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#3810 上位10%をどのように育てるか Aug. 22, 2018 [65.a 成績上位層にかかわる問題]

 シリーズ三回目である。「#3808成績上位層がスポイルされている」「#3809成績下位層もスポイルされている」に続く、第三弾。

 わたしの場合は国数英の三科目について、特等のある指導をしている。今回は数学について書こうと思う。数学と英語は進研模試全国偏差値80超が目標値である。国語の指導は語彙力と読解力をアップさせることを目的とした音読指導のみ、それは弊ブログですでに何度も述べてある。

 では、本題に入ろう。生徒に数学や物理のYouTubeの講義でいいものを紹介しようと、検索して見た数学の講義がある。扱っているのは剰余系の章だったが、じつに丁寧で上手な解説だった。それが根室高校1年生では上位20%に焦点のあたった授業だと書いた。丁寧な解説ではあるが半数を超える生徒はついていけないし、最上位層にも適さないと感じた。どのような問題なのか具体例で説明してみたい。

 余りで数値を分類するのが剰余系の基本的な考え方である。
  5÷5=1…0
  6÷5=1...1
  7÷5=1...2
  8÷5=1...3
  9÷5=1...4
  10÷5=2...0
  11÷5=2...1
 …

  自然数を5で割ったときの余りで分類すると、次のようになる。
  余り0={5, 10, 15, 20, 25, 30, ...}
  余り1={1, 6, 11, 16, 21, 26, 31, ...}
  余り2={2, 7, 12, 17, 22, 27, 32, ...}
  余り3={3, 8, 13, 18, 23, 28, 33, ...}
  余り4={4, 9, 14, 19, 24, 29, 34, ...}

 上位10%の生徒には、13と7を例に5で割ったときの余りの計算をさせてみる。
  13÷5=2…3
  7÷5=1...2

 次の計算式への変形は上位の生徒には小学生の時に教えている、覚えていた。
  13=5×2+3
  7=5×1+2

 次いで(13+7)、(13-7)、(13×7)、(13÷7)、13^nの場合はどうなるか計算をさせてみる。

 今度は数字を文字式に置き換えた場合について、同じことをやらせてみる。
  a1=bq1+r1
    a2=bq2+r2
(文字の右側の数字は識別のための添字)

  何人かが、規則性を見つけるだろう。具体的な数字から文字への抽象化作業、あるいは個別から一般化への上向と言い換えてもよいし、帰納法と言ってもよい。
 抽象化がすんだら、文字式に具体的な数字を入れて、結果が正しいことを確認させたい。この過程は、抽象から具体へ一般から個別への下向である。このような思考形式を演繹法ともいう。
  学問、とりわけ数学の体系化には演繹法が使われている、定義と公理で演繹的体系が構成されている、経済学もそうだ。学問の深淵の一端に触れる思考作業なのかもしれぬ。


 話を剰余系へと戻すと、加法から減法へそして乗法へは操作の「拡張」である。数値を自然数から整数に拡張したときに余りの扱いがどうなるかという興味ある問題も「拡張」という操作にかかわっている。加減乗除の内、加減乗残までは問題なく拡張できるが除法に拡張すると行き詰まる。除法だけは特定の条件下でないと法則化できないことに気がつく。冪乗(累乗)はちょっと面白い、これも解法を解説せずにやらせてみるのがいい。
 上位10%の全員にこうした教え方をしろというのではない。それぞれセンスが違うから、程度を加減したらいい。わたしはそうしている。
 機会をとらえて、こういう課題を与え、取り組ませた後に思考手順の解説をする。こういう課題を与えて取り組ませたら慣れてくる、そして次第に独力でこうした「操作」ができるようになる。個別的な現象を観察して、その背後にある規則を見抜き、試行錯誤を繰り返して公式化する。この場合には公式化できたら、それに変数を入れて計算が簡略化できる。これはある種のアルゴリズムをつくることだからプログラミングそのものでもある。加法、減法、乗法、除法、冪乗のどれかを判断して分岐する、そしてそれぞれの分岐に応じた計算処理がある。

 数学に限らず、こういう「操作」を体験させることが上位10%層には大切なのではないだろうか解法を丁寧に解説してしまうと、こういう思考トレーニングの機会を奪うことになる、だから上位10%に丁寧で上手な教え方は問題があるというのである
 上位5%の後ろにいる、上位5-25%層の学力をアップするには丁寧な解法解説が有効であることは論を俟(ま)たない。それはそれ、これはこれ。

