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#2892 スタグフレーション突入とアベノミクス Dec. 1, 2014   [A3. 職人仕事観に基く経済学の展望]

 いよいよ師走に入りました。解散総選挙がはじまり、世の中はあわただしくなっているようです。
 FBの掲示板をみたら「すでにスタグフレーションだろう?どうして野党はそこを突かないのか?」という書き込みがあり、それもそうだなとテレビの党首討論をみていました。

 11月27日NHKビジネス展望で嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科長)黒瀬直宏教授が「中小企業でGDP回復」と題して日本経済の成長戦略についてコメントしていたので、その内容を紹介します。

 GDP統計は3ヶ月ごとに、前四半期に対してプラスかマイナスで公表されている。4-6月期がマイナス7.3%だったので7-9月期のマイナスを予想したシンクタンクはなかったが、実績はマイナス1.6%だった。日本経済の落ち込みはとまらない。予想外のことで政府は大慌てで消費税増税を見送り解散総選挙を決めた。来年夏になって景気がますます悪くなってからでは与党の議席が大幅に減少することを心配したのだろう。総理大臣殿は国民のことよりも自分の政権維持が大事だと受け取った国民がすくなくない。自分のことは脇において考え、決断し行動してもらいたいが、無理なようだ。

 一時は110-120ドルだった原油価格が70ドル台に落ち込んでいるにも関わらず、貿易収支は今年度もマイナスの記録を更新しそうだ。来年度は経常収支もマイナスになるだろう。
 黒瀬教授はアベノミクスを「輸出大企業と富裕層のみの空(カラ)景気」と切り捨てている。
 輸出産業はGDPの12%を占めており、円安によってその中の一部の大手企業の景気がよいことは事実。そして株を保有している企業や個人の景気のよいことも事実だが、それはごく一部の話で、国民の大部分は名目賃金が少し上がっても消費税アップと物価上昇に追いつかず、生活防衛のために倹約し始めている。

 中小企業家同友会の業況判断調査では、4-6月期はマイナス1%、7-9月期はマイナス5%で4ポイント悪化。この数字は「好転-悪化」で算出されている。つまり、企業業績が7-9月期になって悪化したと判断している経営者が増えているということ。一部の輸出産業とは違ってもともと地方の中小企業の業績は厳しいが、それがさらに悪化しているのが地方の中小企業の経営実態である。

 黒瀬教授は売上、付加価値(粗利益)、仕入(コスト)に分解して次のように日本経済の現況を解説している。

  付加価値=売上-仕入

 売上は横ばい、6ヶ月連続で前年を下回っている。9月は実質賃金が前年比2.9%減少、15ヶ月連続でマイナス。消費が低迷するのは実質賃金がこんなに下がっているからだ。
 従業員一人当たりの付加価値低減の第一の原因は円安による物価高である。第二の原因は円安によって仕入コスト・アップ、そして第三の要因は物価高による名目賃金の上昇、これらがトリプルパンチとなって中小企業業績を悪化させている。

 大企業の好業績が中小企業に及んでいないのは、大企業が生産拠点を海外に移してしまったからである。円安の恩恵を受けているのはGDPの12%を占める輸出産業の一部だけ。
  たとえば、トヨタグループ16社の70%で13年度の売上が2007年度の売上に達していない。トヨタは10-3月期の取引については部品単価の切り下げを求めないことに決めた。
 トヨタ本社だけが史上最高額の利益を更新して、子会社、関連会社そして取引先企業が青息吐息では社会的な批判をまぬがれないから、手を打ったということだ。それにしても、取引先に毎年単価切り下げを求め続けてきた「トヨタ看板方式」が結果として、初期の取引先の競争力と売上増大には寄与したが、2008年度以降は取引先の業績を圧迫するのみで、このまま取引先が倒れていけば高品質で低単価の部品供給先を失い、長期的にみればトヨタ本体が傾くことに気がついたのだろう。

 トヨタ一社を見ても大手輸出企業の好業績が関連会社や取引先にはまったく及んでいないことがわかる。一時期はアベノミクスでトリクルダウンが声高に叫ばれ、円安によって輸出産業の業績がよくなれば、他の産業も連鎖的によくなると喧伝されたが、実際は好業績がトヨタの取引先にすら及んでいないことがはっきりしたのである。
 小泉改革のときもそうだったが、安倍総理も経済実態を知らない経済学者をブレーンにして見当はずれの経済政策(アベノミクス)をごり押ししてきた。このまま続けたらどういうことになる?

