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#3227 毒を食らわば皿までも 日銀マイナス金利導入 Jan.30, 2017 [8. 時事評論]

 日銀黒田総裁が29日、マイナス金利導入を公表した。

 出口戦略のない異次元緩和と年間80兆円ペースでの国債買入の行き詰まりが見えてきたので、今度はマイナス金利の導入だという。こういうのを「泥縄」という。出口戦略を失って「のたうちまわって」いる。21日の黒田総裁の国会答弁では、マイナス金利は副作用があるので考えていないと発言していた。わずか1週間で状況が変わったと判断したようだ。日銀金融政策決定会合で日銀政策委員会9人のメンバーのうち4人がマイナス金利導入に反対した。

 そもそも、日銀の国債買入がどうしてこんなに増え始めたのかというと、GPIFが安倍政権の要請で株式投資比率を25%から50%に上げたからである。大量の国債の売りがでるから、国債の暴落を防ぐために引き受け手がなくてはならなかった。
 そういう事情に加えて、BIS規制で日本国債のはリスク資産とみなされ、邦銀も国債の処分を急がざるをえなかった。
 日銀が動かなければ、GPIFと都市銀行両方からの強力な売り圧力で国債市場は暴落、長期金利暴騰の可能性があった。そうなれば、政府財政も道連れ破綻となる。国債がマイナス金利で発行できるように下地作りをしたのなら、あまりにもリスキーである。何が起きるかわからない、「異次元」のゾーンに突っ込んでしまった。
 通貨の番人であったはずの黒田総裁は日銀の独立性をかなぐり捨てて安倍政権を助けたのである。日銀総裁が白川氏から黒田氏に変わり、ブレーキの役割を放棄して、政権の忠実な犬になった。

 だが、当面の破綻を糊塗しただけのことで、年間80兆円規模で日銀の国債買い入れが進めばいずれ日銀と円に対する国際的な信任が揺らぐことになるが、その時期がいつかは誰にもわからない。起きてしまえば破綻の広がりは誰にも止められない。国際金融市場を揺るがす一大事が出来(しゅったい)する。

 いくら税収が増えても、プライマリーバランスの回復すらできないから、国債残高は今後も増え続ける。小泉純一郎が総理大臣のときに約束した2011年プライマリーバランスの回復は、2016年になってもいつなされるのかまるで見えない。

 日銀の国債保有残高は1月20日現在で281.2兆円で、発行残高のおおよそ3割を日銀が保有し、金融市場がマヒ状態にある。GPIFの国内株式保有額は50兆円で、一部上場株式の1割を占めている。異常な状態だが、このGPIF保有株はいずれ年金支払いで取り崩されるから、株式市場には巨大で恒常的な売り圧力となる。株式市場は長期低落が避けられない。政府部門のシェアーが大きすぎるのである。

*日銀の国債保有残高
https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mei/

 さて、253兆円の日銀当座勘定だが、新規預託分からマイナス金利を課すとしても、それがどこに流れるのかが見えない。株式市場、国債市場、企業の設備投資への貸付金の三つが主要な行き先だが、人口縮小で日本経済は長期的に縮小に向かうから、一部上場株の株価の先行きは暗い。銀行はBIS規制があるから、株式投資を増やせない。もちろん、評価が下がった日本国債の購入もBIS規制で増やせない。残るは企業への貸付だが、人口減で国内市場が長期的に縮小していくので、経済成長の時代はすでに終焉しており、これも無理がある。一部上場企業は株式市場で資金集めができるし、内部留保が厚く無借金経営をしているところが多く、設備投資をしたとしても銀行借り入れを行う企業はほとんどないだろう。つまり、運用先のないお金が日銀当座勘定に253兆円ある。

