#2846 エボラ出血熱2-2 :'Spain case shows holes in plans to treat Ebola' Oct.19, 2014 [75.時事英語公開講座]
< 解説編-1 >
前回までの学習でエボラは飛沫感染リスクのあることがわかった。その感染力はエイズよりもかなり大きく、さらにO-157よりもすこし大きいようだ。
エイズウィルス<O-157ウィルス<エボラウィルス
だが、感染力強度にどれだけの差があるのかさっぱりわからない。
防護服を着用していても、患者の嘔吐物やオシメの処理をした後に、よほど注意して脱がないと感染リスクが大きい。現場の看護師さんや看護助手の人たちはたいへんな苦労をしているようだ。防護服を着ていると体温が上がり、汗びっしょりになる。小便も我慢しているから、脱ぐときにあわてることもあるだろう。
エイズ・ウィルスはトイレの便座で数時間生きていることが確認されている。O-157は患者の嘔吐物の処理に細心の注意を払わないと感染リスクが大である。致死率70%のO-157ぐらいに考えていた方がよさそうだ。
台風の藤田スケールのような「感染力強度スケール」の国際標準規格を専門家グループが集まり、作業部会を構成して制定すべきかも知れぬ。大きな区分で「空気感染するもの」「飛沫感染するもの」「接触感染するもの」に分類し、それらをさらに感染力強度に応じて各々三分類くらいしてもらえば一般人の私たちにも理解できるし、看護師や看護助手、ヘルパーさんたちの仕事や安全確保に役に立つ。
エボラ出血熱の感染拡大は治療薬の市場が大きくなることでもある。いまエボラ出血熱の治療薬を開発中の製薬メーカは感染拡大が続くことを願っているのかもしれない、莫大な利潤を手にするチャンスだ。米国には巨大製薬メーカの本社がいくつかあり、資金力に物を言わせてロビー活動をし政府を動かしている。今回のエボラ・ウィルス騒動でどのような動きをしているのだろう?
戦争が起きれば当事者双方に武器を売って儲けられる、二人の大統領を出したブッシュ家は第二次世界大戦で米国とナチス双方に武器を売り巨財をなしたという。イラク戦争でも大儲けをしたようだ。
致死率の高い感染症の拡大という人類に降りかかった災いも大きくなればなるほど治療薬開発に成功した製薬メーカの利潤が巨大化する。特許権が保護されているから安心して巨額の開発投資ができる。だが、そういうシステム自体に問題を感じる人が世の中に増え始めている。欲望を肥大化させる資本主義とグローバリズムは人類にとって危うい経済システムに見える。
「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」と「小欲知足」を旨とする職人経済学はこのような災いが拡大することを喜ばない。自国で生産できる物はコストが高くても自国で生産し、自国で消費するから、グローバリズムの対極にあり、欲望自制を経済学の根底に置く。
周辺の問題への脱線はこれくらいにして第一回の解説を始めよう。
(1) MADRID - The scene conveyed a First World precision: A 75-year-old Spanish priest, stricken with Ebola in Liberia, arrived in Madrid on a special military jet. A helicopter buzzed overhead as ambulances transported him for treatment. Expressing confidence in the preparations, a Spanish health official said the risk of the virus’s spreading was “virus's spreading was "virtually nil."?
sceneは英和辞典で見ると「場面・現場・舞台・出来事・状況・事情」などの訳語がある。動詞のconveyとセットで眺めたら、エボラ対応にいま現れている一連の出来事や現況のこと。
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http://www.ldoceonline.com/dictionary/First-World
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「エボラをめぐる一連の出来事は先進国(医療)の精度を伝えるものである:リビエラで不運にもエボラに感染した聖職者は軍の特別輸送ジェット機でマドリッドに到着した。救急輸送機となったヘリコプターが頭上を音を立てて飛びその聖職者を治療受けさせるために運んだ。準備段階では自信に満ちた顔をして、スペインの保健省の高官はエボラ・ウィルスが拡散するリスクは"実質上ゼロだ"と述べた。」
precisionは「精度」を意味するが、ここで話題になっているのはエボラ対策での仕事の精度のことだ。「精密⇔粗雑」と対比するともっと事情が呑みこめるだろう。英語を使う人々はキリスト教の影響で二項対立でモノゴトを考える言語だから、神道の国の国民も二項対立で考えると事情が呑み込みやすい。先進国の隔離医療は精度が粗くて危険だとここで述べているのである。
a Spanish health official :「保健省の高官」としておく。スペインの医療・健康を管轄している省の正式名称が不明なのと、mediccalという用語が入っていないので「厚生省」とはせずに、仮に「保健省」と訳しておいた。
(2) There was just one problem: The city’s infectious disease center had been mostly dismantled as part of a government cost-cutting plan, and a temporary Ebola ward would have to be hurriedly constructed.
