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#2836 川上亮 『人狼ゲーム』を読む Oct. 12, 2014 [44. 本を読む]

人狼ゲーム (竹書房文庫)

人狼ゲーム (竹書房文庫)

  • 作者: 川上 亮
  • 出版社/メーカー: 竹書房
  • 発売日: 2013/07/25
  • メディア: 文庫

<起>
 中高生がどんな本を読んでいるのか興味がわいて塾生に借りて読んでいる、そういうなかの一つがこの『人狼ゲーム』だ。SAO(『ソードアート・オンライン』)がバーチャルワールドでの冒険ゲームなのに対して、この作品はリアル・ゲームである、しかも殺人ゲーム。

<承>
 高校生の男女5人ずつ合計10人が誘拐され、首に金属の輪がセットされて椅子に座らされて目覚める。スピーカから女性の声でゲームルール説明のアナウンスが流れる。
 高校生たちは誘拐され強制的に殺人ゲームに参加させられる。参加メンバーは「村人」8人と「人狼」2人で構成され、夜の8時に集まって「吊るす」人を指差すことを強制される。拒否すると首の輪が絞まり、数分で絶命する。ルール違反にはすべからく首の輪が絞まり絶命するというペナルティが待ち受け、情け容赦がない。
 「村人」を全員殺せば「人狼」チームの勝ち、人狼二人を見破って吊るせば村人の勝ちだ。一部始終はあちこちに仕掛けられたカメラで撮影されている。勝ち残れば賞金1億円をゲットできる。

 各自には個室が割り当てられるが、鍵はついていない。「人狼」は夜の間に「村人」一人を殺す。そうした中で引っ込み思案な女生徒がゲームが終わったときに変貌を遂げている。
 8人が死に、「村人」の二人の女子高生が生き残りアナウンスが流れる。
「おめでとうございます。今回は村人二人が無事に生き残りました。」
ゲームが終わったかと思うと、少しおいて再びアナウンスが流れる。
「これにて前半戦が終了です」
 そして首輪が締まり気絶する。

 あらたな8名が誘拐されてきて、首に輪をつけられ椅子に座らされて目覚め、スピーカからルールの説明の声が流れる。
「人狼はこのゲームのスペシャリストです。村人は心して取りかかってください。それではみなさん健闘を祈ります。」

 後半戦の始まりと共に、「スペシャリスト」の意味がわかる。二人は目で合図をしあう。主人公の高校2年生愛梨は今度は明確な意志をもって殺人者たる「人狼」の役割を果たす決意をしている。おとなしい高校2年生がゲームの前半戦を生き残ることで、自覚的な殺人者へと変貌を遂げてしまう。

<転-1>
 北大生がイスラム国へ行って兵士になろうとして、警察に逮捕された。元自衛官が中東の扮装地帯で兵士として働き、重症を負って日本へ帰国したとテレビのインタビューに応えていた。戦闘に身を投ずることで生きているという実感があるというのだ。平和な日本の中では生きているという実感を喪失してしまう種類の人間が生まれ始めている。北大生は就職がうまくいかないので破壊衝動に駆られてのことというような解説をテレビがしていた。正規雇用の職に就くのはなかなかたいへんで、就いても1年以内に3割程度が辞めている。辞めたら次に正規雇用の職に就くのははなはだしく困難になる。労働市場は新卒が優先だからだ。格差が拡大する中で絶望する若者が増えているのは社会の安定性を考えるとじつに危険なことで、是正が必要だ。

<転-2>
 心配なのはバーチャルゲームを毎日やっている若者が多いということ、それに輪をかけてゲーム関係に偏った小説が読まれている。冒険物あり、殺人ゲームあり、戦闘ゲームあり、戦争ゲームあり、ようするになんでもありだ。モンスター・ハンターや殺人ゲームに熱中している者はすくなくない。
 こうしたゲームやゲームを扱う小説に日常的に親しむことで、バーチャルな世界とリアルな世界の垣根が低くなってしまっているのではないか?
 米兵は実際に無線誘導戦闘機を米国内の基地から操縦して、中東の紛争地域の特定の場所・人をミサイル攻撃している。無線操縦機は音からドローン(drone*)と呼ばれている。基地で操縦している人間はGPSを利用して正確に攻撃目標へ到達し、ターゲットをロックオンしてミサイル発射ボタンを押す。ミサイルが攻撃目標にヒットしたことを確認して、ドローンは中東内の基地に戻る。米国内でドローンを遠隔操作している兵士は終始安全地帯にいてディスプレイに写される情景を見ながら殺人を犯し、「仕事」が終わるとシステムからログオフし、隣の部屋で珈琲を飲みながら楽しく談笑、そして家に帰り家族と夕餉を囲む。
 戦争物のコンピュータゲームと同じ操作をしているだけだから、現実に殺人を行っているのにも関わらず、ゲームの操作と同じだから人を殺すことによる心の痛みが生じない。米軍では実戦でためらいなく引き金を引けるように、こうした戦闘ゲームや殺人ゲームプログラムを兵士教育の一環として導入している。こうしたゲームに慣らさせておいてから前線に投入すると殺人をためらわないのだそうだ。そしてあとから殺人をしたことによる精神障害を起こさないようになるという。退役後の医療費を大幅に減少させることができる。
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http://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/drone_1
*drone:1 [usually singular] a continuous low noise
  Oxford online dictionaryより
 ハチのブーンという羽音を指す単語だ
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 コンピュータゲームは兵士になって殺人を犯しても心の痛みが生じないように日本の子どもたちの脳を洗脳する役割を果たしているような気がする
 団塊世代との読書傾向の明確な差は、「ゲーム」に関する本がやたら多いということのようだ。それが若者の心をギュっとつかまえている若者たちの心がゲームソフトに侵食されていく、放置していて彼ら・彼女たちの心は大丈夫なのだろうか?