 だから昨日の東京株式市場は日銀当座勘定に積まれた253兆円のお金がどこに向かうかが読めずに乱高下を繰り返した。
 どうなるかは誰にもわからない。
 財政再建という痛みから逃げるために異次元金融緩和という痛み止め薬を飲んでいたが、効かなくなって今度はマイナス金利というモルヒネを使い始めた。収入の2倍も浪費するのがすっかり癖になってしまった。収入の範囲で生活するのがあたりまえ、出血(歳出拡大)を止めるのが先ではないのかね。
  肝心の成長路線は雲散霧消、簡単に実現できる財政出動と異次元の金融緩和も行き詰まり、今度はマイナス金利導入。

     毒を食らわば皿までも

 日銀政策委員会メンバーの人事権を利用してこういう政策を推し進める安倍総理は保守政治家ではなく、革命家だ。奇手の連続、狂気の沙汰である。
 まっとうで健全な保守政治家はいないのか?




<余談-1>
 日銀はいずれテーパリング(金融緩和縮小)に踏み切らざるをえなくなる。国債買入れや国内株式購入を縮小することになる。そのときに国債市場や株式市場がどうなるか、想像すべきだ。
 GPIFも年金支払いのために50兆円買い入れてしまっている国内株式を処分するときが来る。恒常的な売り圧力となり、国債も株価も暴落が避けられない。
 歴史上初めて長期的な人口縮小時代を迎えている、そういう中で経済成長という幻想を振りまき、痛みを我慢せずに逃げてばかりいたらどうなるかは高校生でもわかることだが、与党政治家たちは自分の利害そして議席確保を優先しているというのが実情。

<余談-2:亡国の経済学者浜田宏一>
 浜田宏一(東大名誉教授・米エール大経済学部教授)が内閣参与として、安倍政権の経済政策を支えてきた。最近はマスコミへの露出が少なくなっている。成長路線で何度も何度も安倍総理が繰り返した「トリクルダウン」もこの人の指南ではなかったか。
 昨年8月に朝日新聞が行ったインタビューで、出口戦略に絡めて、国債が暴落して「さまざまな波及効果が出るだろう」といっている。「波及効果」という語彙は通常はよいほうに使うのだが、米国留学経験のあるこの人の語彙感覚はわたしたちとはよほど異なっている。投資家と国民も散々な目に遭うと言い換える必要がある。政治家ではないから、この亡国の経済学者、あんがい正直である。
 高橋是清が戦時体制下で必要に迫られて赤字財政を続けたた結果、戦後のインフレで国民が保有する国債は紙くず同然になった。異次元の金融緩和やマイナス金利はいつまでも続けられない。出口戦略に切り換えたとたんに、国債の暴落、金利上昇、急激な円安によるコストアップ・インフレ、政府財政破綻が同時に起きる。
 これが財務官僚が描く、国民生活を生贄にする財政再建の真実の姿かもしれない。


http://www.asahi.com/articles/ASH7W6J5YH7WULFA02P.html
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2015年8月12日 朝日新聞デジタルニュースより抜粋引用

<増税へ緩和継続と第四の矢を 浜田宏一エール大名誉教授>

 「『この道はいつか来た道』と、歌のように戻っていけばいい。金融政策は、雇用のため、国民所得のため、経済成長のため、インフレを抑え込みつつ実施していかなければいけない。ただ、問題は政治的に出口に行けるかどうかだ。出口政策を進めれば金利は跳ね上がり、国債保有者には、様々な波及効果は出るだろう。それが大変なのはわかるが、債券保有者のために金融政策があるわけではない」

 「出口の局面で日銀が含み損を抱えて、国庫納付金の減少を通じて国民負担につながるという議論がある。だが、よく考えれば、日銀は国債を買うことで政府の負担を肩代わりしていたわけなので、国民生活全体から見ればほとんど問題がない
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 2012年12月5日、ブルームズバーグが配信した記事を引用する。彼の論によれば白川から黒田へ日銀総裁が変われば数ヶ月でインフレがおき、好景気になるはずだったが、4年たってもさっぱり効果が見えない。こんな経済学者を政権のブレーンにすえるのだから、安倍氏には人材選定のセンスもない。
 安倍・浜田・黒田と眺めてみたら、類は友を呼ぶというのはなるほどと思う。貨幣数量を調節することで景気を回復させたり、経済成長を成し遂げようということ自体が、トンデモ学説なのだろう。少子高齢化による人口減少時代に突入した日本の現実をよく見たらいい。

http://togetter.com/li/753051
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浜田「白川方明総裁の後任が今以上の金融緩和を行えば、数カ月以内でデフレ脱却を実現できる」「日銀が2、3%のインフレ目標を設定すべき」