「一つだけ問題があった:マドリッド市の感染症センターは政府のコストカット計画が適用されてしまってほとんどの設備が取り外されてしまっていた。だから、仮設のエボラ隔離病棟を急いで作らなければならなかった。」
a temporary Ebola ward: 仮設エボラ専用隔離病棟
Madridの発音は最後のdの部分は[θ]と発音するようだ。私はスペイン語の発音に知識がないし、スペイン語の辞書ももっていない。ここではスペイン語の発音ではなく英語発音をカタカナにした。「マドリード」という標記が多いようだが、これはどちらでもなく半端に感じた。
(3) After the priest died on Aug. 12, the unit was closed again, and the same exercise repeated when a second Ebola-infected priest was airlifted from West Africa in September. He died two days later, and last week an auxiliary nurse who changed his diaper and helped clean his bed was found to have the disease.
「8月に発症した聖職者が亡くなった後、感染症センターは再び閉鎖されてしまった。そして二番目に感染した聖職者が9月に西アフリカから運ばれてきたときにまた同じこと(仮設隔離病棟設置)が繰り返されたのである。マドリッドに運ばれて二日後にその聖職者が亡くなった。そして先週、その聖職者のオシメ交換とベッドの清掃をしていた看護助手がエボラ出血熱に罹患していることがわかった。」
dismantle:設備を取り外す、取り壊す
an auxiliary nurse :看護助手
(4) That ad hoc, improvisational response to a deadly virus that has already killed more than 4,000 people in West Africa has underscored holes in the West’s readiness to confront a wider outbreak. The infection of the Spanish nurse, Teresa Romero Ramos, was the first case of the disease’s being transmitted outside Africa ? arising even before a nurse in Dallas was given an Ebola diagnosis after caring for a patient there.?
「西アフリカで4000人の死者を出している致死性の高いウィルスに、その場しのぎで好い加減な対応をしたために、エボラの蔓延に正面から戦いを挑む西欧の用意が不十分にであったことは否めない。スペイン人の看護師、テレサ・ロメロ・ラモスさんはアフリカの外で感染した初症例となった。米国のダラスでエボラ患者を看護したあとでエボラと診断された看護師よりももっと前にアフリカの外で二次感染が起きていた。」
ad hoc:その場しのぎの
improvisational:即興の、臨機応変の
confront:直面する
underscore:下線を引く、強調する
outbreak:(伝染病などの)急激な発生
case:症例、患者
How Many Ebola Patients Are Outside of West Africa?
(何人のエボラ患者が西アフリカの外に出てしまっているのか?)
At least 17 cases have been treated outside of West Africa. Full Q. and A. »
(少なくとも17人の患者が西アフリカの外で治療を受けた)
(5) Together, the cases have raised urgent questions about the risks of the disease’s spreading even in developed countries, particularly among health care workers, and the role that the smallest of human errors may play in subverting elaborate safety measures.
