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#3334 増谷文雄著 『阿含経を読む1 近代仏教への道』 June 20, 2016 [44. 本を読む]

 1980年代に増谷文雄『阿含経典』全6巻のうち5巻を読みました。釈迦入滅後の五百結集の第6巻だけ読んでいません。第五巻は1987年の出版ですが、8月7日に読了と鉛筆で記入してあります。第一巻が1979年の出版だから、8年かけて5冊出版されたことになります。ゆっくり読めたのですが、あまりゆっくりだったので、6巻目を買うのを忘れてしまいました、なんと間が抜けていることよ。
 このシリーズはパーリ語で書かれた南伝の(スリランカ経由で伝えられた)経典「パッチャ・ニカーヤ」に増谷がテクスト・クリテークを加えて編集したものです。したがって、中国経由の漢訳『阿含経典』とは内容も経数も異なります。

 パーリ語で書かれた経典群は、成立年代がサンスクリット語で書かれた経典よりも、したがって漢訳経典よりも古く、釈迦の説法本来の姿に近く、素朴でわかりやすい。
 中国経由の仏典は中国思想と習合して、元の素朴な教説が大きく修飾を受けています。用語の多くを音の同じ表意文字で置き換えたので、置き換えられた漢字の持つ意味の解釈が混じってしまい、やたら小難しいものになりました。お経を読んで意味がわかるのはお坊さんくらいなもので、一般人には呪文としか感じられません。
 南伝の『阿含経』は実に素朴で、お釈迦様が衆生に説かれたそのままの姿に近い形だという感じがします。悟りを開いたお釈迦様が衆生に説くのに難しい用語を使ったはずがありません。
 どれくらいわかりやすいか、第三巻「人間の感官(六処)に関する経典群」から「18 無智」を紹介します。
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18 無智(南伝相応部経典35、53、無明)
 かようにわたしは聞いた。
 ある時、世尊は、サーヴァッティー(舎衛城)のジェータ林なるアナータピンディカの園にましました。
 その時、一人の比丘が、世尊のいますところに到り、世尊を礼拝して、その傍らに坐した。
 傍らに坐したかの比丘は、世尊に申し上げた。
「大徳よ、いかに知り、いかに見るならば、無智は消滅して、智慧は生ずるのでありましょうか」
「比丘よ、眼は無常であると、知り、見るものにおいては、無智は消滅し、智慧は生ずる。色(物体)は無常である、と知り、見るものにおいては、無智は消滅し、智慧は生ずる。眼の認識は・・・・・、眼の接触は・・・・・、また、すべて、その眼の接触を縁として生ずるところの受(感覚)の、あるいは楽なる、あるいは苦なる、あるいは苦でも楽でもないものをも、無常と知り、無常と見るものにおいては、無智は消滅し、智慧は生ずるのである。
 また、耳は・・・・・声は・・・・・、鼻は・・・・・香は・・・・・、舌は・・・・・味は・・・・・、身は・・・・・触は・・・・・、
 あるいは意は無常であると、知り、見るものにおいては、無智は消滅し、智慧は生ずる。法(観念)は無常であると、知り、見るものにおいては、無智は消滅し、智慧は生ずる。意の認識は・・・・・、意の接触は・・・・・、また、すべて、その意の接触を縁として生ずるところの受の、あるいは楽なる、あるいは苦なる、あるいは苦でも楽でもないものをも、無常と知り、無常と見るものにおいては、無智は消滅し、智慧は生ずるのである。
 比丘よ、このように知り、このように見るものには、その無智は消滅して、智慧は生ずるのである」
   『阿含経第三巻』43ページ
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 比丘とは僧侶のことです。女性の僧侶は比丘尼といいます。釈迦は六処(眼耳鼻舌身意)のそれぞれに対して五蘊(色・受・想・行・識)をとりあげ、無智の消滅と智慧の生起を説いています。繰り返し同じ論法で教え諭されています。

 「魔訶般若波羅蜜多心経 (まかはんにゃーはーらーみたしんぎょう)観自在菩薩 (かんじーざいぼーさーつー)行深般若波羅蜜多時 (ぎょうじんはんにゃーはーらーみたじー)照見五蘊皆空 (しょうけんごーうんかいくう)度一切苦厄 (どーいっさいくーやく)舎利子 (しゃーりーしー)色不異空 (しきふーいーくう)空不異色 (くうふーいーしき)色即是空 (しきそくぜーくう)空即是色 (くうそくぜーしき)受想行識 (じゅーそうぎょうしき)亦復如是 (やくぷーにょーぜー)舎利子 (しゃーりーしー)是諸法空相 (ぜーしょーほうくうそう)不生不滅 (ふーしょうふーめつ)不垢不浄 (ふーくーふーじょう)不増不減 (ふーぞうふーげん)是故空中無色 (ぜーこーくうちゅうむーしき)無受想行識 (むーじゅーそうぎょうしき)無眼耳鼻舌身意 (むーげんにーびーぜっしんにー)無色声香味触法 (むーしきしょうこうみーそくほう)・・・・・