  • 安倍総裁ブレーン・浜田氏:日銀新総裁は数カ月以内のデフレ脱却可能
    2012/12/05
      12月5日(ブルームバーグ):自民党の安倍晋三総裁のブレーンの1人である米エール大学名誉教授の浜田宏一氏(76)は4日、ブルームバーグ・ニュースの電話インタビューで、来年4月に任期満了を迎える日本銀行の白川方明総裁の後任が今以上の金融緩和を行えば、数カ月以内でデフレ脱却を実現できるとの見方を示した。
    浜田氏は日銀が2、3%のインフレ目標を設定すべきだとし、目標達成まで金融緩和の手綱を緩めるべきではないと主張。さらに、16日の衆院選で自民党が勝利し、より金融緩和に積極的な人物が日銀総裁に選ばれた場合、同目標の達成は困難ではないと述べた。浜田氏は白川総裁の実績について、デフレ脱却を実現できなかったとして「A~C」の評価で最低の「C」とした。
    白川総裁は来年4月8日に、山口広秀、西村清彦両副総裁は3月19日にそれぞれ任期満了に伴い退任する。
    http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MEJ7MB6JTSFI01.html
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    <余談-3:経済成長と日本的職人仕事観>
     日本の経済成長を支えてきたのは、技術を磨き続けることをよしとする職人仕事観、あらゆる産業と職種にわたって維持してきた職人仕事的生産技術、サービスの質の高さなどだろう。お金を右から左へ動かして濡れ手で粟をつかむようなお金儲けは蔑まされてきた。相した伝統的な価値観が経済成長を支えてきたのである。浜田宏一氏のように50年も前の米国の特殊な経済学説を学んで、それを吹聴するのはご本人の勝手だが、どえらいことになるので「社会実験」はやめてもらいたい。出口戦略のないアベノミクスはまるで再処理施設や核燃料廃棄物の最終処分場をもたないプルサーマル原子力発電と同じである。いずれ国民に大災害をもたらさずにはすまない。
     これまでとはまったく異なる経済学説が必要な時代である。昨年原稿用紙600枚ほど新たな経済学を書いたので、暇のある方にお読みいただければうれしい。

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    #2784 百年後のコンピュータの性能と人類への脅威 Aug. 22, 2014 ">


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      #3097 資本論と21世紀の経済学(改訂第2版) <目次>  Aug. 2, 2015

     #3121 既成経済理論での経済政策論議の限界 Sep. 1, 2015  

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      #3215 ライフワークに手をつけた2015年を振り返る:『資本論』を超えて  Dec. 31, 2015 
    http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-12-31
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    コメント 8

    ボゴタ

    経済を語るヤツの間抜け。
    そもそも日銀の存在自体がオカシイでしょう?
    by ボゴタ (2016-01-30 18:57) 

    ebisu

    ボゴタさん

    >経済を語るヤツの間抜け。

    論拠を書きましょう、そうすれば議論百出、面白くなりそうです。

    >そもそも日銀の存在自体がオカシイでしょう?

    何がどのようにおかしいのか、思うところをもうすこし具体的にお書きになってみたらいかがですか?

