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#4090 トリチウム汚染水海洋放出は安全か?:嘘とごまかしの原子力政策 Sep. 26, 2019 [13. 東日本大震災&福島原発事故]

 25日の朝のテレビで東工大の先生(トリチウム放出は害無し)と北大の先生(人体に害あり)のディベートがあった。面白かったので論点を箇条書にしてみたい。

①自然のなかにあるトリチウムの量よりも福島第一原発のトリチウムは量が少ない
②トリチウムが体内に入っても害がない

 東工大の先生の意見はそういうことだった。
 それに対して北大の医学系の先生は、水爆実験の始まる前の1950年以前に比べると、自然界のトリチウムは千倍に増えている。東工大の先生が比較の基準にしているのは1960年代の数値で、水爆実験で増えた状態のものと比較するのはごまかしである。
 そして内部被爆の影響を無視した議論もごまかしである。トリチウムは水と区別できないから、体内に容易に取り込まれる。トリチウムが細胞内に入ると細胞核にある遺伝子の水素をヘリウムに変える。DNAは水素結合しているからその一部がヘリウムに変化したら、水素結合が壊れて遺伝子が切れる。塩基のATGCも変化が起きて正常に機能しなくなる。だから、どういう影響が出るか予測がつかない、その影響は(因果関係が)何もわかっていないというのが精確なところだ。

 人間の体内にはさまざまな癌抑制遺伝子があり、日々体内に発生する癌細胞を殺して掃除してくれている。その癌抑制遺伝子のどれかの水素結合が切れたり、内部被爆で強い放射線の影響を受ければ機能しなくなる。
  rb、p53、APC遺伝子の例が黒木登志夫著『がん遺伝子の発見』(1996年 中公新書)「第五章 がん抑制遺伝子の発見」に載っている。ずいぶん古い本だから、あたらしいものを読んでもらえれば幸いである。高野利也著『ガン遺伝子を追う』(1987年刊 岩波新書)はさらに古いが、SRLにいたときに読んだ本だ。88年に読んでいる。p53遺伝子は細胞内でのDNA修復や細胞増殖停止、癌化した細胞にアポトーシス(プログラムされた細胞死)などを起こさせる。
*p53遺伝子
https://ja.wikipedia.org/wiki/P53遺伝子
 DR5(Death Receptor 5 :細胞死受容体)というのもあるようだ、アポトーシスに関係があるのだろう。

 このころ(1986-89)SRL八王子ラボの図書室を利用して、仕事の合間にNatureやScience、Oncogeneなどおもしろそうな科学・医学専門雑誌を片っ端から読んでいた。翌年、89年に学術開発本部担当役員の直属のスタッフとして異動して、製薬メーカと検査試薬の共同開発や海外の製薬メーカからのラボ見学対応などの仕事をしている。SRL八王子ラボは米国の大手臨床検査センターが、まるごと設備を買いたいと申し入れるほど進んだ世界最先端の臨床検査ラボだった。二番目に挙げたのはそのころの興味を示す懐かしい本だ。Noan Chomsky 1986, Kowledge of Language. Its Nature, Origin, and Use. もそのころ読んだ。構造言語学の専門書である、国内最先端の統合システム開発の仕事を「卒業」していたので、自然言語処理に関する基礎的理論に興味が移った。

 遺伝子の異常は染色体の異常として現れるケースがある。たとえば21番トリソミーでダウン症を発症する。他の染色体に異常が出ると、たとえば、脊椎二分裂症とか無脳症になるケースもある。出生前診断のMoM値でわかるのは、染色体異常による先天異常である。2本で対になっている染色体が3本になるのがトリソミーだ。増えるのではなく減る場合もある。deletion(欠損)もある。白血病もいくつかの染色体異常で起きる病気だ。1988年か89年にSRL八王子ラボ染色体課に英国メーカIRS製の染色体画像解析装置を3台導入した。そのときに副社長にラボで講演をしてもらった。30年間染色低研究をしてきた人で、分厚い専門書を書いていた。シャンプーに添加されているさまざまな化学物質が頭皮細胞から取り込まれて、白血病を増やしているのではないかと疑っていた。30年間で白血病が異常に増えていることに言及して、その有力な原因のひとつがシャンプーの添加剤ではないかと推定していた。「朝シャンが」はやり始めた時期である。検査機器やコンピュータ機器などSRLで固定資産に計上されるものは、社内規則で購入申請書をあげることになっており、わたしが担当者だったから受付・審査してから、それぞれ決裁権限者へ回していた。染色体画像解析装置は1台5000万円だった。いい機会だから、輸入業者の日本電子輸入販売へお願いして、IRS副社長へ講演依頼をしたのである。染色体化のI原課長との共同企画だった。SRLでやっている染色体検査は、外注検査市場で8割のシェア―をもっていた。圧倒的にガリバー型の寡占である。福島第一原発事故のあった2011年以前と以後の染色体データを疫学的に調査すれば、はっきりした結論が出せるだろう。SRL八王子ラボには、全国の病院から依頼された膨大な染色体検査データが電子ファイルで保管されている。このデータは研究者にとっては宝の山だ。患者情報を抜いて、学術研究用にオープンにしてもらいたい。研究者とは守秘義務条項を織り込んだ契約書を交わせばいい。も3年ほど学術開発本部にいたら、自分でやっていた仕事だ。

