#4011 高専の新入生は数学ができない? Jun. 2, 2019 [53. 数学四方山話]
昨日のことだが、「釧路の教育を考える会」の総会へ出かけたら、10分ほどはやくついた。還暦高専生として北海道新聞をにぎわしたT木さんと釧路高専の卒業生であるM木さんがある問題について議論していた。話題は分数式、新入生であるT木さんの同級生たちに分数式が解けない者が多いと言っていた。数学の授業では教える方のアシストに回っているらしい。例えば次のような問題が解けないというのである。
2
x-1
1+ 1
x-1
これは二人がまな板に載せていたものよりも複雑な繁分数式で、『WIDE数学Ⅱ+B』の「問題34」から転載した。中学生がやるのは整式のみで、分数式は高校2年で教えることになっている。先週、この個所をやっていた。
分数の中でも2階建てになっているものを繁分数というが、この問題を説明なしにできたのは、学年トップの生徒のみ。おそらく根室高校2年生全部でみても3人くらいしかいないだろう。2月の進研模試で学年3位、4位、5位の生徒からはこの問題の解説要求があった。理由を考えてみたい。
なぜ学年トップの生徒が難無く解けたのかというと、繁分数を小学生の時に教えているからという単純な理由に行きつく。東京渋谷周辺に駅徒歩3分のところにあった進学塾で四十数年前に3年間だけ教えたことがあるが、範分数は有名私立中学受験の生徒全員に教えていた。根室では中学受験がないので、教えないようだ。こういうところも都会と田舎の指導の差がある。教えちゃえば差は雲散霧消する。小学校の算数の指導の際にどこまで意識して教えるかということだけ。
繁分数は「約分は一つ置き、計算は内々分母の外々分子」と短いフレーズを教え、なぜそうなるかについても解説している。小学校や中学校の学習指導要領の範囲を超えているが、できのよい小学生ならちゃんと理解できる。
x=6を代入してみたら、この問題は、
2
6-1
1+ 1
6-1
上と下の2つに分解すればより簡単になる。「必要なだけ小さい部分に分割する」というのはデカルト『方法序説』「科学の方法四つの規則」にある。
2
5
6
5
5と5、そして6と2を約分して、答えは1/3となる。簡単でしょ?数字でこの計算ができる生徒は、概念の拡張や一般化の操作に慣れたら、数字でも文字式でも同じものに見えるのです。だから、簡単に解けます。そういう操作に小学生の算数の段階から習熟していない生徒にとっては、数字の式と文字の式が全然別物に見えてしまう。だから、高校生になってから分数式で暗礁に乗り上げます。
学年トップの生徒は、数字を文字式に置き換えて、「拡張」することに中1の問題集をやったときに慣れているから、いままで知っている知識を動員して同じ計算規則を適用して解いてしまうので、この分数式が全部が異なる文字で構成されていても何の問題もない。小学校のときに習った繁分数と同じものにみえるだろう。小学校のときに習った「繁分数」が高2になって独力で「繁分数式」へ拡張できる。計算規則や概念の拡張に慣れることを指導の重要な目標に据えているかどうかで高校生になってからの学力の伸びに無視できない差がでてくる。
かりに、高専新入生の半数がこのような繁分数式が解けないとしたら、その理由は繁分数を小学生の時に単に習っていないから。入学してから放課後1時間時間をとって教えてやればいいだけ。こういうふうに中学校と国立高専の間でエアポケットになっている項目が他にもないか、生徒の様子を観察していれば見逃すことはないだろう。授業は観察でもある。教師は生徒を観察することでいくらでも教え方を学ぶことができる。
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x-1
1+ 1
x-1
これは二人がまな板に載せていたものよりも複雑な繁分数式で、『WIDE数学Ⅱ+B』の「問題34」から転載した。中学生がやるのは整式のみで、分数式は高校2年で教えることになっている。先週、この個所をやっていた。
分数の中でも2階建てになっているものを繁分数というが、この問題を説明なしにできたのは、学年トップの生徒のみ。おそらく根室高校2年生全部でみても3人くらいしかいないだろう。2月の進研模試で学年3位、4位、5位の生徒からはこの問題の解説要求があった。理由を考えてみたい。
なぜ学年トップの生徒が難無く解けたのかというと、繁分数を小学生の時に教えているからという単純な理由に行きつく。東京渋谷周辺に駅徒歩3分のところにあった進学塾で四十数年前に3年間だけ教えたことがあるが、範分数は有名私立中学受験の生徒全員に教えていた。根室では中学受験がないので、教えないようだ。こういうところも都会と田舎の指導の差がある。教えちゃえば差は雲散霧消する。小学校の算数の指導の際にどこまで意識して教えるかということだけ。
