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#3391 小学生に英語教育は百害あって一利なし(森永卓郎) Aug. 14, 2016 [98-1 第3版への助走]

 見事に減量に成功したと、ライザップのCMで活躍中の森永卓郎氏が、11日NHKラジオ番組「社会の見方・わたしの意見」で小学校への英語教育導入は百害あって一理なしと、自分の経験をもとに意見を述べていた

 森永氏は親の仕事の関係で、小学1年生のときにボストン(米国)で、4年生のときにウィーン(オーストリー)で、5年生のときにジュネーブ(スイス)で暮らしている。現地へ行って半年もすれば、子どもは頭が柔らかいから、語彙数の少ない日常会話には不自由しなくなるという。
 面白かったのはボストンからウィーンへ引っ越しドイツ語に半年ほどで慣れたころ、それまで憶えた英語が消えてしまったということ。ウィーンからジュネーブへ移ったときには半年ほどでフランス語がしゃべれるようになったが、やはりドイツ語が消えてしまった。
 習得言語の書き換えがなされるので、それまでの蓄積が無駄になるというのである

 バイリンガルの人が稀にいるがという質問に対して、それはその人が以前の言語をメンテナンスしているからで、普通の人が普通の状態でバイリンガルにはならないと断じている。森永の経験を例にとれば、ボストンからウィーンに引っ越しても、毎日英会話のトレーニングをするか、英語を話す環境下にいなければ無理だということ。

 森永が小学校での英語教育に反対する二つ目の理由は、人間は言語で思考するということにある。母国語が確立する小学生の時期に英語という外国語を習わせるのは百害あって一利なし、やってはならぬこと、小学生の時期は母国語の育成にこそ力を注ぐべき
 このことは森永の体験に基づいた意見である。ボストンにいたときには英語で考え、ウィーンにいてドイツ語を話すとドイツ語で考えるように変わり、ジュネーブで生活を始めてフランス語で会話するようになるとフランス語で考えるようになった。
 日本人は日本の自然や風土、他人とのコミュニケーション、さまざまな宗教行事や日常的な慣習を通じて、そして漫画や小説や日本文学を読むことで日本的情緒を吸収しながら日本語で思考して育つ。情緒や思考の鋳型を自分の中に創り上げるのである。
 そういう理由から、初等教育では母語の習得を最優先して、それに集中すべきだ。

 三つ目の理由として、戦後のGHQの教育政策との相似を挙げている。英語の公用語化の要求や漢字の廃止、ローマ字表記の採用などが提案されたが、外交努力で阻止したと森永は言う(以前、弊ブログで大野晋の本から引用して、その辺の事情を具体的に紹介したことがある)。それと類似の状況が生まれつつあることを森永は強く懸念している。
 英語の公用語化はグローバル企業には都合がよいが、日本人が英語で考えるようになるということを意味しており、そのことに森永は強い懸念を抱くのである。小学校への英語教科の導入は、安倍政権やグローバル企業の陰謀ではないかとまで言う。

 海外生活して必要なのは、日本人として日本の文化を理解していることで、日本人が流暢な発音で外国語を話す必要はまったくなく、問題はその中身だという。自国の文化に関する教養のない者はパーティで相手にしてもらえない。これは、(米国と英国へ留学経験がある)数学者の藤原正彦も『国家の品格』の中で書いていることだ。無教養な者と話すのは時間の無駄というのが欧米のインテリの共通の感覚

 ここからはわたしの意見である。
 森永はマクロ経済学の専門家のようだ。日本の経済学者は右も左も欧米の経済学を英語やドイツ語で読んで学んでいる。だから、経済政策も大きな行き詰まりを見せている。アベノミクスの製造元である浜田宏一(内閣参与、東大名誉教授)もマクロ経済学を米国で学んだから、思考の鋳型までもが米国流になり、ろくな経済政策が提案できない。
 日本的情緒や日本の伝統的価値観、職業観、仕事観に基づく経済学がありうることに誰も気がつかないのは、日本の経済学者が例外なく欧米の経済学を学ぶと同時にその思考の枠組みをそのまま鋳型にして研究を続けたからだろう
 英語を公用語にすると、日本から現在の行き詰まりの状況を打破する異質な経済学が生まれる可能性すら失われる。日本人は日本語を母国語として、日本語で考えるべきで、そこにこそ日本という国、日本人の存在理由があるとわたしは思うのである。

