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#3161 Vampire Blood : Chapter 1 (1) Oct. 22, 2015 [47. 語彙力と「読み・書き・そろばん」]

<追記情報>
10/23 朝7時45分 追記:日本語の本をたくさん読んだ経験が、英語の原著を読む際に強力な武器に変わる。
10/24 朝8時 コメント欄から末尾に「後志のおじさん」の解釈を転載・追記

 高校生の要望でダーレン・シャンの小説をテクストに取り上げ、読み始めた。生徒が英文をノートに写し、辞書を引いて試訳をさせてから解説するのが原則。緒方洪庵「適塾」の塾頭であった福沢諭吉の指導方式を真似ている。(『福翁自伝』より)
 英語は嫌いだが、小説は大好きという生徒、「風とともに去りぬ」で挫折して、自分でテクストを選び再度の挑戦、ようやくエンジンがかかったようだ。

 この小説は人名や地名は実際のものとは違うが、過去に起きた事実を書いているという著者による前置きがある。あるとき授業中にお腹の具合が悪くなり、挙手してトイレに行く許可をダルトン先生に求めたら、ダーレンに先生がこう告げた。

 "Throw up whatever's bugging you, Darren", he said, "then get your behind back in here".

 「throw up」には「吐く」という意味がある。「あなたを悩ますものはなんであろうと吐いてしまえ」、そして次のしゃれた表現が続くのである。辞書を引かずに意味を考えたがしっくりいかぬ。
 get behindをジーニアス4版で引いても、載っていなかった。COLLINS COBUILD Dictionary of Phrasal Verbsには載っていた。
 -----------------------------------------
 If you get behind with some work that you are done, you are slow and do not make as much progress as other people who are doing the same sorts of work.

  I'm just surprised Sarah gets behind at school--- her parents just aren't interested .....
 「わたしはサラが他の生徒よりもずいぶん遅れていることに驚いたが、両親は無関心だ」

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  「あなたがやった仕事を例にとるなら、その手の同じ仕事を他の人がやるほどには手際よくやれないというのが、get behind の意味である。端的に言うと「遅れをとる」ということ。
  (you are) getting behind at the class

 こういう読みもゼロではないが、やりすぎ。  
 文脈と文法から判断してこの句動詞の意味はなさそうである。なぜなら、behindは副詞ではなく名詞だからだ。次の二つの文に分解してみたら、書き手の言いたいことがよくわかる。

 ① get your behind (well)
  ② get back in here

 作者はこの二つの文を、共通項のgetをひとつ落としてつないだのだろう。たった二つのシンプルセンテンスをつないでひとつに圧縮しただけで、とたんに理解が難しくなる。こういう「圧縮された表現」は高校英語の教科書では出てこない。
 behind(名詞)にはbottom(お尻)の婉曲表現の用法がある。マクミランを引いたら次の説明が載っていた。

 behind-2:the part of your body that you sit on

 おなかの具合が悪くておもらししそうになり、我慢しきれずにダーレンは手を上げ、先生にトイレへ行く許可を求めた。だから、①は「ダーレンの意思にかかわらずお尻からもれそうになっているそういう危機的状況をよいほうへと変えろ」という風に読める。トイレに行って下痢がおさまるまで座っていろということ。
 ②の方は、「トイレで吐くだけ吐いてから、この教室へ戻って来い」

 文全体を日本語にすると、
「気分が悪そうだ、トイレで悩みを吐き出して、すっきりしてから教室へ戻ってきなさい」 

 少し前の方で、作者はこの先生がsmartだとほめているのである。その証拠がこのエピソードだろう。洒落た言い方をして、「下痢か?トイレへ行ってよし」とは言わなかったのである。直截的な表現をせずに、品よく婉曲的な言い方を選んだ先生の配慮と知的センスにダーレンは痛く感じ入ったのだろう。感受性の強い時期はだれにでもあるもので、そういう時期に先生にめぐり合えたダーレンは幸せもの。わたしもまたそういう時期に数人の先生とめぐり合っているから、この一文を共感をもって読めた。

