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#3169 軽減税率を考える:同志社大教授浜矩子 Nov. 2, 2015 [91.経済]

 NHKに「マイあさラジオ」という番組があり、その中に「社会の見方・私の視点」というコーナがある。6時43分から10分間前後の短いものだが、大学教授やアナリスト、研究所のシニア研究員や代表者などが入れ替わり、時事問題を解説してくれている。
 慶応大の金子勝、アナリストの森永卓郎、日本総研の寺島実郎、経済評論家の内橋克人など多彩な顔ぶれのコーナ。
 わたしは朝、微睡(まどろみ)ながらこのコーナを聴くのを楽しみにしている。

 今朝(11/2)は「軽減税率を考える」というタイトルで、同志社大教授の浜矩子が快刀乱麻を断ってみせてくれたので紹介したい。

 消費税で低所得者層が生活困難に陥るのは本末転倒であるというのが、浜さんの基本的なスタンス。税は本来所得の再分配機能を担うものであるのだから、消費税課税強化によって、救われるべき低所得者層が生活困難に陥るのは本末転倒ということなのだろう。それを是正するのが、軽減税率であるから、セットで実施するのが当たり前。
 ここで浜さんは貧困率データを挙げた。貧困率とは所得110万未満の層の割合だが、日本は16%を越えている(2010年のOECD調査では17.3%)。世界で一番貧困率の低いデンマークは5-6%であるから、日本はその3倍もある。税制は貧困率改善の方向に作用するように仕組まれなければならないということ。

 消費税アップは是か非かというコメンテータの質問に、浜さんは政府財政が破綻すれば、国民は大迷惑をこうむるので致し方なしというスタンス。軽減税率は逆進性の解消にならないという一部の意見に対しては、軽減税率導入をしたくない者たちの屁理屈に過ぎぬとばっさり切って棄てる。消費税の導入で貧乏人が生活困難に追いやられることが、そもそもおかしい、ちゃんとした補完措置をとるべきで、それが軽減税率の役割。軽減税率と同時に金持ちが贅沢品を買う場合には重税を課すべきだと主張。
 経済学の生みの親であると巷間言われている『諸国民の富』の著者A.Smithは、贅沢品には標準税率よりも思い加重税率を適用すべきとはっきり書いている。
 給付金方式についてのコメンテータの質問に、やるなとは言わぬが、それで軽減税率をやめるのはとんでもない話で、貧乏人いじめにならないようにすべきだと答えている。

 ヨーロッパは標準税率を高く設定して、基礎的生活物資への軽減税率と贅沢品への加重税率でバランスをとっている。
 インボイス方式が面倒だという意見に対しては、もともと消費税を導入するときにそうすべきだったのであり、それをサボタージュしたのがそもそも間違い。ヨーロッパはインボイス方式でやっているし、日本人はヨーロッパの国々の国民よりも計算能力が高いのだからやれないはずがないとばっさり。

 いま一番重要なことは、消費税率を上げることで貧乏人が生活破綻しないようにすること。以上が浜矩子さんの意見である。

 加重税率についてはさまざまな方法が考えられる。
 たとえば、500万円以上の車には価格の30%の取得税を適用、1億円を超える住宅には30%の取得税を課す、高級レストランには30%の消費税を課す、資本金10億円を超える企業の法人税を50%にするというように、所得再分配を考慮した増税の方法はいくらでもあるのだが、政府はそうしたことを検討していないようだ。
 ノブリス・オブリージュ(高貴なる者の義務)というのは英国の伝統であるが、ヨーロッパでは一部の富裕層から自分たちの税金を上げろという声が上がっている。
 日本の大企業の経営者たちは自分たちの役員報酬ばかり上げていないで、国の借金が1200兆円にもなっているのだから、大企業に増税して借金を減らせと声を上げたらいかが?経団連が率先してやればいい。
 そういうことをしたくない大企業と企業経営者は、さっさと日本から他の国へ本社を移して出て行けばよい。日本の一部上場企業株の3割以上を外国人投資家がもっている。



 
< 余談:貧困率とマルクス資本論を超えた「21世紀の経済学」 >
 貧困率ランキングデータを探してみたら、次のものがヒットした。
*「世界・貧困層の人口割合ランキング(CIA版)」
http://top10.sakura.ne.jp/CIA-RANK2046R.html

 このデータは米国CIAのワールドファクトブックに基づいている。
「日本の貧困層の人口割合は、16.0%で、世界ランキングの順位は120位です。ランキングの1位はチャドの80.0%、2位はリベリアの80.0%、3位はハイチの80.0%です。ランキングの最下位は台湾の1.5%です。」

