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#3050 千島連盟理事長に元羅臼町長脇氏 May, 26, 2015 [21. 北方領土]

  千島・歯舞連盟の理事長が小泉氏(91歳)から、元羅臼町長の脇氏(74歳)に替わった。いろいろ事情があるのだろうが、70歳を過ぎたご老人がずっと理事長をやってはばからないこと自体がいかがなものかと思う。50歳代の人に理事長の座を譲り、その若い理事長を支えるという「老人の智慧」をもちたいものだ。
 小泉氏はビザなし交流は信頼関係をつくるものであり、ロシア側の要求でビザなし交流で領土問題を持ち出さないことを認める発言をしている。領土返還とビザなし交流を秤にかけたら、ビザなし交流のほうが重いというのが小泉元理事長の判断だったのだろうか。そういうことなら千島連盟は領土返還運動団体というよりも、ビザなし観光推進団体と呼んだ方が実態を表している。世界の外交の常識では、原理原則(この場合は日本側は領土返還要求)を面と向かって主張したあとに交流だろう。返還運動という原理原則を外してしまったら、それは公費を使った観光旅行にすぎない。ロシア側観光団は根室を通過して、目的地を変えて毎回日本全国観光旅行にいそしんでいる。旅費交通費は日本政府が全部もつ。
 根室の住民でかつ元島民2世であるわたしからみると外務省の政策も千島連盟の在り方もじつに奇異な感じがする。
 北海道新聞に載った千島連盟小泉元理事長の退任の弁から引用する。
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私は現地で領土問題を提起したいのが本音ですが、ビザなし交流の主な目的は信頼関係の構築ですからね。領土問題について、ロシア人の住民から『国同士が話し合うことだ』といわれることも多い。ロシアからビザなし交流に支障をきたすようなことをやられると困るので、考えながら主張しなければならないというもどかしさもあります。」
     (北海道新聞5/26 4面より抜粋)
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 まるで外務省の小役人のような物言いである。ビザなし交流予算は外務省丸抱え。ロシアから来る人も、こちらから行く人も負担はゼロ。日本政府丸抱えの観光旅行というのが実態だから批判もでる。いくつかの団体を通さないと「ビザなし交流」に参加できないから、日露双方である種の利権が生まれている。
 関係者は毎年何度もタダで日本観光旅行をさせてあげることで、北方四島住民と日本国民の間に信頼関係が生まれると本気で考えているのだろうか?
 北方四島に住むロシア人は、島に帰属は政府間の問題であるがずっとこのまま返さずに毎年日本観光旅行を続けたいと思っているのかも知れぬ。親切な日本外務省に任せておけば、毎年行き先を変えて請求書のナシのツアーを組んでくれる。こんなことをしているおめでたい外務省は日本だけだろう。

 さて、話題を本題の羅臼へ移そう。2010年に羅臼の漁船が「ロシア領海内」で操業して、沿岸警備隊のヘリコプターから銃撃を受けた事件がある。日本の海上保安のその後の調査では、漁船が衛星通信漁船管理システム(VMS)を切断していただけでなく、航跡を示す衛星利用測位システム(GPS)の記録も残していなかったことが判明している。ようするに、密漁証拠を残さぬようにしていたのである。
 VMSを切って操業していたという事実は、装置に細工が施されていたということ。そんなことは素人にはできないから、地元の専門業者が手を貸しているのは想像に難くない。どうやら羅臼組合傘下の漁船の多くが操業中の数時間VMSを切断して「密漁」をやっていたということらしい。
 国後島沖合いで操業すると漁獲量が大きくなる。羅臼産のホッケは美味しくかつ高い。かまぼこや辛子明太子の原材料であるスケソも獲れる。距離は近いし、魚は多いから、国後沖は羅臼の漁業者にとってはのどから手が出るほどの好漁場なのである。それに日本政府は日本の領土領海だと主張しているのだから、「ロシアに不法に占拠されている自国領海内で操業して何が悪いという気分」もある。

 脇氏は羅臼町長だったからそれらのことをよく承知しているだろう。羅臼の漁船が操業していたのは国後島沿岸だから、国後島が帰ってきたら国後島の漁業者の漁業権が及ぶから、羅臼の漁業者は漁獲量激減という大打撃を受ける。本音は効果のほとんどない現在のビザなし交流や東京でのデモ行進などの年中行事化した現在の運動スタイルがベストなのだ。
 国後島の前浜はロシアが実効支配しているが、入漁量を支払って「獲らせてもらって」いる。残念だがそういう状態がのぞましいと思っている漁業関係者は少なくない。