 大数学者である岡潔先生はフランスに留学し、フランスに学ぶべきことがないことに気がつき、日本的情緒が大切だと気がついて日本に戻り、芭蕉の俳句の研究に数年間を費やしている。それから数学の研究に没頭して大きな成果を挙げ、3大難問を次々に解いてしまうのである。日本的情緒の重要性がわかろうというものだ。岡潔の業績は数学にノーベル賞があれば3つ分だそうだ。その岡潔先生が初等教育は国語と算数を重点的にすべきで、社会や理科は小学校低学年では不要とまで言い切っている

 ふるさとに戻って塾を開いてから13年が経ったが、中学生の日本語能力の低下はすさまじいゲーム・ソフトの高性能化、スマホの普及、過度な部活で、7~8割の生徒が日常的に本を読む習慣をもっていない。「読み・書き・ソロバン(計算)」という基礎技能のうち、特に読みのスキルがこの13年間で著しくダウンした。読みほどではないが、「書き・ソロバン(計算)」技能の低下も看過できない。
 読みのスキルの低下は、日本語で書かれた教科書の理解を困難にする。だから、国語も数学も理科も社会も、押しなべて学力全般が低下している。速く正確に読み取ることができなくなっている。団塊世代なら五段階評価で1がつくような生徒が20%もおり、そのほとんどに2か3がついている。

 子どもたちの学力低下は、タイムラグを経て国力低下を招来することになるだろう。

 初等教育では母国語の育成に力を注ぐべきで、英語教育導入は百害あって一利なしというのが、森永卓郎氏の意見である
 大数学者である岡潔先生も小学校で英語教育は必要なしと言い切っておられ、さらに進んで小学校低学年では国語と算数の教育に重点を置くべきで、社会科や理科は高学年からでよいと主張された。学問研究には日本的情緒が大切というのも重要な指摘である。


*#1213 数学者岡潔(1):『日本という水槽の水の入れ替え方―憂国の随筆集』
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-09-20

 #749 フィールズ賞受賞数学者小平邦彦と藤原正彦の教育論
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-10-04

 #569 英語教育論:藤原正彦『国家の品格』より抜粋
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-05-03-1

 #559 フィールズ賞受賞数学者小平邦彦の教育論
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-03-28


*#1570  学力と語彙力の関係(1):総論 July 5, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-07-05

**#1572 「学力と語彙力の関係(2): 5科目合計点が高い⇔国語の得点が高い?」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-07-05-3

 #2796 急がば回れ:外国語<母国語 Sep. 1, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-09-01

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<濫読による日本語語彙拡張が鍵>
 大数学者の岡潔は尋常高等小学校時代に家にあった小説を濫読したと『春宵十話』書いている。
 ロシア語同時通訳の米原万里は小学校高学年のときに世界少年少女文学全集全巻を繰り返し何度も読んだとその著書で語っている。数学者の藤原正彦も小学校で文学全集を読み漁った経験を書いて、小学校時代に濫読による日本語語彙の拡張の重要性を語っている。これらの人に共通するのは小学校高学年で日本語テクストの濫読期を通過して文章語の日本語語彙を爆発的に拡張していること。最近読んだ本で驚いたのは『東アジア「反日」トライアングル』(文藝新書)の古田博司(筑波大教授)である。慶応中学時代に岩波の「古典文学大系」を「暇だったから全巻読み通した」というのだから、とんでもないやつだ。高校時代は中国の古典を全集物で読み潰していったという、これでは学者になるに決まっている。高校生が魯迅選集を中国語のままで読む姿を想像してもらいたい。古田だけは極端な例と思っていただいていい。
 日本語語彙がしっかりしていないと会話文ならともかく、文章語としての英文を日本語に置き換える際に、すぐに限界にぶつかってしまうことをジャパンタイムズ記事の文を例にとって解説したから、#1573に眼を通していただきたい。populationsとpopulationをどのように訳せばいいか楽しんでもらいたい。"旬の時期"に文章語の日本語語彙を拡張しておく重要性がわかる。

 #1573 学力と語彙力の関係(3): 英英辞書と母語の語彙 July 7, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-07-07
 
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後志のおじさん

NHK実践ビジネス英語の杉田敏先生も、同じく英語攻略リスニングの柴原ともゆき先生も、英語は中学からで充分とおっしゃっています。両先生とも英語の世界の巨人でGoegle検索すればいくつもヒットしますからご一読を。


ただ、有名な方を引用しただけで終わりにすると、他人のURLを貼り付けるだけで自分は何の責めも負おうとしない投稿のレベルに堕ちてしまいますので、両巨人の足元にも及ばない私の実体験も少し書いておきます。


小学生の頃は、大量に本を読みました。学校の図書室は完全制覇。
国語の、主語述語、修飾語と被修飾語の関係、用言の活用などその介あってか簡単に会得できました。だから、「文法用語」は自分の知識を整理するラベルとして重宝しました。

中学入学後、初めて英語に触れて、

ラジオ基礎英語をやっている奴の発音が格好いいので中1の夏休みからラジオ講座のリスナーに。

何より、英語を深く考えるきっかけとなったのは、

I have two sisters .