 黒瀬教授は、国内完結型の生産体制が崩壊してしまったという実体経済の変化に原因があるので、金融政策等で経済がよくなる筈がない。貨幣供給量を増やしても修復はできず、かえって景気低調を拡大するだけであると述べている。
 他方で、景気をよくするためには大企業が牽引した産業の空洞化を埋めるべく、中小企業中心とする産業をもう一つの柱とするような構造改革をしなければならないと主張している。
 反大量生産&高付加価値分野で各産業で着実に業績を拡大している中小企業が日本には数多くあり、優良な中小企業群を増やすことは可能であり、そうした政策を通じてGDPを回復すればよいと述べている。

 ここからはebisuの意見である。
 2012年には80円/ドルだった為替レートは118円/$、ほぼ50%の円安水準になっている。アベノミクス三本の矢の一つ、日銀の異次元金融緩和が作り出した円安である。円安が国民生活にいいはずがない。輸入品価格がわずか2年間で50%も暴騰し、巨額の貿易赤字が生じており、経常収支も来年には赤字になる。日本は縄文以来12000年の歴史の中で少子高齢化によるはじめての人口縮小時代を迎えている。こういう時代環境の中で過去の経済成長を追い求めることこそ愚かである。粛々と経済縮小に先手を打てばいい。生産年齢人口もすでに200万人減少している。

 中小企業中心の高付加価値産業構造をつくるためには生産拠点を日本に取り戻さなければならない。そのためには鎖国(強い管理貿易)が一番よい。国内で消費するものは国内の中小企業でつくればいい。安心安全な長持ちする製品を多品種・少量生産するシステムを創りあげたらいい。非正規雇用ではなく、すぐれた生産技術や職人技能をベースにして安定した正規雇用の職を数百万人単位で増やすことができる。
 グローバリズムは経済格差拡大、所得格差拡大と同義である。もちろんTPPもいらぬ。

 日本は自立型産業クラスター構造をシステムとして輸出すればいい。そうすれば、生産拠点が一つの国に集中しないことになり、各国が国内に安定した雇用を確保し、自国で消費するものを国内生産、自国で生産できないものだけ輸入することになる。貿易は縮小していいのである。
 百年もたてば世界中が自国で消費するものの大半を国内生産している社会が実現できる。失業の少ない安定した社会だ。
 西洋型の労働観(=苦役)ではなく、職人仕事をベースとする新しい経済システムを実現することで日本人は21世紀の世界に大きな貢献をすることができる。仕事は神聖なものであり楽しいものだ、そういう仕事観の世の中をつくりたい。正直で誠実に、そして渾身の力でいい仕事をする。ebisuの提唱する職人主義経済学が世界中を蔽ってほしい。

 アベノミクスで被害を受けている国民生活を尻目に、円安と株高のお陰で好業績をあげている業界から自民党への政治献金が増えている。もちつもたれつの政党と業界。
*「アベノミクス利益、自民へ“還流”」・・・ブログ「オータムリーフの部屋」
http://blog.goo.ne.jp/autumnleaf100/e/9838b27a2920a079c231df6a00bef116



*#2879 アベノミクスはバンザイノミクス: ゴールドマンサックスの見解  Nov. 23, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-23-2

 #2878 選択肢のない北海道7区:衆議院議員解散総選挙 Nov. 23, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-23-1