    どのようなご意見が聞けるのか楽しみです。


    by ebisu (2016-01-30 22:13) 

    もやしさんま

    マイナス金利というのはピンときません。金利が高いというのは利息が高いということかと思いますから、マイナス金利というのはマイナス利息ということでしょうか?つまりお金を借りてもマイナス金利分返すお金が少なくていい??
    もしそうならお金借りたいです!お金は預けたくないです!
    by もやしさんま (2016-01-30 23:27) 

    ebisu

    もやしさんまさん

    お金を借りたら、返済額が借りたお金よりも少なくてすむのがマイナス金利ですが、いまは日本銀行と市中銀行間の取引に限定されています。
    銀行と企業、銀行と個人間の取引ではマイナス金利はいまはありません。

    少子高齢化による人口縮小の日本は、成熟社会へ突入して、借り手がいなくてお金がだぶついています。
    大地みらい信金も貸付先がなくて困っています。だから、リスクのない根室市に貸したくなるのです。
    元大地みらい信金理事長殿が委員長を務めて早々とゴーサインを出した40億円の明治公園再開発がその好例です。

    マイナス金利になっても、金融機関は貸し先を見つけられないのです。一部上場企業の大半は無借金経営で、資金が潤沢にあるので、設備投資で借入をする必要がありません。

    そもそも国内市場が縮小し始めているのに、生産設備を拡張しようなんて企業は非常に少ないのです。

    マイナス金利は株式市場の不安定さを増幅するだけにみえます。来週の株価の動きは波乱含みです。
    経済学は経験科学なので、あたらしいサイが投げられたら、結果を観察して学ぶしかないのです。

    by ebisu (2016-01-31 08:52) 

    相川始

    世の中が「負の連鎖」が続いている

    しかし根室の「負の連鎖」は深刻レベルになっている
    議会が基準外繰入金の公開を拒否という答弁があったらしいです。
    参考URL:http://nimuoro.lekumo.biz/honda/

    ふるさと納税で全道2位という新聞報道があった。
    約10億円近くの泡銭で何をするのか?
    気になる?気になる!?気になる!!
    by 相川始 (2016-02-05 08:00) 

    ebisu

    相川さんへ

    基準外繰入金の公開拒否はなにかの間違いでしょう。
    公的会計の決算書は解説してもらわないとさっぱり内容がわからないので、財政課にいって当時の係長に解説をお願いしたことがあります。企業会計基準の決算書へ組み換えをするためでした。ずいぶん前になります。

    市長が公開拒否をしたなら、おそらく勘違いです。財政課へ問い合わせたら簡単にわかりますよ。
    国基準自体が変更になるので、その都度専門家の解説をお願いしないと理解できません。

    民間基準で決算を公開すればそういう問題がなくなります。市議会はそういう議案を提出して可決すればいいのです。
    by ebisu (2016-02-05 09:14) 

    相川始

    ebisuさんへ

    H議員の記録の中に

    【市長答弁】
    ・当面の目標は基準外繰入の圧縮。
    ・現状、15から16億円くらいの繰り出しであるが、このうち基準外繰り入れは6億円程度である。
    ・管理者はこの6億円を限りなく0にすることを一つの目標として、この圧縮に取り組んでいるが、中々圧縮できない状況にある。
    ・当面は、3億円程度の圧縮を目標にしたいと病院の目標も受けている。
    ・ただ、市民にこのような状況をすべて知らしめることには良し悪しもあると考える。
    ・医師のモチベーションの問題等もあり、情報公開に関しては、管理者等と充分に連携を図り対処するよう努める。

    とある。
    圧縮の目標と情報公開に関して記載されています。
    視点を変えると、医師のモチベーションを守るため、情報公開しないと言っているのと同じです。
    by 相川始 (2016-02-05 09:29) 

    ebisu

    そこでしたか、読んでいました。
    市長は議会では答弁しても、市民には赤字の実態や達成できないから目標値を知らせたくない様子ですね。

    >・ただ、市民にこのような状況をすべて知らしめることには良し悪しもあると考える

    情報をなるべく市民へは知らせないということで長谷川市長の姿勢は一貫しています。
    いくら市長が横暴でも、市議会が決議すればいいだけのことですから、なぜやらないのかわたしには理解できません。議員一人ひとりの賛否を議会広報に載せればいい。
    by ebisu (2016-02-05 11:58) 

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