#2881 根室の中学生の学力の現状(7):連携と協働 Nov. 25, 2014 [63. チャレンジ(教育)]
1970年11月25日は三島由紀夫が市ケ谷の自衛隊に突入、自衛隊員に決起を促し、こと敗れて切腹した日である。あの日大学の授業が終わって新宿駅に着き、山の手線に乗り池袋駅で下りたところで号外を受け取った。本屋周りが好きで神田の三省堂や新宿紀伊国屋でなんどか三島の著作を立ち読みさせてもらったが、当時は買う気にならなかった。小説は時間がもったいないのでなるべく読まないように自制していたからだろう。
ずいぶん時間がたってから三島の魂の遍歴を尋ねてみたくて彼の著作をいくつか読んでみた。三島は輪廻思想に傾倒してインドを訪れている、それと切腹は関連があるのだろうか。三島は切腹することで輪廻の大輪を回したのだろうか?
そうした三島の思想的傾向が『豊饒の海』によく出ている。最後にどんでん返しがあって、それまでのできごとが夢か現かわからぬような終わり方をしていたように記憶する。夢を見ていたのは女ではなく自分(主人公)のほう?読み手を突き放して物語を白紙に戻してしまう。時間を巻き戻して今度は女のほうを主人公にした別の物語が進行しそうな気配を残して筆を擱いている。最後の所でそれまで整然と進行していたように見えた時間と空間がぐにゃりとゆがみ、一本のひも状の世界がひねって前と後ろがつなぎ合わされてしまうのだが、主人公だった男は別次元の世界の入り口に立っている。日本語語彙の豊かな作家の一人だった。
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さて、本題は根室の中学生の学力問題であるが、このシリーズ7回目、ひとまずまとめておきたい。まだ数編書くつもりだったが、なんとなく迷っている。理由も含めてやはり書くのだろう。
根室の中学生の学力に関わる問題は二つに分けられる。ひとつは高学力層の枯渇現象が起きていること、もうひとつは低学力層の肥大化である。
<高学力層に生じている問題>
五科目500点満点の学力テストで400点以上を高学力層と定義すると、市街化地域の3中学校で10年前は40~50人いたのだが、この3年間は4~15人に激減している。市内の中学生数は12年間で420人⇒240人へとおよそ4割減だが、高学力層は1/10~1/3へ激減した。高学力層と書いたが、文協学力テストは難易度が低いので、400点では根室高校普通科へ進学してから受ける全国模試の進研模試では偏差値45~48にすぎない。430点でようやく偏差値50だ。偏差値50の大学は真ん中のレベルだから、高学力層と呼ぶにはおこがましい。市街化地域の3校では学年によっては400点を越えるものがゼロのこともある。学年トップでも偏差値50に届かないケースが出始めたのがこの3年間の現象。
道内の大学では小樽商大が偏差値55、室蘭工大48、北見工大47。中学校の学力テストで偏差値換算で48を超える層が枯渇しつつあり、大学進学への影響が懸念される。すでに根室高校では推薦入学が増えて、偏差値50を超える大学への一般入試合格はせいぜい10名程度。
<低学力層に生じている問題>
低学力層を200点以下と定義して話しを進めたい。さらにこの層を二つに分け、150点以下を底辺層と命名する。
底辺層は基礎学力において学習障害児と変わらない。小学校4年生程度の漢字の読み書きができないし、読む速度は半分から1/4、計算能力は標準的な速度の生徒の半分から1/10である。読む速度が遅いと、内容理解に大きく関わってくるし、計算速度が遅い場合は勉強量に看過できない差を生じることになる。塾に来ている生徒で計測したことがあるが一番速い者と一番遅い者で計算速度の差は30対1であった。
「勉強量=速度×集中度×時間」
速度の大きな生徒は短時間で圧倒的に大きな学習量をこなしている。速度の大きな生徒が1時間家庭で勉強したとすると、速度の小さな生徒が5時間勉強したよりも勉強量が大きくなることはざらにあると考えた方がよい。
だから、低学力層への対策で最優先すべきは、「読み・書き・計算」の速度アップトレーニング。根室市教委が市内の全校生徒に配布した計算問題集『カルク』は時間を計測してトレーニングしてこそ効果がある。朝読書は読む速度アップにまったく役に立たぬ。教師がついて同じテキストで高速朗誦トレーニングを実施すべきだ。漢字と英単語の書き取りトレーニングとして、毎日30個程度を宿題に課すべき、毎日やらせることで無理矢理家庭学習習慣をつけさせる。やってこないものはその日はブカツ停止を命じる。生徒の躾は学校でもやらなければならない。
<データからわかったこと>
(1)から(5)でB校とC校の昨年と今年の学力テストデータを取り上げ、得点階層別に比較分析を試みた。B中学校は過去7年間の学力テストデータの推移を見た。学力低下の転換点となったのは2007年度の3年生が中学1年生のときに起きた軽度の学級崩壊(授業で先生の声がときどき聞こえない)、そして2年でのクラス替えによる他のクラスでの「増殖」。学級崩壊と学力低下の関連に言及した。
ついで、C中学校の9年間の学力推移とこの2年間の急激な学力回復過程をみた。3年生は全国平均点を達成したようだが、1年生の学力が過去12年間で一番低い事実を述べた。小学校のときの学級崩壊がこの学年の学力低下の原因であるようだ。
子どもの躾のできない親が増えていることは別途対策を打たないと、学級崩壊が毎年どこかの学校で起きることになる。
<学力向上三つのポイント>
さて、5回のデータ分析を通じて生徒たちの学力向上には三つのポイントがあることがわかった。
(1)小学校入学前後の家庭の躾