という文でした。

「英語の頭では、妹も、「持つ」ものなんだ!」驚きでしたね。

自分と対象物との関係をどのように把握するか?認識の根底が異なる世界が異言語にはあるのだ!と理解する契機となった一文でした。

その後は、英語も古文もドイツ語も同じです。パズルを解く面白さでのめり込みました。数学は、答がひとつであまり面白くなかった。基本と解法を覚えりゃできるんだもん。(当然難関校入試問題含めてですよ。)

で、私の実感ですが、日本語で知識として保持しているレベルが、異言語で述べられた時の理解の上限である。
思考を日本語で行っているのだから当たり前のことなのですが、こんな単純なことさえわからない奴が教育行政を行っているのですね。

中教審のメンバーは北海道の教師と同じくらい「税金泥棒」です。










by 後志のおじさん (2016-08-14 21:11) 

ebisu

後志のおじさん

おススメに従い、「杉田敏の英語教育論」をキーに検索して2つ読んでみました。
http://www.ewoman.co.jp/winwin/8/

これは15ページのなかなか読み応えのあるものでした。
記憶がいいのですね、杉田先生は。

後志のおじさんは、小学生のときに濫読期を経ているのですか、なるほどそれでよくわかりました。
英語は氷山の一角ということ。

数学は答えはひとつですが、解き方はいくつかありますから、それなりに楽しめますが、わたしの場合も数学よりは経済学のほうがよほど面白い。
体系構成法に関しては数学が参考になりましたが、あくまで参考程度で、そのまま使ってどうこうできるものではありませんでした。

杉田敏先生の英語学習法が面白かったので、柴原ともゆき先生の方はあとで検索して読んでみます。


>I have two sisters .

何かに触れたときに、鮮烈な疑問をもてるかどうかが分かれ目です、幸せでしたね。
学問というものはすべからくそういうもの。一生退屈しないですみます。(笑)
by ebisu (2016-08-15 00:28) 

ebisu

数学については意見が一致しているのか、分かれているのか定かでありません。(笑)

>数学は、答がひとつであまり面白くなかった。基本と解法を覚えりゃできるんだもん。(当然難関校入試問題含めてですよ。)

この限りでは賛成です。
でもすこしばかりはみ出す部分があるように思うんです。

14世紀に生まれた複式簿記というのは特殊数学の一分野でして、その体系はシンプルで美しい、実に美しいのです。経済学者が簿記を知らずに経済を語るのはじつに不思議です。
柔道をやるのに受身の練習をしないで、乱取りばかりしているように見えます。現実の経済を動かしているのは株式会社でして、その株式会社で複式簿記に基づいて帳簿をつけていない会社はありません。会計基準が一つ変わるだけで、企業の経営活動ががらりと変わってしまいます。株式の評価基準が変わっただけで、日本企業の株式の4割が外資にわたってしまいました。日本企業はグローバル企業に変わってしまいました。日本人は半分は外資の儲けのために働いています。韓国はその比率がもっと高く、国民生活が犠牲になっています。

ユークリッドの『言論』は純粋数学理論だから、「一般論」にあたるのでしょうが、複式簿記理論と同様に美しい。扱っている問題は幾何学だけではないし、2400年前に書かれたのに後半1/3は高校数学の範囲を超えています。興味の尽きない対象です。

ヒルベルトの『幾何学基礎論』はリーマンの『幾何学の基礎をなす仮説について』も「原論」と比較すると実に楽しい本ですが、後者はわたしには途中からさっぱりわからなくなります。

そういう関連で読むとプルードンの「系列の弁証法」も興味深いものに替わります。デカルトの『方法序説も』、マルクスの『資本論』も。
諸学は深いところでつながっており、同型性が潜んでいます。だからわたしは経済学が楽しいように数学も楽しいしチョムスキーの言語理論も楽しい。
高校数学はそれらの基礎の基礎をなしています。

おそらく、後志のおじさんが言語を面白いと思っているぐらいには、わたしにとって数学が面白いのだろうと思います。

自分の問題意識でさまざまな分野を自由に渉猟して歩けるというのが理想だと20代後半から考えるようになりました。
そうすると、道元も原始仏教経典群に現れるお釈迦様の言説もじつにユニークですばらしいものに感じます。