 #2850 'Promoting women at work'1-2 :女性大臣二人辞任 Oct. 22, 2014     
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-22

 #2849 'Promoting women at work' :2女性大臣辞任 Oct. 22, 2014 
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 #2838 円安評価をめぐる経済界と日銀のズレ:山口義行教授 Oct. 14, 2014  
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-13-1

 #2775 内閣府「国民経済計算4-6月期」データ解説 Aug. 13, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-13

 #2774 'Bad inflation' shadows Japan (悪性インフレの陰りあり) Aug. 13, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-12

 #2770 「経済成長の天井」:日本総研山田久調査部長の論  Aug. 11, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-11

 #2766 疑問符がついた景気回復の先行き Aug. 9, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-09

 #2759 有効求人倍率1.1倍、19ヶ月連続上昇 Aug. 5, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-05

 #2753 上海福喜食品対米国産牛肉:どっちもどっち? july 30, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-07-30

 #2742 藤原直哉(前編):物価と景気動向⇒二番底が来る July 21, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-07-20-1

 #2731 10年間で33%農業人口が減少している日本の農業 July 11, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-07-11

 #2729 年金基金の運用資産が130兆円から210兆円に増える:危うい株式投資 July 9, 2014 
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 *#2719 'Bad inflation' shadows Japan (悪性インフレの暗い影が日本を覆う)  June 28, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-28-2

*#2715 GPIFの株購入と銀行保有リスク資産に関わるBIS規制変更 June 25, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-25

 #2702 残業代をゼロにする"ホワイトカラーエグゼンプション"③:公務員は別扱い June 10, 2014   
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-10

 #2701 残業代をゼロにする"ホワイトカラーエグゼンプション"② June 9, 2014  
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-08

 #2699 残業代をゼロにする"ホワイトカラーエグゼンプション"① June 6, 2014 
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*#2693 鎖国をして国内雇用を確保しよう May 31, 2014 
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 #2669  成長戦略:規制緩和を考える May 7, 2014 
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  #2245  円安はそんなにいいことか? Mar. 17, 2013 
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  #2185 各論(3):'Abenomics' Jan. 24, 2013 
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 #2170 各論(2):貿易収支赤字転落⇒? Jan. 3, 2013 
 
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  #2169 各論(1):国債暴落の可能性とその影響 Jan.2, 2012 
 
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 2168 歴史認識を欠いた安倍新政権の歴史的役割(2):蔵相高橋是清暗殺 Dec. 31, 2012 
 
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 #2164 歴史認識を欠いた安倍新政権の歴史的役割は何? 
 
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コメント 2

もやしさんま

今月の根室の広報を見ると、わが町にも進取の気概のある企業経営者のいることがわかり誇らしいですね。とおもいませんでしたか
by もやしさんま (2014-12-03 10:02) 

ebisu

もやしさんまさん

仰るとおり立派です、少し見直しました。
まったく別の顔があります。
根室の旧弊そのものの顔が。
市政と密着しすぎです。

「まちくら~」とかいう組織がありますが、あれは市政翼賛機関としてその企業経営者が現市長にもちかけたものです。その辺りの事情は内部で知っている人が何人かいるでしょう。

でも、「進取の気概」はよしとしましょう。
ベトナムは物価が安いので、店舗展開に大きな資金力は要しませんから、彼の店にとってはいい市場です。
その点ではいいセンスしています。根室と中標津店はジリ貧で経営は風前の灯でしょうから、戦場を移すのはいいことです。
ミニ政商としてのセンスは共産主義の国ベトナムでこそ活かすべき才能です。才能を活かす場所を間違えてはいけません、彼の地でのびのびとそして存分にやればいい。

経営に余裕ができてからでいいから心がけを治しましょう、自分のためです。いまはわからないでしょうね。
社員に夢を語れそうな経営者になったようです。心がけ次第で素晴らしい企業経営者に化けるかもしれません、成長を期待しています。
by ebisu (2014-12-03 11:14) 

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