 毎朝、5分間お経を読誦すれば、一月ほどたったら、だれでもそのほとんどを諳んじて言えるようになりますが、意味は専門家に解説してもらわないとわかりません、漢文(=中国語)ですから。
 それに比べて、南伝の経典群は日本語で書かれていますから、日本語の読める人には意味がわかりますから、毎朝読誦したら、意識が変容を受け、仏教が宗教ではなくなります。世の中の物事の生起と人間の感覚器と意識の関係のすべてを説き切っておられることが凡夫のわたしにもよくわかります。この経だけではありません、お釈迦様は弟子たちや衆生への説法で難しいことは言っていないのです。巧みな比喩を使って誰にでも理解できるように話していたのです。お釈迦様がお説きになった「法」は2500年後の日本にも慥かに伝わっています。

 漢訳経典よりも南伝の経典のほうがずっとわかりやすいことに同意いただけるでしょう。如来は世の中の一切を説こうと言って、その限りなく透明な知性で一切を説くのでありました。


 南伝の素朴な経典群を8年かけて五冊読み終わって、さて大乗仏教も含めて仏教を見たときに、初期経典群と中国経由の仏教経典群は近代仏教史から見たらどういう関係にあるのだろうと、そのあたりの専門家の意見を拝聴したくなりました。
 それで、ネットで検索するうちに、2011年2月に『阿含経を読む1 近代仏教への道』を見つけたのです。それまで1985年に増谷文雄氏がこの本を出していることに気がつかなかったのは不覚でした。新宿紀伊国屋や八重洲ブックセンター、神田三省堂など大きな本屋周りをしていたときに見つけてもよさそうですが、巡り遭わなかった。『阿含経典』五巻を読み終わらなければ、そうした問題意識が生まれなかったでしょう。
 せっかく手に入れた本を2/3ほど読んで、そのままになっていたので、昨日最後まで読んだ、この稿を書く経緯はそういうことです。

 お釈迦様は入滅時に、嘆くな、法と律を守れと弟子たちに言い残しています。釈迦最後の説法、ご遺言です。宗派に関わらず、姿勢を正してお読みください。
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比丘たちよ、わたしは、いま、なんじらに告げる。不放逸にして精進するがよい。この世のことはすべて無常である」とあり、「それが如来の最後の言葉であった」とのみ記されています。...『阿含経典を読む1 近代仏教への道』253ページ
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 時を越えて釈迦臨終の場に立ち会っているような臨場感に包まれた方がいるでしょう。手を変え品を変えて、この世が無常であることを繰り返しお説きになりました。常なるものはない、如来の存在もそれに含まれるのです。そして如来の命がいままさに尽きんとしている。

 仏舎利には関わるなと弟子たちに繰り返し諭しているが、師を慕うあまりアーナンダーは言いつけにそむいてしまう。仏教とお葬式は本来関係がない。
 正法(正しい教え)が経蔵、戒律が律蔵というように経典は分かれています。如来は、自分が説いた法(=八支聖道)と戒律を守って精進しなさいと遺言しました。

 近代仏教に関するヨーロッパの学者の研究の白眉は、ドイツ人オルデンベルグの『仏陀』だと増谷はいう。
 Oldenberg
  Buddha, sein Leben, seine Lehre, seine Gemeinde, 1881
近代の欧米の学者によって書かれた仏教ものの最高水準を示すものでありますが、彼はまた、律蔵の研究者として、その第一人者でありました。よってもって、律蔵の研究の重要さを推察していただけるならば幸いに存じます」 ...260ページ
 
 翻訳が出ているが値段が高い7000円するが、URLを記しておく。

 南伝の仏教経典は釈迦が衆生に説かれた元々の形に近いものが残されていると見るべきで、実に素朴でわかりやすい。
 日本の仏教研究は漢訳経典に偏りすぎており、そのことが仏教経典から衆生であるわたしたちを遠ざけています。素朴で、比喩が多くてわかりやすい南伝の初期仏教経典群に親しみましょう。
 仏教は本来宗教に非ず、哲学です。アーガマ(阿含経)の中では釈迦は一言も何かを信じろとは言っておりません。釈迦は法と律の中に生きています、法とは八支聖道、律とは戒律です、大事なものはこの二つです。


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阿含経典を読む (1) 近代仏教への道

阿含経典を読む (1) 近代仏教への道

  • 作者: 増谷 文雄
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1985/02
  • メディア: 単行本

 わたしが持っている単行本は絶版になっているので、文庫本のほうを紹介する。

阿含経典〈3〉中量の経典群/長量の経典群/大いなる死/五百人の結集 (ちくま学芸文庫)

阿含経典〈3〉中量の経典群/長量の経典群/大いなる死/五百人の結集 (ちくま学芸文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2012/10
  • メディア: 文庫
仏陀―その生涯、教理、教団

仏陀―その生涯、教理、教団

  • 作者: ヘルマン・オルデンベルク
  • 出版社/メーカー: 書肆心水
  • 発売日: 2011/06
  • メディア: 単行本

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