#3534 円錐と角錐の頂点の数を巡って:定義・公理・定理 Apr. 26, 2017 [53. 数学四方山話]
前回#3533「 自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 」で自然数概念と演繹システムの関係を分析した。今回は、円錐や角錐の頂点の数がユークリッド『原論』(以下『原論』と略記することがある)の演繹システムではどうなっているのか検討してみたい。
『原論』は「定義」と「5つの公準、5つの公理」そして証明すべき「命題=定理」からなっている。ブルバキは現代数学の体系化の基本原理として集合論を措定し、数学各分野について30冊の本を出版して体系化を試みている。ユークリッド『原論』とブルバキ『数学原論』は同じ演繹システム構成をもつ。
40年前に購入したこの本に再度目を通してみた。演繹システムとしてマルクス『資本論』経済学体系を見ていたので、いつか読むだろうと本棚の肥やしにしていた。(笑)
『数学原論 集合論1』から引用する。
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「6.各章の論理的な骨組みは、《定義》、《公理》、《定理》から成る」…ブルバキ『数学原論 集合論1』p.2(以下、『数学原論』と略記することがある)
「2.叙述の仕方は公理的、抽象的であり、原則として一般から特殊へ進む。この方式を選んだのは、現代数学全体に確固たる基礎を与えようというこの原論の主目的による。この目的のためには、多くの概念や一般原理を一挙に獲得することがどうしても必要である。さらに、証明をつける必要上、内容は原則として厳密に定められた論理的順序に従って配列される。したがって、この原論の中には、すでに広い知識を持ち合わせている読者にしかその効用がわからないような事柄も含まれている。そうでない読者は、納得できる機会が来るまで判断を差し控えて辛抱強く待たなければならない。 」...同書p.1
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ユークリッド『原論』とブルバキ『数学原論』30冊、は演繹システムとしてみるとまったく同じ。
ユークリッド『原論』第1巻は次の23項目の定義から始まっている。
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点、線、点の端、直線、面、面の端、平面、平面角、直角と垂線、鈍角、鋭角、境界、図形、円、円の中心、直径、半円、直線図形と三辺形と四辺形と多辺形、等辺三角形・二等辺三角形・不当辺三角形、直角三角形・鈍角三角形・鋭角三角形、正方形・矩形・菱形・長斜方形・これら以外の四辺形、平行線
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これら23項目の一つ一つに定義がつけられているのだが、このリストに(直線図形=多角形)頂点の定義が含まれていないことに注意。『原論』第1巻は定義と公準・公理のリストに続けて、正三角形の作図から始めている。三角形が多角形の基本(一番単純な多角形)ということだろう。平面幾何には他の巻にも定義があるが、頂点の定義はどこにもない。
『原論』は平面幾何⇒数論⇒空間図形という3部構成をもつ。空間図形は第11巻(p.343)から始まる。第11巻の冒頭もやはり「定義」である。28個の定義がリストされているが、関係のある個所だけをピックアップしてみる。
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「12.角錐とは、数個の平面によって囲まれ、一つの平面を底面とし、一つの点を頂点としてつくられる立体である」
「18.円錐とは、直角三角形の直角を挟む辺の一つが固定され、三角形が回転して、その動きはじめた同じところにふたたびもどるとき、囲まれてできる図形である。…」
「25. 立方体とは六つの等しい正方形によって囲まれた立体である」
「26. 正八面体とは八つの等しい等辺三角形によって囲まれた立体である」
「27. 正二十面体とは二重の等し等辺三角形によって囲まれた立体である」
「28. 正十二面体とは十二の等しい等辺等角な五角形によって囲まれた立体である」
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角錐のとんがり部分を頂点としているのみ。底面の辺の接合部を頂点とは書いていない。円錐は直角三角形の回転体として定義しており、やはり頂点の定義がない。
オイラーは多面体定理(面の数+辺の数-頂点の数=2)を発見した。『原論』11巻には39の定理が論証されているが、もちろんその中にオイラーの多面体定理は存在しない。多角形で頂点を定義しておかなければ多面体定理は演繹できないのである。それゆえ、ユークリッド『原論』の演繹システムでは、オイラーの定理を演繹できない。
『原論』第1巻の平面図形の定義で多角形の頂点を定義しておけば、『原論』でもオイラーの多面体定理が演繹できる。多角形の頂点に注目すれば、ユークリッドもオイラーの多面体定理に気づいたかもしれぬ。
オイラーは18世紀の数学者、『原論』は紀元前300年ころに書かれた。
中学校数学では、多角形は頂点が定義されているから、四角錐の頂点は5つが正解である。したがって、n角錐の頂点の数は(n+1)。理由は再説する必要がないだろう。
さて、定義と公理と定理の関係が理解できたかな?
