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#3204 不動産市況に変調の兆しあり:山口義行立教大教授 Dec. 14, 2015  [99. 資本論と21世紀の経済学(2版)]

 このところ教育問題ばかりとりあげていましたが、久々に経済問題に焦点を当てたいと思います。
 NHKラジオ番組「社会の見方・私の視点」(朝6時43分から10分間のコーナ)がありますが、12月11日は立教大学経済学部教授山口義行教授が、「今後の景気動向を読む 不動産市況について」というタイトルで話をしていました。とても面白いので紹介します。
 紹介した後で、新しい経済理論の光を当てて違った角度から眺めてみますが、いくつか興味あることがらが浮かび上がってきます。長期的な視点から短期的な変化を読むこと、あるいは大局的な観点から短期の変動のもつ意味を判断することがいかに重要かわかります。

I: インタビュアー
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I: 4-6月期と7-9月期連続でマイナスになっていますが・・・

Y: 2四半期連続のマイナスは米国では景気後退と判断されます。景気の先行きを読む上で不動産市況に注目すると、とくにマンションに変化が出始めています。仮に値崩れが生じてくると不況感が広がってきます。不動産市況については中国の投資マネーの影響が大きいので、その動向も無視できません。

 わたしは次の三つの指標に注目しています。

(1) 首都圏新築マンションの販売戸数の減少
 不動産経済研究所の11月17日の発表によると、10月の販売戸数は2921戸、前年同月比で6.5%の減少。1973年に統計を取り始めてから3番目の低さです。

I: 横浜市の「杭打ち不正」から売れなくなったのでは?

Y: それは慥(たし)かにありますが、事件が報道されたのは10月中旬です、ところがその前の9月に前年同月比で2割ダウンしています。円安による建築資材のコスト・アップと人手不足による人件費アップが重なり、マンション販売価格が上がって、買えない値段になってきています。
 契約率は70%が目安ですが、70%割れが2ヶ月連続で起きています。その前までは8ヶ月連続で70%を超えていました。10月には5000戸の在庫ができてしまって(新築マンションの在庫が急増し始めて)います。

(2) 中古マンションの在庫急増
 東京鑑定(不動産鑑定会社)の11/24発表データによれば、東京23区の10月の在庫数は10,827戸、2年7ヶ月ぶりの高水準にあります。前年同月比では33.6%増ですが、価格はまだ上がっています。都心6区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区、文京区)の在庫は前年同月比56.4%増、東京3区(千代田区、中央区、港区)の在庫は67%増です。価格が上がりすぎて売ろうと思っても買い手がいませんから、売り出し価格から値下げして売っています。6区で24.4%が値下げケースで、前年同月で7.1ポイント・アップしています。
 不動産鑑定士の話でも、売り手と買い手の希望額が離れすぎているといいます。
 もう一つの懸念材料は中国投資マネーが不動産市場から離脱し始めていることです。7・8月から中国株が大きく下落しているので、その影響が9月から不動産市場に出始めています。高額物件を売りに出すも、高すぎて売れないので、こちらは価格が下落しています。

(3) 住宅着工戸数
 国土交通省11/30公表データによれば、10月の新規着工戸数は前年同月比で2.5%減、77,153戸で8ヶ月ぶりの減少です。分譲マンションは17.2%減で、10月だけでなく9月も前年同月比で22.4%減少しています。
 不動産市況の低迷が新築戸数にもすでに影響し始めています。

I: 今後の景気動向はどうなりますか?

Y: いずれ不動産の値崩れが起きるのではないか、中国の景気悪化で投資マネーが入ってこなくなるので要注意です。

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【山口教授の挙げたデータへの補足説明】
 表面上の数字に食い違いがあるように見えるので、すこし解説しておきます。
 たとえば、(1)で不動産経済研究所発表データでは10月のマンション販売戸数が2921戸、在庫5000戸となっていますが、(2)の東京鑑定公表データでは、東京23区の10月の在庫数は10,827戸となっています。前者は新築マンションの売れ残りによる在庫数、後者は中古マンションの在庫数ですから数字が違うのは当然です、矛盾はありません。
 新築マンションの売れ残りと中古マンションの売れ残りの両方がドンドン増えているということを山口教授は言いたいのでしょう。新築マンションの在庫と中古マンションの在庫増の影響を受けて、新規着工戸数が9・10月の2ヶ月連続で下落しはじめました。新築マンション建設を減らして在庫調整せざるをえない状況にあるということです。
 中古マンション市場が高額物件とそうでない物件とで、価格動向がはっきり違ってきていることにも山口氏は言及しました。高額物件は中国マネーの撤退によって値下がりし、そうでない物件は値段がまだ上がりどまっていません。中間の値段の物件が値崩れを起こせば、中古不動産市場は様変わりするということです。次のところで説明しますが、長期的には中古不動産市場は値崩れが不可避です。

