#3384 syntax(統語論)をめぐって(2) Aug. 3, 2016 [49.3 高校英語教科書を読む]
高校生や大学生が「普通の英文」を読むときに、頭から読むのが難しい文がたまに出てくる。どういう種類の文かというと、それは「構文」という観点から見ると二つに分かれる。
慣用文とか、専門知識の有無とか背景に関する知識の有無なども文を読み解く上で重要な要素ではあるのだが、ここでは「構文」という観点からのみ、読みづらい文を取り上げ、それを読み解く技術を呈示してみたい。
前回、二つの文例を示した。出展は大野照男『変形文法と英文解釈』千城書房(昭和47年刊)である。1975年(昭和50年)に大学院入試の3週間前にめぐり合った本である。会うべくして出遭った本に思えた。
(1) You who read are the final judge of the value to you of the book you are reading.
(2) A cow is easy to milk.
どちらの文も難解な単語はひとつもないが、syntaxは複雑である。
最初の文は新聞英語では頻出する。名詞に修飾節がぶら下がっていて、どれが本動詞かすぐに理解できる高校生は少ないだろう。関係節の埋め込み文が2箇所あるが、わたしが見た限りで、高校教科書で埋め込み文は2箇所以上のものはなかった。新聞英語では3箇所あるものが時々出てくるので、面食らう高校生が多い。
2番目の文は、1ヶ月ほど教科書の読破トレーニングをしている高校2年生がすんなり読み解いた、これには驚いた。英文を読む感覚がこんなに急によくなるとは予想していなかった。
(1)の文は文の主要素だけを取り出すと、Ⅱ文型の簡単な文である。
You are the final judge
これにごちゃごちゃと飾りがついているだけ。
著者の大野照男の説明を引用する。
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この文は、これといった難解な単語を持っていないが、その文法的技術はかなり複雑で難しい。この短逸文も五つの minimum sentences からなっていることを見抜けなければ、その意味を正確に理解したとは言えないだろう。まずその表面構造を分析しよう。
〔You (who read)1 are <the final judge of《the value>2 to you of the book》3 (you are reading)4〕5
関係節を( )で示し、文状名詞句を< >で示し、土台文を〔 〕で示した。それらを文に戻してみると、
1. You are the man.
2. You read.
3. You finally judge the value.
4. The book is valuable to you.
5. You are reading the book.
となろう。したがって、この文は例文1の修飾構造(Noun Modification)と、例文3の文状名詞(Nominarization)の双方の文法技法がからみ合って one sentence を形成している。
したがって、読みにくい文とは、より多くの Clause の連続(例文2のタイプ)の文とうよりも、多くの文がいかに統合されて単一文を形成しているかということにあると言えよう。
同書11ページ
〔読書をするあなたが、いま読んでいる本があなたにとって価値があるかどうかを最終的に判断する人なのです〕
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2番目の文に移ろう。
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A cow is easy to milk.
は、きわめて抽象的な文構造をなしているが、Native speakers には、別に苦労といったものをも感ずることなく、その意味を理解してしまう。しかし、我々にはそれが簡単ではない。ここに考えられることは、この表面構造を形成している'内'なる知識を、母国語話者は無意識のうちに内在化してしまっているが、我々にはそれがないということだろう。この内在化されているもの、つまり、その言語を創造(create)していける言語能力(我々は日本語を生成していく言語能力はすでに有してしまっている)を身につけていくことが、本来の意味での外国語学習ということになろう。
その概念構造(以後、本論では基底構造と呼ぶ)から、表面構造に至るプロセスを概略しるせば、およそ次のように考えることができるだろう。
a. We milk a cow.
b. It is easy.
c. It <we milk a cow> is easy.
It <for us to milk a cow> is easy.
It is easy for us to milk a cow.
It is easy to milk a cow.
d. A cow is easy to milk.
...
特に英語を母国語とする者が、reading をしていく場合、そこに生じたさまざまの表面構造を次々に内面構造に戻して読んでいるのであり、その点を考え合わせるならば、我々の英文解釈が、表面に生じた構造のみを追いかけていたのでは、真の理解に達することはないと断言してもよいのではないかと思う。
同書12ページ
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とくに付け足すことはない。高校英語の教科書なら、1ページにひとつか数ページにひとつしか変形文法を使って解説すべき箇所が現れない。テクストの難易度が普通の英文よりもずっと低いからである。これが Japan Times クラスのレベルになると13個の段落程度でも、数箇所解説の必要のある文がでてくる。説明するほうがしやすいのと、生徒が理解しやすいという二つの理由で、わたしは変形文法を利用している。
分詞構文について、安井稔『英文法総覧』では、文末に来る分詞句を等位接続(重文構造)と言い切っているが、従属接続の分詞句の例文が『変形文法と英文解釈』には載っている。この点は後志のおじさんがハリーポッターからの引用文ですでに指摘したことでもある。
ついでだから8ページにある「例文3」を「文状名詞 nominalization」を紹介しておきたい。
3. I went home early and brought some more enamel paint --- black time --- and spent the evening, touching up the fender, picture-frames...
(私は早く家に帰って、もう少しペンキを手に入れた。こんどは黒にした。そして暖炉の囲いや、額縁を塗ったりして夜を過ごした。) 8ページより
大野は英文解釈上の5つの困難に対応する英文を挙げて論じている。
「以上、五つのタイプのむずかしさを考えてみたが、これらの文から考えられることは、1)歴史的知識、2)社会的知識、3)日常生活、4)慣用表現、5)文の統語論的知識、といった諸相が挙げられる。」 8ページ
大学受験をする高校生がもし経済学部が志望学部なら、JT紙の経済記事には目をとしておくべきだろう、理科系ならば、健康関連記事、温暖化記事、天体、医学や医療に関する記事など、科学関連記事には目を通しておいたほうがよい。周辺知識やその分野の語彙を知っているといないとでは、英文の理解に関わってくるからである。
分詞構文について、前回ブログ#3383で後志のおじさんとの議論を紹介したが、高校生・大学生用に書かれた『英文法総覧』では、分詞句の説明に足りないところがあることが判明した。『変形文法と英文解釈』にはちゃんと記述があった。
受験参考書はある限界の中で書かれたものだから、余力のある生徒は『変形文法と英文解釈』のような専門書にも手を出してみたらよい。最初はピンと来なくても、背伸びして読み進むうちにわかってくる。
『変形文法と英文解釈』はよい本だが、とっくに絶版になって手に入らない。安井稔氏が変形文法を利用した英文解釈で類似の本を出している。わたしはまだ読んでいないが、紹介だけしておきたい。
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