もうひとつ概念にかかわる問題を片付けたい。錐には円錐、楕円錐、角錐、直円錐、斜円錐、直角錐、斜角錐、その他の錐がある。その他の錐とは、底面の形状がぐにゃぐにゃした曲線を含むものである。これらをまとめた類概念があるが、それが「錐体」である。錐体は類概念で底面の形が多角形または円のような閉曲線と定義されるから、頂点はとんがり部分しか定義しようがない。円錐と角錐に共通な底面の頂点は存在しないのである。
ぐにゃぐにゃした閉曲線を含むか否かは議論の余地があるかもしれない。概念構造としては錐体という類概念の下に円錐、楕円錐、角錐、その他の錐があるということになるだろう。
<参考>大辞林より
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類概念:二つの概念が従属関係にある場合、上位の概念をいう。たとえば、「日本人の男」に対する「日本人」「日本人」に対する「人間」。類
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錐体:①平面上の多角形または円のような閉曲線のすべての点と、平面外の一点を結んでできた立体。
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頂点:①一番上。最も高いところ。てっぺん。③数学:(ア) 角をつくる二直線の交点。(イ)多角形の辺の交点。 (ウ)多面体の三つ以上の面の交わる交点。 (エ)錐面の各母線の交点。 (オ)放物線とその軸との交点。
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*#3533 自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 Apr. 26, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26
#3534 円錐と角錐の頂点の数を巡って:定義・公理・定理 Apr. 26, 2017
『原論』は「定義」と「5つの公準、5つの公理」そして証明すべき「命題=定理」からなっている。ブルバキは現代数学の体系化の基本原理として集合論を措定し、数学各分野について30冊の本を出版して体系化を試みている。ユークリッド『原論』とブルバキ『数学原論』は同じ演繹システム構成をもつ。
40年前に購入したこの本に再度目を通してみた。演繹システムとしてマルクス『資本論』経済学体系を見ていたので、いつか読むだろうと本棚の肥やしにしていた。(笑)
『数学原論 集合論1』から引用する。
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「6.各章の論理的な骨組みは、《定義》、《公理》、《定理》から成る」…ブルバキ『数学原論 集合論1』p.2(以下、『数学原論』と略記することがある)
「2.叙述の仕方は公理的、抽象的であり、原則として一般から特殊へ進む。この方式を選んだのは、現代数学全体に確固たる基礎を与えようというこの原論の主目的による。この目的のためには、多くの概念や一般原理を一挙に獲得することがどうしても必要である。さらに、証明をつける必要上、内容は原則として厳密に定められた論理的順序に従って配列される。したがって、この原論の中には、すでに広い知識を持ち合わせている読者にしかその効用がわからないような事柄も含まれている。そうでない読者は、納得できる機会が来るまで判断を差し控えて辛抱強く待たなければならない。 」...同書p.1
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ユークリッド『原論』とブルバキ『数学原論』30冊、は演繹システムとしてみるとまったく同じ。
ユークリッド『原論』第1巻は次の23項目の定義から始まっている。
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点、線、点の端、直線、面、面の端、平面、平面角、直角と垂線、鈍角、鋭角、境界、図形、円、円の中心、直径、半円、直線図形と三辺形と四辺形と多辺形、等辺三角形・二等辺三角形・不当辺三角形、直角三角形・鈍角三角形・鋭角三角形、正方形・矩形・菱形・長斜方形・これら以外の四辺形、平行線
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これら23項目の一つ一つに定義がつけられているのだが、このリストに(直線図形=多角形)頂点の定義が含まれていないことに注意。『原論』第1巻は定義と公準・公理のリストに続けて、正三角形の作図から始めている。三角形が多角形の基本(一番単純な多角形)ということだろう。平面幾何には他の巻にも定義があるが、頂点の定義はどこにもない。
『原論』は平面幾何⇒数論⇒空間図形という3部構成をもつ。空間図形は第11巻(p.343)から始まる。第11巻の冒頭もやはり「定義」である。28個の定義がリストされているが、関係のある個所だけをピックアップしてみる。