「二人の患者(マドリッドの看護師とダラスの看護助手)は先進国ですらエボラの感染拡大リスクについて緊急に解決すべき問題のあることを明らかにした。とくに看護師や看護助手などの医療従事者に問題がある。そしてごく小さなヒューマンエラーが入り組んだ安全対策を覆す役割を演ずる可能性があるというリスクについて急を要する問題を提起している。」
subvert:破壊する、覆す
elabolate:入り組んだ、複雑な
これはちょっと複雑な文だから解説が必要だろう。こういう時はデカルト『方法序説』「科学の方法:四つの規則」が有効だ。
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①速断と偏見を避ける
②必要なだけの小部分に分割する
③単純なものから複雑なものへ順序に従って上向する
④落としているものがないが全体を見直す
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次のようにやる。
casesは複数形だからマドリッドとダラスの二人のエボラ患者すなわち二次感染症例のこと。文全体を三つに分解してみたら、意味内容とこの文ができた経緯がよくわかる。意味は深層構造にあるというのがチョムスキー生成変形英文法の立場だが、やりすぎてはいけない。センテンスを理解するのに必要な小部分に分ければいいだけで、「アトム」にまで分解する必要はない。
①the cases have raised urgent questions about the risks of the disease’s spreading even in developed countries
②particularly among health care workers,
③and the role that the smallest of human errors may play in subverting elaborate safety measures.
③が問題だから、分解してみよう。
③-1 (the cases have raised urgent questions about the risk of) the role that the smallest of human errors may play in subverting elaborate safety measures.
③-2 the smallest of human errors may play the role in subverting elaborate safety measures
'about the risk of' の下に並列で名詞句が二つぶら下がっている。講談の方は 'the role' をofの目的語にしたいから関係節変形がなされたと理解できるだろう。
こうして分解して並べておけば変形過程も構文もはっきりつかめる。高校生や大学生諸君にはこういう技を習得してもらいたい。
書き言葉にはこうした複雑な文が時々出てくるのだが、翻訳のプロでも文脈だけで判断して好い加減な訳をして済ませている例は少なくない。文法変形工程指数の高い文を文脈だけで判断するのは危険で、読み違いを起こしてしまうことがある。経済学の専門書に限ると、かなりすぐれた翻訳家でもこの種の間違いは文法工程指数の高い文が出てくると誤訳が出やすい。
(トレーニング次第で)慣れれば大学生だってこういう操作を頭の中で暗算をやるように処理できるから手間はかからない。スピードが大事だ。最初は紙に書いて確認し、慣れてきたら頭の中だけでやってみたらいい。
(6) Both of the nurses had been wearing protective gear, which can pose extreme risks of infection if removed improperly. Officials are investigating whether the Spanish nurse may have inadvertently touched her face while taking her suit off.
「マドリッドとダラスの二人とも防護服を着用しており、不適切な脱ぎ方をした場合には防護服は大きな感染リスクを伴う。スペイン人の看護師が防護服を脱いでいるときに不注意で顔に触れたかどうかを保健省*が調査中だ。」
*後の段落でhealth ministryが出てくるので、所管官庁名は厚生省ではなく保健省である。
inadvertently: 不注意に
ここには重大な問題があるようだ。おいおい出てくるから、具体的な言及のあるところで俎板(まないた)に載せてみたい。
(7) A team of European Union investigators has found fault in the layout of the Ebola ward, while Ms. Romero’s co-workers have said they were forced to remove their gear in a very small space, with limited room to maneuver, even as temperatures rose quickly inside the suit.
「ヨーロッパ連合の調査チームがエボラ隔離病棟のレイアウト上の誤謬に気がついた。防護服を脱ぐ演習用の部屋、つまり非常に狭い部屋で部屋で、防護服を脱がなくてはならなかったとロマノと一緒に作業していた人が証言している。部屋が狭い上に防護服の内側は急速に温度が上がっていた。」
防護服内部の温度が上昇してきて、防護服を脱ぐ練習用の狭い部屋であせって脱いだようだ。そういう条件下で冷静にどこにも触れずに脱ぐのは至難の業だ。現場はかなり過酷な作業を強いられているようだ。コストを気にしていたら、隔離病棟で防護服を着て作業する看護師や看護助手が危険にさらされる。
つまり、訓練用に設置された狭い部屋で防護服を脱いではならぬということ。頭と身体をつなぐところに張った首の周りのテープを外し、防護服脱ぐ、それから顔を覆っているフルフェイスタイプのものをとる。その間は身体は防護服をつけていないから、汚染されたグローブがどこかに触れたら感染リスクが生じてしまう。だから広い部屋で落ち着いて脱がなければならない。
防護服は密閉状態だから、発散する体温が防護服の外側に逃げずらい。防護服内の温度が上昇してくれば気を失いかねない。そうなったら服を脱ぐのは自分ではできない、それでなくても現場は看護の手が足りないから、気持ちが焦る。慌てて脱いでグローブが身体のどこかに接触してしまう。一番危ないのが防護服を脱いだときに露出している顔と首だ。
maneuver:演習する
(8) “You are sweating more, and you are anxious to get it off,” said Manuel Torres, a nurse who joined Ms. Romero in treating the first priest and is now a member of the team treating her.
