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#3788 フィルタベント装置を設置していなかったのは法令違反 July 22, 2018 [13. 東日本大震災&福島原発事故]

 福島第一原発事故に関して、フィルタ付き格納容器ベントシステムを採用しなかったことが法律違反であると主張する技術者の方がいる、防災部会緊急時対応ワーキンググループの永嶋氏である。原子力発電の専門家で物理学者、彼の主張を通して見えてくるものは生真面目なお人柄であり、技術者として良心に則って行動しているようにお見受けした。なお、この問題を弊ブログで採り上げることと、引用については快く許可いただいている。


 永嶋氏は法律違反の論拠として「原子力災害対策特別措置法」第3条を挙げている。
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原災法第3条で、事業者に災害を抑制する責務を規制しました。規制する程度は防災部会(能澤部会長)がEPZ10kmとしていました。原災法の法案は、防災部会緊急時対応WG(能澤、近藤、永嶋等が委員)に諮られ、異論は出ませんでした。EPZ10kmを達成するもっとも有力な方法はフィルタベントを設置することであり、チェルノブイリ原発事故後にヨーロッパで実施していました
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(以上、永嶋氏のFBから引用)

 原子力災害対策特別措置法第3条第2項は次のようになっている。
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二 前号に掲げるもののほか、当該原子力事業所の区域との距離その他の事情を勘案し、当該市町村の区域につき当該原子力事業所に係る原子力災害の発生又は拡大の防止を図ることが必要であると所在都道府県知事又は関係周辺都道府県知事が認めること。
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  EPZ(Emergency Planing Zone)とは、災害時の避難区域だが、シビアアクシデント時の避難範囲は100㎞だが、それを防災部会では近藤委員長の判断で10㎞にしたようだ。前提条件はフィルタベント装置を取り付けることだった。東電は事故はありえないとして装置を付けなかった、だから3条第2項に違反しているというのが永嶋氏の主張のようだ。原子力災害対策特別措置法や防災指針を作成する際に実務担当者として議論に加わっていた方である。チェルノブイリ事故以後ヨーロッパではフィルタベント装置取り付けが実施されていたのに、東京電力はやらなかった、手抜きしたのである。

 なぜか東電はこの法律違反を問われていないし、3つなされた事故調査委員会もこの点を指摘していない。東京電力はフィルタベント装置を取り付けずにベントを行って事態を一層深刻なものにしたのだから罪に問えというのが永嶋氏の主張である。フィルタベント装置がついていたらあのように高濃度の放射能をまき散らす事態には至らなかった。

 だが、永嶋氏の意見の重点は別のところにある。法令違反を問い、東電社長以下責任のある幹部が罪に服せば、規制を厳しいものにせずに原発再開がもっと早くやれるというものである。この辺りは、原子力技術者らしい物言いであり、わたしには頷けない部分である。
 彼の立場は明確で、原子力災害対策特別措置法違反があったのだから、その罪を問い関係者が法的罪を償えば原発は規制を強化することなく速やかに再稼働できるというもの。わたしはその意見に与(くみ)することはできない。後ほど物理学者の山本義隆氏や武谷三男の言を引用して理由を述べるが、原発再開に同意できない。
 しかし、フィルタベント装置を取り付けていなかったのは法令違反で罪に問うべきだという永嶋氏の主張には頷ける

 永嶋氏の下記ブログに詳しく書いてあるので、お読みいただきたい。
*原子力防災システム研究会
https://genboken.wixsite.com/mysite



