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#3640 心情を表す語彙が課題 Nov. 18, 2017 [47.1 読み]

  11月9日に中学1・2・3年生の学力テストが実施されたが、2年生のある生徒の国語試験問題と答案を見比べて気が付いたことがある。

  何に気が付いたかというと、「押し黙った」とか「口をつぐんだ」というような、人の心の状態を表す句の意味を問う問題が3題出題されていたが、三つとも間違っていたこと。出題形式は四択だった。前後を読めばわかりそうなものだが、そういうジャンル語彙を知らなかったのである。
  音読トレーニングで取り上げたのは2冊とも「論説文」である。論説文には人間の感情や心の揺れを表す語彙はほとんど出てこない。そうした語彙は万葉集や『源氏物語』の時代から文学作品にふんだんに出てくる。心情表現の語彙の大きさの順に並べると次のようになるだろう。

   論説文 < 小説 < 文学作品

  随筆は論説文と小説の間に入るだろうし、短歌や俳句はもちろん文学作品に含まれる。芭蕉の句に「枯れ枝に 烏の止まりたるや 秋の暮」があるが、夕日に暮れなずむ景色の中に一点烏の黒が全体の風景を引き締める役割を果たしているのことに気が付くだけでなく、読み手がその時どのような心境だったのかについても伝わってくる。こういう風景に託した心情表現という高等技術は外国の文学作品では見たことがない。表現として短歌や俳句は語彙の問題の地平をを超えているところにある。
  この句は、数学者の藤原正彦が『国家の品格』109ページで採りあげて論じているので、興味がもてたら新潮新書で200ページ足らずの本なのでお読みいただきたい。

  ところで、この生徒は日本語音読授業を4月からやっている。月2回のペースでいま2冊目をやっており、 一つ目は斎藤隆著『語彙力こそが教養である』(角川新書)、二つ目は『日本人は何を考えてきたのか』を取り上げ、今週127ページまで読み進んだ。90分の音読授業で毎回40ページのペースで読んでいる。贅沢な話だが、二人か三人での輪読あるいは同期音読トレーニングだから、60分を過ぎたあたりからヘロヘロになり、呂律が回らなくなってくると助詞や名詞の誤読も増えてくる。90分間気を緩めずに先読みをしながらの音読は、集中力と気力の維持が必要なのだ。集中力が切れた瞬間に誤読が起きるから指導する側にはとてもわかりやすい。だから、60分でやめたこともある。集中が切れた状態で続けると、だらだら読みが癖になりかねないから、そういう状態になったと感じた瞬間に中止、残りの時間は読めなかった漢字の書き取りをやらせる。読めない漢字や誤読した漢字が出て来たときは、音読をストップしてルビを振らせている。「細かい」と「「細い」は送り仮名で読み方を判断しなればならないがこういう類のものや、何通りかの読みがあるが文脈との調和からどの読みがベストか判断しなければならないものもある。読み方には読み手の教養の範囲やスキルの程度が明瞭に出るもの。だから、半年、一年と続けていくと、そのあたりに変化が生じてくるので、聴いていると腕の上がったことが伝わってくる。そこに音読トレーニングの醍醐味がある。そういうわけで、毎月2回水曜日の音読トレーニングは楽しいからやっている。本気で取り組む生徒は必ず上達するし、上達させることができなければ指導する側の問題で、それはそれでその都度考え、効果的な方法を考えて試してみればいい。指導する側も指導技術が上がっていくからキリなく楽しめる。音読トレーニングは楽しい。
  英語もこういうスタイルの朗読授業は効果が大きいだろう。

  この生徒が学力テストで90点台の得点をするためには、文学作品を読まなければならない。だが、部活が忙しくて、そういう時間の余裕がない。80点台から90点台の得点へと踏み込むためには、間違えた個所のうちどこで点数をとるのか検討しなければならない。検討した結果、M君には課題がはっきり見えた。心情を表す表現の多い文学作品を濫読すれば、国語は90点以上とれるようになる。古典も課題だ。
  部活や自主トレを優先し続ければ、文学作品や古典を読む時間など取れるはずもないから国語の点数は頭打ちになる。どうするかは本人の選択。学力テストで国語80点台ならそれで十分という選択もある。私はもったいない気がするが、本人の選択の問題だから、点数をアップする具体的な方法を旨告げるだけで、どうしろとは言わない。
  文武両道はそのバランスがなかなかむずかしい、一部(10-20%)の人間ができるのみ。どうしてよいかわからぬ時は、より困難な道を歩め。

#3539 落葉樹の対義語は? Nov.12, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-11-12

#3607 同期音読トレーニング Sep. 6, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-09-06

 #3509 数学のセンス(2):「同型性」と「拡張」⇒どのように考えるのか Feb. 19, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-19


〈 音読リスト:#3405より 〉
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< 国語力アップのための音読トレーニング >
 中2のトップクラスのある生徒の国語力を上げるために、いままで音読指導をしてきた。読んだ本のリストを書き出してみると、
○『声に出して読みたい日本語』
○『声に出して読みたい日本語②』
○『坊ちゃん』夏目漱石
○『羅生門』芥川龍之介
○『走れメロス』太宰治
○『銀河鉄道の夜』宮沢賢治
 『五重塔』幸田露伴
 『山月記』中島敦
●『読書力』斉藤隆
●『国家の品格』藤原正彦
 『日本人は何を考えてきたのか』斉藤隆
 『語彙力こそが教養である』斉藤隆 ⇒現在音読中、2017年3月中旬読了予定

 これから読むものをどうしようかいま考えている。
●『すらすら読める風姿花伝・原文対訳』世阿弥著・林望現代語訳
 『福翁自伝』福沢諭吉
 『善の研究』西田幾多郎
 『古寺巡礼』和辻哲郎
 『風土』和辻哲郎
 『司馬遼太郎対話選集2 日本語の本質』文春文庫
 『伊勢物語』

(○印は、ふつうの学力の小学生と中学生の一部の音読トレーニング教材として使用していた。●印の本はふつうの学力の中学生の音読トレーニング教材として授業で十数年使用した実績がある。音読トレーニング授業はボランティアで実施、ずっと強制だったが2年前から希望者のみに限定している。)
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