本やられたような気がした。
 われわれはふたたび行をつづけた。

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 やはり、文学作品は日本文学を志し、ある程度の修業を積んだ者がやるに限る。平井は永井荷風の直弟子で、師匠から破門された異端児である。ご覧の通り、腕は確かだ。




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