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#3381 28兆円の経済対策:日銀B/Sから何が見えてくるのか? July 30. 2016 [95.増え続ける国債残高]

 一般の会社と異なり、日本銀行の貸借対照表はわたしたちにはわかりにくい。平成27年3月31日のB/Sを眺めながら、安倍総理が打ち出した「事業規模で28兆円(財政措置で13兆円)の経済対策」の正体を探りたい。

  日銀貸借対照表
平成27年3月末日     金額単位:兆円
   (資産の部)   (負債・資本の部)
国債349.1発行銀行券95.5
その他資産56.5当座預金275.4
  その他負債31.2
    
  資本3.5
資産合計405.6負債・資本合計405.6


*第131回事業年度(平成27年度)決算等について(日本銀行)
http://www.boj.or.jp/about/account/zai1605a.htm/


 日銀保有の国債は平成27年3月末ですでに349兆円、支払い準備で金融機関に義務付けられている当座預金は8.7兆円、したがって340兆円も過剰に当座預金へ資金が「ブタ積み」されている。融資先のない国内銀行にとって、0.1%の金利を支払ってくれる日銀当座預金が最善の資金運用先になっている。
 日銀当座預金金利0.1%は、政府が国債を発行して銀行に買い取らせ、それを日銀が買い取るという迂回をすることで、日銀の財政ファイナンスを隠蔽するためのものだった。高い金利に誘導されて、国内銀行は日銀が買い取った資金を日銀当座勘定にブタ積みしている。この迂回がなければ、発行銀行券勘定が370兆円となり、4倍もの物価上昇を招いていた可能性がある。2月16日から新規分の当座預金金利がマイナスになったから、迂回が不可能になった。日銀当座預金はこれ以上増やせない。

 2012年12月に第二次安倍政権が誕生してから3年と7ヶ月が過ぎて、大規模な財政出動でも、異次元緩和とそれに続くマイナス金利導入をやるも、経済成長もトリクルダウンもなかったので、何を焦ったのかまた財源のない景気浮揚策を思いついたらしい。国債は返さなくてもよい借金だと安倍総理は考えているようだ。
 小泉元首相は在任時代に2011年のプライマリーバランス回復を約束していた。安倍総理も約束をしたが、その期限が来るたびに、暑い日差しの中で起きる「逃げ水」のように約束は先延ばしされている。そろそろ、プライマリーバランスの回復が不可能なことに気がつこう。政府の言とは裏腹に新規国債発行額は年々増えているから、プライマリーバランス回復などできるはずがない。

 28兆円の経済対策の財源の主力は財投債や建設国債であるが、日銀B/S上ではどちらも「国債勘定」で区別がない。つまり、28兆円の超大型経済対策=財政出動は国債であがなわれる。

 国債はすでにマイナス金利になっているので、国内の銀行の引き受けはない。残された選択肢は、日銀の直接買入のみ、政府は追い詰められている、いやその意図は別のところにあり、着々と目標へ向かって歩んでいる

 従来は、政府が国債を発行して、国内の金融機関が国債を引き受け、それを日銀が買い取り、代金を日銀当座預金に振り込むという定式が成り立っていた。国内の銀行は日銀当座預金に豚積みすることで、0.1%の金利を受け取れた。ところが2月16日から、新規預託分はマイナス金利がつくことになった。だから、国内の銀行は国債買入を中止しはじめた。そして国債のプレイヤーが金融市場から消え、日本銀行だけが買手となってしまっている。
 仕訳を書いて、従来のやり方と、それが行き詰ってなされる日銀直接買取との違いを示そう。