 ハイテク化した実際の戦争はディスプレイを見ながら、扱いやすいように開発されたコントローラーを両手で操作してなされる。若者たちは戦場に赴かず、国内の基地から敵を叩くようなハイテク戦争なら、案外簡単に戦争を受け入れることになるのではないか?
 さらにコンピュータが進化すると、戦闘機に人工知能(AI)を搭載すれば人間の介在なしに戦争が遂行できるようになる
 高精度の索敵システムでターゲットを捕捉・確認すれば、人間がスイッチを押さなくていいようになる。戦闘機に搭載しているAIにGPS上の位置情報と顔写真を送信すれば、自動的に昆虫型のAI搭載ドローンがターゲットの存在するエリアにばら撒かれ、そこから送られてくる画像情報を顔認証システムにオンラインで入力、ターゲットを確認、殲滅する。人の手は要らない。百年なんかかからない、その程度なら30年先にはそういう兵器が実戦で使えるようになる。
 戦闘機だけではない、四足歩行型や六足歩行型ロボットにAIを搭載すれば、危険な前線で強力な戦力になる。
 攻撃される方が同じようなハイテク武器をもたないとしたら、地球の裏側の基地内に存在する見えない敵に抗するにはテロしかない。コンピュータの小型化と人工知能の発達に支援されて武器のハイテク化が進めば進むほど、ますますテロが増えることになる先進国の武器の高度化がテロ社会を生み出す元になる。先進国が高性能武器開発を自制しない限り、テロの温床は世界中に広がり続ける
 現在のCPUの発展速度を延長すると百年後には2億倍以上の性能のコンピュータが出現することになる。戦争にAIを利用すれば、いつかAIに人間が絶滅されるようなことになるが、人間がそれを止められるのだろうか?

<結>
 30年もしたら、コンピュターの高性能化による兵器の進化によって戦争の形態が様変わりしとんでもないことになりはしないだろうか?人間が欲望をコントロールする術をもたないと、さまざまな殺人AIの開発と実戦配備が進み、それらを人間がコントロールできなくなるときが来る、そのときには人類が滅びかねない。核兵器以上に人類の脅威となる兵器が次々に誕生するだろう。
 すでにコンピュータネットワークなしに先進国の国民は暮らせないようになっている。人類は自滅に向かっており、滅亡を防ぐには欲望をコントロールする以外に回避手段がない。

   小欲知足


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<余談>
 SAOのNo.015を読み、その後001,002,003,004と5冊読み終わった。作者の川原礫さんはなかなかの書き手だ、構想のスケールが大きい。語彙レベルは中学生に焦点が当たっているようで、高校生には物足りないだろう。文章は平明で主人公や脇役の思考もわかりやすい。
 難点も挙げておこう。アインクラッドの最初のほうでBMI(Brain Machine Interface)の説明が出てくるが、フルフェイス型のBMIギアはちょっといただけない。「電気的素子」で脳と通信しているという設定だ。脳が電気的な信号のみで動いているはずがない。あまりにも古典的な発想だ。延髄の辺りから身体を動かす信号を「回収」していることになっているが、その辺りの仕組みの説明がない。どうやって身体に伝わっていく運動信号を「回収」するのだろう。脳とのインターフェイスはもっと画期的な仕掛けを何か考案して書き直してくれたら説得力が増す。私は009~015を読んでから001を読んだので、001でフルダイブ型のBMIギアの説明を読んで少しがっかりした。雑すぎて川原礫さんらしくないのである。

 村上春樹の『1Q84』を2年前に4冊目まで読んで、残りの2冊を読んでいないことに気がついて、5冊目を読んでいるのだが、彼の文章は語彙が広く、登場人物の思考過程も単純ではなく大人の読み物足りえている。
 じつは併行してもう一つ読んでいる。小池真理子『怪談』だが、なかなか凝った趣向のいままでにない怪談話だから、別途稿を改めて書きたい。これはラフカディオ・ハーンの『怪談』を平井呈一訳の旧版と現代語訳版を読み比べているときに、本屋で同名の小説を見つけたからだ。小池真理子の『腐った果実』がとってもよかったので、なにか期待させるものがあった。彼女は男と女のこころの機微を俎板に載せて切れる包丁でさっと捌いて見せる、『怪談』もそういう彼女の腕のよさが光っている。一流の料理人だ。これら二冊の本は女にしか書けないものだ。

 一昨日に生徒が漫画『ワールド・トリガー』の1・2を以て来てくれたので読んだ。絵がガキっぽくて小学生向きだが、アイデアはなかなかで楽しいシリーズだ。絵のほうはABCの三段階評価で最低のCランクだが、ストーリーはBランクだ。続きが読みたい。

*#2784 百年後のコンピュータの性能 Aug. 22, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-22

 #2779 『ソードアートオンライン 9 』:量子コンピュータ・オンラインゲームと心  Aug. 17, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-17-1

 #2804 『ソードアート・オンライン14』  Sep. 12, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-09-13


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