#3117 五色百人一首大会(TOSS根室支部主催) Aug. 29, 2015 [63. チャレンジ(教育)]
8月29日10時から、金刀比羅神社社務所2階の広間で標記大会があった。北海道教育文化研究所副所長宛招待があり、TOSSの先生たちの地域社会との関わりを見学させてもらったので、ここに紹介したい。
*北海道教育文化研究所ホームページ
http://946jp.com/dokyobunken/
金刀比羅神社社務所には2階に広間が二つある。会場になった広間は36畳で窓からは木の緑が見えてすがすがしい。
5分前に着くと先生が札を読み、子どもたちがそれぞれ組みになって練習していた。
参加した子どもは小学生14人、女の子の方が多かった。
百人一首は20枚ずつ5組に分けられており、それぞれ色分けされていた。「はじめてコース」に参加する子ども4人とそうではないグループに分けて行われた。色別に20枚をとりあえず覚えてしまえばいいから、なじみやすいのである。子どもたちが百人一首に親しむための「仕掛け」である。考えてみたら、百枚全部の短歌の上の句と下の句をセットで暗記しろといわれたら、99%の子どもが匙を投げるだろう。20枚に分割することで、バーを低くして、お母さんと子どもが楽しみながら一緒に覚えられる。
2回以上参加の子どもたちは、桃色の札と、青色の札の両方で別々に競技が行われた。
カード(とり札)が渡され、一人が数を数えて半分を相手に渡す、それぞれが自分の前に10枚並べ「よろしくお願いします」と挨拶と握手、開始の儀式が終わると空札の読み上げがなされ、競技開始。
とり札の表には下の句、裏には上の句が書かれている。
札をとるときは「はいっ」と元気よく声を発するのがルールだが、はじめのうちは大きな声が出ない、先生たちは「声が小さいとお手付きにするよ!」とはっぱをかけ、大きい声で「はいっ!」と一人が声を出すと、すかさず「いい声だ!」とほめる。必ずほめる、そこがいい。自然に子どもたちの元気が増していく、見ていて気持ちよかった。
終わるごとに、各自にとった枚数を確認させ、記録係の先生がまわると「7枚です」と応えさせる。「ななではダメ、ちゃんと7枚ですと言おう」とすかさず言葉使いを正す。予選やトーナメント戦を繰り返すうちに、お作法がきちんと身についていた。とうぜん集中力も上がっていった。
躾が実に上手で、手際がいい。
決勝になると、上の句の五七五の最初の五を読んだだけで札のほとんどがとられた。桃色の札に、次の句がある。
吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風をあらしといふらむ
「吹くからに」と読んだだけで、下の句を書いてある「むべやまかぜをあらしといふらむ」をとる。ちゃんと暗記しているのである。勝負の心地よい緊張感が漂って、なかなかいいムードだった。
優勝決勝戦が始まろうとしたときに、わたしの横で男の子が同じ色の札をもってきて広げ始めた。母さんに一緒にやろうと言い出した。桃色と青色の札と決勝戦の読み手にあわせてやっていたが、こちらも真剣勝負、いい集中力で1勝1敗。この男の子は桃色の札戦のときに、優勝した女の子と当たってあえなく撃沈したが、来年は強くなってこの会場に来るだろう。S木君だ。左手を腰に当てて、「今回は完敗だったが、次はそうは行かないぞ」という顔をしている。負けて強くなるやつが偉い、来年は彼の活躍を見たい。
開会式でTOSS根室支部長の平田先生が二つのことを話した。
一つは、百人一首は伝統文化で、その伝統文化は800年前から受け継がれてきた、だからあなたたちも受け継いで広めなけらばならないということ。
もう一つは負けたと思っても最後まであきらめないでとりに行くこと。
競技が終わって閉会式の挨拶で、「最初に二つのことを話しました、覚えているかな?」と問いかけた。百人一首は伝統文化だから、友達にも広め次の世代に渡すこと。もう一つは最後まであきらめないこと。負けたと思ってもあきらめなかった、この経験をあなたたちが将来なにか困難なことにぶつかったときに思い出してほしい。ちゃんとやれたから、今度も大丈夫だと思えるから。
「最後まであきらめなかった人は手を挙げて」と平田先生が言うと、一人だけ手を挙げなかった男の子がいた。「次はがんばって最後まであきらめないでやってください」、そう言って締めくくった。