 <従来方式>
  (借方)国債 28  /  (貸方)当座預金  28

 <日銀直接買入>
  (借方)国債 28  /  (貸方)発行銀行券 28
 
 日銀直接買入方式では、国内銀行の日銀当座預金額は増えないから、負債勘定である「発行銀行券勘定」が増える。これは、市中に流通する銀行券が28兆円増えるということだ。
 問題は、その増えた銀行券がどこへ向かうかだ。政府が無償資金として財政投融資で使えば戻ってこない、ばら撒くだけになる。有償資金でも、採算が悪かったり、リスクの高いところへの貸付となるから巨額の回収不能が発生しかねない。リニア新幹線が好例だろう。東海道新幹線と、東海道リニア新幹線がともに大きな赤字路線になり、返済不能になりかねない。東海道新幹線が開通したときに、日本一の利益路線だった東海道線が日本最大の赤字路線へ転落した50年前を思い出す。

 市中に出回る通貨量が28兆円(あるいは13兆円)も増えれば、物価が急騰するかもしれない。発行銀行券勘定の残高は95.5兆円であるから28兆円の通貨供給量増大の物価への影響は無視し得ない規模になる。

 来年度の財源も80兆円の国債を発行しなければ調達できないが、市場でマイナス金利で日本国債を売り出しても買手がいないから、日銀直接買入=財政ファイナンスとなる。
 95.5+28+80=203.5兆円・・・発行銀行券勘定残高
 
 発行銀行券勘定が、2倍以上に膨れ上がる。これだけのお金が市中に出回ると仮定したら、それは物価が2倍になり、国民の預貯金の価値が半分になるということである。GDP500兆円は物価が上がることで、経済成長がマイナスでも2倍の1000兆円となる。そういうインチキな未来をたわしは望まない。物価が倍になれば、国民の預貯金の実質価値は半分になる。
 政府は国民の預貯金の価値を半分にすることで、放漫財政を続け返済不能な規模に膨らませた1050兆円の国債残高を半分にしようとしているのである。消費税増税によって国債の償還をする必要がなくなった

 政府が使ったお金が最終的にどこへ向かうかわからない。国内に融資先が見つからないのだから、回りまわって、米国債や外国株の購入に向かえば、巨額の円売り・ドル買いが恒常的になり、とんでもない円安がおきかねない。物価の急騰も、急激な円安を加速する、物価が2倍になれば円ドル為替レートは200円/$を超えるだろう。ガソリン価格も灯油も2倍になる。冬の燃料代が大きい北海道民の生活を直撃することになる。燃料代がまかなえなくて低体温死する老人がたくさんでるだろう。

 日銀保有国債はいずれ市場で売らなければならないが、マイナス金利で売れるわけがない。国債市場が機能麻痺を起こしており、そこへ大量の国債が売りに出れば金利は暴騰する。金利が高くなければ銀行は国債を買わないが、金利が上がれば政府財政は国債の金利支払いで財政破綻を起こす。夕張市でなされた市役所職員3割削減、残った職員は給与3割カット、市立病院閉鎖、それ以上のことが国のレベルや都道府県レベル、市町村レベルでなされることになる。

 国内の企業が、預金封鎖のリスク回避のために、外銀へ預金を移し始めてもアウトである。円からドルへの雪崩現象が起こり、邦銀から外銀へ数百兆円の預金が流出する。円売り・ドル買いが殺到し劇的な円安が現出するだろう。なにが引き金になるのかまだ誰にもわからない。

 誰もお金の行方を予言することはできない。経済学は経験科学なのだから、新しい事態は起きてみなければわからないのである。政府と日銀は国民の預貯金=国富を半減させかねないリスクの高い社会実験をいま試みている。28兆円の経済対策と来年度予算のための国債日銀直接引受けがどんな事態をもたらすのか、だれにもわからない。起きてからでは手遅れ、「後の祭り」であることだけは確実なのである。
 劇的な円安が起きると同時に日本株は下がるから、外資にとっては日本企業を格安で手に入れるチャンスが到来する。一部上場企業の外資持ち株比率が5割を超える日が来る。一部上場企業の従業員は外資のために働くことになる、韓国企業と韓国民の現在がそうであるように。
 日銀の黒田総裁と安倍総理はそうした勢力へ手を貸し、亡国への道をひた走っているように見える。

