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#3651 中学生の読解力: 国立情報学研究所調査より Dec. 1, 2017 [47.1 読み]

  11/28の北海道新聞第3社会面には「国立情報学研究所が調査 中高生の読解力に不安」という見出しで、記事が掲載されている。似た文章を比べ、意味が同じかどうかを問う問題が転載されているので紹介する。

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「幕府は、1636年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた」
「1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた」
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 この二文は特別な知識がなくても、基礎的な文法を踏まえていれば意味が同じかどうか答えられる問題である。
 最初の文は中学校教科書からの引用である、この文を43%の中学生が「同じ意味」と誤答したということは、予習して教科書を読んだとしても、字面を追っているだけで、正しい意味をつかんでいないということ。「命じた」と「命じられた」では意味が正反対になるがこういう基本的な国文法すら理解していないなら、英文法の能動態と受動態の意味の違いも43%がわかっていないとみるべきなのだろう。この問題に高校生の28%が誤答している。こういう貧弱な日本語読解力の生徒たちが高校の標準的な教科書を独力で読んで理解することは、不可能と言わざるを得ない。
  中学校で朝読書をやっているところが多いが、43%の生徒たちはこういう文すら正確に理解できないから、字面を追っているだけ、意味がつかめていない、おまけに国語辞典も漢和辞典も引かないから語彙力すらアップしない。読めない語彙や意味の分からない語彙は飛ばして読んでいるのである。読解力アップという観点から「朝読書」を点検してみると読書指導の意味はない。
  素読や音読トレーニングをすれば、小・中学生の日本語読解力を確実に、そして大幅にアップできる。日本語読解力は主要五教科すべての学力の基礎である。
  要は指導の手間をかけること。中学校は週に一日だけ、部活を停止して、日本語音読授業をやるべきだろう。小学校も英語の授業はやめて日本語音読授業をやるべきだ。ニムオロ塾では月に2回、希望者限定の日本語音読授業をやっている。90分間、格闘技のようなもの、生徒はへとへと。
  国立情報学研究所の今回の調査データはやるべき教育施策がなんであるかを明確に指し示している。

  北海道新聞にはもう一つ事例が載っている。
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「仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに広がっている」

  これを読んで、オセアニアに広がっている宗教を、「キリスト教」と答えられなかった中学生は約38%、高校生は約28%だった。
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 問題を二つに分割できそうだ。ひとつは一時記憶域が狭いということ、もうひとつは、脳内に意味のイメージができていないということ。この段落でとりあげられているは三つ、仏教、キリスト教、イスラム教である。そしてそれらの地域的な広がり。世界地図を脳内に展開できれば、ユーラシア大陸の西の端が外の向こう側のアメリカ大陸がキリスト教、東側が仏教、その間に広がるのがイスラム教である。オセアニアと書いてあるから、オセアニアの定義を知らなくても理解できる。オセアニアは広い定義では環太平洋の島々、狭義ではオーストラリア、ニュージーランドとその周辺の島国を含む。

  出題された問題を別のサイトで見つけたので、さらに紹介と解説を続けたい。
*https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171128-00000005-resemom-life
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 また、文章から図表への対応付けが正しくできるかを問うイメージ同定の問題では、「メジャーリーグの選手のうち28%はアメリカ合衆国以外の出身の選手であるが、その出身国を見ると、ドミニカ共和国がもっとも多くおよそ35%である」という中学校社会科の教科書から引用された文章を読み、メジャーリーグ選手の出身国の内訳を表す図を選択肢でたずねたところ、正答できたのは中学生が12.3%、高校生が27.8%だった。
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  この文章から、メジャーリーグの選手でアメリカ出身者が何%いて、ドミニカ共和国出身者が何%いるか計算しながら読んで頭の中に円グラフを描くことのできる中学生は10人に1人の割合しかいないということ。
  メジャーリーグの選手で米国出身者は72%(100%-28%=72%)で、28%の外国選手のうちの35%は全体の9.8%(28%×35%=9.8%)にあたる。
  中1の正答率が9.0%、中2は12.0%、中3は15.1%となっている。高校生になったらそれが4人に1人の割合に倍増している。高校三年間の勉強の成果だ。それでも、この文章を正確に読み取れない者が高校三年生で64.3%も存在することは驚き。子どもたちの日本語読解力はこれほど落ちている。