 話をまとめると、トリチウムは生体内では水と区別できないから、細胞組織に容易に入り込む。人間の身体は外部から取り込んだもので成り立っているから、トリチウムを取り込むことで内部被爆を起こす。距離がゼロだから、α線もβ線もγ線も細胞や細胞核内の染色体やそれを構成するDNAに深刻なダメージを与える。細胞核にトリチウムが侵入することで、ヘリウムに変わりDNAの水素結合が切れて、DNAがバラバラになり、染色体異常や、DNAがコードしている蛋白質や酵素の機能異常が起きる。癌抑制遺伝子もその中の一つだ。正常細胞のDNAがダメージを受けたら、DNAの部位によっては癌化が始まる。医学関係の研究者にはこれらのことは常識だろう。

 北大の先生は1950年以前に比べて癌が5倍に増えているが、トリチウムの影響を疑っている。トリチウムが細胞内で放射線をだせば、そのことでも遺伝子が壊れ、癌化やさまざまな病気が発症することになる。実際に因果関係が証明されたときには取り返しのつかぬことになる。

 トリチウムが人体に影響なしという、因果関係を証明するデータはない。影響しているという疫学的な調査研究はある。科学技術庁の調査研究データでもそのことはあきらかになっていると北大の先生。胎児への影響も明確になっているという。その影響は被爆した世代だけではすまないのである。

 聞いていた、コメンテータの一人、玉川氏は、別の論点を提起していた。福島第一原発をコンクリートで覆って、空冷にすれば汚染水の発生が止められるのではないか。そしてトリチウムは技術的に除去できる、除去してから放出すべきだ。政府も東電もトリチウムを処理するには莫大なお金がかかるので、言い出さない。それを言い出せば、原発はコストが高すぎて廃止すべきという結論になるからだ。

 汚染水に含まれている放射生物質はトリチウムだけではない、他にさまざまな種類の放射生物質が残留したままになっていると北大の先生が指摘していた
 要するに、莫大なコストがかかるからやりたくないというのが、東京電力と政府の本音である。これらのコストを、現行のルールに従って電気料金に上乗せしたら、電力料金は10倍にしても追いつかないだろう。原子力発電は原発事故の処理コストを算入して計算すると莫大に高いことが明るみに出て、国が60年間推進してきた原子力政策は潰(つい)える
 原子力発電政策は嘘とごまかしに満ちている



*「福島第1汚染水毎時3シーベルト 建屋地下、吸着材原因か」共同通信ニュース9/26
https://www.msn.com/ja-jp/news/national/福島第1汚染水毎時3シーベルト-建屋地下、吸着材原因か/ar-AAHSJhy?ocid=spartanntp
 
 

 東京電力は26日、福島第1原発で発生した高濃度汚染水をためている「プロセス主建屋」を調査した結果、地下2階の水から最高で毎時3シーベルトという高放射線量が計測されたと発表した。水中には2011年の事故発生直後、放射性物質を吸着する物質を詰めた土のうが積まれており、東電はこれが原因とみて処理方法などを検討する。
 汚染水の水深は約4メートル。昨年12月の事前調査では、底の周辺で毎時約2.6シーベルトが計測されたため、今年9月に線量計やカメラを搭載した水中ドローンを使って調べた結果、土のうの上で線量が高い傾向があり、最高で毎時3シーベルトが計測された。

<関電会長ら6人に1億8千万円 元高浜町助役から、原発マネーか>

https://www.msn.com/ja-jp/news/national/関電会長ら6人に1億8千万円-元高浜町助役から、原発マネーか/ar-AAHTvdB?ocid=spartandhp#page=2

 関西電力の八木誠会長(69)、正副社長ら役員6人が2017年までの7年間に、関電高浜原発が立地する福井県高浜町の元助役(3月に死亡)から、計約1億8千万円の資金を受け取っていたことが、金沢国税局の税務調査で分かった。複数の関係者が26日までの共同通信の取材に明らかにした。
 元助役は資金提供について「お世話になっているから」と説明しており、工事費として立地地域に流れた「原発マネー」が経営陣個人に還流した可能性がある。
 関電広報室は26日夜、「一時的に各個人の管理下で保管していたものはあるが、儀礼の範囲内以外のものは既に返却を完了した」とコメントした。


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がん遺伝子の発見―がん解明の同時代史 (中公新書)

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ガン遺伝子を追う (岩波新書 黄版 352)

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  • 作者: 高野 利也
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1986/09/22
  • メディア: 新書

 「癌抑制遺伝子」をキーにして、検索したなかから3冊ピックアップした。これら3冊は読んでいないので内容についてコメントできない。一番最後の本にはp53がん抑制遺伝子に関するその後の研究に言及があるようだ。

がん遺伝子とがん抑制遺伝子 (Molecular Medicine Series)

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  • 出版社/メーカー: 南江堂
  • 発売日: 1996/04
  • メディア: 単行本
がん遺伝子・がん抑制遺伝子

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  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 中外医学社
  • 発売日: 1998/10
  • メディア: 単行本



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