#2862 原発をめぐる詐欺的会計基準(2):不良資産と簿外債務 Nov. 9, 2014 [14. 原子力発電]
11月7日の北海道新聞一面に載った記事を紹介して若干の解説を付け足してみた。原発をめぐる会計処理には企業会計原則から見るとはなはだしい逸脱があり、粉飾に該当するような処理が電気事業会計規則で認められている。世の中には信じられないことがままある。
2回目は会計基準に焦点を当てたい、まず、細野氏の論をみよう。
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地域の電力を考える③
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北電は「原発は運転コストが安いので泊を再稼動すれば値下げできる」という。だが、「安い」のにはからくりがある。たとえば使用済み核燃料を利用する核燃料サイクル計画は事実上破綻しているが、それが動く前提で使用済み燃料を資産に計上している。また原発はいつか廃炉にしないといけないが、廃炉や放射性廃棄物の処分費用がきちんと見積もられていない。
このように原発の会計には膨大な「不良資産」と「簿外債務」がある。こうした将来重くのしかかる負担や事故の危険性、今回のように過度に依存した原発の運転が停止した影響に、誰が責任を負うのか。
株主は株価の下落や無配当で一定程度負担したと言えるかもしれないが、電力会社に巨額のカネを貸して利益をあげてきた金融機関の貸し手責任は追及されていない。金融のプロなら電力会社の財務諸表を見て原発のコストが高いことは見抜けたはずだ。
日本の電力料金は、電気をつくるのにかかった費用「原価」に電力会社の利潤を上乗せする「総原価方式」を採用している。もともと原発の会計はおかしな点だらけだったが、さらに国は昨年、廃炉会計基準を変更し、何でもかんでも原価に算入し、原発で事故が起きても電気料金で回収できるように道筋をつけた。会計上こういう手口を粉飾と呼ぶ。原発については国と電力会社ぐるみの粉飾決算がまかり通っているのだ。
国も電力会社も金融機関も、誰も責任を負わないまま、請求書だけが電気を使う人たちに届く。なぜ道民だけが重い負担を強いられるのか。専門家も一般市民も、「何かおかしい」という当たり前の感覚を忘れてはいけない。
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― 解説 ―
<幻の核燃料サイクル計画:40年かけてもメドすら立たない>
「核燃料サイクル計画」とは、使用済み核燃料からプルトニウムを精製して高速増殖炉の燃料とするものだが、技術的に難しくて米国、英国、ドイツ、フランスはすでに撤退している。世界中でやっているのは日本だけで、40年やっても実用のメドがたたない。
冷却材にナトリウムを使う危険な原子炉であるから、何か事故があった場合に水で冷やすことができない、水をかけたらナトリウムが爆発してしまう物騒な原子炉である。火災事故も起きている。英国では火災事故を起こしてそれを契機に計画をやめた。危険すぎるのである。
高速増殖炉は東海村の実験炉「常陽」、そして福井県の「文殊」があるが、未だに稼動していないし、実用のメドも立たない、「幻」である。文殊は点検管理の杜撰さが何度も指摘されている。今年も点検整備の態勢が整わないことを理由に半年間(来年3月まで)定期点検整備が延期されている。現場の管理はゆるみきっている、こんな管理しかできないのに、軽水炉に比べて格段に危険なタイプの高速増殖炉の管理を任せていいのだろうか。
■ 2012年11月 9679個の点検漏れ
■ 2014年4月 監視カメラ180台のうち、50余台が故障していた
*「文殊改革 半年延長 機器点検体制整わず」 朝日デジタルニュース
http://www.asahi.com/articles/ASG9T4RDDG9TULBJ00D.html
<使用済み核燃料から精製された半減期2.3万年のプルトニウム>
高速増殖炉用にフランスへ送り、精製・再処理されたプルトニウムがすでに43トン六ヶ所村に保管されている。人間が近づけないほどの高線量の放射線を放出している。
このプルトニウムを燃料に使って高速増殖炉を稼動させることができても、ウラン238がプルトニウムに変るから、使用済み燃料棒にはまた半減期2.3万年のプルトニウムが含まれることになる。高速増殖炉が稼動しても、またプルトニウムが生成されるから高濃度の放射性廃棄物はなくならない。
国内唯一の使用済み核燃料再処理施設(日本原燃)が青森県六ヶ所村にあるが、試験中に何度も事故を起こしいまだに稼動していない。燃料の再処理も再処理後の高速増殖炉も動いていないのである。
プルトニウムの半減期は2.3万年だから、半永久的に保管しなければならない。千年・二千年後に東京電力や北海道電力があるわけもないし、ひょっとしたら日本という国すらないかもしれない、後は野となれ山となれ式の無責任な話だ。
<不良資産と簿外債務について>