 上位10%の生徒への英語指導については別の機会に譲ろう。これは教える側の経験と知識の深さに依存してよい、十人十色。「後志のおじさん方式」30回音読、10回書き取りが大多数の人に向いているだろう。向かない人にはとっても古臭いが別の方法があり10か月前から学年トップの高校1年生に試している。上位10%の生徒にのみ有効な方法である。弊ブログのどこかで書いた。

<余談-1:過度なパターン学習の副作用>
 受験問題を多くのパターンに分けてパターンを片っ端から覚えるという勉強は効率がよいが、頭がよくならぬ。そういう学習スタイルを3年間もやると、カチカチの「受験勉強頭」ができあがってしまう、難関大学出身者に多い。パターン学習をやりすぎたのである。
 パターン学習を何年間も続けると、社会人になったときに副作用がでる。長い期間パターン学習をすることで脳内に「思考の鋳型」ができあがってしまうのだろう。それはそうしたスタイルで行った受験勉強期間に比例して思考の鋳型が強固なものになっている。社会人になってからではほとんど治らない。
 オーナ社長と統合システム開発をめぐって衝突し、6年間勤務した産業用エレクトロニクス専門輸入商社を30歳代半ばで辞め、国内最大手の臨床検査会社SRLに転職して16年間仕事した。SRLが東証一部上場を果たすと、新入社員に難関大学出身者が増えた。1万人の応募で、書類審査で200人に絞り、SPIテストと面接試験を課す、そして採用は20人。採用のために毎年数千万円がかかるが、それでも採用した新入社員がいい人材という保証はない。いわゆる偏差値の高い高学歴の新入社員採用はそれなりのメリット(たとえば、総じて文書作成能力が高い)
はあるが、別な問題がもちあがる。文系大学出身者は往々にして専門的なスキルがないか低い、10年たってもマネジメントスキルが育たないのは文系理系を問わぬ、好奇心をもって複数の専門分野の知識を獲得しスキルを磨く者がほとんどいないというような。期待値の大きさに結果がついてこないところをみると、マネジメントは学生時代の偏差値の高さとは何の関係もないからだろう。それ以外のところ、部活だったり、お祭りだったり、生徒会だったり、総番グループだったり、そうしたところでもまれることで身につくものにかかわりが大きいのだろうとおもう。もちろん偏差値が高くてマネジメントスキルも高いというような例外はたまにいる。偏差値が高ければマネジメントスキルも高くなるというような関係はないのだ。学力の偏差値と管理職になってからのマネジメントスキルには相関関係がなさそうである。

 現実の困難な問題には数学の問題のような正解というものがないし、固定した解法もない。数学の問題も難問になるとフェルマーの最終定理のように正解に至るまでに数世紀を要する場合がある。ようするに、いままでの攻略法がそのままでは役に立たぬ。
 
難関大学へたいした受験勉強もしないで入学してくる者もいる、そういう学生は頭脳の働きが柔軟だから、社会人になってから、重い責任を背負ったときにこそ、存分に自分の能力を開花させてレベルの高い仕事ができる。三流大学出身者には受験勉強のし過ぎというタイプがほとんどみられない、だから、大学四年間で好奇心の赴くままに猛烈な勉強をした者の中には現実の問題に柔軟に対応できて、案外強い。こういう人材を選別できたらその会社の人事部の眼力と実務能力はたいしたものだ。

<余談-2:好奇心の刺激>
 こういう風に、概念の操作を身につけてしまえば、無限の応用が利く。数の概念が自然数から分数へそして無理数を含む実数へ拡張され、数Ⅱで複素数が導入され、数Ⅲで複素平面が定義される、これも「場の拡張」のひとつの例だ。内分と外分は平面図形ででてきて、平面座標へ場の拡張がなされ、ベクトル平面座標へさらに空間座標系へと拡張がなされる。やっている操作は同じことである。直交座標系は3次元の空間座標にまで拡張される。人間が幾何学的に認識できるのはそこまでだが、4次元でも5次元でも考えられる。線形代数はそれを一般化したn次元の計算操作を行う。このように数学はどんどん抽象度を上げていく。数学の証明に使われる記号論理学はごく少数の専門家が担っており、学問の体系化と密接な関係がある。数学の定義と公理系と体系モデルの関係は他の諸科学でも参考になる。厳密に扱うときは自然数にゼロを含めるのはそうしたニーズがあるからだ。自然数の定義もどのモデルを前提に話をしているかで定義が違ってくるということ。
 複素数は複素平面として数Ⅲでもでてくるが、元文系の学生であるebisuには意味がさっぱり分からない。わからなければ本で学べばよい。複素関数論を学習すれば、複素数の世界では、指数関数が三角関数で表現できることがわかる。指数関数と三角関数と無限級数が一つにむすびついてくる。数学の面白みはここいら辺りからだろう。文系のわたしには物理学と数学の関係が理解できない。これも本を読んで考えるしかない。本を読んでもわからないことはその道の専門家に訊けばよい。異分野に友人がいるというのはとてもありがたいことなのだ。現実の物理現象と数学が密接に関係をもつということもさぞかし楽しいことなのだろう。
 たいしたことはできない、だが、やるべきことは剰余系で例に挙げたようなちっちゃなことだ、成績上位10%層には好奇心をくすぐるだけでいい、そして一人一人の反応を観察すれば、どの程度のトピックスを提供すればよいのか判断がつく