<わたしの意見>
 わたしは意見が違う。1号基建屋と2号基建屋については原子炉にフィルタベント装置があれば、放射能汚染は軽減できたかもしれぬ。しかし、3号炉は別だ。フィルタベンド装置がついていても3号機はメルトダウンを起こして、原子炉格納容器の上部が吹っ飛んだと推測しているから、高濃度の放射能放出は避けられなかった。3号炉は格納容器の下の映像は公開されたが、上部については事故後一度も公開された映像がない。骨組みだけを残して上部が吹っ飛び瓦礫と化した3号基建屋に黄色い色の構造物はなかった。その写真は弊ブログでアップしてある。赤い閃光を発して爆発で吹っ飛んで、黒いキノコ雲状の煙が吹きあがりばらばらと大きな構造物が落ちてくるショッキングな映像がテレビで放送されていた。本欄左側のカテゴリー「東日本大震災&原発事故」をクリックすれば、2011年にアップした記事の中から見つけることができるだろう。3号炉の爆発は1・2号炉建屋の爆発とは様相がまったく違った。1号炉建屋と2号炉建屋ときは白いか煙が上がったが、大きな構造物の落下は認められなかった。3号炉の爆発のときの落下物は遠くからの映像だったがずいぶん大きなものがばらばらと落ちてくるのが分かった。原子炉建屋の壁は粉々の瓦礫となり、あんなに大きな塊にはならない。原子炉本体の上部が吹っ飛んだのなら納得のいく映像である。
 はっきりしていない重要なことは他にもある。福島第一原発事故が実際にどのようにして起きたのか、いまだにわかっていない、放射線量が高くて調べられないからだ。震度6の地震で格納容器の下にぶら下がっていたたくさんの計器類が破損して、制御不能になったと推定している学者もいれば、津波で全電源喪失しメルトダウンが起きたという学者もいる。タコの足以上にたくさんぶら下がっている計器類や配線が震度6で破損したかもしれないのだが、だれも原子炉下部には立ち入れないからわかっていない。同じ型の原子炉が地震で次の事故を起こしかねないから、この点がはっきりするまで再稼働をしてはならない。3基の原子炉はどれもメルトダウンし、メルとスルーて溶けて瓦礫と一緒に固まってしまっているからそれらの計器類や配線が地震でどういう状態だったのか7年が過ぎてもつかみようがない。10年先でも人が立ち入ることができないほど放射線量が高いから同じだろう。
 そしていまだに故郷に戻れない人たちが数万人いる。汚染された森林はまったく除染されていないし、汚染度はあちこちにシートで覆われて積み上げられている。風がまえば微粒子の放射生物質が舞い上がり、呼吸器を通じて体内へ入り込み内部被ばくが避けられない。森林の除染がなされていないからいまも放射能に感受性の強い子どもたちを育てられる環境ではないのである。内部被爆で放出される放射線のエネルギーはレントゲンの1000倍、MeVである。遺伝子が確実に障害される。
 汚染水も増え続け、トリチウムは処理の方法があっても莫大にお金がかかるので処理できないでいる。東京電力の説明では、凍土遮蔽壁はほとんど役に立たなかったようで汚染水は地下水を汚染し海へ流れ続けている。苦し紛れに凍土遮蔽壁なんてアイデアに飛びついて当座をしのいだものの、役に立たぬことはわかっていただろう、時間稼ぎをしている間に何とかしようと思ったのだろうが、打つ手がみつからないのだ。そうこうしているうちに汚染水の貯蔵タンクを新設する場所がなくなる。
 1号炉と2号炉建屋で起きた事故は永嶋氏の意見に頷けるが、3号炉はメルトダウンを起こして、原子炉格納容器の上部が吹っ飛んだと推測しているから、フィルタベント装置の有無は関係がない、高濃度の放射能放出と深刻な汚染が避けられなかったように思う。3号炉は格納容器の下の映像は公開されたが、上部については事故後一度も公開された映像がない。赤い閃光を発して爆発で吹っ飛んで、ばらばらと大きな構造物が落ちてくる映像はテレビで放送されていた。東電は7年たってもいまだに重要な情報を隠している。
 それだけではない、使用済み核燃料の最終処分地すら決まっていない。物理学者の武谷三男氏は1980年代に「トイレのないマンション」という表現で最終処分場のない原発を揶揄している。万年単位では日本列島の形すら変わってしまうから、安全な処分場など日本列島にはどこにもないのである。山本義隆は『原子・原子核・原子力』(岩波書店・2015年刊)「第7章 原爆と原発」で次のように述べている。
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2013年12月20日付の「東京新聞」は、千葉県柏市の12万~13万年前の地層から鯨一頭の頭や肋骨、背骨の化石数百点が見つかったことを伝えています。場所は房総半島の根元で、東京湾から20kmも離れていますが、そこはかつて海だったのです。つまり10万年ほど前、房総半島は本州から切り離されていたのです。ようするに日本列島は、大陸の内部とは異なり、10万年で地形を変えるような軟弱な大地なのです。…212頁
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 再処理済みの半減期2.4万年のプルトニウムはすでに47tも貯蔵されている。放出放射線量が1/8になるのに10万年かかるのである。ウラン235は半減期43億年である。このままではこうした放射性廃棄物が増え続け、いつか日本列島を汚染し人の住めない土地にする。原子力発電の安全性などどこにもないと思わざるを得ない。
 山本義隆は2018年1月の最新刊『近代日本150年 科学技術総力戦体制の破綻』「第7章 原子力開発をめぐって」でも福島第一原発事故を取り上げている。福島地方裁判所の大飯原発三・四号機運転差し止め裁判の判決にある国富の定義をとりあげ、「福島の事故は、明治以来、「富国強兵」から「大東亜共栄圏」をへて戦後の「国際競争」にいたるまで一貫して国家目的として語られてきた「国富」の概念の、根底的な転換を迫っているのである。」と総括している。
 福井地方裁判所の判決を同書から抜粋引用しておく。
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 コストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件源波うの運転停止によって多額の貿易赤字がでるとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。…287頁
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<元東大全共闘議長山本義隆氏のこと>
 山本義隆は1968年の学生運動で東大全共闘議長に推された。当時は大学院博士課程で未来を嘱望されたエリートだった。ノーベル物理学賞の湯川秀樹が絶賛し、ノーベル物理学賞に一番近い人材と述べていた。東大へは残れず、駿台予備校で物理の専任講師をしているかたわら、精力的に本を出し続けている。駿台予備校で彼の物理講義を聴講した学生は少なくないだろう。わたしがいま教えている生徒の父親に彼の講義を聴いた人がいる。いまだに記憶に残っているほどすばらしい授業だったと語っている。日本最高の知性の一人であることは間違いがない。本を読めばそれがわかる。職人気質と言いたいほど、学術的に疎漏のない完璧な仕上がりである。当時の東大大学院の知的エリートのなかでもトップであった昔日の面目躍如。