「汗がたくさん出てきたら、汗を拭くのが気がかりになる」とマヌエル・トレスが述べた。マヌエルはエボラに感染した最初の聖職者を看護するためにロメロと一緒に働いていた看護師である。いまは、ロメロを治療するチームのメンバーである。」
'get it off' のitは汗だろう。「汗を取り除く」ではおかしいから「汗を拭く」と訳しておいたのだが、実際には防護服を脱いだ後、汗でびっしょり濡れてしまった下着を取り替えるしかない。そうした具体的なことを考えると、マヌエル・トレスは「汗が大量に出ていたら、びっしょり濡れてしまったTシャッツや下着が気になり替えたくなる」というような意味合いで言ったのだろう。和訳はそれをどういう日本語の文章で伝えるかという表現問題あるいは作文にかかわる問題だから、人によって訳が千差万別であるのは当然のこと。
(9) Recriminations in Spain, like those in the United States, have been loud and swift, with blame aimed variously at cost cuts, inadequate training and safety protocols, government officials, and the nurse herself.
recrimination: [英]逆襲、非難し返すこと [G]非難、けんか
swift: adj 敏速な、即座の、すぐに過ぎ去る
「米国内で起きた非難と同様にスペインでも起きた非難の嵐は即座に生じた。さまざまなコストカットや不適切なトレーニング、そして不適切だった安全作業手順を的に政府や罹患した看護師自身へ非難が殺到したのである。」
(10) Protesters stood outside the Health Ministry on Monday chanting for the resignation of Ana Mato, the national health minister. Facing complaints that the national government had acted too slowly, Prime Minister Mariano Rajoy created a special commission on Friday to oversee readiness and investigate how Ms. Romero became infected.
chant:スローガンを唱える
resignation:辞職
「月曜日(13日)に抗議する者たちが保健省の回りに集まり、保健大臣のアナ・マト辞職要求が繰り返し声高に叫ばれた。政府の対応が遅いという苛立ちに直面して、マリアノ・ラジョイ首相は金曜日に特別委員会を設置し、看護師のロマノがどのような経緯で感染したのか調査を命じている。」
同一主語は省略され、動詞は現在分詞に変えられるというのは修辞上の問題である。文頭がそうなっているものを高校英語参考書は分詞構文と説明しているが、文頭ではなく2番目の節に使われるのが普通の書き方である。最初の節(あるいは文)で主語を書いたから、二番目の方は省略が働き、動詞が分詞化するだけのこと。andでつながれた文(重文)でandの後の主語が省略されて動詞が分詞化している例を少し前でみた。気がついただろうか?
読むときは主語を補って読めばいい。chantingとfacingとchanting以下の文を主語を補って書き換えると、次のようになる。
[Protesters] chanted for the resignation of Ana Mato.
[Prime Minister] faced complaints that the national government had acted too slowly.
慣れてくると無意識に補いながら読むようになる。
*#2842 エボラ出血熱1-1: 'The worsening ebola crisis' Oct. 18, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-17-1
#2843 エボラ出血熱1-2 :'The worsening ebola crisis' Oct.19, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-18
#2844 エボラ出血熱2-1 :'Spain case shows holes in plans to treat Ebola' Oct.19, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-19
#2846 エボラ出血熱2-2 :'Spain case shows holes in plans to treat Ebola' Oct.19, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-19-2
#2847 エボラ出血熱2-3 :'Spain case shows holes in plans to treat Ebola' Oct.21, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-20
#2848 エボラ出血熱2-4 :国内の体制はどうなっている? Oct.22, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-22-1
#2852 エボラ出血熱3-1 ' Cuba's impressive role on Ebola ' Oct. 27, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-26
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