<余談-2:mod関数>
 割り算の余りを求めるEXCEL関数である。
  ”=MOD(数値、除数)”
 「数値」を「除数」で割ったときの余りを返す。”=MOD(13,5)”と入力すると、余りの3が返ってくる。
 modはmoduloの略である。語源はmodulusというラテン語だが、1984年に会計・固定資産管理(投資予算・予算減価償却費の計算を含む)・在庫管理・売上債権管理・原価計算の五機能の統合システム開発したときに勘定科目コードに「modulus11」で入力チェック機能をつけた。11で割ったときの余りでチェックデジットを計算して外部コードに付加するのである。内部コードは分類用のコード、これは臨機応変に並び替えができる。統合システムではさまざまなコードが使われるからたしかなコード設計が求められる。わたしが担当したのは会計システムと買掛金支払管理システムと固定資産管理システムの三つ、そして他のシステムとのインターフェイス仕様、これらにかかわる実務設計と外部設計、仕様書を書き上げるまでに要した期間は2か月弱、本稼働まで2か月間の併行ランを含めて開発期間はトータル8か月、ノートラブルで本稼働した。仕事の難易度はウルトラCクラス、開発期間の短さはあの当時統合システムではおそらく日本最速、いい仕事だった。産業用エレクトロニクスの輸入専門商社をやめた2か月後にやった仕事である。日本最先端のスケールの大きな統合システム開発の仕事がまっていたのは天の采配としか思えぬ。親会社の富士レビオが東証1部上場時に取締役経理部長をしていたことのあるT口監査役が仕事の速さに驚いていた。ありえない速さだったから。経理部から購買課へ異動して1年後くらいに会社のバスでT口監査役と一緒になったことがある。「ebisuさん、八王子ラボでなにやっているの?」と訊かれ、「購買です」と応えると、「なら購買部長か?」と言われて、苦笑するしかなかった。親会社なら中途入社2年目でもそういう処遇を検討するということ。
 あれから34年か。



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クッパ

大学の電気・電子工学系学科の「電気回路」でよく使われるメルカトル級数を背景にした高校数学で解ける問題です。地方の国公立大2次試験レベルだと思いますが。

https://i.imgur.com/caEUbCF.jpg


by クッパ (2018-08-27 00:47) 

ebisu

クッパさん

なるほど、足りません。
来年の夏ころまでにはこのあたりもやっておく必要ありということですね、具体的な目標が立ちました。やってみます、そのうえでどうするか考えます。

人口2.6万人の町ですが、教えられる先生が一人いらっしゃいます。
数学の2次試験対策はそちらへのバトンタッチが選択肢として考えます。
どうやらそれが最良の選択のようです。
ありがとうございます。

by ebisu (2018-08-27 08:41) 

ebisu

(1)と(2)は問題なさそうです。
https://mathtrain.jp/alternate

それにしても物理の知識があったほうが現実の現象とのリンクがあるのでいいですね。

数Ⅲの複素数の意味と数学全体の中での位置づけが分からないので、いま紙と鉛筆と計算機HP-35sで計算しながら『道具としての複素関数』を読んでます。

教えることは学ぶこと。
by ebisu (2018-08-27 10:54) 

SS

剰余の話題が出たので、1問紹介いたします
出典は2018年琉球大大問1の問1です
https://i.imgur.com/5lCzUtR.jpg
by SS (2018-09-25 19:57) 

ebisu

SSさん
ありがとうございます。
ご指定のURLから転載しておきます。

問1 今日は日曜日で、10日後は水曜日である。100日後および100万日後はそれぞれ何曜日か、理由とともに答えよ。

首都圏の中学入試で出そうな問題ですね。
by ebisu (2018-09-25 21:46) 

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