<音読トレーニング>
 9月から高1と中3の希望者を相手に『近代日本150年 近代科学技術総力戦体制の破綻』をテクストに取り上げて音読トレーニングをする。漢文読み下し文が引用にふんだんに使われていることもあって、使われている語彙は広いし、論旨は緻密、中身の濃い音読トレーニングになりそうだ。
 原発に関する彼の主張をそのうちに箇条書にしてまとめたみたい。


*#1460 「原子炉圧力容器損傷か?:写真で検証
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-04-03-1

 #1462 「裸の王様:原子炉圧力容器は破損している 論より証拠、よく写真を見てごらん
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-04-05

 #1463 「福島第1原発3号炉はもう無い:東京電力社員退去要請の意味」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-04-06

 #1607 児玉龍彦国会で告発(2):(書き起こし) July 31, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-07-31

 #1611 児玉龍彦教授(3):息子さんからのエール Aug. 3, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-08-02-1

 #1655 あらら、何を隠そうとしているの?:原子炉建屋にコンクリートの覆い Sep.21, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-09-21

 #2323 次の原発事故のために(1):甲状腺癌と情報操作?:U.N. experts see no increase risk of cancer … Jun. 6, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-06

 #2324 次の原発事故のために(2) :福島県で12人が甲状腺癌 Jun. 7, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-07

 #2325 次の原発事故のために(3):Tyroid cancer hits 12 kids in Fukushima: Jun. 8, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-08

 #2377 次の原発事故のために(4):小児甲状腺癌18人に  Aug. 21, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-21

 #2379 次の原発事故のために(5) 8000万ベクレル/ℓ 高濃度汚染水漏洩 Aug.22, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-22

 #2381 次の原発事故のために(6): 超高濃度汚染水と浄化システムALPS  Aug. 25, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-24

 #2383 次の原発事故のために(7): 漏洩はセシウムとストロンチウム合計で30兆Bq  Aug. 26, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-08-27


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