 脇氏は意味深な発言をしている。
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 北方領土の元島民らでつくる千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)は25日、札幌市内で開いた理事会で、新理事長に脇紀美夫・前根室管内羅臼町長(74)を選任した。23年間理事長職を務めた小泉敏夫氏(91)はこれに先立つ総会冒頭で「本総会をもって理事長職を退く」と表明した。総会では本年度の事業計画などを決めた。

 脇氏は選出後の記者会見で、千島連盟の活動のあり方について「戦後70年の節目の年と言われるが(領土返還)交渉が動くという確かなものは感じられない。(返還運動の)改革は力かもしれないが、継続も力だ」と述べ、地道に運動を継続する考えを強調。日本政府に対しては「強力に外交交渉を進めてほしいという一点だ」と訴えた。(北海道新聞5/26 4面より)
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/society/society/1-0137756.html
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 元羅臼町長の脇氏が羅臼の漁業者たちの利害を代弁するのは当然のことなのだろう。羅臼の漁業と町のためには領土は還ってこないほうがよいというのが本音。そこから「領土返還運動の改革」意欲は生まれないし、外務省予算でいつまでも効果のない返還運動を継続することこそが大事だと言っているように聞こえる。これほど率直な物言いは、脇氏が正直だからだろう。
 しかしこれは地域エゴであり、そういう私的な利害が見え隠れしていたのでは、北方領土返還運動が国民の共感を呼ぶはずもない。そして現実はその通りになっている。

 前理事長の小泉氏は23年間も理事長の椅子に座り続け、補助金事業での北方領土返還運動の旗振りをしてきた。いくばくかの反省の弁があると期待したが一言もない。領土返還運動のあり方を問い直すつもりなどまったくなかったような退任の弁を述べている。
 領土問題が進まないのはこうした運動団体の在り方に根深い問題があるからではないのか?

 北方領土返還運動を担ってきた老人たちには改革の意志がなく、結果論から言えば具体案を生む智慧もなかった。70歳を過ぎたご老人たちに希望はもてぬ、若い人たちが斬新な視点で領土返還運動に取り組むことを期待したい。

*ロシア国境警備艇羅臼漁船を銃撃 #886 Jan.31,2010 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-01-31-1

 被弾の羅臼漁船2隻、隠蔽工作 #890 Feb.3, 2010 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-02-03

 羅臼漁船船長逮捕 #900 Feb.10, 2010 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-02-10-1

 #2984 物言わぬ北方領土返還運動団体役員 Feb. 21, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-20

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*#195「少し過激な北方領土返還論」MIRV(多核弾道ミサイル)開発・組み立て・解体ショー
ロシアをぎゃふんといわせ北方領土を返還させるための具体論
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-06-07

 #465「"Japan sent uranium to U.S. in secret"は北方領土返還運動の好機か?」
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-12-30

  #1401「ロシアがフランスから新型軍艦を購入し北方領土へ配備、対抗措置はあるか」
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-03-1

 #1892 映画「マーガレット・サッチャー」と北方領土 Apr. 6, 2012 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-04-06

 
#1965 ビザなし交流=通過型観光旅行? June 8, 2012 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-06-08

 #1969 北方領土問題コメント(欄)対話(1): ビザなし交流の虚実  June 11, 2012 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-06-11

 #1973 ビザなし交流in択捉島 住民交流会:もちつもたれつ  June 14, 2012 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-06-14

 #2050 竹島と北方領土 :韓国大統領の竹島上陸にどう対抗する?  Aug. 10, 2012 
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-08-10-2

 #2053 マーガレット・サッチャーと領土問題(2) : 北方領土・竹島・尖閣列島 Aug. 14, 2012
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-08-14

 #2054 マーガレット・サッチャーと領土問題(3) : Aug.16, 2012 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-08-16

 #2095 おろかな領土紛争:白人支配終焉のチャンス
  http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-09-28

  #2097 中国や韓国と如何に付き合うべきか
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-09-29

 #2301 実録北方領土ビザなし訪問 :同行医師の記録 May 19, 2013 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-19

 #2585 北方領土の日: 現実的な四島返還構想 MIRV開発 Feb.7, 2014 
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-02-07