(2)放課後補習の実施
(3)地域社会との連携
2項目はすでに詳論したから、三番目にあげた地域社会との連携について論点を整理しておく。
高学力層を全国レベルで戦えるように鍛えるのは学校教育では無理がある。それはそれ専門の職人がやったほうがいい、この部分は私塾の役割だろう。
私塾は学力下位層に対していままでも数ヶ月の無料個別補習体制をとってきたが、学校が放課後補習を継続的な体制として取り組んでくれるなら、この部分の役割は小さくなる、それが本来の姿だ。
もう一つは、釧路の市立病院職員(公務員アウォード賞受賞)が主宰している「寺子屋」のように、ボランティアによる基礎学力育成プログラムがあるべきだ。とくに小学校でのつまずきが中高とずっと尾を引く例が多いので、それを小学校の内にパッチをあてて、落ちこぼすことなく中学校へ送りだす受け皿が必要だ。すべてを学校教育に任せるよりも、まったく別の時間と空間の用意があって、子どもたちが選択できる状況が望ましい。
あまねく市内全部の小中高学生に基礎学力を保障するためにはセフティネットが何重にも用意されているのが望ましい。そのためには各学校・各学年・各教科ごとの学力の現状を客観的な資料で把握しておくべきだ。学力テストに関する学校別・学年別・科目別情報を関係者が共有して学力改善に当たり、その結果をやはり客観的な数値情報で確認していくべきだろう。
<C中学校に学べ>
文武両道の重要性とそのやり方を具体的そして繰り返し生徒に説明し、放課後補習を繰り返せば2年間で17%の学力向上ができることをC中学校が証明した。市内全部の中学校で同じことをやれば、2年間で根室市の子どもたちの学力は全国平均値を大幅に超えることができる。
子どもたちの学力向上は保護者と学校と私塾、そして地域社会が連携しながら多用な受け皿を用意して、学習への興味を育てることによって果たされる。
*#2606 根室の中学校の過去6年間の学力低下を検証する Feb. 28, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-02-27-1
#2672 急激な学力低下はなぜ起きているのか?:假説 May 10, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-05-09ある
#2806 高校数学面白い問題 :小中学校の先生たちへ Sep. 14, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-09-13-2
#2869 根室の中学生の学力の現況(1):B中学校の例 Nov. 16. 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-16
#2870 根室の中学生の学力の現状(2):C中学校 Nov. 16, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-16-1
#2871 根室の中学生の学力の現状(3):学級崩壊 Nov. 16, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-16-2
#2872 根室の中学生の学力の現状(4):B中学校2年生も問題あり Nov. 18, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-18
#2873 根室の中学生の学力の現状(5):C中学校1年 Nov. 19, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-18-1
#2875 根室の中学生の学力の現状(6):B中対C中学校1年 Nov. 20, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-20
*#2865 マルクスの労働観と日本人の仕事観:学校の先生必読 Nov. 13, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-13
ゆとり路線を捨て、全国的には試験は明らかに難化傾向にあります。指導内容がゆとり以前に戻ったわけですから当然のことですけれど、釧根では相変わらず難易度が低いままの試験ばかりが散見されます。
ebisuさんがご指摘なさっている通り、5教科計400点では、ですから上位層などとはけっして言えない学力レベルであって、あの程度のレベルであれば85点平均を上位として425点以上でなければ上位層などとはけっして言えないものと思います。
根室の中学校の先生方にお願いがあります。全国平均レベルの試験。それを研究なさって、ぜひともそれに準じた出題してスタンダードとなさって下さい。
試験のレベルが定まったなら、授業のレベルもまた自ずと定まるものだからです。どうぞよろしくお願い申し上げます。ええ、子ども達は、それでもちゃんと食らいついてくるものですから。
by ZAPPER (2014-11-25 22:57)
ZAPPERさん
仰るとおりふだんの定期テストの難易度を上げてほしいですね。
>根室の中学校の先生方にお願いがあります。全国平均レベルの試験。それを研究なさって、ぜひともそれに準じた出題してスタンダードとなさって下さい。
東京都立高校入試問題を自分で解いてみたらいかがでしょう。この辺りが標準的な問題だと思います。
東京は難易度の高い出題をする有名私立高校がたくさんあります。
ある程度難易度を上げないと生徒の脳が鍛えられません。
by ebisu (2014-11-26 00:07)