【ebisuの論】
 三つの指標に注目して短期間の景気動向を判断することも大事でしょうが、今後50年の長期的な景気動向を読み、それに基づいて短期的な変化の行方を判断すること(大局観をもつこと)はもっと重要です。
 2000年を分岐点として、日本は人口減少時代に入ってしまったので、不動産市況の変化はその大変動の兆しと考えるべきです。
 総理府統計局のデータによれば、H25年の空家率は13.5%、820万戸あり、戸数は20年前のH5年の約2倍になっています。

*平成25年住宅・土地統計調査結果の要約
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/10_1.htm

 これから20年後には2倍の1600万戸になるとすると、空家率は25%を越すことになるので、長期的に見ると中古不動産は値崩れ必至です。中古マンション値崩れに引きずられて、新築マンション市場が縮小します。市場が縮小しても新築マンションの価格は下がりません。円安になれば資材コストがアップし続けるので値下げできません。土地の価格は下落します。
 人口が縮小する間は不動産価格の下落が続くので、50年間は不動産価格下落が続くでしょう。長期的に景気がよくなると思えますか?

 米国の利上げが近づいており、先週日経平均が1000円ほど下落しました。いま午前10時のNHKテレビ・ニュースが流れていますが、週明けの東京市場は600円ほど下げています。こんなに1日で下げるのは珍しい。100$を超えていた原油が35.62$/バーレルまで下がっています。

 米国が利上げすれば、異次元のゼロ金利政策で円安となり、ドルベースでは日本株は値下がりして、外人投資家の買いが入り、株価が上がります。いままでは日経平均はそういう変化をしてきました。いままで通りなら外人投資家の買いが増えて値上がりするはずですが、これからはそうならないことが増えます。
 米国金利が上がっても日本は利上げできません、長期金利を上げると政府財政が破綻しますから対抗手段が取れないのです。
 たとえば10年物国債の金利が5%になったと仮定すると、既発行済み国債価格が暴落します。日銀は大量に国債を買い込んでいるので巨額評価損が出て対外的な信用が落ち、国際通貨としての円の信任が揺らぎます。
 借換債と歳入と歳出の帳尻あわせで、毎年100兆円の国債発行がなされているので、金利上昇によって歳出が毎年5兆円規模で増えていきますから、政府財政は破綻します。わずか10年で金利支払いが50兆円も増えます。歳出を削減し公務員給与を半減してもとても間に合いません。遅かれ早かれ日本は放漫財政をやめて極端な財政縮小せざるをえない状況に陥ります。小泉政権⇒民主党政権⇒自公政権とごたごたしているうちに時間切れです、もうソフトランディングの可能性は消えました、クラッシュします。

 円への国際的な不信任が広がれば激しい円安が起き、輸出産業は一時的に万々歳ですがすぐに原材料費の高騰が襲います。国民は輸入原材料や生活物資の値上がりで大打撃を受けます。いまでも子どもの貧困率が高く、少ない食費で食いつなぐ家庭が増えているのですから、円安による食料品値上がりで餓死者すらでることになるでしょう。政府財政が破綻すれば生活保護費も現在のような水準で支出できなくなります。もちろん、公務員のリストラと残った人にも給与3割~5割削減というような事態が起きてしまいます。

 今後数十年間ににわたって不動産価格が下落するので、資産家も保有資産の価値下落にあえぐことになります。
 誰にとってもありがたくないシナリオです。

 少子高齢化の総人口縮小下でありえない経済成長を追い続けると、こういう未来を招来してしまいます。アベノミクスは国民を幸福にしません、意図がどうであれ国民を不幸のどん底に突き落とします。異次元のゼロ金利自体、円安を誘導し、国益を損なう下策です。政権維持しか彼の頭の中にないから次々に判断を誤るのです。昨今の軽減税率の迷走振りを見ても、選挙のことしか頭にないことが明らかです。先々週まで、4000億円の財源が必要だ、そんな財源どこにありますか?ない袖は触れません」、谷垣自民党幹事長はそのように力説していましたが、先週末に突然、1兆円規模の軽減税率導入をすることになりました。どうやら舌が2枚あるようで、今後はあの人のいうことに信がおけません。タバコ税の増税で財源確保という意見も出ているようですが、それができなければ国債発行を増額して借金で購うのです。