 自民党国会議員諸君、健全な保守主義に回帰すべきではないのかね。子どもたちや孫たちから、君たちへ怨嗟の声が沸きあがることになる。
 想像力をもとう、そして未来から聞こえてくる声に耳を傾けよう。

  「うちのお父さんなんてことしてくれたの」
  「爺ちゃんひどいよ」 


<余談:発行銀行券勘定への疑義>
 負債は債権債務の関係が明瞭である。誰に対する債務で、いつまでに返済すべきか明らかなものが負債区分に計上されるのだとしたら、発行銀行券勘定は負債ではなく、その性質上資本勘定である。この辺りの議論をルーズにしているから、国債勘定と発行銀行券の相殺処理をすればいくらでも国債を発行できるなんておかしな議論が出てくる。
 銀行発行券が資本区分なら、そういう相殺仕訳の余地がなくなる。100兆円の国債を除却処理したら次のような仕訳になるのではないか。

 (借方) 国債除却損    100 /  (貸方) 国債         100
 
 日銀損益計算書には100兆円の損失が計上される。未処理欠損金は欠損金処理案が承認されたら、次の仕訳がなされる。

 (借方) 未処理欠損金 100 / (貸方) 発行銀行券 100

 このように考えると、国債購入は制限が生じ、直接買入処理ができなくなる。国内銀行からの買入しかできない。
 日銀が国内銀行から100兆円の国債を買い入れたら、次の仕訳がなされる。

 (借方) 国債 100 / (貸方) 当座預金 100

 日本銀行は自分のところに当座預金口座を持つ銀行からしか、国債買入ができない。しかし、こうすると、当座預金勘定をもつ国内銀行が、当座預金を引き出すときには負債勘定減少と資本勘定増加という仕訳になる。通貨発行量の増加になるから、資本増加と捉えてよいということになる。
 この辺りの、各国の会計処理はどうなっているのだろう?
 中央銀行の会計基準なんてみたことがない。あるのかないのかわからないが、中央銀行に関する国際会計基準があるべきだろう。 

 いま検索してみたら、バーゼル委員会が策定した中央銀行向け国際会計基準があるようだ。仮訳のURLをクリックしたが、開くことができなかった。
https://www.google.co.jp/url?url=https://www.boj.or.jp/announcements/release_2000/bis0004a.htm&rct=j&frm=1&q=&esrc=s&sa=U&ved=0ahUKEwjp06-_tJvOAhVCI5QKHZ8BB2sQFgggMAI&usg=AFQjCNGgz-C7_04gsGoMBTmkVSbiEcTV_A

 会計学上の論点を整理したので、以下の稿をご覧いただきたい。
 
*#3382 日銀B/Sを読む : 発行銀行券勘定を負債区分に計上するのは間違い July 31, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-07-31


*#3369 日本銀行の貸借対照表を読む  July 20, 2016 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-07-20

 #3282 保守主義とは何か May 6, 2016 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-05-06-1

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#2784 百年後のコンピュータの性能と人類への脅威 Aug. 22, 2014 ">

#3097 資本論と21世紀の経済学(改訂第2版) <目次>  Aug. 2, 2015 


       3097-1 ↓
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-08-02-2

Ⅰ. 学の体系としての経済学      6

1. <デカルト/科学の方法四つの規則とユークリッド『原論』> …6

2.<体系構成法の視点から見たユークリッド『原論』> …8
3.<マルクスが『資本論』で何をやりつつあったかを読み解く> …
10
4.<資本論体系構成の特異性とプルードン「系列の弁証法」> …
11
5. <労働観と仕事観:過去⇒現在⇒未来> …
13
 


  3097-7 ↓
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-08-04-1

24. <文部科学大臣下村博文「教育再生案」について> …67
25.<人工知能の開発が人類滅亡をもたらす:ホーキング博士> 
69





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