本論に戻りますが、これは至言です。

>私の実感ですが、日本語で知識として保持しているレベルが、異言語で述べられた時の理解の上限である。
>思考を日本語で行っているのだから当たり前のことなのですが

上手にまとめてくれました、ありがとうございます。
by ebisu (2016-08-15 07:59) 

後志のおじさん

受験数学の世界はつまらないけど、数理の世界は楽しいです。

こんな会話解りますか?(我が家の25年ほど前の実例です。)
私「おっ、救急車きたぞ!80キロ定進!」カミサン「D♭だね。」
私「400で」
すれ違い直後カミサン「G !」
私「460!」

当時小学生の息子はしばし暗算の後、
「(救急車は)85キロくらいじゃない?」


どんな会話か解りますか?



楽しいですよ。数字の世界も。


by 後志のおじさん (2016-08-16 22:25) 

ebisu

DフラットとGは音階のようですが、ギターもピアノも弾かないわたしには、音がさっぱりイメージできません。

400と460は音の周波数ですか?
音を聞いて400と460Hzの識別がつくのですか、びっくりです。

すれ違うときには音源の周波数そのものですから、救急車が対向車線を走ってきたとしたらその前に聞こえている周波数のほうが高いはず。対向車線を走ってきたのではないということですか?
追い越し車線を走ってきたとすると、道路交通法で停止義務があるので、「80キロ定進」の意味がわかりません。

小学生が暗算で二桁の概数で救急車の速度が出せるというのもびっくりです。
単位を合わせなければならないので、普通の小学生は時速80kmを秒速に換算するだけでも暗算では戸惑います。
80,000m/3600sec=22.2m/sec


>どんな会話か解りますか?


さっぱりわかりません(笑)
解説していただけたらありがたい。


by ebisu (2016-08-17 01:56) 

ebisu

おはようございます。気になったので、朝、微睡ながら問題を整理していました。
こういうことでしょうか?

音源が460Hz、高速道路上で救急車が後ろから追い越しをかけてきたとすると、走行車線で「時速80kmの定速進行」は理解できます。
気温20度で音速が343.5mだと仮定すると、
音は「音速+救急車の速度」で後志のおじさんの車に迫ってきます。後志のおじさんの車は、22.2m/secで遠ざかりますから、周波数と2台の車の速度の間に次の式が成り立つのではないでしょうか。

400={(343.5-22.2)/(343.5+V)}460
V=25.995m/sec
時速に換算すると93.5kmになります。

 音速を330mで計算すると時速86.3kmです。
 小学生がこんな計算を、概数で暗算でしたのだとしたら、ずいぶん頭のよい子です。教育の仕方がよほど上手だったのでしょうね。

by ebisu (2016-08-17 07:23) 

後志のおじさん

スミマセン。周波数の数値うち間違いです。
D♭480、G 420でした。カミサンは絶対音感の持ち主ですからこんな遊びもできたのです。

さすがはebisu さん。どんどん調べてしまいますね。(笑)

小学校低学年でしたからそこまでの数式には思い至らず本人は、

80+80×(480-420)÷2/450で概数計算をしていたようです。


私としては、
自分なりにまず考えてみるきっかけとして、また、家に帰ってからドップラー効果をいっしょに読んでみるきっかけとして遊んでみたものです。

by 後志のおじさん (2016-08-17 08:25) 

ebisu

やはり奥様が絶対音感の持ち主でしたか、特別なケースですね。

東大出のシャンソン&カンツォーネ歌手の鈴木重子さんが絶対音感の持ち主ですが、レストランでコップを叩くとそれがどの音階の音かわかるので回りのコップを叩き始めることがよくあったそうです。独特の雰囲気をもった方で、ステージに出てくると重子さんの周りが独特のオーラに包まれました。

絶対音感の奥様なんてほかの家庭では無理ですから、特別なケースです。

お子さんは時速のままで概算計算したのですか、これも臨機応変ですごい。音速が式の中に出てこないところが計算を簡単にしています。
速度の差と和と周波数の関係を理解していなければ、概数計算式がでません。こういう柔軟な思考実験を繰り返して育てたら、受験頭をはるかに超える人材が育ってしまいます。

ここまで理解していたら、ドップラー効果も高校物理の教科書を独力で読んだだけで簡単に理解してしまうでしょうね。
脱帽です。


by ebisu (2016-08-17 09:01) 

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