 大事なことですから、TPPについて書きます。TPPは世の中に不要です。日本は75年前に白人国家のブロック経済で締め出されて、白人国家の奴隷(植民地)になるか、白人国家相手に戦争かの選択をせざるをえないところに追い込まれました。白人国家の奴隷にならないためには、当時の経済規模で日本の50倍以上の複数の白人国家と戦争せざるをえなかったのです。そして戦ってたいへんな犠牲を出して敗れましたが、白人国家の奴隷にだけはなりませんでした。誇りのもてる凛々(りり)しい日本でした。
 その日本が、米国主導のブロック経済に手を貸すことがあってはならないとわたしは強く思います。ブロックからはじき出される弱小国家もブロック内の弱小国家も困ることになります。
 弱い者いじめは卑怯な振る舞いであるというのは外すことのできぬ日本的価値観です。

 弱肉強食のルールが貫徹する経済のグローバリズム化に背を向けるべきです。日本は強い管理貿易で輸入を制限して生産拠点を国内に取り戻し、職人仕事を増やして若い人たちに職と安定した生活を保障できます。そういうことが可能な国は世界中に日本しかありません。
 日本にはあらゆる産業がそろっているアジアで唯一の国ですから、国内で生産可能なものはコストが高くても国内でつくればいいのです。安心・安全な農産物、水産物、工業製品、情報商品を自給し消費しましょう。輸入は必要最低限のものだけに制限すればいい。国内でウランがなければ原発はやめたらいいのです。他の発電方式を組み合わせたらいい。
 職人仕事中心の生産システムを確立して、生産システムや働き方を丸ごと発展途上国へ輸出すればいい。国際的にそれぞれの地域内でほとんどが自給自足できる体制が整えば世界経済はがらりとかわります。現在のような脱法ともいえる税金逃れをするグローバル企業の存立する基盤がなくなり、弱肉強食の経済ルールを廃止できます。日本が世界経済のルールを変えましょう。

 「売り手よし、買い手よし、世間よし、働く人よしの四方よし」

 マルクスは工場労働者の労働を公理に経済学体系を叙述しましたが、わたしは職人仕事を公理に措定して経済学を書き始めていています。職人仕事は日本だけでなく世界中にある普遍的なものです。すでに社会人の皆さんはもちろんのこと、経済学を一通り学び終わった研究熱心な学生諸君にも読んでもらいたい。
 簡単にいうと経済学の出発点が異なります。アダム・スミス『諸国民の富』、デイビッド・リカード『経済学及び課税の原理』、マルクス『資本論』の労働価値説とは異質の経済理論です。
 職人仕事中心の新しい経済学は、弊ブログ「資本論と21世紀の経済学」カテゴリーにあるシリーズ記事をお読みください。四百字詰め原稿用紙で450枚ほど書き溜めてあります。その後、思いつくまま追加しています。千枚程度を目安に弊ブログで順次公表していきます。核心部分はすでに書き終わりました。

 
 #3097 資本論と21世紀の経済学(改訂第2版) <目次>  Aug. 2, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-08-15

 #3121 既成経済理論での経済政策論議の限界 Sep. 1, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-09-01-1

 #3148 日本の安全保障と経済学  Oct. 1, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-10-01

 #3162 絵空事の介護離職ゼロ:健全な保守主義はどこへ? Oct, 24, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-10-23
 

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コメント 2

相川始

ブログの記事とは直接関係ないが、
根室の話題として。。。。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151215-00000007-mai-soci
by 相川始 (2015-12-15 13:22) 

ebisu

ははは、ネットで見ました。
ヒットですね。

古里納税にその土地の産品を贈るのは法の趣旨から逸脱しているので、わたしは反対です。
しかし、どこでもやっていますからね、根室だけ悪いということはできません。
かに代金がいくらかかっのかくらいは公表すべきです。

長期的に見れば、市政と地元業者の癒着がますます進むので、大きな問題です。

by ebisu (2015-12-16 10:54) 

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