繁分数は「約分は一つ置き、計算は内々分母の外々分子」と短いフレーズを教え、なぜそうなるかについても解説している。小学校や中学校の学習指導要領の範囲を超えているが、できのよい小学生ならちゃんと理解できる。
x=6を代入してみたら、この問題は、
2
6-1
1+ 1
6-1
上と下の2つに分解すればより簡単になる。「必要なだけ小さい部分に分割する」というのはデカルト『方法序説』「科学の方法四つの規則」にある。
2
5
6
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5と5、そして6と2を約分して、答えは1/3となる。簡単でしょ?数字でこの計算ができる生徒は、概念の拡張や一般化の操作に慣れたら、数字でも文字式でも同じものに見えるのです。だから、簡単に解けます。そういう操作に小学生の算数の段階から習熟していない生徒にとっては、数字の式と文字の式が全然別物に見えてしまう。だから、高校生になってから分数式で暗礁に乗り上げます。
学年トップの生徒は、数字を文字式に置き換えて、「拡張」することに中1の問題集をやったときに慣れているから、いままで知っている知識を動員して同じ計算規則を適用して解いてしまうので、この分数式が全部が異なる文字で構成されていても何の問題もない。小学校のときに習った繁分数と同じものにみえるだろう。小学校のときに習った「繁分数」が高2になって独力で「繁分数式」へ拡張できる。計算規則や概念の拡張に慣れることを指導の重要な目標に据えているかどうかで高校生になってからの学力の伸びに無視できない差がでてくる。
かりに、高専新入生の半数がこのような繁分数式が解けないとしたら、その理由は繁分数を小学生の時に単に習っていないから。入学してから放課後1時間時間をとって教えてやればいいだけ。こういうふうに中学校と国立高専の間でエアポケットになっている項目が他にもないか、生徒の様子を観察していれば見逃すことはないだろう。授業は観察でもある。教師は生徒を観察することでいくらでも教え方を学ぶことができる。
心配なのは計算規則の拡張が高専へ入学した時点ではまだ独力でできていないということ。高校数学では平面座標で習ったことがベクトル平面やベクトル空間へと拡張され、cosを使って内積が定義される。関数も一次関数、二次関数、三次関数、指数関数、対数関数、三角関数、微分や積分へと拡張がなされる。実数から複素数への数の拡張もあるし、複素平面への拡張すらほんの一部ではあるがでてくる。新しい概念が次々に導入されさまざまなところで、それまでの計算規則や概念の拡張がなされ、それぞれの分野で定義しなおされていく。だから、計算規則の拡張ぐらいは高校入学前に独力でできるようにしておきたい、その後の学習効率を飛躍的に高めることになる。
そのあたりを意識したら、小学生への算数の教え方も、中学1年生への数学の教え方も違ってくるのはあたりまえ。
中学数学でならわない分数式は高専へ入学した時点で、高専側で分数式の放課後補習をすればいいだけ。こんなところで躓いていたら、釧路高専は赤点が60点だそうだから、留年者が続出することになる。近年、留年や退学が増加していると数年前から関係者の間から懸念の声が聞こえていた。
ほかにも中学までに習っていない項目がないかチェックして対処すれば、夢を希望を抱いて釧路高専に入学してきた生徒たちが、得意だったはずの数学で脱落することなく卒業できるのではないだろうか。
T木さんと同じクラスではないようだが、ニムオロ塾からも四月に釧路高専へ入学した生徒がいる。一生懸命勉強してめでたく卒業を迎えてもらいたい。(留年することなく無事卒業して、上のコースへ進学しています2024/9/4追記)
釧路高専卒の一級建築士のS元さんはM木さんよりも2つぐらい下だと思うが、この二人に年上の後輩ができたと大笑い。
道東にたった一つの国立釧路高専をみんなで応援したい。
(T木さんは釧路市教委の元釧路学校教育部長である。自身が開発した「なちゅろうどく」という音読システムを、システムやハードの勉強を基礎からすることで世の中に広く受け入れられる商品にして学力向上の起爆剤にしたいという大きな目標がある、そのために釧路高専へ還暦で入学した。いま高専柔道部と空手部に所属。柔道は初段だが、実力は五段ほどありそう。空手は極真空手でこれも大人の部では猛者。とんでもない異色の新入生が入学したものだ、先生たちはさぞかしご迷惑にちがいない。)
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2019-06-02 18:14
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