#3520 数学のセンス(6):思い込みのリセット Mar. 10, 2017 [51. 数学のセンス]
数学の問題を解くときに、書いてある条件の一つでも読み落としたら正解への道が閉ざされるから、問題文の読解には細心の注意が必要である。文を「読む」スキルが身についていないとアウトである。数学の問題を解くには「読み・書き・計算」の内、「計算」スキルと「読み」のスキルの二つが要求される。読みには汎用の読解スキルと数学問題文固有の読解スキルがある。数学の語彙とその使い方には慣用的なものがあるから、慣れる必要はあるだろう。完全に読めたとして次のハードルは「思い込み」と「思い込みのリセット」である。誰でもよくやることだから、具体例を挙げて2回にわたって説明したい。1回目は数学の問題で、2回目は英語の問題(道立高校入試過去問)をとりあげる。一つの科目で習得した技は他の科目にも応用が利くものがあるから、利用しない手はない。「技」を使うシーンの拡張である。数学がよくできれば、そこで培った技は英語へも応用できるものがあるということ。少ない技で異なる教科の問題を効率よく解く生徒は英語も数学もよくできる。
チャート式問題集の『青チャート』をやっていた1年生から質問が出た。問題には図がついていたが、問題文を読み描いてみてほしい。
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△ABCがある。辺AB上に点Dをとり、辺AC上に点Eをとる。Eから辺DCに平行な線を引き、辺ACとの交点をGとする。点DからBEに平行な線を引き、辺ACとの交点をFとするとき、GF//BCであることを証明せよ。
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図を描いてみるとわかるが、2組の平行線が交わり、三角形内部に平行四辺形ができる。だから平行四辺形の性質を利用して証明できるのかなと考えて、正解手順を組み立てる。
平行であることを証明するには、①錯角あるいは同位角が等しい、②同側内角の和が180度になることを示せばよい。
5分間考えたが最後のところで、平行であることを前提にしないと錯角が等しいといえない、アウトであった。こういうときはリセットが大事だ。「他の証明法は何があるか?」、頭の中をサーチしてみると、平行であることを証明するには三角形の相似条件からもやれそうだ。△ABCと△AGFの相似を証明できれば∠B=∠Gから、同位角が等しいので平行だと証明できる。
中学数学では辺の比で相似を証明するときには、必ず辺の長さが条件で示されているから、質問した生徒は辺の長さが問題文の条件にないので、辺の比で相似を証明できるという選択肢が思い浮かばなかったようだ。初めてのパターン、「初見」であった。
中学2年のときに平行線で辺の比の計算問題をたくさんやっているから気がついてもいいのだが、問題にはすべて辺の長さが記載されていた。長さが記載されていないと辺の比が求められないという「思い込み」が生じていた。
あるラインを手繰って攻めていって問題が解けないときは、いままでの線を捨てて、視点を変えて虚心に問題文を見る必要がある。頭の中からいまトライした方法を追い出すのはなかなか厄介である。ある箇所に集中していた意識を分散させる。目が三角形の中の平行四辺形にどうしてもいってしまうが、視点を切り替えるためにそれを消す。意識の焦点を特定のところに当てないのである。全焦点で「見る」。座禅の瞑想トレーニングでそういう脳の使い方をトレーニングできる。慣れたら歩いていてもできるようになる。呼吸に意識を置けばいい。数回ゆっくり丹田呼吸をして脳をリラックスさせる。
意識を切り替えて、焦点を絞らないことが数学のセンスの一つなのかどうかはわからないが、問題を解くセンスに関係はある。センスというよりも一つの技と言った方が当を得ている。複数で議論するときでも、こういう思考法は案外威力を発揮する。
< 正解 >
DC//GEより、
AG/AD=AE/AC ・・・①
BE//GEより、
AD/AB=AF/AE ・・・②
①と②の辺々をかけて整理すると
AG/AB=AF/AC
△ABCと△AGFの辺の比が等しいので、
△ABC∽△AGF
よって、対応する∠B=∠G、
同位角が等しいので、
BC//GF
こんな簡単な問題でも、視点があるところに固定してしまうと、容易にリセットできず時間切れとなる。数学の問題は正解があることがあらかじめ前提されているから、正解手順を絞り込むのはそうむずかしいことではない。社会人となったときに、複雑な仕事にぶつかったときには正解手順があるかどうかすら定かではない。そういう問題に比べると、正解手順が受験数学は単純なのである。だから、いくら受験数学ができても、仕事ができる保障にはならない。
仕事では別な能力が試される。基礎学力*、文書力、企画力、遂行力、複数分野の専門知識と経験値、統率力、コミュニケーション能力、調整力等、それはそれでまた別なシリーズが書けそうだ。
*仕事に関する「基礎学力」とは「仕事で必要な専門書を独力で読むことができる程度の学力」と定義したい。
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