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#3950 Sapiens と Homo Deus(2):不定冠詞の役割  Mar.13, 2019 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 ハラリの著作のタイトルには2冊とも不定冠詞 a がついている、面白そうなのでまな板に挙げてみよう。

 Sapiens  A Brief History of Humankind
 Homo Dedeus  A Brief History of Tomorrow

  邦訳書のタイトルは、『サピエンス全史』『ホモデウス テクノロジーとサピエンスの未来』となっている。
 邦訳書のタイトルのニュアンスからは不定冠詞ではなくて、定冠詞がふさわしい。
 Sapiens  The Brief History of Humankind

 ではどのように違うのか。定冠詞theだとこれが人類史の決定版だという強いメッセージが伝わってくる。不定冠詞 a だと、人類史に言及した本はあまたあるが、これはその中の一つであるというメッセージが伝わってくる。

 ホモデウスのほうは、人類の未来に関する本はあまたあるが、これはその中の一つ、一つの可能性に言及したものであるというニュアンスが伝わる。人類の未来は絶対的でも確定しているわけでもないという著者のメッセージがタイトルの不定冠詞 a に込められているという風に読める。

 ところで、Deusとはなんだろう?辞書CALDを引くと次のようになっている。
 deus ex machina : an artificial or very unlikely end to a story or event, which solves or removes any problems too esily.


 「デウス・エクス・マキナ」、ラテン語である。マキナは機械を意味する。ギリシア劇で機械仕掛けの神がでてきて、人間が抱えている厄介な問題をいとも簡単に、ありえないやりかたで解決してしまう、そういう存在がdeusである。
 人工知能がそういう存在として人類の上に君臨する時代が間もなく来るのだろう。

 ところで、deusとは次のような方法でつくられた語ではないのか?
 devil+zeus=deus …ペケ

 デウスは魔王と全能の神ゼウスの両義性を有した存在のように感じる。うまいタイトルをつけた。AIは全能の神ゼウスなのかそれとも人類にとって悪魔の親玉である魔王なのか。
  でもね、deusはラテン語だから、英語のdevilとの合成語だという解釈は無理がある。ラテン語で悪魔や魔王のことをなんというのか、わたしにはわからない。
 ネットで検索してラテン語のオンライン辞書を引いてみた。魔王はないが悪魔はあった。diabolus、デアボルスと読むのだろうか。
 diabolus+Zeus=deus

 さらに検索したら、ギリシア語の全能の神zeusはラテン表記ではdeusであることがわかった。deusはまぎれのない神であり、魔王の意味はない
 このように、「推論⇒仮説a⇒チェック⇒推論⇒仮説b⇒…」こういう過程を繰り返しながら真実に近づくことが「思考」である。試行錯誤というではないか。(ダジャレ)


 話を元に戻そう。サピエンスは四つのパートからなる。
1.認知革命
2.農業革命
3.人類の統一
4.科学革命

 四つのパートからハリスのサピエンスが構成されているが、三つのパートで人類史を扱うこともありだし、五つもありうるのである。同じ四つでも項目が異なるケースもありうる。不定冠詞の a はそういうことを物語っているのだろう。ここでまた疑問が一つ増えた。1・2・4には「…革命」revolutionがついているが、3番目だけついていない。「人類の統一」ってどういうこと?本文を読めばわかるのだろう。疑問が一つ増えれば楽しみも一つ増える。
随時随所楽しまざるはなし。


 さて、これらを考慮してタイトルをつけるとすれば、『四つの視点から人類史を読み解く』、ちょっと長すぎるか。悪乗りして、ついでだからもう1冊のほうもやってみる、『ホモデウス:AIは神か?ありうる人類の未来』
 
 書き手がイメージした事柄を語彙を選んで文章にする、読み手は文章や語彙から書き手が脳に描いたイメージを自分の脳内に再現し、それを母国語で表現する、それが文章読解の妙である。
 冠詞は日本語にはない機能なので、それを短い日本語にのせるのはかなり厄介、翻訳者も迷ったのだろうか。
 この授業の対象者はいま1年生だが、読み始める7月には高校2年生、不定冠詞、定冠詞、無冠詞についてもこれまでと同じようにニュアンスに気を配って読むことになる。冠詞を的確に理解しないと書き手のイメージの的確な再現ができない。冠詞の理解が進むにつれて文章解釈に冠詞類という奥行きのあることがわかってくる。

*#3952 ゲノム編集技術の発展と人類の進化 Mar. 14, 2019
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2019-03-14

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