 #2656 北方領土返還運動:おかしな「元島民」の定義  Apr. 23, 2014 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-04-23

 #2697 ロシアの東と西:北方領土とウクライナ June 3, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-03-1

 #2700 玉砕の島、アッツ島の桜が咲いた June 7, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-07

  アッツ島の桜が先週から3輪だけピンク色の花をつけた。花がひとつも咲かない年もある、昨年ほどではないが今年も咲いた。
 スズランも2日前から咲き始めた。例年よりも2週間ほど早いようだ。
 

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コメント 2

るろうにん

Ebisuさんの御説御尤も!
最近のビザなし訪問は日本人の北方領土体験ツアー、ロシア側も日本観光旅行に堕しています。まあその風潮は以前からありましたが、最近は特にその傾向に拍車が掛かっていると聞き及んでいます。小生が最後に択捉島に渡ってからもう5年に成ります。この5年間日本側にはそれほど変化は有りませんでしたが、ロシア側はメドベーチェフ、プーチン政権が盤石な体制を作り、サハリン油田の開発によるオイルマネーのお零れが北方4島にも回ってくるようになり島のインフラは格段に変化。かってはまともな船が接岸出来なかった港湾工事も進み、飛行場は出来上がり、病院や学校と言った箱モノも増え、もはや島の情勢は小生が最初に渡った頃とは隔世の感があるようです。
以前はビザなし訪問団は必ず地元の小学校の講堂に住民を招いての”対話集会”を開き、形だけでも”領土問題”を提起して居ました。それが何時の頃からか、「日本とロシアにおける子供の教育について」などと敢えて領土問題を避けるようになり、最近ではその”対話集会”すらロシア側の圧力(+日本側=主催者団体)で立ち消えになっているようです。かってその”対話集会”に政治家の鈴木宗男氏が出たことが有ります。ご存知のように彼は森内閣(だった?)の時政務官(?)として総理大臣に同行しモスクワで領土返還交渉に当たっています。その時の日露の合意は北方領土返還に明るい希望が灯るようなものだったようです。それを鈴木宗男氏は対話集会で地元住民の前で力説するのですが、聞く方はそんな偉い人たちの話し合いなどにはあまり興味を示さず、鈴木氏が声を大きくすればするほど彼がドン・キホーテになります。勿論その”対話集会”の締めは、両国の歌の合唱。ロシア側は「カチューシャ」、日本側は「ふるさと」が定番です。そこには「領土を返せ!」などの強い意思表示は何処にも見受けられません。
その対話集会すら消滅したのでは、もはやビザなし訪問は全額日本政府持ちの根室海峡横断ツアーでしかないでしょう。
小生が島に行かなくなった頃、地元の南クリル地区長がビザなし訪問団の前で日本人墓地の墓標を引き抜いて「こんな物日本に持って帰れ!」と放り投げたそうです。自分がその場に居た訳ではありませんので、事の真意は分かりません。しかし日本人なら考えられない蛮行を平気で行うロシア人にとっては島は自分たちの故郷なのです。誰が何と言ったって故郷なのです。今島民の多くは島で生まれ育った世代です。彼らには自分の親たち(国家)が「70年前にどれだけ非道な事をやったか」などどうでも良いのです。日本製の中古車や自転車を乗り回し、携帯で友人と話し、家に帰れば日本製の電化製品に取り囲まれ・・・まあまあの生活です。

北方4島・・・未だにもっとも日本に近い”外国”です。
by るろうにん (2015-05-29 12:42) 

ebisu

るろうにんさん

ビザなし訪問に何度も参加された方から、現地での対話集会で領土問題が取り上げられなくなった前後の様子は根室だって千島連盟に関係して何度もビザなし訪問している一部の人(引揚者)しか知りません。
その様子を投稿くださりありがとうございます。

ロシアに占拠されてから70年、北方四島で生まれた子どもたちにはすでに3代にわたってふるさとになっています。
同じように四島で生まれ育った日本人はその間に高齢化し、半数以上がすでにこの世に存在しません。母も母の妹たち3人も一度もふるさとの地を踏むことなく他界しました。

そういう現実をお互いに再認識するくらいのことは対話集会を再開してやってもらいたい、そう願っています。
それすらできないのなら、ビザなし訪問はやめるべきだというのが島民2世のわたしの意見です。
by ebisu (2015-05-30 23:52) 

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