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#2943 『資本論』と経済学(8) : 「ユークリッド『原論」 Jan. 29, 2015   [A1. 資本論と21世紀の経済学(初版)]


7. <学の体系構成法の視点から見たユークリッド『原論』>

 この章が本稿でもっとも重要な部分の一つである。学の完成された体系構成はユークリッド『原論』以外にはない。
 高校生には「ユークリッドの互除法」が教科書に載っているから馴染みがあるだろう。ユークリッドの人物についてはどこで生まれてどこで育ったのか、記録が残っていない。しかし、実在したことだけは確かである。アルキメデス(287年ごろ~212B.C.)がその著「『球と円柱について』の第1巻の第2命題の証明の中で「ユークリッド(の『原論』)の第1巻命題2により」と記してある。
(ユークリッド『原論』より、「ユークリッドと『原論』の歴史」437㌻。訳・解説 中村幸四郎・寺阪英孝・伊藤俊太郎・池田美恵 共立出版社1971年初版、以下『原論』と略記)
 ユークリッドはプラトンの直弟子たちと同世代である。

 
 『原論』は公理・公準の説明に続いて、同じ半径の円を二つ使った正三角形の作図から幾何学の解説を始めている。第1巻は平面図形の性質がとりあげられている。『原論』は平面幾何学だけではない、数論や立体幾何学、正多面体にまで及ぶ。
 
79巻は「数論」を扱っている。ここで面白いのは、線分の長さの区切りに数字ではなく文字が充てられている点で、広義の意味での代数学も含まれていると考えてよいのだろう。第7巻の冒頭には23個の定義が並んでいる。大雑把にその順序を書くと次のようになる。
 
 単位⇒数⇒割り切れる数と割り切れない数⇒約数⇒偶数と奇数⇒偶数や奇数の除算の商の分類⇒素数の定義⇒互いに素⇒素数と合成数⇒平面数:二つの数の積で表される数⇒立体数:三つの数の積で表される数⇒平方数:等しい数に等しい数をかけたもの⇒立法数⇒比例数⇒相似な平面数と立体数は比例する辺をもつ数である⇒完全数:自分自身の約数の和に等しい数 

 
数論の定義は単純なものから複雑なものへという順序で並んでいる
 
最終巻の13巻第16章では正二十面体がとりあげられている。

 「正二十面体をつくり、先の図形のように球によって囲み、そして正二十面体の辺が劣線分とよばれる無理線分であることを証明すること」(『原論』427頁)

 立体図形、しかも正二十面体の辺が有理数ではなく無理数であることを証明せよというのである。球の直径を有理線分(有理数)としたときに20個の等辺三角形(正三角形)の各辺の長さが無理線分(無理数)になる証明が載っている。

 『原論』は平面幾何学と数論そして立体幾何学に及んでいる。全体が統一の取れた体系というよりは、いくつかの部分に分かれているといったほうが事実に即しているだろうか。全体の展開順序はこのようになっている。
    平面幾何⇒数論⇒立体幾何
 平面幾何と立体幾何の間に数論の挟まっているのがどうにも不細工にみえるが、数論を扱わぬわけにもいかない。平面に高さという要素を加えたものが立体であるから、単純さを尺度にすると、次の不等式が成り立つ。
    
平面図形<立体図形
 
ここでも単純なものからより複雑なものへという展開系列の順序が守られている。

 第1巻の平面幾何は、重なり合う半径の同じ二つの円で等辺三角形を描くことから始められている。平面を二つの線分で囲むことはできない、三本の線分で囲まれた三角形がもっとも単純な平面図形である。三角形の内では等辺三角形がもっともシンプルで美しい。三角形を3分類して並べると、「等辺三角形⇒二等辺三角形⇒不等辺三角形」の順序になるが、第1巻は等辺三角形のあとに三角形の等積変形が来て、そして平行線の性質が導かれている。

 マルクス『資本論』との関係でいうと、注目すべきは公理・公準と作図の展開順序の2点に絞られる。第1巻の図形の性質は、もっとも単純な平面図形、(半径の同じ円二つを使った)正三角形の作図が最初におかれている。数論の定義の並び順も「単純なものから複雑なものへ」という系列になっていることはもうお分かりだろう。
 
1巻は「定義」⇒「公準」⇒「公理」⇒単純な図形の作図(正三角形)という順に展開されている。定義は23個あり、公準(要請)は5個、公理(共通概念)は9個並んでいる。定義は「点⇒線⇒線の端⇒直線⇒面⇒平面⇒…⇒平行線」

体系構成で最も重要な公理・公準はユークリッド『原論』では次のようになっている。
公準(要請)
 次のことが要塞されているとせよ。
1.       任意の点から任意の点は直線を引くこと。
2.       および有限直線を連続して一直線に延長すること。
3.       および任意のテント距離(半径)とをもって円を描くこと。
4.       およびすべての直角は互いに等しいこと。
5.       および1直線が2直線に交わり同じ側の内角の和を2直角より小さくするならば、この2直線は限りなく延長されると2直角より小さい角のある側において交わること。

公理(共通概念)
1.同じものに等しいものはまた互いに等しい。
2.また等しいものに等しいものが加えられれば、全体は等しい。
3.また等しいものから等しいものがひかれれば、残りは等しい。
4.また不等なものに等しいものが加えられれば全体は不等である。
5.また同じものの2倍は等しい。
6.またおなじものの半分は互いに等しい。
7.また互いに重なり合うものは互いに等しい。
8.また全体は部分より大きい。
9.また2線分は面積を囲まない。
                                   同書2頁より

 
平行線公準が成り立たないものと前提すると、リーマンの球面幾何学のような非ユークリッド幾何学が成立することから、『資本論』の公理・公準の一部を入れ替えると別の経済学が生まれる可能性があることは容易に予想がつく。そういう操作を大学院生の頃から考えていたが、当時は何をどのように換えたらいいのかわからなかった。

 中学校と高校の図書室にはこのユークリッド『原論』を備えてもらいたい、そして数学の先生はそういう本が自分の学校の図書室にあることを生徒に伝えてもらいたい。数学好きの早熟な生徒なら十分に読める。田舎の学校でも、工夫次第で都会の学校よりもいい環境を整えることができる。大人の責任を果たすために、できることから始めよう。

*#2935 『資本論』と経済学(1):「目次」 Jan. 25, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-25


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