  日本語読解力の著しい低下は日本人の仕事のレベルを低下させているのではないか?
  大野晋が戦後駐留軍の機関が日本語の使用を禁止しローマ字を導入しようとして、日本人の国語力の全国調査をしたことがあった。そのレベルの高さに驚き、米国はもちろん、日本人の国語学者たちが多数ローマ字の国字化に賛成していたが、鳴りを潜めた。弊ブログでも数度とりあげている。出題された問題は現在の大学生にやらせても難易度が高い。そういうテストで「国民の平均点」が7割をはるかに超えた。戦争直後のころの日本人の国語力はいまと比べてはるかに高いものだったのである。それが前後の経済復興と高度経済成長につながっている。



<<戦争直後の国語力はいまとは比較にならぬほど高かった>>
*#3405より
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-09-01
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< 余談:国語力の著しい低下 >
 戦後直後に行われたCIEによる全国民対象の無作為抽出による国語テストの平均点は78.3点で、識字率は97.9%であった。国語の問題文はいま中学生に行われている学力テストとは比較にならぬほど難解な文章が並んでいる。満点が6.2%もいたのである。国民の国語力は60年間で半分以下になったのではないだろうか。
 データは大野晋『日本語の教室』(岩波新書)より

#3088 公民・歴史・地理から見た安保法制論議:憲法第九条と自衛隊 July 21, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-07-21

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<敗戦処理と憲法第九条:70年前になにがあったのか>
 次は歴史からのアプローチだ。この条文は日本が白人との戦いにおいて負けた結果、戦勝国である最強の白人帝国(米国)が占領政策上天皇制の存続を認めたほうが統治しやすいと判断し、天皇の戦争責任を問わない代わりに世界に例のない第九条の条文をいれて他の国々を黙らせたという当時の事情はあるのだろう。米国は何が何でも、つまり天皇制維持を認めてさえも日本を統治して自分の支配下に組み入れる必要があった。アジアでの日本の力を無視できなかったのである。ほうっておけば、日本はいずれアジア諸国のリーダとなり、白人帝国と衝突することになる可能性が大きいから、米国の国益上、日本の天皇制を利用しつつ、米国文化へ取り込むために日本文化の破壊を目論んだ。
 たとえば文字政策を具体例に挙げたい。昭和21年当用漢字(1850字)が告示され、漢字制限が行われた。これは文人の国語力を下げただけではない、一般国民の国語力も著しく低下させてしまった。序(つい)で米国は日本独自の文化破壊を目的として漢字廃止を画策CIEによる国語テストを実施した。当時の人口7755万人から、戸籍簿に基づき無作為に17100人を選び16820人について国語力テストが行われた。該当者の年寄りを山の中まで迎えに行って、町役場や村役場につれてきて国語のテストを受けさせるというほど厳格なものだった。結果は予想とは大違い、平均点は78.3点、満点が6.2%、識字率が97.9%だった
 これだけ厳密な識字力調査は世界に類例がない。漢字や短歌の読み書き能力の高さや識字率の高さに驚いて米軍は漢字廃止政策を取りやめた。こんなに文化程度の高い国とでは次に戦争になったときにはやっかいなことになると思っただろう。
 驚くべきはその後の日本側の調査委員会の対応であった。6.2%の満点を強調せずに、漢字の読み書き能力が足りないという結論を下し、漢字制限へと動くのである。そして国語審議会が中学3年生までに学習すべき漢字を881字に制限してしまう。(大野晋『日本語の教室』(岩波新書)より)
 その後の経緯は明らかだ、文部省と国語審議会が漢字制限をし続け、日本の文化を根底から破壊し続けている。
 進駐軍が漢字を廃止するには日本国民を納得させるために、具体的な調査とデータが必要だったのだろう。世界に類例がないほど国語力のレベルが高いことが分かり、それで米国は漢字廃止をあきらめたのである。データの裏づけのない暴挙(漢字廃止)をしたら、日本人の国民感情を著しく傷つけ、米国への反感が一気に巨大なうねりとなりかねないと読んだのだろう。愚かだったのは日本の歴代の文部官僚と国語審議会のメンバーである
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*#3650 子どもの想像力と語彙力拡張:3歳9か月児 Nov.30, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-11-30

 #3649 全国学力テスト管内別平均正答率分析
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-11-29

 #2067 同時通訳 『米原万里の愛の法則』を読む Aug. 26, 2012
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-08-27

*#2865 マルクスの労働観と日本人の仕事観:学校の先生必読 Nov. 13, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-13


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