「はじめてコース」の優勝は宮野君、青色札の優勝者は阿部君、桃色札の優勝者(市長賞)は岡本さん。決勝戦はそれぞれ7:10、8:9とすばらしい戦いだった。周囲から大きな拍手が起きた。
金刀比羅神社は来年で310 210年だそうだから1706 1806年の創建、北海道では最も古い歴史のある神社のひとつだ。そういう説明も平田先生はしていた。
(毎年、8月9・10・11日が金刀比羅神社例大祭が行われるが、学校の先生たちが数名参加してくれている。地域のお祭りに学校の先生が参加するのはめずらしい、このように地域社会に開かれた学校とはそれぞれの先生たちのさまざまな努力に支えられており、授業のフリー参観だけではない。地域のお祭りへの参加は、縁があって赴任した土地の風土と伝統を「愛すること」でもあるのだろう、ありがたいと思う。)
釧路からNPO法人エトセトラ代表の山本先生が来て、一緒に大会運営をしていた。背が高くて、声のよく通る先生だ。読み手の先生は二人とも、空札にそれぞれ別の啄木の短歌を詠んでいた。
山田先生の詠んだ句は、
東海の小島の磯の白砂に われ泣きぬれて蟹とたはむる
競技の開始のたびに何度も読んだから、耳に残った子どもがいるだろう。子どもたちの記憶力は大人よりもずっと大きいから、こうしたリズムのいいものにふれる機会をつくってあげることが大切だ。
*五色百人一首
http://www.hyakunin.stardust31.com/gosiki.html
http://jiritukatei.o0o0.jp/language/hyakunin-isshu/407/
<余談-1>
土曜日に、釧路から応援までいただいて、根室で五色百人一首大会が開催された。大会運営に携わっていた先生たちと、お手伝いをちゃんとしていた二人の小学生と中学生にお礼申し上げたい。
根室は小学生の間で百人一首がさかんにやられているが五色百人一首やこの大会のことを知らない人が多いと思う。もっとたくさんの人に知ってもらいたいから、五色百人一首の買い方やつくり方はURLを書いておく、根室での大会については、来年度は弊ブログでも申し込み方法をアナウンスしたい。
根室の子どもたち(そしてあまねく日本の子どもたち)のために、そして文化と伝統の継承のためにがんばってくれている先生たちに感謝。
TOSS北海道代表というのはこういう地域ブロックごとの活動サポートという仕事がついて回る、仕事が相当できる人でないと回せない要職のようだ。山本先生の手際のよさに感心するとともに、前任者である水野先生のご苦労の一端がわかったような気がした。
<余談-2>
団塊世代のわたしが小学生のときに、正月は担任のT木先生のお宅でカルタとりを2度やった記憶がある。クラスの生徒が20~30人人くらい集まっていたのではなかっただろうか。あのときの花咲小学校は一クラス60人、6クラスあったから、1学年360人。いま、根室市内全部をあわせても1学年200~240名ほどしかいない。社会保障人口問題研究所の地域別・年齢階層別人口推計値によれば2040年には110名ほどに減少する。
<余談-3>
短歌や俳句を何度も何度も口ずさみ、心の奥深くに日本的情緒を育んでもらいたい。
大数学者の岡潔先生はフランスへ留学して戻ると、フランスからはもう学ぶべきものはなく、数学研究を深化させるためには日本的情緒が大切なことを悟り、仏教と芭蕉の俳句の研究をはじめる。そのあとで、当時の数学の三大難問を一人で解いてしまう。数学にノーベル賞があったら3つ受賞するぐらいの業績を挙げた。
百人一首で日本的情緒を育むことは、子どもたちにとって未来の可能性を開く鍵となりうるかもしれない。
70% 20% 10%
百人一首に関する面白い本がある。百人一首にはメッセージが暗号となって組み込まれているというのだ。二首一対になる句が意味をもったり、奇数の平方数が隠されていたり、和歌の秘伝の「古今伝授」が隠されていたりと、とにかく数字の上でも、秘伝でも謎が多いのが百人一首だ。
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「(百人一首の選者である)藤原定家の正統・二条派歌学を継いだ細川幽斎は、「古今伝授」を受けた一人である。・・・後陽成天皇は・・・すぐに勅使を遣わしめて幽斎を説得し、和議を講じさせて危機一髪のところを救ったのである。その理由として天皇は、次の言葉を述べられたという。