 面白いのは偏差値表示のあることで、日本42.6、ドイツ42.3、米国42.1、デンマーク41.1、カナダ38.9、中国37.1、台湾34.5となっている。受験偏差値と異なり、偏差値が低いほうが貧困率が低い、つまり偏差値の低いほうがよい状態だということ。100から引いてみたら日本人にはなじみやすい。そうした変換をすると、日本は57.4だから、道内の大学だと小樽商大よりも少し上、北大には届かない。
 浜さんが世界一貧困率の低い国として挙げたデンマークはここでは162か国中133位だから、貧困率の低いほうから順に並べると30番目ということになる。調査年度がばらばらであることに注意。

 同じ年度で並べたOECDの最新(2010年度)の調査データがウィキペディアに載っていたので、こちらも紹介しておく。
**貧困線 ウィキペデアより
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%A7%E5%9B%B0%E7%B7%9A
「日本の貧困率について表した最新のデータであるOECD2010年の統計によれば、日本の相対的貧困率は16.0%で、この年に調査された国の中では、イスラエルの20.9%、メキシコの20.4%、トルコの19.3%、チリの18%アメリカ合衆国の17.4%に次いで6番目に相対的貧困が高い。次いでスペインの15.4%、韓国の14.9%、オーストラリアの14.4%、ギリシャの14.3%、イタリアの13%と続く[10][11]

これは、日本の貧困率が先進国の中でもかなり高い部類に入っていることが示されている。OECDの調査した35か国の相対的貧困率平均は11.3%。日本より貧困率が高いメキシコトルコチリはいずれもOECDには加盟しているが、先進国とはっきり言える経済力ではないため、その点を踏まえると、日本は先進国の中でイスラエル、アメリカに次いで3番目に貧困率が高い国という見方もできる。逆に、西欧諸国は大半が10%以下であり、全調査国中もっとも低いチェコの5.8%とデンマークの6%を筆頭に、北欧諸国の貧困率が低い

厚生労働省の調査では、日本の相対的貧困は2012年の時点で16.1%であり、データが存在する1985年以降、1991年1994年1997年2000年2003年2006年2009年2012年という3年ごとの調査の中で最も高い数値となっている[12]

2013年国民生活基礎調査では、日本の2012年の等価可処分所得の中央値(名目値244万円、1985年基準実質値221万円)の半分(名目値122万円、1985年基準実質値111万円)未満が、相対的貧困率の対象となる。各名目値で単身者では手取り所得が約122万円、2人世帯では約173万円、3人世帯では約211万円、4人世帯では約244万円に相当する。

1年の総労働時間を法定労働時間2096時間~2080時間とすれば、名目値122万円の年収に達する時給は約583円~587円以上となり最低賃金水準を下回る、2人世帯では時給約826円~832円、3人世帯では時給約1,007円~1,015円、4人世帯では時給約1,165円~1,174円で名目値の年収に達する。

子どもの貧困率は16.3%、子どもがいる現役世帯の貧困率が15.1%で2項目ともデータが存在する1985年以降で最も高い数値となっている。子どもがいる現役世帯のうち大人の貧困率が一人54.6%、大人が二人以上の貧困率が12.4%となっている。※大人とは18歳以上の者、子どもとは17歳以下の者をいい、現役世帯とは世帯主が18歳以上65歳未満の世帯をいう。」

 面白いのは、日本の植民地であった台湾が貧困率が世界で一番低いことだ。台湾は古き良き時代の日本文化や倫理観を受け継いでいるのではないだろうか。一億総中流社会と言われたのは30年ほど前のこと、日本が変わりすぎた。
 この30年間で、日本の経済格差が欧米並みに拡大したことが貧困率の上昇に現れている。小泉政権も安倍政権も欧米型の格差経済社会を目指して労働に関する規制緩和を行ってきた。その結果がこれである、日本が模範とすべきは欧米型の経済社会ではない。職人仕事中心の格差の小さい高度経済社会を目指すべきだ。A.Smith、D.Ricard、Marx『資本論』を超えた21世紀の経済学がここにある

 #3097-6は相対的貧困率を論じた
 #3097-6 資本論と21世紀の経済学(改訂第2版)-6  Aug. 4, 2015  
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-08-04

 #3097 資本論と21世紀の経済学(改訂第2版) <目次>  Aug. 2, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-08-15

 #3121 既成経済理論での経済政策論議の限界 Sep. 1, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-09-01-1

 #3148 日本の安全保障と経済学  Oct. 1, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-10-01

 #3162 絵空事の介護離職ゼロ:健全な保守主義はどこへ? Oct, 24, 2015 
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