細野氏は原発には「不良資産」と「簿外債務」があるという。不良資産というのは資産計上されている使用済み核燃料のことだ。固定資産の部に「装荷核燃料1296億円」(P.75)が計上されている。仕入原価よりも評価額は低いだろうから、この金額の10倍も再処理費用がかかる可能性がある。仮に10倍としたら1.2兆円の簿外債務があることになる。純資産は929億円しかないから、1.1兆円の債務超過会社だ。
使用済み核燃料の再処理費用とブルトニウムを含む高濃度放射性廃棄物の20万年の保管費用が「簿外負債」となる。簿外債務はこれだけに留まらない、事故が起きた場合の補償金も保険をかけなければならないが、500兆円という試算のなされている除染費用一つとっても現在の保険システムではまかなえないので簿外債務となっている。原子力災害に保険をかけたら、保険料が莫大になり、採算が合わない。1000年に一回の確率で事故が起きると仮定しても、年間5000億円を越す保険料になるのではないか?保険料負担だけでも原発コストは3倍ほどに膨らむだろう。負担すべき原子力災害保険料を年間5000億円と見積もると、先ほどの再処理費用とあわせて1.6兆円の債務超過会社だ。
原発を維持する限り、他の民間企業が準拠している企業会計原則通りに会計処理をしたら、電気料金を2倍に引き上げても採算がとれない。それが原子力発電コストの真実の姿。
そして、いま原発を止めても、すでにできてしまった使用済み核燃料の再処理と再処理後の保管に千年単位の時間と保管コストがかかるのである。毎年どれほどのコストがかかるのか、調査研究してデータを公表すべきだ。
原発は北海道の止まりだけではない。事故を起こした福島第一原発の4基を含めて、国内に54基ある。孫子そしてひ孫たちのために、そして日本列島に住み続ける未来の日本人のために、これ以上原子力発電所を増やすのはやめてもらいたい。
<守るべき伝統の商道徳>
企業の存続期間を考慮すると、百年以上も管理が必要な廃棄物の生成を認めてはいけない。当該企業が消滅していたら、保管は国がせざるを得なくなる。特定の企業が数十年間濡れ手に粟で利潤を手にして、株主に配当し、カネを貸した金融機関が膨大な利益を手にする。そのうちに経営破綻してツケは国民に回ってくることになる。こんなことを許してはいけない。
自分だけよければいい、いまだけよければいい、儲かるなら何をやってもいい、そういう欧米流の価値観に汚染されてはならぬ。日本人が400年間守り続けた商道徳がある。いや、縄文時代から日本人は環境や周りの生物との共生を心がけてきた。そうした古来から連綿と伝わる価値観に回帰すべきだ。
江戸時代から伝わる普遍的な商道徳を守るべきだ。
「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」
電力会社と金融機関がぼろもうけし、電気を買う利用者にツケを回すようなあくどい商売のやり方を矢ってはいけないし、許してもいけない。
<総原価方式批判>
細野氏は「総原価方式」にも批判を加えている。電気を生み出すためにかかった費用に電力会社の利潤を上乗せして電気料金を決めている。こういう方式をとる限り、いくらでも電気料金値上げで利用者へツケ回しをすることができる。
廃炉会計基準が昨年変更されて、廃炉に関わる一切合財の費用を廃炉後に電気料金に上乗せできるのである。
原価に算入していなかった再処理費用や引き当て計上していなかった高濃度放射性廃棄物の保管費用も廃炉後の電力原価に算入することができる。
火力発電や水力発電、太陽光発電、地熱発電などと比較するときには減資六発電の廃炉コストや核燃料の再処理コスト、高濃度放射性廃棄物の保管コストを原価算入せずに現実からお菊かけ離れたインチキのコストを提示して原発が安いといい、結局、算入していなかったコストはあとから電気料金値上げで利用者に転嫁する、ズルくて姑息なやりかたである。
<1kw時の発電方式ごとの原価比較>
原子力 8.9円以上
石炭火力 9.5円
水力 10.6円
LNG火力 10.7円
*原子力 9.4~11.6円(『原発のコスト』(岩波新書)立命館大大島堅一教授による試算)
データは11月7日北海道新聞第2面の「崩れた「安価神話」」から転載した。
大島教授の試算には原発関連でばら撒かれている補助金が算入されているが、福島第一原発事故処理費用が算入されていない。千年に一度の事故確率で保険料を計算すると北電の保険料負担は年間5000億円。原子力の発電コストはおおよそ3倍ほどになるだろう。しかし、これも過小評価で、使用済み核燃料の再処理費用と10万年の高濃度放射能汚染物質の保管費用が除外されている。誰も見積った人はいない、前提条件が少し違うだけでもかかる費用には大きな違いがでるし、20万年先に人類が生き残っている可能性は小さいし、ましてや日本という国が残っている可能性か限りなく小さく、東京電力や北海道電力が存在する可能性はゼロだからだろう。
<高濃度廃棄物保管コストと廃炉コストはいくらか?>
ここからはお遊びにお付き合いいただきたい。
