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#3962 生徒がもってきた英文和訳問題(1):Z会 Apr. 16, 2019 [62-1 個別指導の実際]

 高2の生徒がZ会の英語問題をもってきて質問をした。英文和訳の問題なのだがさっぱりわからないという。日本語にするだけでなく、なぜそういう英文が生成されたのかについても解説する必要がある。
 宿題か試験問題のようだから、答は書かないし、解説もやめておく。高校の教科書にはこんなに複雑な文は出現しない。でも英文を読みなれている大人にはむずかしくないだろう。(笑)

 If you counted the times you say "please" in a day in relation to the number of requests you make of your employees, telephone operaters, store clerks, whomever, I would bet you could increase your usage of the word tenfold.

  And if you do, pay special attention to the results, for it is my observation that a person's willingness to comply --- even the promptness with which he complies --- improve dramatically when your reguest or instrution either starts or ends with with a simple "please".

  英文和訳の問題は青字の2番目の文である。いまこうしてみると二つとも文が長い。

 この2文で、tenfoldなど3-4の単語にはアスタリスクがついていたから、脚注に和訳が載っていたのだろう。
 前の文がないと do の意味が分からないのと、レトリックがわからなくなるので、転載しておいた。全体の一部分、関連のある途中の文を2つだけ転載した。

 in relation to は「比較すると」くらいの訳がいいだろう。doが何を指しているのか、そして2か所の省略に気がつけば意味が分かる。forの品詞が接続詞なのか前置詞なのか、代名詞itが何を指しているのかも重要なポイントだ。

 意味はsimple sentence (= Deep Structure 深層構造以下DSと略記)にあるから、生成文法を利用してDSに分解して生徒に解説している。DSから表層構造(Surface Structure)へは何段階かの文法工程があるが、それを復元することは英作文のトレーニングにもなる。
 構造言語学者であるチョムスキーの生成文法を知らない先生が多いと思うが、こういう英文を生徒にどうやって解説するのだろう?たぶん、受験英文法の範囲内での説明になるのだろうが、それも可能だが、あまり感心しない。そういう解説は、生徒のほうからは「曲芸」に見えてしまわないか?

 こういう英文を10分以内で適切な日本語にできる高校生がいたとすると進研模試なら偏差値は90あたりではないか。偏差値90は3/100000だから、おおよそ3万人に一人の割合だ。進研模試の受験者が45万人とすると全国の公立高校2年生に15人くらいそういうレベルの高校生がいそうだ(3年生なら数千人はいる)。高2で1月の進研模試英語偏差値75の生徒にはこの問題は無理だろう。そうして考えるとZ会の難問ってレベル高い。
 高3の問題なら、それほどの難易度ではない。

 個別指導授業でハラリのSapiensを半分くらい読めば、英文に慣れるのでこういうレベルの英文ならすらすら訳せるようになる。到達目標は来年の夏ころになりそうだ。
 毎日、コツコツやっていたら、1年後にはスキルはずいぶん向上している。それが高校3年間続いたら、はるか高いところへ登ってしまう。若い人がする日々の努力は飛躍的な成長の糧である。

<余談:生成変形文法>
 生成変形文法に出遭ったのは、大学院入試の準備で直前に一月ほど東京都板橋区立図書館で勉強していた時のことだから1975年だった。大野照男著『生成文法と英文解釈』を書棚で見つけたのである。経済思想史の本を原書で読んでいたのだが、腑に落ちない箇所が何か所も出てきてもやもやしていたので一気に読んだ。エリック・ロールの『経済学説史』(有斐閣、昭和26年初版)の原著だったはずだが、翻訳者の隅谷三喜男先生の訳は名訳ではあるが、原著を読んで意味がはっきりしないところを隅谷先生の翻訳書を参照すると、やはり文脈から行っておかしいと感じざるを得ないところが、ときどきあった。『変形文法と英文解釈』を読むことで疑問が氷解したと同時に、隅谷先生がどういう部分で誤訳をしたのか、そしてその理由もはっきりした。生成文法を知らないから、深層構造に分解できなかったから当然のことで、前後関係から「気合」で翻訳したように見えた。そういう箇所は外れてしまうのである。変形文法的にいうと文法工程指数の大きい文章に誤訳がでてしまう。経済学書に関しては生成変形文法を知ってから翻訳が楽になった。ごまかす必要がない。もちろん、文脈を精確に読み取れるなら、生成変形文法がなくても大丈夫な場合があるが、文脈では推測できない文もある。
 生成変形英文法を利用するときはほどほどにしておくことだ。あまりやりすぎると自己目的になり、手続きが面倒になるだけ。目的の範囲で必要最小限でいい。頻繁に繰り返すうちにスキルが上がり、見ただけで深層構造がわかる範囲が広がる。
 構造言語学は理系の分野、自然言語理解の分野なので、自動翻訳関係の仕事に携わるエンジニアは20年前までなら一度は目を通しているだろう。チョムスキーのこの分野の翻訳書は理系と文系の両方にまたがるのでほとんどなかったが、いま調べてみるとたくさん翻訳されている。一昔前には生成変形文法をベースに英文法参考書を書いている先生が一人だけいた。安井稔著『英文法総覧』は元々は高校教員向けに書かれた参考書である。昭和62年の第1版10刷りで読んだが、その後2015年の改訂版を買って増補された部分に目を通した。高校生が読むなら『英文法総覧』を薦めたい。
 なお、安井先生にはチョムスキーの著作の翻訳が一つあったはずだが、本棚に見当たらぬ、棄てたのかもしれない。ああ、思い出した、『文法理論の諸相』というタイトルである。なお、この本はいまは新訳が岩波文庫から『統語理論の諸相』というタイトルででている。
 
 その後、構造言語学に興味が湧いて、チョムスキーの原著と解説書も読んだ。読んだ本をamazonから拾って紹介しておく。

 大野照男著『変形文法と英文解釈』株式会社千城、昭和47年刊 は絶版

 この本は1988年版のもので読んだ。

Chomsky's Universal Grammar: An Introduction

Chomsky's Universal Grammar: An Introduction

  • 作者: Vivian J. Cook
  • 出版社/メーカー: Wiley-VCH
  • 発売日: 2007/05/07
  • メディア: ペーパーバック
Knowledge of Language: Its Nature, Origin, and Use (Convergence)

Knowledge of Language: Its Nature, Origin, and Use (Convergence)

  • 作者: Noam Chomsky
  • 出版社/メーカー: Praeger
  • 発売日: 1986/01/14
  • メディア: Perfect
Transformational Syntax (Cambridge Textbooks in Linguistics)

Transformational Syntax (Cambridge Textbooks in Linguistics)

  • 作者: Andrew Radford
  • 出版社/メーカー: Cambridge University Press
  • 発売日: 1981/11/12
  • メディア: ペーパーバック
英文法総覧

英文法総覧

  • 作者: 安井 稔
  • 出版社/メーカー: 開拓社
  • 発売日: 1996/11/01
  • メディア: 単行本
文法理論の諸相 (1970年)

文法理論の諸相 (1970年)

  • 作者: ノーム・チョムスキー
  • 出版社/メーカー: 研究社出版
  • 発売日: 1970
  • メディア: -
統辞理論の諸相――方法論序説 (岩波文庫)

統辞理論の諸相――方法論序説 (岩波文庫)

  • 作者: チョムスキー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/02/17
  • メディア: 文庫
#3963 生徒がもってきた英文和訳問題(2):Z会 Apr. 17, 2019
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2019-04-17




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