 「文脈読み」に慣れていたら、前に書いてあるセンテンスと比較すれば、読んでいる段落の大意の展開は見当がつくから、単語の意味が一つ二つわからなくても大丈夫だ。読んでいる箇所の意味の見当がつかなければ、次の文がいま読んでいる文の補足説明になっていることが多いから、そちらとも「突合せ読み」をすればよい。こういう風に「本読み」にはいくらでも手がかりが残されている。そして百ページも読むうちには、作者の使う語彙に慣れてしまうから、読む速度が3~5倍くらいに上がってしまう。
 日本語で書かれたさまざまなジャンルの本を読み漁った事のある人は、こういう「文脈読み」や「突合せ読み」に慣れているから、英語の本の読解も容易に深いところへ達するだろう。なんてことはない、英語の本を読む段階になると、それまでに磨いてきた日本語の本読みスキルがそのまま生きてしまうのである。前後関係のない一文だけの文法語法問題はそれ用の勉強をしなければならないが、「長文」対策は、良質の小説を選び50ページほど自分で訳して、先生に手を入れてもらえば、後は独力で勉強できるので、1冊読み終わるころには英語長文だけは東大に合格できる力がついてしまう。ジャパンタイムズも読んでみたらいい。

 わたしは経済学、管理会計学、システム工学、医学などの専門書を中心に読書してきたから、英語の小説は数冊しか読んだ経験がない、だから、こういう小説特有の表現に出会うと楽しくてしようがない。この本を選んでくれた生徒に感謝している。

 ダーレン・シャンの小説は、高校生にも読めるレベルの本で、テクストとしてかなり優れている。
 高校英語文法の点から眺めてよい文例がたくさんある。
 語彙の範囲も修辞的な点でもアガサ・クリスティに比べてずっとやさしいので、高校生の英語テクストとして優れている。
 読み手の技倆しだいで見えるものが違ってくるので、大学英文科のテクストとしても十分に使えそうである。
 高校時代に英語の小説を1冊読んでおくのもいいだろう、そして大学4年生になったら実力アップを確認するためにもう一度読み直してみたらいい。ebisuお薦めの一冊である。


<追記>10/24朝
 ハンドルネーム"後志のおじさん"から、コメント欄へ投稿があったので、紹介する。掛詞はgetだけでなく、backもそうだという指摘である。二つ掛詞になっているとは考えなかった。わたしはget your behind well で考えたのだが、なるほどget your behind back とも解釈できる、そしてそのほうが書き手の意図により近いと思った次第、軍配は後志のおじさんの方へ上がっているようだ。
 コメント欄上でこういう会話ができる、楽しいですね、小説を読むのも、それをまな板に載せてブログを書くのも。(笑)

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掛詞ですね。

①get your behind back
 (get しろ←尻を←元に戻った)
 「お腹の具合を元に戻せ。」
②get back in here
「ここに戻っておいで。」

因みに、①の読み方は応用が効きまして、
高校生の「文法」(というより、語のリンク)問題でよくみかける
御大層な
get +目的語+to 不定詞
get +目的語+過去分詞
の問題も

Get する(もの、人、状態などを←予測の部分)
目的語を
どんな?
と、聞いたり読んだりすればいいのです


先に訳を決め付けて、to 不定詞ならば「してもらう」過去分詞ならば「される、してもらう」などと、ほとんどの高校生には押し付けるからわけがわからなくなるのです。
修飾語、被修飾語の位置関係のルールが先で、訳語はその場面を表現する日本語側の都合でくっついたものに過ぎないのですが

by 後志のおじさん (2015-10-23 08:02) 

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*#3163 Vampire Blood : Chapter 1-1  Oct. 25, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-10-25