「細川幽斎死せば、本朝の神道奥義、和歌の秘密、永く途絶えて神国の掟も空かるべき」
これは異様な言葉である。鶯やかはづの声を詠むだけの歌がなぜ、日本の掟などにかかわるのだろうか? p.80
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これも面白い本である。万葉集が中国語、朝鮮語、日本語の三様に読めるというのである。万葉の歌人たちの中には、三ヶ国語を自在に操り、異なる意味を織り込むことができるほど知的レベルが高かった人たちがいる。
高校生になったら、白川静の『初期万葉論』と『後期万葉論』にも目を通してみたらいい。高校生にはとても手が届くものではないと思うが、背伸びすることで本物の学問の何たるかが見えてくる。クォンタム・リープということがある。
字が小さいのはいやだという人には、中公文庫ワイド版がある。
昨日はご参観いただき、ありがとうございました。
いろいろと不手際がある中、参加してくださった保護者の方、子供たちの協力のおかげで、どうにか無事に終えられることができました。
このように昨日のイベントの良い面を取り上げてくださって本当に感謝しております。
教室では元気の良い子供たちも、あの「場」の雰囲気にのまれ、いつもと違う緊張した様子になります。
そこを、うちの山本が打破しました。私たちも大変勉強になった場面でした。私たちの緊張も解けていくのが分かりました。
大変な間違いをしていたことに、今気づきました・・・。
創建1806年ですから、210歳ですね・・・。
担任を通じて、訂正してもらいます・・・。
今後ともご指導よろしくお願いいたします。
by 平田純也 (2015-08-30 12:09)
こちらこそ、楽しいひと時ありがとうございます。
百年違っていましたか、本文のほうを訂正しておきます。
1対1の勝負の緊張感を経験することは人間を鍛えます。誰にも頼れない状況下で、自分の力を出し切ることに慣れておくのは案外大事なことだと思います。
大げさにいうと困難な状況にたじろがない魂が練りあがります。
なにをどうすればいいか指示が明確で、きちんとできたらすかさずほめる、礼と挨拶、握手、「はいっ!」の声の出し方、競技中に私語はしない、終わったら座りなおして挨拶、握手と何度も繰り返すうちに、子どもたちが型を身につけていくのがよく見えました。
最初からあんなに上手なわけがありません。学級崩壊のような事例や落ち着かない生徒たちを相手に、先生たちが自らを鍛え抜いた成果に見えました。子どもたちも先生たちも、きびきびしていました。
この五色百人一首大会がもっともっと広がりをもってほしと願っています。
来年、成長した子どもたちの顔を見るのが楽しみです。
成央小学校から浜中町の小学校へ転勤になったのに、変わらぬご尽力に感謝申し上げます。
by ebisu (2015-08-30 14:05)
参観、そして詳細にご紹介いただき心より感謝いたします。
優れた指導法は、認知スキルと同時に、非認知スキルを身につけさせることができると信じています。
(そう言った意味でも「知徳体のバランス」なんてナンセンスですね(^^))
百人一首の札を憶えるだけでなく、同時にあいさつ、返事、言葉遣いなどを身につけさせることが伝統を受け継ぐということにつながる。
「最後まであきらめない」という心の働きを具現化させるための行動が、あいさつや返事、言葉遣いである。
「心は形を求め 形は心をすすめる」
リーダーである平田があいさつの中で子どもたちに言った「伝統を引き継ぐ」「あきらめない」という本大会の目的を達成するために動きました。
そこをきちんと見ていただきうれしく思っております。
また、来年の大会に向けての貴重なアドバイスも大変有難いです。
今後ともよろしくお願いいたします。
追伸:訂正をお願いできれば幸いです。
TOSS北海道代表の山本先生→NPO法人エトセトラ代表の山本先生
「平田先生の詠んだ句は、」→「山田先生の詠んだ句は、」
by 山本真吾 (2015-09-01 00:24)
山本真吾さん
おはようございます。
2箇所の間違い連絡ありがとうございます。すぐに訂正しておきます。
あの句を読んだのは山田先生でした。競技が始まる前に子どもたちに練習ようにやっていました。思い出しました。
by ebisu (2015-09-01 08:14)