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「12.角錐とは、数個の平面によって囲まれ、一つの平面を底面とし、一つの点を頂点としてつくられる立体である」
「18.円錐とは、直角三角形の直角を挟む辺の一つが固定され、三角形が回転して、その動きはじめた同じところにふたたびもどるとき、囲まれてできる図形である。…」
「25. 立方体とは六つの等しい正方形によって囲まれた立体である」
「26. 正八面体とは八つの等しい等辺三角形によって囲まれた立体である」
「27. 正二十面体とは二重の等し等辺三角形によって囲まれた立体である」
「28. 正十二面体とは十二の等しい等辺等角な五角形によって囲まれた立体である」
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角錐のとんがり部分を頂点としているのみ。底面の辺の接合部を頂点とは書いていない。円錐は直角三角形の回転体として定義しており、やはり頂点の定義がない。
オイラーは多面体定理(面の数+辺の数-頂点の数=2)を発見した。『原論』11巻には39の定理が論証されているが、もちろんその中にオイラーの多面体定理は存在しない。多角形で頂点を定義しておかなければ多面体定理は演繹できないのである。それゆえ、ユークリッド『原論』の演繹システムでは、オイラーの定理を演繹できない。
『原論』第1巻の平面図形の定義で多角形の頂点を定義しておけば、『原論』でもオイラーの多面体定理が演繹できる。多角形の頂点に注目すれば、ユークリッドもオイラーの多面体定理に気づいたかもしれぬ。
オイラーは18世紀の数学者、『原論』は紀元前300年ころに書かれた。
中学校数学では、多角形は頂点が定義されているから、四角錐の頂点は5つが正解である。したがって、n角錐の頂点の数は(n+1)。理由は再説する必要がないだろう。
さて、定義と公理と定理の関係が理解できたかな?
もうひとつ概念にかかわる問題を片付けたい。錐には円錐、楕円錐、角錐、直円錐、斜円錐、直角錐、斜角錐、その他の錐がある。その他の錐とは、底面の形状がぐにゃぐにゃした曲線を含むものである。これらをまとめた類概念があるが、それが「錐体」である。錐体は類概念で底面の形が多角形または円のような閉曲線と定義されるから、頂点はとんがり部分しか定義しようがない。円錐と角錐に共通な底面の頂点は存在しないのである。
ぐにゃぐにゃした閉曲線を含むか否かは議論の余地があるかもしれない。概念構造としては錐体という類概念の下に円錐、楕円錐、角錐、その他の錐があるということになるだろう。
<参考>大辞林より
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類概念:二つの概念が従属関係にある場合、上位の概念をいう。たとえば、「日本人の男」に対する「日本人」「日本人」に対する「人間」。類
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錐体:①平面上の多角形または円のような閉曲線のすべての点と、平面外の一点を結んでできた立体。
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頂点:①一番上。最も高いところ。てっぺん。③数学:(ア) 角をつくる二直線の交点。(イ)多角形の辺の交点。 (ウ)多面体の三つ以上の面の交わる交点。 (エ)錐面の各母線の交点。 (オ)放物線とその軸との交点。
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*#3533 自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 Apr. 26, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26
#3534 円錐と角錐の頂点の数を巡って:定義・公理・定理 Apr. 26, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26-1
#3535 演繹システムをとりあげた理由:正四角錐の頂点の数はいくつ? Apr. 30,2017
#3535 演繹システムをとりあげた理由:正四角錐の頂点の数はいくつ? Apr. 30,2017
#3538 ∀n [ n≧3⇒∀x∀y∀z ¬(x^n+y^n+z^n] May 7, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-05-07
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2017-04-26 19:13
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