1986年4月26日に起きたチェルノブイリ原発事故から28年が過ぎたが、廃炉になった原子炉の維持管理に常時3000人が従事しているという。
日本列島で7箇所に分散して高濃度放射性廃棄物を管理するとしよう。要員は2.1万人である。一人当たりの人件費を公務員の650万円プラス危険手当150万円とし、人件費以外に人件費相当額の設備費や維持費がかかるとすると、総額は次の式で計算できる。
(6.5+1.5)1o^6 x 21000 x 2 x 200,000
=8x2.1 x 10^10 x 2 x 2x10^5
=67.2 x 10^15
67京2000兆円である。これを原子炉の耐用年数40年で割ると、負担すべき費用の年額が決まる。
67.2x10^15/40=1.68x10^15
日本の電力会社が負担すべき放射性廃棄物管理コストは年額負担は1京6800億円となった。
北海道電力の売上を600億円として北海道の人口(550万人)と日本の総人口(1億2300万人)で比例計算すると、おおよそ1兆3428億円。
1.68x10^15 / 1.34x10^12 =1.254x10^3
現行の電気料金を1254倍に値上げしないと原発の真のコストをまかなえないという計算になった。
もう少し現実的な計算をしよう。原発の廃炉に50年かかるとして、1基当たり3000人の工数がかかると前提してその費用を見積もってみたい。他の前提はさっきと同様とする。
(6.5+1.5)1o^6 x 3000 x 2 x 54 x 50
=8x3x5.4x5x2x 10^11
=129.6x10^12
日本にある54基の原発の廃炉に129兆6000億円の費用がかかることになる。これは先の計算に比べるとはるかに現実的な試算である。この廃炉費用はこれから50年間に渡り電気料金に加算される、そういうことができるように電気事業法会計規則が変更されてしまった。マスコミは大々的に報じるべきだ、日本経済の息の根を止めかねない負担なのである。これから50年間人口が8000万人以下に減少していくなかで、利用者にこれだけの負担を強いることになる。
できてしまったことは仕方がないとして、廃炉事業とはこんなにお金のかかるものなのである。これを40年間の耐用年数にわたって廃炉積立金を計上するとすると、原発1基当たりの廃炉積立金は年額次のようになる。
=129.6x10^12/40/54
=129.6/2.16 x 10^9
=600 x 10^8
原発1基辺り、廃炉費用を年間600億円積立しなければならない。北電を例にとると、泊原発1基で年間売上の10% 600億円の積み立てが必要ということ。原発の発電コストは廃炉費用を入れるとおおよそ2割高くなるだろう。原子力災害を千年に一度と計算して、その保険料を追加したら原発の発電コストはおおよそ2.5倍。
自分達の世代だけよければいいという考えを棄てよう、未来の子孫のために放射能汚染の元をできうるかぎり潰しておこう。さあ、あなたにもできることがあるはずだ、それぞれの立場でやれることをはじめよう。
<おまけ>
ジャパンタイムズに9・10・11月三つ社説が載っていたので紹介する。高校生や大学生はクリックして、プリントアウトしてゆっくり読んだらいい。
Economic realities of old reactors | The Japan Times
nuclear power reactors indicate that they are beginning to selectively evaluate
their nuclear power plants by weighing the costs of meeting safety ...
Aging nuclear power plants | The Japan Times
decommission aging nuclear power plants and host municipalities that will lose
nuclear power-related revenue. To facilitate the moves to scrap aging plants, ...
Too soon for a nuclear restart | The Japan Times
given their nod to the restart of Kyushu Electric Power Co.'s Sendai nuclear
power plant, whose Nos. 1 and 2 pressurized light-water reactors, ...
*#2861 原発をめぐる詐欺的会計基準(1):モラルハザード Nov. 9, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-08-1
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