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コメント 5

tsuguo-kodera

 私は高校の時、家庭教師に第三の男を1冊読まされました。それで入学試験は大丈夫と言われました。こちらの本は如何でしょうか。コメントバックいただけたら有難いです。
 なお私の家庭教師は外大卒の高島先生と言う名前だったのです。当時は世田谷の明星高校の英語の先生でした。姉の担任でもありました。
 大学合格のお礼で訪問したまた、不義理をしていましたが、ついこの間、英語教育にも興味ができて再度訪問しようとお住まいを聞くため、姉に奥さまに電話してもらったのです。同級生だったので。
 何と残念胸無念、1年前にお亡くなりになったようです。本当に残念でした。彼はマナスル登頂の隊員でもあった素晴らしい登山家、写真家、クラッシック音楽評論家、かつ英語の天才の先生だった方。御歳を召してどうなったのかすごく興味があり、勉強させてもらおうと思ったのです。
 私が今あるのは先生のお蔭でもあります。特に英語はです。まさに人生一期一会、南無阿弥陀仏。
by tsuguo-kodera (2015-10-23 05:00) 

後志のおじさん

掛詞ですね。

①get your behind back
 (get しろ←尻を←元に戻った)
 「お腹の具合を元に戻せ。」
②get back in here
「ここに戻っておいで。」

因みに、①の読み方は応用が効きまして、
高校生の「文法」(というより、語のリンク)問題でよくみかける
御大層な
get +目的語+to 不定詞
get +目的語+過去分詞
の問題も

Get する(もの、人、状態などを←予測の部分)
目的語を
どんな?
と、聞いたり読んだりすればいいのです。

先に訳を決め付けて、to 不定詞ならば「してもらう」過去分詞ならば「される、してもらう」などと、ほとんどの高校生には押し付けるからわけがわからなくなるのです。
修飾語、被修飾語の位置関係のルールが先で、訳語はその場面を表現する日本語側の都合でくっついたものに過ぎないのですが





by 後志のおじさん (2015-10-23 08:02) 

ebisu

koderaさん

おはようございます。
高校時代にすばらしい家庭教師にめぐり合いましたね。お父さんがつけてくれたのでしょう、幸せ者です。(笑)
1冊、先生に指導してもらいながら読めば、英語も東大に合格して当然の力がついてしまいます。
長文を読むことが苦にならなくなりますから、他のジャンルの英文、たとえばジャパンタイムズにも目を通したでしょう。

『第三の男』は映画がテレビで放映されたのを2度ほど見た気がします。
原著はもちろん読んでいないのでコメントしようがありません。
アマゾンで見たら、映画のスクリプトと小説のほうと両方あるようですが、どちらを読まれましたか?

by ebisu (2015-10-23 08:18) 

ebisu

後志のおじさん

おはようございます。
get your behind well
get your behind back

なるほど、getだけでなく、backも掛詞だと解釈する余地があるのですね、そのほうが解釈が素直です。

筆者の遊びが言葉選びに織り込まれていて、楽しい文です、いくつ出てくるのか、先が楽しみ。

先ほど本の注文をしました。
by ebisu (2015-10-23 08:57) 

tsuguo-kodera

 はい、文系が不得意でしたので。
 入学試験は小説でしょう。薄い本でした。今は対訳がありますが、昔はなかったので大変でした。
 先生がこの本を選んだのは、当時のウイーンはスパイや犯罪者が暗躍していて、登場人物はそれぞれのお国訛りがあり、いくつかの国の特徴ある英語を学べるからベストだと言っていたように覚えています。
 なお、大学生の時、英会話を勉強しようとCDROMの映画を買って2度ほど見て勉強しました。私は字幕がないと筋も良く分からなかったのですが、本を読んだおかげで2度目には字幕なしでも会話がほとんど分かりました。それからは洋画を見てもなるべく字幕を読まないようにしていました。高校受験勉強は映画鑑賞に役立ちました。
by tsuguo-kodera (2015-10-23 12:06) 

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